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沖縄の米軍基地周辺のPFAS汚染および騒音被害に対して国連特別報告者が「最も深刻な懸念」を伝える、 日本政府は「科学的知見に基づいて着実に対応を進めている」と回答(4/25)

 沖縄の米軍基地周辺で高濃度の有機フッ素化合物(PFAS)が検出されている問題および米軍機による騒音被害について、マルコス・A・オレリャーナ「有害物質及び廃棄物の環境面での適切な管理及び廃棄の人権への影響に関する特別報告者」(「有害廃棄物」特別報告者)とペドロ・アロホ=アグド「安全な飲料水と衛生に対する人権に関する特別報告者」(「水と衛生」特別報告者)が、2025225日付の書簡を通じて日本政府に対して深刻な懸念を伝え情報提供を求めていましたが、これに対して日本政府は425日に回答を提出しました。

 特別報告者からの書簡と日本政府からの回答についてそれぞれ概要を紹介します。


米軍基地周辺で検出される高濃度のPFAS、米軍機による夜間を含む騒音被害

 特別報告者が得た情報によると、2016年以降、普天間飛行場および嘉手納空軍基地周辺地域において、地元当局によりPFAS汚染が確認されています。2016年には、PFASの中でも有害性が高いとされるPFOSおよびPFOAが、北谷浄水場の河川や水源から高濃度で検出されました。この浄水場から給水を受けていた7つの自治体、約45万人の住民が、汚染を知らされないまま曝露された可能性があると指摘されています。

 2022年に沖縄県環境部が普天間周辺の湧水について実施した水質調査では、11地点において、厚生労働省が2020年に設定した暫定目標値(PFOS PFOAの合計で50 ng/L)を超える濃度が検出され、PFOSPFOAの合計濃度は最大で1,400 ng/L(暫定目標値の28倍)に達しており、同年に嘉手納基地周辺の12地点でも暫定目標値を超過、最大2,100 ng/L(暫定目標値の42倍)が検出されたと指摘しています。

 また、特別報告者は、50 ng/Lという日本における水道水のPFASに関する暫定目標値には法的拘束力がない上に、米国環境保護庁(EPA)が定めるPFOSPFOAの最大汚染許容値4 ng/Lよりもはるかに高い汚染許容度であることにも言及しています。

 PFAS汚染は米軍基地周辺の河川や地下水のみならず、土壌についても報告されています。得られた情報によると、普天間基地近くの学校の2022年の土壌調査では、PFOS1,100 ng/kg検出され、その後の沖縄県による再調査では校庭の土壌から最大6,600 ng/kg、さらに近隣の田芋畑の土壌からは11,436 ng/kgPFOSが検出されたとのことですが、日本では土壌に関するPFAS規制は設定されていません。

 特別報告者は、空軍基地周辺の住民から、米軍機による騒音被害の報告も受けています。年間約16,000回の離着陸があり、滑走路から住居までの最短距離は350メートルとされ、嘉手納基地における騒音緩和対策としては、夜間(午後10時~午前6時)の飛行や地上作業、訓練飛行の制限が課されているにもかかわらず、これらの制限に対する違反が常態化していると報告されています。


「最も深刻な懸念」を表明、日本政府に情報提供を求める

 特別報告者は、PFAS汚染による環境破壊と被害は、基地周辺地域に住む今を生きる世代のみならず将来世代の生命、健康、そして健康的な環境に対する権利を脅かしていると指摘します。米軍基地の運用に起因するPFAS汚染によって、飲み水の水源が失われることや、浄化フィルターの設置に高額な費用がかかることで「住民の水への権利の享受に対して不当な負担を課して」おり、また、湧水が汚染されることで新生児の沐浴などの伝統的な儀礼を行うことができなくなっていることは「文化的権利の効果的な享受が侵害されている」との見解を示しています。

 特別報告者が得た情報によると、米国の許可が得られないために普天間基地および嘉手納基地内ではPFAS汚染に対する透明性のある効果的なサンプリングが実施されていないなど、環境汚染の可能性に関する情報が十分に公開されていないという課題も指摘されています。2020年の普天間基地における泡消火剤の漏出事故を受けて実施されたサンプリングについても、その詳細は地元当局に開示されず、調査は米国によって設定されたパラメータ(分析のために設定する変数)と方法、かつ米国が提供したサンプルのみによって実施されたという報告を受けています。特別報告者は住民の環境情報へのアクセス権は、「ガバナンスおよび国際協力における透明性と説明責任を担保するために不可欠である」と指摘しています。

 また、昼夜を問わず続く高レベルの騒音は、「プライバシーの権利や清潔で健康的かつ持続可能な環境への権利などに対して重い負担を課している」とし、特別報告者は、嘉手納基地および普天間基地の運用によって生じていると見られる水質、土壌の汚染や騒音がもたらす人権および環境への影響について、「最も深刻な懸念(most serious concern)」を表明しています。

 これらの懸念を踏まえて、特別報告者は日本政府に対して、PFAS汚染による環境・健康・経済・社会・文化的影響を緩和するために講じた措置や、騒音対策の現状や規制遵守のモニタリングに関する情報など計11項目について情報提供を求めていました。


日本政府の回答

 日本政府からの2025425日付の回答では、「沖縄を含む日本各地でPFOS/PFOAに関する懸念があることを認識しており、これを真摯に受け止め、科学的知見に基づいて着実に対応を進めている」とし、PFOSPFOAの合計で50 ng/L という暫定目標値に関しても、20264月から水道法上の「水質基準」の対象へと引き上げる方針であると回答していますが、米国基準よりもはるかに高い汚染許容値のままであることに対しては「(2020年)当時の科学的知見に基づいて設定」していると反論しています。

 また、米軍基地内における水や土壌のサンプリングについては、これまでに4件の流出事例に対して「日米地位協定の環境補足協定」に基づき計10回の立ち入りが実施され、米軍と協力してサンプリングが行われたと強調しています。

 そして米軍機による騒音への対策について日本政府は、日米合同委員会で合意された嘉手納飛行場および普天間飛行場における航空機騒音規制措置は日米間の綿密な協議を経て策定されたものであり、周辺地域住民への影響を最小限に抑える必要性と、日米安全保障条約の目的を達成するために必要な在日米軍の運用確保とのバランスを取ることを目的としていると主張し、「今後も米国側に安全面への最大限の配慮を求め、航空機騒音規制措置の遵守と地域住民への影響の最小化を要請しつつ、環境問題に関して引き続き協力して取り組んでいく」と回答しています。


特別報告者が日本政府に情報提供を求めた11の項目と、日本政府による回答のうち該当する箇所を対応表にしました(太字はヒューライツ大阪による)。

回答対応表_page-0001 (4).jpg

作成:ヒューライツ大阪

PDF版


 特別報告者による書簡と日本政府からの回答は、国連のホームページで公開されており、国連人権理事会への報告書にも盛り込まれる予定です。


【参照】

「有害廃棄物」特別報告者と「水と衛生」特別報告者による書簡(2025225日付)
https://spcommreports.ohchr.org/TMResultsBase/DownLoadPublicCommunicationFile?gId=29725

日本政府からの回答(2025425日付)
https://spcommreports.ohchr.org/TMResultsBase/DownLoadFile?gId=38978

(2025年06月02日 掲載)