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スーダン:武力紛争の拡大により凄惨な人権侵害や虐待がはびこる-人権高等弁務官が人権理事会に報告書を提出(2/22)

 スーダンの人権状況に関して国連人権高等弁務官は報告書を第55会期国連人権理事会(2024/2/264/5)に提出しました。

 2023年415日にスーダン国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」との間で勃発した武力紛争は、戦闘が拡大するにつれて、数千人もの市民の殺害、数百万人規模の避難、財産の略奪、そして子ども兵士の徴用などの深刻な人権侵害を引き起こしています。

 2023年415日から1215日までの状況をまとめた報告書は、国内避難民を含む人口密集地、特に首都ハルツームやコルドファン、ダルフールにおける複数の無差別攻撃がSAFRSFの双方によってなされていることを示しています。

 フォルカー・テュルク国連人権高等弁務官は次のように語ります。

「この1年近く、分別を失った紛争と人権侵害、虐待が終わりの見えないまま続くなかで、スーダンから伝えられるのは死と苦しみ、そして絶望の報告でした。」

「これは、20234月以来、スーダンの人々にもたらされている悲劇についての痛ましい報告書であると同時に、戦闘を終結させ、そもそもこの紛争を引き起こした不処罰の連鎖を断ち切ることの切実な必要性を改めて浮き彫りにします。市民は銃声から解放され、保護されなければなりません。前途を切り開くためには、文民主導の政府を復活させるための開かれた協議を再開させることがどうしても必要です。」

人口密集地に対する無差別攻撃、大規模な殺害

 報告書は、303人の被害者と目撃者へのインタビュー、写真、ビデオ、衛星画像、その他のオープンソース情報の分析に基づいています。それによると、SAFRSFの双方が、戦闘機から発射されるミサイルや無人航空機、対空兵器、そして砲弾などのように広範囲に被害を及ぼす爆発性兵器を人口密集地で使用していたことが示されています。

 4月、ハルツームでは2つの別々の事件で、SAFが発射した8発のミサイルにより、少なくとも45人の市民が死亡しました。また6月には、RSFが発射した2発の砲弾がオムドゥルマンにある市場リビア・スーク(Libya Souq)を直撃し、少なくとも15人の市民が死亡、その後、928日にも、RSFの砲弾がオムドゥルマンのバス停で爆発し、少なくとも10人の市民が死亡しました。

 ダルフールでは、RSFの攻撃で数千人が殺害され、その一部は民族的な動機に駆り立てられています。報告書によれば、20235月から11月にかけて、RSFとその同盟相手であるアラブ系の武装勢力は、西ダルフールの州都エルジェニーナで、少なくとも10回もの攻撃を加え、数千人の市民を殺害しており、そのほとんどがマサリット族を対象にしています。また、モルニやアルダマタの町でもRSFとその同盟勢力による殺害があり、少なくとも87人の遺体が集団墓地に埋められています。

 世界保健機関(WHO)によると、2023128日までに12,260人の殺害が確認されています。

増え続ける避難民、人道支援へのアクセスに対する障壁

 2023年1214日までに500万人以上の国内避難民が発生し、140万人以上が中央アフリカ共和国、チャド、エジプト、エチオピア、リビアそして南スーダンなどの近隣諸国へ避難しています。報告によると、ほとんどの避難民は食料、水、医薬品が不足する切迫した人道状況におかれており、病気へのリスクが高い状態であるにも関わらず、地域の危険性に加えて紛争当事者双方が人道支援にあたる人員の安全を保障しようとしないために支援を届けることが困難となっています。スーダン政府機関である人道援助委員会(HACHumanitarian Aid Commission)の128日の報告によると、武力紛争によってスーダン国内の3000以上の人道機関が活動を停止しており、紛争以降、人道支援に携わっていたスタッフ32名が拘束され、そのうち20名が殺害されています。報告書が対象とする12月中旬以降も避難を余儀なくされる人々は増え続け、その数は現在までに800万人以上にのぼります。

女性と少女に対する暴力

 報告書によると、20231215日までに、少なくとも118人がレイプ、集団レイプ、レイプ未遂などの性暴力を受けており、そのうち19人が子ども(少女が18人、少年が1人)でした。レイプの多く(83%)はRSFの制服を着た男性が加害者であったとつきとめられています。ある女性は建物に監禁され、35日間にわたって繰り返しレイプされました。ダルフールでは国内避難民の女性および少女、特にアフリカ系の民族が性暴力の標的にされているという報告を国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は得ています。

 レイプによる妊娠が3件確認されており、うち1件は法律で許容された期限内に中絶ができたものの、他の2件は流産したか、合法的に中絶できる期間を過ぎたために中絶が認められませんでした。また医療へのアクセスが不足しているために集団レイプによる負傷のために亡くなったケースも報告されています。ほとんどの性暴力の被害者にとって緊急避妊薬などの必要な医療をはじめ、心理的支援や法的支援へのアクセスは閉ざされています。スティグマや司法制度への不信、司法制度の崩壊、報復への恐怖のために、性暴力の被害者のうち当局に通報できたのは4人しかいなかった、と報告書は述べています。

子ども兵士の徴用

 報告書は、2023年7月30日の時点で親SAFの組織が255,000人の若者を武装させ、117,000人をキャンプで訓練し兵士として養成していたと述べています。その後、9月14日には120,000人が、そして1030日にも415,000人が訓練を「卒業」したといわれています。

 また、RSFがダルフールとコルドファンのアラブ系の部族から子どもたちを徴兵していることや、SAFによる徴兵キャンペーンにファー族、マサリット族、ザガワ族などのアフリカ系民族コミュニティが応じたと報告書は述べています。

 その他にも、兵士や市民に対する恣意的拘禁および拷問、強制失踪の疑い、物価高騰と高い失業率に伴う経済的困窮、公衆衛生の悪化、食糧難および清潔な水へのアクセス、教育への権利が侵害されている状況に加えて、市民社会スペースの縮小、司法システムの機能不全など武力紛争が引き起こす危機的状況について報告書は詳述しています。

 国連人権高等弁務官は、「これらの人権侵害のいくつかは戦争犯罪に相当する」と指摘し、「国際人権と国際人道法の違反と濫用のすべての申し立てについて、迅速に徹底的かつ効果的に、そして透明性と独立性、および公平性のある調査が行われ、責任者は裁判にかけられなければならなりません」と述べています。

 国連人権高等弁務官は国際社会に対し、以下を要請しています:

(a) 人道対応計画に緊急に必要とされる資金を提供することにより、人道支援の規模拡大を確保すること。

(b) 敵対行為を停止し、人権侵害と虐待に対する説明責任を中心とした、持続可能かつ包括的な和平を達成するためのあらゆる努力を促進し、支援し、文民主導の政府の復活につなげること。

(c) 紛争の影響を受けた人々と協力し、性暴力サバイバーと性暴力によって生まれた子どもたちに特に注意を払いながら、性と生殖に関する医療と情報を含む包括的なサービスをすべての性暴力サバイバーに提供するために、資源を提供し、その能力を強化することによって、国家機関、地域の市民社会ネットワークおよびその他の関連するアクターを支援すること。

(d) スーダンにおける国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)および専門家の活動を、人権保護のための重要な手段として引き続き支援し、当局への建設的な関与を継続すること。

(e) スーダン当局に対し、「独立国際事実調査団」のスーダンへの入国を認めるなど、協力を促すこと。

(f) スーダン担当の国連事務総長特使、地域組織、政府間組織と協力し、紛争解決のための統一的かつ協調的なロードマップに共同で取り組むこと。

【参考】

Sudan: Horrific violations and abuses as fighting spreads - report | OHCHR

(2024年03月04日 掲載)