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第3回トークdeじんけん「交差する声と経験――部落フェミニズムを語る」を開催しました(9/21)

 ヒューライツ大阪は921日、『部落フェミニズム』(2025年、エトセトラブックス)の著者である福岡ともみさんとのぴこさんを迎え、第3回トークdeじんけん「交差する声と経験――部落フェミニズムを語る」をドーンセンターで開催しました。対面参加は33名、オンライン参加は59名でした。

『部落フェミニズム』に参加したきっかけ

 冒頭では、二人が『部落フェミニズム』に関わった動機や伝えたいことを語りました。

 福岡さんは、以前に抱いていた「複合差別」の概念をどう理解すべきかという問いに対し、編著者の熊本理抄さんが粘り強く応答してくれた経験を紹介しました。そのやり取りを経て熊本さんから執筆に誘われたとき、「迷いなく参加しようと思った」と振り返ります。マイノリティは「私たち」として語ることに力を得る一方で、削られてしまう〈わたし〉の部分もある。だからこそ「もう一度〈わたし〉に戻る」ことを本を通して伝えたかったと話しました。
 のぴこさんにとっても「部落フェミニズム」は自らのテーマでした。部落解放運動が身近な地域で育ったことや、育児休業中というタイミングが重なり、参加を決めたといいます。さらに、介護事業に携わる中で、障害当事者である共著者・石地かおるさんのインタビューに関われたことも背中を押しました。本の執筆を通じて、親が出自を隠したり、部落解放運動とつながりを持たない当事者も多いと気づいたと述べ、だからこそ、自分が身近に感じてきた部落について語りたいと話しました。

社会運動との関わりから見えたこと

 福岡さんは、生まれ育った愛媛では部落解放運動や同和教育が存在せず、大阪に来てポスターなどで部落差別や狭山事件のことが書かれているのを見て驚いたという思い出を振り返りながら、「部落差別にNOと言っても良い」「差別は差別する側の問題である」ことを部落解放運動から学んだといいます。大学では部落解放研究会に参加し、識字運動について学び、「読むこと、書くこと、表現すること」を切り拓いてきた女性たちの営みを知り、その価値をもっと評価すべきだと強調しました。一方で、「あるべき部落活動家」の像に縛られたり、女性がケア役割を押し付けられる矛盾、運動内部の性暴力やDVが隠される構造も指摘しました。
 のぴこさんは、地域の運動に育まれた経験が自分を形作ったと振り返ります。高校時代には卒業証書の和暦表記に抗議したこともあり、「おかしいと思ったことに声を上げる姿勢」が身についていたといいます。部落民という出自を隠さなかったため「カミングアウト」という言葉は自分にはなじまなかったそうです。しかし同時に、当時は「優等生」として運動の中にあった権力性にも順応していたことを省み、「男性性への同一化やミソジニーの内面化があったかもしれない」と率直に語りました。

「弱さ」を否定しない関係のあり方

 福岡さんは、幼い頃から父から「差別には闘え」と言われ、後に関わるようになった運動の中でも「より強くあれ」と求められてきたと振り返ります。その中で、自分の「怖さ」や「ビビリ」を口にしてはいけない圧力を感じてきたといいます。そこでは男性の「健常」な身体が基準とされ、女性や障害のある人の身体性が置き去りにされてきたのではないかと問題提起しました。
 また、1995年の米兵による沖縄少女レイプ事件を契機に、沖縄の女性たちの抵抗に強く動かされ、「女はものじゃない」との声に共鳴。沖縄「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」の源啓美さんを招いた講演会で、渡嘉敷島で起きた集団自決について、米軍から強姦されるのを避けるために家族のなかでも女性たちが最初に殺されていったことに触れ「なぜ、強姦された女は生きていけないのでしょうか」と源さんに問われたことが、それまで「レイプされること」=「かわいそうなこと」と思っていた自分にとって「転換点」となったと振り返りました。それから、DV裁判の傍聴や自助グループ活動を始める中で、安心して弱さを語れる場を得たことが大きな転機になったと語りました。
 このような自助グループの場がケアになっていたと述べる福岡さんに呼応するように、 のぴこさんも、石地さんとの対談のなかで「ピア・カウンセリングで自分を見つめ直し、解放する」という石地さんの言葉、そうして地域で自立生活を営んでいることに気付かされることが多かったと語りました。

トラウマと沈黙をどう捉えるか

 話題は「歴史的トラウマ」「世代間伝達トラウマ」にも広がりました。被差別や暴力の傷はときに直接的に語られないまま世代間を超えて継承され、部落出身であることを隠さなければならないという禁止や触れてはいけないものとして抱えられ続けることに対して、福岡さんは、『部落フェミニズム』を通じて再会した友人から「沈黙してきた時間が多い」と言われたことを紹介し、「沈黙もまた必要な時間であり、語ることを押し付けるのではなく、語れる場があることが大切」と話しました。
 のぴこさんは、共著者たちとのやり取りを通じて世代間伝達トラウマを実感し、それが、移民ステータス、障害など様々な事由によってケア役割を担う子どもや在日朝鮮人の経験に対して抱いてきた自身の共感とつながるものであったようだと語りました。


 参加者からは「自分の解放のための励ましを与えてくれた」「部落問題についてフェミニズムの視点から考えることができた」「自分を励ましたり振り返ったりできる言葉をたくさんもらえた」などの感想が届けられました。


【参考】

『部落フェミニズム』-呼応する「私」 著書紹介(国際人権ひろば No.181(202505月発行号)

https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section4/2025/05/post-202025.html

部落フェミニズム 出版社紹介ページ https://etcbooks.co.jp/book/burakufeminism/