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委員会の一般的勧告

人種差別撤廃委員会
一般的勧告31 (2005)
刑事司法制度の運営および機能における 人種差別の防止

2005年6月17日第67会期採択
A/60/18 pp.98-108

 人種差別の撤廃に関する委員会は、
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約第1条が定める人種差別の定義を想起し、
締約国が、とくに裁判所その他のすべての裁判および審判を行う機関の前での平等な取扱いについての権利の享有にあたり、人種、皮膚の色または民族的もしくは種族的出身による差別なしに、すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障する義務を有するとする、条約第5条の規定を想起し、
条約第6条が、締約国に対して、自国の管轄の下にあるすべての者に対し、権限のある自国の裁判所および他の国家機関を通じて、あらゆる人種差別の行為に対する効果的な保護および救済措置を確保し、ならびにその差別の結果として被ったあらゆる損害に対し、公正かつ適正な賠償または救済を当該裁判所に求める権利を確保することを求めていることを想起し、「刑事法制度の機能および法令の適用、ならびに法令の執行に責任を有する機関および個人の行動および態度においていくらかの国で存続している人種主義、人種差別、外国人排斥および関連する不寛容、とくに、それらが原因となって、被拘禁者に占める一定の集団の割合が不均衡に多い場合には、それらを完全に否認する」と表明した、「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連する不寛容に対するダーバン世界会議」が採択した宣言第25項に言及し、
刑事司法制度における差別に関する、「人権委員会」および「人権の促進および保護に関する小委員会」の作業(E/CN.4/Sub.2/2005/7)に言及し、
現代的な形態の人種主義、人種差別、外国人排斥および関連する不寛容に関する特別報告者の報告書に留意し、
1951年の「難民の地位に関する条約」、とくに、「難民は、すべての締約国の領域において、自由に裁判を受ける権利を有する」と規定する第16条に言及し、
締約国から提出された報告書に関する委員会の結論、ならびに、「ロマに対する差別に関する一般的な性格を有する勧告27」、「世系に基づく差別に関する一般的な性格を有する勧告29」および「市民でない者に対する差別に関する一般的な性格を有する勧告30」における裁判制度の機能に関する見解に留意し、
裁判制度が公平であり、人種主義、人種差別または外国人排斥の影響を受けていないとみなされうる場合であっても、裁判制度の運営および機能において人種差別または民族差別が存在するときには、司法制度のまさにその役割としてその保護の対象となるべき集団に属する者に対して当該差別がもつ直接的な効果により、当該差別が、法の支配、法の前の平等原則、公正な裁判の原則、および独立かつ公平な裁判を受ける権利のとくに重大な侵害となることを確信し、
適用される法令の形態、および現行司法制度の形態(弾劾的であると、糾問的であると、またはその混合的であるとを問わない)にかかわりなく、刑事司法制度の運営および機能において人種差別のない国はないことを考慮し、
住民の一定の部分および一定の法執行官の間に偏見および外国人排斥または不寛容の感情を助長する、一定の移民および人の移動の増大の結果を理由の一部とし、また、とくに反アラブ感情または反イスラム感情の発生を助長しつつある、多くの国が採用した安全保障政策および反テロリズム措置の結果を理由の一部とし、さらに、多くの国における反ユダヤ主義的感情に対する対応として、刑事司法制度の運営および機能における差別の危険性が、近年、増大しつつあることを考慮し、
社会において排除、周縁化および非統合にとくにさらされている、世界のすべての国における人種集団または民族集団に属する者、とくに、市民でない者(移民、難民、庇護申請者および無国籍者を含む)、ロマ/ジプシー、先住民族、避難民、世系を理由に差別を受けている者、ならびにその他の脆弱な集団が被っているおそれのある、刑事司法制度の運営および機能におけるあらゆる形態の差別と戦うことを決意し(その際、人種とともに、性または年齢を理由に複合的な差別を受けやすい、上記集団に属する女性および子どもの状況に特別の注意を払うものとする)、
締約国に宛てて、以下の勧告を策定する。

I.一般的措置

A.刑事司法制度の運営および機能における人種差別の存在および範囲をよりよく評価するためにとられるべき措置、当該差別の証拠となる指標の探求

1.事実の指標

1.締約国は、人種差別のありうる下記の指標に最大限の注意を払うべきである。
前文の最終項にいう集団に属する者であって、暴行傷害その他の犯罪(とくに、それらの犯罪が警察官その他の公務員によって行われる場合)の犠牲者であるものの数および割合。
国において人種差別行為の被害の訴え、訴追および有罪判決が存在しないこと、またはそれが少数であること。そのような統計値は、いくらかの国の確信に反して、必ずしも肯定的なものとみなされるべきではない。そのような統計値が同時に示す可能性のあることは、犠牲者が自らの権利に関する不十分な情報しか得ていないこと、社会的な非難や報復をおそれていること、限られた資源しかもたない犠牲者が司法過程のコストや複雑さをおそれていること、警察当局および司法当局に対する信頼性が欠如していること、または、関係当局が人種主義を伴う犯罪に不十分にしか注意しもしくは認識していないこと、である。
前文の最終項にいう集団に属する者に対する法執行官の行動に関する情報がないか、不十分であること。
これらの集団に属する者が社会から排除され、または統合されていないことの指標としての、当該者の犯罪(とくに軽微な路上犯罪、薬物および売春関連の犯罪)率が高率であること。
拘禁センター、刑務所、精神衛生施設または空港の収容区画に拘禁され、または予防拘禁されている、これらの集団に属する者の数および割合。
裁判所が、これらの集団に属する者に対してより厳しいまたは不適切な判決を言い渡すこと。
警察、司法制度(裁判官および陪審員を含む)およびその他の法執行部門の上級官において、これらの集団に属する者が十分に代表されていないこと。

2.これらの事実指標が周知され、使用されるようにするため、締約国は、警察当局、司法当局および拘禁当局、行政当局から、秘密性、匿名性および個人情報の保護基準を尊重しつつ、定期的かつ公的な情報収集を開始するべきである。

3.とくに、締約国は、人種主義行為および外国人排斥行為に関する被害の訴え、訴追および有罪判決、ならびに、かかる行為の犠牲者に支払われた賠償(当該賠償が犯罪の実行者によって支払われたと、公的基金から支出される国家賠償計画に基づいて支払われたとを問わない)に関する包括的な統計情報その他の情報を利用するべきである。

2.立法上の指標

4.下記のものは、人種差別の潜在的な原因を示す指標とみなされるべきである。
人種差別に関する国内法令におけるギャップ。この点で、締約国は、条約第4条の義務を十分に履行し、同条が規定するようにすべての人種主義行為を処罰するようにするべきである。とくに、人種的優越または憎悪に基づく思想の流布、人種的憎悪の扇動、暴力または人種的暴力の扇動、ならびに、人種主義的宣伝活動および人種主義的団体への参加である。締約国は、また、人種を理由として犯罪を犯したことが、一般に刑の加重理由となる旨の規定を刑事立法の中に組み入れるよう奨励される。
一定の国内法令、とくに、テロリズム、出入国管理、国籍、市民でない者の国からの追放に関する国内法令、ならびに、一定の集団または一定の社会の構成員を正当な理由なく処罰する効果をもつ法令の、間接的な差別的効果。国家は、かかる立法の差別的効果を撤廃するよう努めるべきであり、いかなる場合においても、前文の最終項にいう集団に属する者への国内法令の適用における比例性の原則を尊重するよう努めるべきである。

B.刑事司法制度の運営および機能における人種差別を防止するために発展させられるべき戦略

5.締約国は、次のことも含む目標をもつ国家戦略を追求するべきである。
人種差別的効果をもつ法令を撤廃すること。とくに、一定の集団に属する者によってのみ実行されうる行為を処罰することにより、当該集団を間接的に標的とする法令、正当な理由なく市民でない者にのみ適用される法令、または、比例性の原則を尊重しない法令。
適切な教育計画によって、法執行官、警察職員、司法制度関係施設、刑務所、精神衛生施設、社会サービスおよび医療サービス関係者に対して、人種集団または民族集団の間の人権、寛容および友好関係ならびに文化間関係に対する鋭敏化に関する訓練を発展させること。
偏見と戦い、信頼関係を創造するために、警察当局および司法当局と、前文の最終項にいう種々の集団の代表との間の対話と協力を促進すること。
警察および司法制度において、人種集団および民族集団に属する者の適切な代表性を促進すること。
国際人権法に合致した先住民族の伝統的な司法制度の尊重と承認を確保すること。
前文の最終項にいう集団に属する受刑者の文化的および宗教的慣行を考慮に入れるため、これらの受刑者に対する刑務所制度に必要な変更を行うこと。
人の大規模移動の状況において、避難民のとくに脆弱な状況を考慮に入れるために、司法制度の運用に必要な暫定的措置をとり、および取決めを行うこと。とくに、避難民が滞在する場所に裁判所を分散させること、または移動裁判所を組織すること。
紛争後の状況において、とくに関連する国連機関が提供する国際的技術的支援を利用に供することにより、関係国の全領域に法制度の再構築および法の支配の再確立のための計画を設けること。
構造的人種差別の撤廃を目的とした国家行動戦略または計画を実施すること。これらの長期戦略には、特定の目標および行動ならびにその進展を評価しうる指標を含めるべきである。当該戦略にとくに含まれるべきものは、人種主義的事象または外国人排斥事象の防止、記録、犯罪捜査および訴追、警察および司法制度との関係に関するすべての集団の満足度の評価、さまざまな人種集団または民族集団に属する者の司法制度職への募集および昇進のためのガイドラインである。
人種差別に対する国家行動計画およびガイドラインに基づいてみられた進展を追跡し、監視しおよび評価すること、人種差別の隠れた表現形態を確認すること、ならびに、改善のための勧告および提案を提出することを、独立した国家機関の任務に委ねること。

II.人種主義の犠牲者に対する人種差別を防止するためにとられるべき措置

A.法令および司法の利用

6.あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約第6条に従い、締約国は、自国の管轄の下にあるすべての者に対して、いかなる差別もなく、かつ、人種差別行為(私人によって行われる場合であると、公務員よって行われる場合であるとを問わない)の実行者に対する効果的な措置を受ける権利、ならびに、被った損害に対する公正かつ適正な賠償を求める権利を保障する義務を有する。

7.人種主義の犠牲者に対して司法の利用を促進するため、締約国は、しばしば自己の権利を認識していない、最も脆弱な社会集団に属する者に対して必要な法情報を提供するよう努めるべきである。

8.この点で、締約国は、かかる個人が生活する場所において、無料の法的援助センター、法情報センターならびに調停および仲裁センターなどの施設を創設するべきである。

9.締約国は、また、周縁化された集団の権利および差別の防止を専門とする法律家団体、大学施設、法律支援センター、および非政府組織との協力を拡大するべきである。

B.被害の訴えを受理する権限を有する当局への事象の報告

10.締約国は、前文の最終項にいう集団に属する者からの被害の訴えが迅速に受理されうるようにするために、それらの者が居住する地域、地方、集団施設、キャンプまたはセンターにおいて、警察サービスが十分かつ利用しやすい形で存在することを確保するために必要な措置をとるべきである。

11.被害の訴えが迅速に登録され、犯罪捜査が遅滞なくかつ効果的に、独立して公平に行われ、人種主義事象または外国人排斥事象に関するファイルが保持され、データベースに組み入れられるようにするために、権限のある当局に対して、警察施設において、人種主義行為の犠牲者を満足のゆくような方法で受け入れるように指示されるべきである。

12.人種主義行為に関する被害の訴えの受理を警察職員が拒否することは、懲戒上のまたは刑事上の制裁の対象となるべきであり、かかる制裁の程度は、腐敗が含まれている場合には、重罰化されるべきである。

13.逆に、人権侵害、とくに人種差別に基づく人権侵害を実行するよう要求する命令または指示に従うことを拒否することは、すべての警察職員または公務員の権利であり義務であるべきである。締約国は、すべての職員が処罰のおそれなしにこの権利を援用する自由を保障するべきである。

14.拷問、虐待または処刑の申立の場合には、「超法規的、恣意的および略式処刑の効果的な防止および犯罪捜査に関する原則」1)および「拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰の効果的な犯罪捜査および証拠資料に関する原則」2)に従って犯罪捜査が行われるべきである。

C.司法手続の開始

15.締約国は、検察官および訴追機関の構成員に対して、人種主義的行為の訴追の一般的な重要性を想起させるべきである。人種的な動機で行われたすべての犯罪は、社会の団結および社会全体を害するから、この人種主義的行為には、人種主義的動機をもって行われた軽微な犯罪も含むものとする。

16.手続の開始に先立って、締約国は、犠牲者の権利を尊重するため、人種主義行為の犠牲者にとっての選択肢となり、かつ汚名や恥辱がより少ないものとなりうる、紛争解決のための準司法的手続(人権と両立する伝統的手続、仲裁または調停を含む)の使用を奨励することができる。

17.人種主義行為の犠牲者が裁判所に訴訟をより提起しやすいようにするためにとられるべき措置は、次のものを含むべきである。
人種主義および外国人排斥の犠牲者ならびにそれらの犠牲者の保護のための団体に対して手続上の地位を与えること。たとえば、これらの犠牲者と団体とが、刑事訴訟手続において無料で自己の権利を主張することができる刑事訴訟手続その他の類似の手続において相互に協力する機会である。
犠牲者に対して、効果的な司法的協力および法律扶助(無料の弁護人および通訳者の援助を含む)を与えること。
犠牲者が手続の進行に関する情報を得るよう確保すること。
すべての形態の脅迫または報復から犠牲者または犠牲者の家族を保護することを保障すること。
被害の訴えの対象となった公務員について、犯罪捜査の継続中にその職務を停止する可能性を規定すること。

18.犠牲者に対する援助計画および賠償計画が存在する国において、締約国は、かかる計画が、差別なく、かつ、その国籍または在留資格にかかわりなく、すべての犠牲者の利用に供するよう確保するべきである。

D.司法制度の機能

19.締約国は、司法制度が次のことを確保するようにするべきである。
告訴人が、審査手続および聴聞期間中に裁判官から聴聞され、情報を利用し、敵性証人と対決し、証拠に異議を申し立て、および手続の進行について通知を受けるようにすることによって、手続の全期間を通じて、犠牲者およびその家族ならびに証人に対して適切な場を与えること。
とくに審理、尋問または対決が、人種主義に関する必要な敏感性をもって遂行されることを確保することを通じて、人種差別の犠牲者の尊厳を尊重しつつ、当該犠牲者を差別または偏見なく取り扱うこと。
合理的な期間内に犠牲者に対して判決が下されることを保障すること。
人種差別の結果とした被った物質的および精神的損害に対する正当で十分な賠償を保障すること。

III.司法手続に服している刑事被告人に対する人種差別を防止するためにとられるべき措置

A.尋問および逮捕

20.締約国は、尋問、逮捕および捜索であって、実際には、人の身体的外観、当該者の皮膚の色もしくは特徴または人種集団もしくは民族集団の構成員であること、彼または彼女の容疑をより深めるステレオタイプにのみ基づくものを、防止するために必要な措置をとるべきである。

21.締約国は、前文の最終項にいう集団に属する者に影響を及ぼす暴力、拷問行為、残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いおよびすべての人権侵害であって、公務員(とくに、警察職員、軍職員、税関当局、ならびに空港、刑務所、社会的サービス、医療サービスおよび精神衛生サービスに従事する者)によるものを防止し、かつ、最も厳格に処罰をするべきである。

22.締約国は、「法執行官による有形力および火器の使用に関する基本原則」3)に従い、前文の最終項にいう集団に属する者に対する有形力の使用において、比例性および厳格な必要性という一般原則の遵守を確保するべきである。

23.締約国は、また、逮捕されたすべての者に対し、その者が属する人種的、民族的または種族的集団がいかなるものであるかを問わず、関連する国際人権文書(とくに、「世界人権宣言」および「市民的及び政治的権利に関する国際規約」)が定める防御の基本的権利の享有を保障するべきである。とくに、恣意的に逮捕されまたは拘禁されない権利、逮捕の理由を告げられる権利、通訳者の援助を受ける権利、弁護人の援助を受ける権利、裁判官その他司法権を行使する権限を法律によって付与された当局の面前に速やかに連れて行かれる権利、「領事関係に関するウィーン条約」第36条が保障する領事の保護を受ける権利、ならびに、難民の場合には、難民高等弁務官事務所と接触する権利である。

24.行政拘禁センターまたは空港の拘禁地区に置かれている者については、締約国は、十分に相当な生活条件を享有することを確保するべきである。

25.最後に、前文の最終項にいう集団に属する者の尋問または逮捕について、締約国は、女性または未成年者の取扱いにおいては、その特別の脆弱性のゆえに、とくに注意を払うよう留意するべきである。

B.裁判前の拘禁

26.裁判前に拘禁されている者には、市民でない者および前文の最終項にいう集団に属する者が過度に多数含まれることを示す統計に留意し、締約国は、次のことを確保するべきである。人種集団もしくは民族集団または上記の集団の1つへの帰属という事実だけでは、その者を法律上または事実上、裁判前に拘禁する十分な理由とはならないこと。かかる裁判前の拘禁は、逃亡のおそれ、証拠隠滅もしくは証人への影響、または公の秩序の重大な障害のおそれなど、法令において規定された客観的な理由のみによって正当化されうる。
裁判前に釈放されるために、保証措置または保証金を供託する義務が、上記の集団に属する者の状況に適した方法で適用されること。これらの者は、しばしば経済的に困窮した状況にあり、そのことによって、この義務が当該者への差別になるに至ることを防止するべきである。
裁判前に釈放される条件として被疑者または被告人にしばしば要求される保証(定められた住所、雇用の告知、安定的な家族の絆)が、上記の集団の構成員であること(とくに女性および未成年者の場合)から生ずる可能性のある不安定な状況に照らして評価されること。
裁判前に拘禁されている、上記の集団に属する者が、被拘禁者が関連する国際規範に基づいて享有するすべての権利、とくにそれらの者の事情にふさわしい権利を享有すること。とくに、宗教、文化および食糧に関してそれらの者の伝統が尊重される権利、家族と面接する権利、通訳者の援助を受ける権利、および、適切な場合には領事の援助を受ける権利、である。

C.裁判および判決

27.裁判前において、締約国は、適当な場合には、犯罪実行者(とくに、先住民族に属する者の場合)の文化または慣行の背景を考慮に入れて、犯罪を処理する非司法的または準司法的手続を優先することができる。

28.一般に、締約国は、前文の最終項にいう集団に属する者が、他の者と同様に、関連する国際人権文書が規定する、公正な裁判および法の前の平等の保障をすべて享有することを確保しなければならない。とくに、次の権利である。

1.無罪の推定を受ける権利

29.この権利は、警察当局、司法当局その他の公の当局が、裁判所が結論に至る前に被告人の有罪について公然とその意見を表明すること、まして、特定の人種集団または民族集団の構成員であることに基づいて事前に疑惑を投げかけることが禁止されなければならないということを含む。これらの当局は、マス・メディアが、一定の種類の者(とくに、前文の最終項にいう集団に属する者)に汚名を着せるおそれのある情報を流布しないよう確保する義務を有する。

2.弁護人の援助を受ける権利および通訳を受ける権利

30.これらの権利を効果的に保障することは、締約国が、前文の最終項にいう集団に属する者への法律扶助または援助および通訳のサービスとともに、弁護人および通訳者が無料で割り当てられる制度を設置しなければならないということを含む。

3.独立かつ公平な裁判を受ける権利

31.締約国は、裁判官、陪審員およびその他の司法関係職員において、人種的偏見または外国人排斥的偏見がないよう確保するよう厳に努めるべきである。

32.締約国は、一定の集団に対して差別的効果をもつおそれのある、圧力集団、イデオロギー、宗教および教会による直接的な影響が司法制度および裁判官の決定に対して及ぶことを防止するべきである。

33.締約国は、この点について、2002年に採択された「司法の行動に関するバンガローレ原則」((E/CN.4/2003/65)を考慮に入れることができる。同原則は、とくに次のことを勧告する。?裁判官は、社会の多様性、および背景(とくに人種的出身)と結合した相違を認識するべきであること。?裁判官は、その言動によって、人種的その他の出身を理由として人または集団に対して偏見を表明するべきではないこと。?裁判官は、すべての者(当事者、証人、法律家、裁判所職員および同僚など)に対して、正当化できない差別なしに適切な考慮を払ってその職務を遂行するべきであること。?裁判官は、皮膚の色、人種的、民族的もしくは宗教的出身または性別その他の関連性のない理由に基づいて人または集団に対して、その指揮下にある者および法律家が偏見を表明し、または差別的態度をとることに反対するべきであること。

D.公平な処罰の保障

34.この点に関し、締約国は、被告人が特定の人種集団または民族集団の構成員であることのみに基づいて、裁判所がより厳格な刑罰を科することのないよう確保するべきである。

35.この点に関し、締約国は、一定の犯罪に適用される最低限の刑罰制度および義務的拘禁制度、ならびに死刑を廃止していない国における死刑に特別の注意を払うべきである。その際、特定の人種集団または民族集団に属する者に、より頻繁に死刑が科され、執行されているとする報告に留意するべきである。

36.先住民族に属する者の場合には、締約国は、先住民族の法制度に、より適合的な拘禁刑に代替する措置、その他の刑罰を優先するべきである。その際、とくに、「独立国家における先住民族および部族に関する国際労働機関第169号条約」に留意するべきである。

37.市民でない者にのみ適用される刑罰(通常の法令に基づく刑罰に付加される、関係国からの退去強制または追放など)は、法令に規定され、公の秩序に関連する重大な理由に基づき、例外的な場合にのみ、かつ、比例するような態様においてのみ科されるべきである。また、これらの刑罰は、関係者の私的家族生活を尊重する必要性および享有する権利のある国際的保護を考慮に入れるべきである。

E.判決の執行

38.前文の最終項にいう集団に属する者が拘禁刑に服する場合には、締約国は、次のことを行うべきである。
当該者に対して、関連する国際規範に基づいて受刑者が享有することができるすべての権利、とくに、当該者の状況にふさわしい権利の享有を保障すること。とくに、宗教的慣行および文化的慣行が尊重される権利、家族と面接する権利、通訳者の援助を受ける権利、基本的な福祉を得る権利、および、適切な場合には領事の援助を受ける権利、である。受刑者に与えられる医療サービス、精神衛生サービスまたは社会サービスは、当該者の文化的背景を考慮に入れるべきである。
権利が侵害されたすべての受刑者に対して、独立かつ公平な当局の前で効果的な救済を得る権利を保障すること。
この点で、この分野の国連の諸規範に従うこと。とくに、「被拘禁者処遇最低基準規則」4)、「被拘禁者処遇基本原則」5)、および「すべての形態の拘禁の下になるすべての者の保護のための原則」6)である。
適切な場合には、当該者が、その出身国において服役する機会を付与する、外国人被拘禁者の移送に関する国内法令および国際条約または二国間条約の規定から利益を受けることを認めること。

39.さらに、締約国において、刑務所を監視する責任を有する独立した当局は、人種差別の分野における専門知識を有する者、人種集団および民族集団その他前文の最終項にいう脆弱な集団の問題に関する健全な知識を有する者を含むべきである。適切な場合には、当該監視機関は、効果的な査察制度および申立制度を有するべきである。

40.市民でない者が、その領域から退去強制または追放される場合には、締約国は、難民および人権に関する国際規範に基づくノン・ルフールマンの義務を完全に履行するべきである。また、締約国は、当該者の人権の重大な違反を受けるおそれのある国または領域に送還されることのないよう確保するべきである。

41.最後に、前文の最終項にいう集団に属する女性および子どもについて、締約国は、当該者が刑の執行に関連して享有する権利のある特別の制度から利益を受けることができるよう確保するために、可能な最大限の注意を払うべきである。その際、家族の母、一定の集団、とくに先住民族集団に属する女性が直面する特別の困難性に留意するべきである。

(訳:村上正直/大阪大学大学院教授)
『アジア・太平洋人権レビュー2006』より転載
 ※訳者の了解を得て訳語を一部変更しました(2022年8月29日)