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委員会の一般的意見

人種差別撤廃委員会
一般的勧告29 (2002)
世系

2002年8月21日第61会期採択
A/57/18 p.111-117

 人種差別の撤廃に関する委員会は、
 世界人権宣言が、人はその尊厳および権利において生まれながらにして自由かつ平等であり、同宣言が定める権利および自由を「人種、皮膚の色、性、言語、宗教、社会的出身、出生または他の地位」を含むいかなる差別もなしに享有する権利を有すると規定していることを想起し、
 「世界人権会議ウィーン宣言」が、政治的、経済的および文化的体制の如何にかかわらず、すべての人権および基本的自由を促進し、および保護することが国家の責務であると規定していることをも想起し、
 「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容に反対するダーバン世界会議」の宣言および行動計画を衷心より支持した、委員会の「一般的な性格を有する勧告XXVIII」を再確認し、
 ダーバン宣言および行動計画における、アジア系およびアフリカ系の者(Asian and African descent)、ならびに先住民およびその他の形態の世系を共有する者への差別に対する非難をも再確認し、
 「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身」に基づく差別の撤廃を求める、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」の規定に委員会の行動の根拠を置き、
 条約1条1項における「世系」という文言が「人種」のみを指すものではなく、その他の差別禁止事由を補完する意味および適用範囲を有するという、委員会の一貫した見解を確認し、
 「世系」に基づく差別がカーストおよびそれに類似する地位の世襲制度(systems of inherited status)等の、人権の平等な享有を妨げ、または害する社会階層化の形態に基づく集団の構成員に対する差別を含むことを強く再確認し、
 かかる差別の存在が、委員会による多数の条約締約国の報告書の検討から明らかになりつつあることに留意し、
 世系に基づく差別に関するテーマ別協議を企画し、かつこれを実施し、委員会の委員の貢献、ならびに、いくつかの政府および他の国際連合の諸機関の委員、とくに「人権の促進および保護に関する小委員会」の専門家の貢献を得、
 世界のさまざまな地域における世系に基づく差別の程度およびその存続状況に関するいっそうの証拠を委員会に提供した、多数の関係民間団体および個人による、口頭または書面による貢献をも得、
 世系に基づく差別という惨禍を撤廃し、当該差別によって被害を受けている集団の自立を促進するために、あらゆるレベルの国内の法令および慣行において、新たな努力および現在行われている努力の強化が必要であると結論し、
 世系に基づく差別を撤廃し、およびそれがもたらす被害状況を改善するための措置をとってきた諸国の努力を推賞し、
 未だこの現象を認識し、およびこれに対処していない関係諸国に対して、かかる行動をとる措置をとることを強く奨励し、
 世系に基づく差別の問題に関して、委員会と政府との間の対話が行われてきた積極的な精神を想起し、かかる建設的な対話がさらに継続されることを期待し、
 あらゆる形態の世系に基づく差別と闘うために、現在行われている作業に最高度の重要性を付与し、
 カーストおよびそれに類似する地位の世襲制度等の世系に基づく差別を条約違反として強く非難し、
 締約国に対して、自国の特定の諸状況の下で適当な以下の措置のすべてまたはいくつかのものを採用するよう勧告する。

1.一般的な性格を有する措置

 自国の管轄の下にある世系を共有する集団、とくに、カーストおよびそれに類似する地位の世襲制度に基づく差別を受けている集団の存否を確認するための措置をとること。当該集団の存在は、次のすべてまたはいくつかのものを含むさまざまな要素を基礎として認識しうる場合がある。世襲された地位を変更することができないか、またはそれが制限されていること。集団外の者との婚姻について社会的に強制される制約があること。住居および教育、公的な場所および礼拝所、ならびに食料および水の公的供給所の利用における隔離を含む、私的および公的隔離。世襲された職業または品位を傷つけるもしくは危険な作業を放棄する自由が制限されていること。債務奴隷制に服していること。けがれまたは不可触という非人間的な理論に服していること。ならびに、人間の尊厳および平等に対する尊重が一般的に欠けていること。
 世系に基づく差別の明示的な禁止を自国の憲法に組み入れることを検討すること。
 条約に従い、世系に基づくあらゆる形態の差別を禁止するために、立法を再検討し、および制定し、または修正すること。
 現行の立法その他の措置を断固として実施すること。
 世系を共有する集団の構成員に対する差別を撤廃するため、被害を受けている集団の構成員の参加を得て、条約1条および2条に基づく特別措置を含む、包括的な国家戦略を作成し、およびこれを実行すること。
 人権および基本的自由の享有を確保するため、とくに、公職、雇用および教育を利用する権利に関して、世系を共有する集団に対する特別優遇措置をとること。
 既存の制度の強化または特別の制度の創設を通じて、世系を共有する集団の平等な人権の尊重を促進するための制定法上の制度を確立すること。
 世系に基づく差別の被害者の状態に対処するための積極的差別是正措置の重要性について、一般公衆を啓発すること。
 世系を共有する集団の構成員と、他の社会集団の構成員との間の対話を奨励すること。
 世系に基づく差別の現状について定期的調査を実施すること、ならびに、世系を共有する集団の地理的分布ならびに経済的および社会的状況に関して、ジェンダーの視点を含めて、委員会に提出する自国の報告書の中で細分化した情報を提供すること。

2.世系を共有する集団の女性構成員に対する複合差別

 計画され、および実施されるすべての計画およびプロジェクトならびに採用された措置において、複合差別、性的搾取および強制売春の犠牲者としての、当該集団の女性構成員の状況を考慮に入れること。
 女性に対する世系に基づく差別を含む複合差別、とくに身体の安全、雇用および教育の分野における複合差別を撤廃するために必要なすべての措置をとること。
 世系に基づく差別によって被害を受けている女性の状況に関する、細分化されたデータを提供すること。

3.隔離

 世系を共有する集団の隔離を生じさせる趨勢を監視し、および報告すること、ならびに、かかる隔離から生ずる負の諸結果の根絶のために努力すること。
 住居、教育および雇用における隔離を含む、世系を共有する集団の構成員に向けられた隔離の慣行を防止し、禁止および撤廃することに着手すること。
 すべての者に対して、平等および非差別を基礎として、一般公衆の使用を目的とするあらゆる場所またはサービスを確保すること。
 被害を受けている集団の構成員と社会の他の構成員とが統合される混合社会を促進するための措置をとること、ならびに、かかる定住のためのサービスを社会の他の構成員と平等に利用しうることを確保するための措置をとること。

4.マスメディアおよびインターネットを媒介とするものを含む憎悪表現の流布

 カーストの優越性もしくは劣等性の思想、または世系を共有する集団に対する暴力、憎悪もしくは差別を正当化することを企てる思想のあらゆる流布に対抗する措置をとること。
 インターネットを媒介としてなされるものを含む、当該集団に対する差別または暴力のあらゆる扇動に対する厳格な措置をとること。
 メディアに従事する者に対して、世系に基づく差別の性格および発生状況に関する自覚を促進する措置をとること。

5.司法

 世系を共有する集団のすべての構成員に対して、法的扶助の供与、集団訴訟の促進、および当該集団の権利を擁護する民間団体の奨励によるものを含む、司法制度の平等な利用を確保するために必要な措置をとること。
 妥当な場合には、司法上の決定および公的行為が、世系に基づく差別の禁止を十分に考慮に入れることを確保すること。
 当該集団の構成員に対する犯罪を実行した者の訴追、およびかかる犯罪の被害者に対する十分な賠償の供与を確保すること。
 警察その他の法執行機関への、世系を共有する集団の構成員の募集を奨励すること。
 世系を共有する集団に対する偏見に基づく不正義を防止するため、公務員および法執行機関に対する訓練計画を企画し、かつこれを実施すること。
 警察その他の法執行機関と当該集団の構成員との間の建設的対話を奨励し、および促進すること。

6.市民的および政治的権利

 (aa)関係国のあらゆるレベルの当局が、世系を共有する集団の構成員に影響を及ぼす決定を行うに際して、当該集団の構成員を関与させることを確保すること。
 (bb)世系を共有する集団の構成員に対して、平等かつ普通の選挙権に基づく選挙に投票および立候補によって参加する権利を保障するための、ならびに行政機関および立法機関に相応に代表されるための、特別かつ具体的な措置をとること。
 (cc)当該集団の構成員に対して、公的および政治的生活に積極的に参加することの重要性に対する自覚を促進すること、ならびに、かかる参加の障害を撤廃すること。
 (dd)世系を共有する集団に属する公務員および政治的代表者の政治的政策決定能力および公務遂行能力を向上させるための訓練計画を企画し、かつこれを実施すること。
 (ee)世系を理由とする暴力の再発を防止するため、かかる暴力が生じやすい分野を特定するための措置をとること。
 (ff)世系を共有する集団の構成員であって、当該集団外の者との婚姻を希望する者に婚姻の権利を確保するための断固たる措置をとること。

7.経済的および社会的権利

 (gg)平等かつ非差別を基礎とする経済的および社会的発展計画を入念に作成し、採用し、および実施すること。
 (hh)世系を共有する集団にみられる貧困を根絶し、および、当該集団の社会的排除または周縁化と闘うための実質的かつ効果的な措置をとること。
 (ii)国際金融機構を含む国際機構が支援する開発計画または援助計画が世系を共有する集団の構成員の経済的および社会的状況を考慮に入れることを確保するため、当該国際機構と協働すること。
 (jj)公的部門および私的部門における、被害を受けている集団の構成員の雇用を促進する特別措置をとること。
 (kk)雇用および労働市場における、世系に基づくあらゆる差別的慣行をとくに禁止する立法および慣行を開発し、または改善すること。
 (ll)雇用希望者の世系如何を調査する公的機関、私的企業およびその他の団体に対する措置をとること。
 (mm)被害を受けている集団の構成員に対する居住および十分な住居の利用に関する地方当局または私的所有者の差別的慣行に対する措置をとること。
 (nn)世系を共有する集団の構成員に対する衛生および社会保障サービスの平等な利用を確保すること。
 (oo)衛生計画を立案し、および実施するに際して、被害を受けている集団を関与させること。
 (pp)世系を共有する集団の児童が搾取的児童労働にとくにさらされやすいことに対処するための措置をとること。
 (qq)債務奴隷、および世系に基づく差別に関連する品位を傷つける労働条件を撤廃するための断固たる措置をとること。

8.教育を受ける権利

 (rr)公的および私的教育組織がすべての集団の児童を含むこと、ならびに、当該組織が世系に基づくいかなる児童の排除をも行わないことを確保すること。
 (ss)学校において、すべての集団の児童、とくに、被害を受けている集団の児童のドロップアウト率を減少させること。その際、少女の状況にとくに注意を払うものとする。
 (tt)世系を共有する集団の構成員である生徒に対する公的または私的機関による差別、およびいかなる嫌がらせに対しても、これと闘うこと。
 (uu)市民社会と協力して、世系に基づく差別を受けている集団に対する非差別および尊重の精神に基づき住民全体を啓発するために必要な措置をとること。
 (vv)教科書に見られる、世系を共有する集団に関するステレオタイプまたは品位を傷つける肖像、言語、名前もしくは意見を伝達するすべての言葉を再検討し、それを、すべての人間の固有の尊厳および人権の享有における平等というメッセージを伝達する肖像、言語、名前および意見に置き換えること。

(訳注) 「世系(せいけい)」という言葉は、血統や系統など、先祖から子孫へと受け継がれていることを示す言葉である。日本語として耳なれない言葉であるが、次の2つの理由により、この訳語を用いる。
 第1に、「世系」という言葉は、英語正文のdescentの公定訳において用いられているものであり、人種差別撤廃条約に関する諸論稿ではこの訳語が一般に用いられている。
 第2に、「世系」という言葉を用いることがむしろ適当である。この一般的勧告において見られる「地位の世襲制度(systems of inherited status)」という言葉からも明らかなように、descentという文言は門地や出生といった言葉と類似する意味をもつが、それらと同一の意味をもつものではない。たとえば、この一般的勧告の前文ではpersons of Asian and African descentという表現が見られるが、これを「アジアおよびアフリカ門地」などと訳出することは必ずしも適当ではない。
 また、この翻訳では、descent-based discriminationやdiscrimination based on descentといった表現には「世系に基づく差別」という訳語を、descent-based groupsやdescent-based communitiesといった表現には「世系を共有する集団」という訳語を用いた。これらも日本語表現としては耳慣れない言葉であるが、descentの訳語として「世系」という言葉を用いる以上、同一の訳語を使用することが必要であるため、このように訳出した。
 「世系に基づく差別」は、個人の血統や血筋などを理由としてなされる差別を意味する。また、「世系を共有する集団」は、血統や出自などを同じくする人々の集団や社会のことを意味する。なお、groupsとcommunitiesは、ともに「集団」と訳出した。両者に特段の区別はないように思われるからである。

(訳:村上正直/大阪大学教授・IMADR-JC企画運営委)
『アジア・太平洋人権レビュー2003』より転載

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