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委員会の一般的意見

人種差別撤廃委員会
一般的勧告30 (2004)
市民でない者に対する差別

2004年8月5日第65会期採択
A/59/18 pp. 93-97

 人種差別の撤廃に関する委員会は、
 すべての人間は生まれながらにして自由であり、尊厳および権利において平等であり、いかなる差別を受けることなく所定の権利および自由を享有する権利を有するとする「国際連合憲章」および「世界人権宣言」、ならびに「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」、および「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」を想起し、
 「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連する不寛容と闘う世界会議」が、市民でない者、とくに、移住者、難民および庇護申請者に対する排斥が現代の人種主義の主要な源泉のひとつであること、および、当該集団の構成員に対する人権侵害が、差別的、外国人排斥的および人種主義的慣行の文脈において広範に発生していることを認めた「ダーバン宣言」を想起し、  「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」ならびに「一般的な性格を有する勧告」 11および20 に基づき、移住者、難民および庇護申請者以外の集団(正規の文書を有さない市民でない者、その生涯を特定国の領域に居住した場合であっても、自らが居住する国家の国籍を有することを立証することができない者を含む)もまた懸念の対象となることが、条約締約国の報告書の検討から明らかになりつつあることに留意し、
 市民でない者に対する差別の問題に関するテーマ別討議を組織し、委員会の委員および締約国からの貢献を得、また、その他の国際連合諸機関および専門機関の専門家ならびに非政府組織からの貢献を得、
 市民でない者に対する、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」の締約国の責任を明確にする必要性を認識し、
 委員会の行動の根拠を、条約の規定、とくに、すべての者が、市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利および自由の享有において、人種、皮膚の色、世系または民族的もしくは種族的出身に基づく差別を禁止し、および撤廃することを締約国に求める第5条に置き、
 次のことを確認する。

1. 条約締約国の責任

1.条約第1条1項は、人種差別を定義する。第1条2項は、市民と市民でない者との間に区別を設けることができることを規定している。第1条3項は、国籍、市民権または帰化に関して、締約国の法規がいかなる特定の国籍および民族に対しても差別を設けてはならないことを宣言している。

 

2.第1条2項は、差別の基本的な禁止を害することを回避するよう解釈しなければならない。したがって、同項は、とくに、「世界人権宣言」、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」、および「市民的及び政治的権利に関する国際規約」が承認し、および規定する権利および自由を縮減するものと解釈されるべきではない。

 

3.条約第5条は、締約国が、市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利の享有における人種差別を禁止し、および撤廃するべき義務を規定している。これらの権利のうちのいくつかのもの、たとえば、選挙に投票および立候補によって参加する権利は市民にのみ限定することができる。しかし、人権は、原則として、すべての者によって享有されなければならない。締約国は、国際法に基づいて認められた範囲において、これらの権利の享有における、市民と市民でない者との間の平等を保障する義務を負う。

 

4.条約上、市民権または出入国管理法令上の地位に基づく取扱いの相違は、次のときには差別となる。すなわち、当該相違の基準が、条約の趣旨および目的に照らして判断した場合において正当な目的に従って適用されていないとき、および、当該目的の達成と均衡していないときである。特別措置に関する条約第1条4項の適用範囲内の取扱いの相違は、差別とは見なされない。

 

5.締約国は、市民でない者に関する立法およびその実施に関して完全な報告を行う義務を負う。さらに、締約国は、自国の定期報告書の中に、適切な形式で、自国の管轄の下にある市民でない者に関する社会的・経済的データ(ジェンダーおよび民族的または種族的出身別に集計されたデータを含む)を含めるべきである。

 

これらの一般原則に基づき、条約締約国は、自国の特定の状況からみて適当なときには、以下の措置をとるよう勧告する。

2. 一般的な性格を持つ措置

6.立法が、条約に、とくに第5条が規定する権利の差別のない効果的な享有に関して、完全に一致するようにするため、適当なときには、立法を再検討し、および改正すること。

 

7.人種差別に対する立法上の保障が、出入国管理法令上の地位にかかわりなく市民でない者に適用されることを確保すること、および立法の実施が市民でない者に差別的な効果をもつことがないよう確保すること。

 

8.市民でない者、とくに市民でない労働者の児童および配偶者が直面する複合差別の問題により大きな注目を払うこと、市民の非市民女性配偶者と、市民の非市民男性配偶者に異なった取扱いの基準を適用することを慎むこと、このような慣行に関して報告し、および、当該慣行に対処する必要なすべての措置をとること。

 

9.出入国管理政策が、人種、皮膚の色、世系、または民族的もしくは種族的出身に基づき個人を差別する効果を有することがないよう確保すること。

 

10.テロリズムとの闘いに際してとられた措置が、人種、皮膚の色、世系、または民族的もしくは種族的出身に基づき、その目的または効果において差別することがないよう確保すること、また、市民でない者が人種的または種族的に類型的な見方を受けないよう確保すること。

3. 憎悪唱道および人種的暴力からの保護

11.市民でない者に対する外国人排斥的態度および行動、とくに憎悪唱道および人種的暴力に対処し、および、市民でない者の状況に関する非差別原則に関するよりよい理解を促進するための措置をとること。

 

12.インターネットその他の電子的な通信ネットワークにおいて、および社会全体において、人種、皮膚の色、世系および民族的または種族的出身に基づき、とくに政治家、公務員、教育者およびメディアが「市民でない」住民集団の構成員を攻撃目標とし、汚名を着せ、または類型的な見方をする傾向と闘う断固とした行動をとること。

4. 市民権の取得

13.市民でない者の特定の集団が市民権の取得または帰化に関して差別を受けないよう確保すること、および、長期在住者または永住者にとって存在する可能性のある、帰化に対する障害に相当の注意を払うこと。

 

14.人種、皮膚の色、世系または民族的もしくは種族的出身に基づく市民権の剥奪が、国籍に対する権利の差別のない享有を確保するべき締約国の義務の違反であることを認識すること。

 

15.長期在住者または永住者に対する市民権の否認が、ある場合には、雇用および社会福祉へのアクセスに不利益を生じさせ、条約の非差別原則に違反する結果となることを考慮すること。

 

16.たとえば、父母にその児童のために市民権の申請を奨励し、その児童に父母の国籍を付与することを認めることなどにより、無国籍、とくに児童の無国籍を減少させること。

 

17.締約国の管轄の下に現に居住する、先行国の旧市民の地位を正規化すること。

5. 司法

18.市民でない者が、平等の保護および法律による平等の承認を享有することを確保すること。この文脈において、人種的動機をもつ暴力に対する措置をとること、被害者が効果的な法的救済措置を確保し、および、その暴力の結果として被ったあらゆる損害に対し公正かつ適正な賠償を求める権利を確保すること。

 

19.とくに恣意的な拘禁に対する、市民でない者の安全を確保すること、ならびに、難民および庇護請求者の収容施設の諸条件が国際基準に合致するよう確保すること。

 

20.テロリズムとの闘いにおいて拘禁され、または逮捕された市民でない者が、国際人権法、国際難民法および国際人道法に一致する国内法によって適切に保護されるよう確保すること。

 

21.制裁を規定する関連法令を厳格に適用することにより、および、市民でない者を取り扱うすべての公務員が特別の訓練(人権に関する訓練を含む)を受けることを確保することにより、警察その他の法執行機関および公務員による市民でない者に対する虐待および差別と闘うこと。

 

22.人種的動機または目的をもって犯罪を行ったことが、より厳格な刑罰を認める刑の加重事由となるとする規定を刑事法の中に導入すること。

 

23.市民でない者から行われた人種差別の苦情が徹底的に調査されるよう確保すること、および公務員に対してなされた苦情、とくに差別的または人種主義的行動に関する苦情が独立した効果的な調査を受けることを確保すること。

 

24.人種、皮膚の色、世系および民族的または種族的出身に基づく差別に関する民事訴訟手続における立証責任について、市民でない者が差別の被害者であることの一応の証拠のある事件(a prima facie case)であることを立証した場合には、被告が、異なった取扱いについて客観的かつ合理的に正当化する証拠を提供する責任を負うようにすること。

6. 市民でない者の追放

25.締約国の管轄の下からの市民でない者の追放その他の形態の排除措置に関する法令が、人種、皮膚の色、または種族的もしくは民族的出身に基づき、市民でない者を、その目的または効果において差別しないよう確保すること、ならびに、市民でない者が効果的な救済措置(追放命令に異議を申し立てる権利を含む)を平等に利用し、そのような救済措置を効果的に遂行することが認められるよう確保すること。

 

26.市民でない者が、とくに、関係する者の個人的状況が考慮される十分な保障がない状況の下で、集団的追放を受けないよう確保すること。

 

27.市民でない者が、重大な人権侵害(拷問および残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰を含む)を受ける危険のある国または領域に送還されまたは追放されることがないよう確保すること。

 

28.家族生活に対する権利に対する均衡性を欠く干渉となるおそれのある、市民でない者、とくに長期在住者の追放を避けること。

7. 経済的、社会的および文化的権利

29.とくに、教育、住居、雇用および健康の分野における経済的、社会的および文化的権利の、市民でない者による享有を妨げる障害を排除すること。

 

30.公教育機関が、締約国の領域に居住する市民でない者および正規の文書を有さない移住者の児童に開放されることを確保すること。

 

31.人種、皮膚の色、世系および民族的または種族的出身に基づき、初等および中等学校においてならびに高等教育の利用に関して、隔離教育制度および異なる取扱い基準が市民でない者に適用されることを回避すること。

 

32.とくに、住居における隔離を回避し、住宅供給機関が差別的慣行に従事することを差し控えることを確保することによって、市民および市民でない者に対して、十分な住居に対する権利の平等の享有を保障すること。

 

33.労働条件および労働要件(差別的目的または効果を有する雇用規則および慣行を含む)に関して、市民でない者に対する差別を撤廃する措置をとること。

 

34.市民でない労働者、とくに市民でない家庭内労働者が通常に遭遇する重大な問題(債務奴隷、旅券の没収保管、違法な身体拘束、強姦および身体的暴力を含む)を防止し、および矯正する効果的な措置をとること。

 

35.締約国は、労働許可のない市民でない者に対して職の提供を拒否することができるものの、すべての個人が雇用関係に入った場合には、それが終了するまでの間、労働および雇用に関する権利(集会および結社の自由を含む)を享有する権利を有することを認めること。

 

36.締約国が、とくに、予防、治療および苦痛緩和の健康サービスの利用を否定しまたは制限することを差し控えることにより、十分な水準の身体的および精神的健康に対する市民でない者の権利を尊重することを確保すること。

 

37.市民でない者に対して、その文化的アイデンティティを否定する慣行(市民でない者が市民権を取得するために氏名を変更する法的または事実上の要件など)を防止するために必要な措置をとること、ならびに、市民でない者がその文化を維持し、および発展させることができるようにする措置をとること。

 

38.人種、皮膚の色、世系および民族的または種族的出身に基づく差別なく、輸送機関、ホテル、飲食店、喫茶店、劇場、公園等一般公衆の使用を目的とするあらゆる場所またはサービスを利用する、市民でない者の権利を確保すること。

 

39.この一般的な性格を有する勧告は、一般的な性格を有する勧告11 (1993)に代わるものとする。

(訳:村上正直/大阪大学大学院教授)
『アジア・太平洋人権レビュー2005』より転載

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