MENU

ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

  1. TOP
  2. 資料館
  3. ニュース・イン・ブリーフ
  4. すべての人の平等と人権実現にはジェンダーの視点が不可欠――国連専門家が共同声明(8/28)

ニュース・イン・ブリーフ サイト内検索

 

Powered by Google


ニュース・イン・ブリーフ Archives


すべての人の平等と人権実現にはジェンダーの視点が不可欠――国連専門家が共同声明(8/28)

 国連人権理事会の特別手続きに基づき、特定の国の人権状況や特定の人権に関わるテーマについて調査・報告を行うマンデートホルダー(任務保持者)45名(註)は、「すべての人の平等と人権実現に欠かせないジェンダーの視点を再確認する(Reaffirming the Centrality of Gender as a Tool for Advancing Equality and All Human Rights)」と題する共同声明を828日に発表しました。

以下は、声明の全文訳です。


国連特別手続きマンデートホルダーによる共同声明

すべての人の平等と人権実現に欠かせないジェンダーの視点を再確認する


 本日(8/28)、45名の国連特別手続きマンデートホルダーは、ジェンダー平等を人権および実質的平等の礎として再確認した。

 「フェミニズムおよび女性の権利運動、そして国際人権基準が長く確認してきたように、生物学は運命ではない。」ジェンダーに基づく差別は、セックスに基づく差別とともに対処されなければならない。「セックス」は生物学的特徴を指す一方、「ジェンダー」は、社会的に構築されたアイデンティティ、役割、期待を含む、より広くかつ重要な分析的視座を提供する。それらは個人の生活を形づくり、権力のヒエラルキーを強化し、しばしば多様な女性に不利益を生じさせ、またはそれを維持する。

 したがって、女性であることの概念は、生物学だけによって形づくられるのではなく、教育制度を含む社会化の過程、交差する差別の形態、ジェンダー規範の強制、そして時代の変遷を通じて形成される。こうした相互作用は、しばしば女性や少女に対する権利の否認につながる。こうした現実を考慮せず、セックスとジェンダーを厳格に切り離すような法制度や政策枠組みは、構造的な不平等に実質的に取り組む上でも、また女性および少女の普遍的な人権の完全な実現を保障する上でも限界がある。

 専門家らは、一部の国家やその他の主体がジェンダーの重要性を否定し、アイデンティティおよび当事者としての経験を形づくる社会的・文化的要因を無視して、固定的かつ男女二元的なセックス概念の主張を再燃させようとする動向に深刻な懸念を表明した。

 「そのようなアプローチは、女性および少女の当事者としての経験の多様性を反映せず、性的指向、性自認、またはジェンダー表現に基づく差別に直面する人々の現実を無視している。それらはしばしば、有害なジェンダー・ステレオタイプを強化する誤った情報に根ざし、『保護』を口実とした誤った対応を引き起こし、ジェンダー平等の実現とすべての女性・少女の権利保護に不可欠な、正確な情報(エビデンス)に基づく戦略から逸脱している。」

 専門家らは、ジェンダーおよびジェンダーに基づく差別と暴力が、国際人権法の核に据えられることの重要性を強調した。

 「これは、ジェンダーに基づく暴力の禁止が国際慣習法の原則として認められているからだけでなく、ジェンダーが不可欠な分析レンズであり、法律、制度、社会規範に埋め込まれた権力の格差、構造的不平等、差別的慣行を明らかにするために不可欠だからである。このレンズは生物学的差異を認識するとともに、ジェンダー役割がどのように構築され、強制され、経験されているかに注目する。この視点がなければ、女性および支配的な二元的規範の外に位置する多様なジェンダーを生きる人々の体系的排除は隠されたままである。」

 さらに専門家らは、ジェンダーの視点がなければ、役割や期待、ヒエラルキーが教育や保健、文化において、職場で、あるいは社会的、経済的、政治的機会においてどのように現れ、人々の幸福にどのように影響するかを完全に理解することは不可能であると指摘した。

 「対照的に、セックスのみでは、ジェンダー不平等を駆動する社会的および文化的力学を明らかにする説明力は限定的である。」

 専門家らは次のように説明した。身体的および生殖的特徴を指す生物学的セックスには意味があるが、それだけでは人権メカニズムが対処しようとする周縁化のパターンを十分に説明することはできない。

 「歴史、文化、文脈によって形づくられた社会的構築物としてのジェンダーこそが、資源へのアクセス、機会、暴力への脆弱性、公的生活への参加を決定づける。ジェンダーは、社会が男性、女性、そしてその枠に収まらない多様なジェンダーを生きる人々をどのように扱うか----誰のニーズが優先され、国家および民間主体がどのような政策を採用し、権力および資源がどのように分配されるか----を反映する。また、それは、人種、民族、カースト、出自、障害、年齢、宗教、移民ステータス、社会経済的地位、「顧みられない熱帯病(訳註)」の影響を受ける女性など、他の排除の形態とも交差し、実際にどの程度権利が実現されるかを形づくる。」

 また専門家らは、女性差別撤廃委員会(CEDAW)を含む多くの機関が、女性差別撤廃条約およびその他の条約において当初「セックス」に基づく差別として枠づけられたものが、実際には生物学的差異そのものではなく、それに対する社会政治的取り扱いに起因するジェンダー差別であると明確にしてきたことを指摘した。この理解は、世界各地の国家および国際裁判所、制度によって一貫して強化され、フェミニズムおよび女性の権利運動、市民社会運動によって推進されてきたが、一部の主体によっては今なお争われている。

 CEDAWはまた、一般的勧告および判例を通じて、性的指向および性自認に基づく差別がジェンダーに基づく差別の一形態であり、国家はこれに対処するための法的および政策的措置を講じるべきであることを明らかにしてきた。この解釈は、不平等が交差的に重なり合うことを踏まえ、差別のない、包括的かつ権利に基づく保護の必要性を認める、より広い人権枠組みと一致している。

 専門家らは、固定的かつ男女という二元的なセックスの定義のみを採用することは、国家がCEDAWおよびその他の国際人権文書の下で排除すべきとされているまさにそのステレオタイプを強化する危険があると確認した。

 「そのような厳格的なセックスの定義は、構造的不平等を覆い隠し、数十年にわたる規範的および法的進歩を侵食する恐れがある。」

 さらに専門家らは、男性性がどのように構築され、強制されているかを分析することの重要性も強調した。家父長制は、女性および多様なジェンダーを生きる人々を従属させるだけでなく、支配、攻撃性、感情抑制を中心とした制限的でしばしば有害な男性性の理想像を押しつける。これらの規範は暴力を常態化し、感情的および心理的健康を損ない、支配的なジェンダー期待に従わない男性および少年を周縁化する。

 国際的なジェンダーに関する法基準は、さまざまな学問分野における進展、そして社会的不平等の複雑性と相互依存性を反映して進化してきた。セックスおよびジェンダーの定義を狭めようとする逆行的な取り組みは、この進化と調和せず、すべての人の平等および尊厳に向けた獲得された進歩を覆す危険がある。

専門家らは次のように結論づけた:

「多様なテーマおよび国別マンデートを通じて普遍的人権の擁護を託されている私たちは、各国およびすべての関係者に対し、国際法、政策、実践においてジェンダーがその中心にあることを再確認するよう呼びかける。国際人権システムの整合性および一貫性は、それにかかっている。すべての女性がその多様性の中で、国際法の下で完全かつ平等な声を持ち保護を保証されなければならない。ジェンダーに基づく差別およびジェンダーに基づく暴力の根絶は、国家、企業、その他すべての主体による協調的、持続的、非逆行的、非差別的な対応を必要とする横断的課題であり----それはすべての人の人権の約束を実現するために不可欠である。」

(訳:朴利明 ヒューライツ大阪)

【出典】

UN experts reaffirm central role of gender in advancing human rights and equality

https://www.ohchr.org/en/press-releases/2025/08/un-experts-reaffirm-central-role-gender-advancing-human-rights-and-equality

註:リンク先末尾に署名したマンデートホルダーの一覧がある。

訳註:「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical DiseasesNTDs))」は、熱帯地域の貧困層を中心に蔓延している感染症疾患を指し、代表的な例には、フィラリア症、狂犬病、ハンセン病などが挙げられる。

(2025年09月05日 掲載)