MENU

ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

  1. TOP
  2. 「アジア・太平洋人権レビュー」
  3. 1997年の国連の動き

1997年の国連の動き

 1997年9月、第2代国連人権高等弁務官・メアリー・ロビンソン女史を迎えた国連は、過渡期となった1997年も、前年度に劣らず活発な人権関 連活動を行った。以下、アジア・太平洋地域に関連したものを中心に、その概要を紹介する。

1.国連人権委員会
2. 国連人権小委員会
3. 国連人権高等弁務官事務所/人権センター

1.国連人権委員会

 1997年3月10日、そのスタートしたばかりの5年の任期を通し「私は『人権のチャンピオン』になる」と誓った国連事務総長・コフィ・アナン氏 の挨拶の代読で幕を開けた第53会期国連人権委員会。その設立50周年にあたる今会期は、合計78の決議、26の決定、さらに経済社会理事会での採択のた めの3つの「決議案」および52の「決定案」が採択された(E/1997/23-E/CN.4/1997/150)。

(1)1503手続きによる非公開の人権状況の審議

 1970年に設置された同手続きの下、第53会期では、アメリカ合衆国を含む計16カ国の人権状況が取り上げられた。アジア・太平洋諸国は含まれ ていない。なお、この手続きにかかる各国状況の審査については、人権小委員会での第1審査の後、人権委員会会期直前の1週間開催される非公開の「状況に関 する作業部会」においてあらかじめ審議を行った後、委員会はその全体会議にて会期後半の1~2日をかけて審査を行っている。

(2)個別の国の人権状況に関する決議

 助言サービス手続き対象国を含む、個別の国・地域の人権状況に関する決議は今会期計23採択された (表1)。

 アジア・太平洋地域に関し、会期前から例年以上に注目されていたのが中国の人権侵害状況を非難する決議案。1989年の天安門事件以来毎年同様の 決議案を提出していた欧州連合(EU)が今年は内部で足並みを乱し、一時は決議案の提出そのものが危ぶまれたが、最終的にはデンマークが決議案提案国に名 乗りを上げ、これまで以上にやや強く中国政府を非難する文面となった決議案が用意された。しかしながら今年もまた、採択にかけない(ノー・アクション)と いう動議が27対17(棄権9)で通り、廃案となった。なお、この「採択にかけない」という動議の妥当性については異議を唱える国も多い。

 他方、東ティモールに関しては、1996年ノーベル平和賞を受賞したホセ・ラモス・ホルタ氏自らによる人権委員会へのメッセージ(代読)もあって か、拷問や恣意的拘留などの報告に深い憂慮を示し、インドネシア政府に対して人権委員会と協力し、関連特別報告者や作業部会の調査団を受け入れるよう求め る決議案が、今会期初めて採択された。

 以上のほか、アジア・太平洋地域では、昨年同様、ミャンマー(ビルマ)、アフガニスタンおよびカンボジア(助言サービス)に関する決議が採択され ている。

(3)国別の特別報告者 表2参照)

 第52会期(1996年)と同じ、12の国・地域に関する報告書が、特別報告者より人権委員会に提出された。アジア・太平洋地域では、アフガニス タン(白忠鉉・特別報告者)に関する最終報告書(E/CN.4/1997/59)1)、ミャンマー(ビルマ)の状況については、1996年5月に退任した 横田洋三氏の後任として任命されたラズスーマー・ララー氏による報告書(E/CN.4/1997/64)がある。

 事務総長報告としては、東ティモール(E/CN.4/1997/51およびAdd.1)などの人権状況に関するものが提出された。

 また、日本政府も大きく貢献している、国連人権センター(当時)が提供する人権分野における支援(技術協力)を受ける地域に関する独立専門家によ る定期報告システムの下では、カンボジア(事務総長特別代表、E/CN.4/1997/85)、グアテマラ(E/CN.4/1997/90)、ハイチ(E /CN.4/1997/89)、ソマリア(E/CN.4/1997/88(Corr.1))についての報告が出された。

(4)課題別特別報告者(または作業部会)

 第52会期と同様、計14項目に関する課題別特別報告者(作業部会)の報告が提出されている。

 各々の報告書で取り上げられているアジア・太平洋地域の国名については表2にまとめてあるが、これらのほかにも、政府、国際機関あるいは NGO(非政府団体)からの特定国の人権状況あるいは特定問題に対しとられている処置などに関する情報は、報告書の端々で引用、あるいは参考にされてい る。

(5)人権基準策定

 人権基準策定は国連による人権保護への最大の貢献のひとつとされている。その作業の中心となる国連人権委員会では、1997年現在、以下のような 国際人権文書の作成が着手、あるいは提案されている。

(a)すでに着手されているもの

【条約・選択議定書】

1)子どもの売買、子どもの買春および子どものポルノの防止に関する子どもの権利条約選択議定書案

 1994年に設置された作業部会がその第1回目の会合で作成した選択議定書案のガイドラインをもとに、1997年2月3~14日、および4月2日 に第3回目の会期を開催した。

 子どもの権利条約第34・35条を含む既存の基準で十分ではないかとする声もあるこの選択議定書案であるが、1996年にストックホルムで開かれ た子どもの商業的性的搾取に対する世界会議が世論を高めたのをきっかけに、いち早い起草を求める気運が高まっている。第3会期では議定書草案の「定義」、 「犯罪者の処罰と子ども(の被害者)の保護」、「国際協力と調整」の3つの章、そして選択議定書の対象範囲(セックス・ツアー、人身売買、インターネット 上のポルノなども取り扱うべきか)についての議論が中心に展開された(E/CN.4/1997/97)。第4会期作業部会は1998年1月19~30日に 予定されている。

2)子どもの軍事紛争への関与に関する子どもの権利条約選択議定書案

 1994年、子どもの権利委員会により人権委員会に提出された予備草案をもとにし、1995年より作業部会において検討されている。1997年は 1月20~30日、および3月13日に第3会期の会合が開かれ、1996年の第2会期で起草した全10条からなる選択議定書案をもとに最初の議論が行われ た。ここではとくに軍隊への自発的入隊が許される最低年齢に関し(日本政府も自衛隊への入隊の関連で注目している)、現在16、17、18歳で意見が大き く分かれている(E/CN.4/1997/96)。第4会期作業部会は1998年2月2~13日に開催の予定。

3)拷問およびその他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いまたは刑罰を禁止する条約の選択議定書案

 拘禁されている場所を訪問することにより、拷問の発生を防止することを目的としたこの選択議定書案は、1991年にコスタリカ政府により提出され た草案をもとにしており、1992年より人権委員会の作業部会により検討されている。1996年10月14~25日に行われた第5会期作業部会は第2読会 を開始し、選択議定書に規定されている機能を果たす拷問禁止委員会小委員会に関連する計6つ(うち2つは第2読会の結果新しく設けられたもの)の条文につ いて、第2読会の結果として採択した(E/CN.4/1997/33)。視察に関する2つの条項に関しては、受入れについての国家による同意の必要性につ いて意見が分かれ、作業部会はその検討を次会期以降に延期することを決めた。第6会期作業部会は1997年10月13~24日に開催されている。

【宣言】

1)国連先住民族の権利に関する宣言案

 人権小委員会の下にある先住民作業部会がおよそ10年の月日をかけて起草したこの宣言草案は、1994年に無修正で人権小委員会を通過した後、翌 年の国連人権委員会に提出され、委員会はこの草案を検討するための新しい作業部会を同年設置した。1996年10月21日~11月1日に開催された第2会 期作業部会では、いかなる修正・削除もなく、原案を速やかに採択するよう求める先住民族側からの強い抵抗のなか、第1読会が始められた(E/CN.4 /1997/102)。なお、1997年10月27日~11月7日に開かれた第3会期作業部会では2つの条文(第43・5条)がようやく採択されている。

2)社会の中の個人、グループおよび組織の、普遍的に承認された人権および基本的自由を伸長および保護する権利と義務に関する宣言案(「人権擁護者 の権利に関する宣言」)

 1984年に人権委員会により設置された作業部会において検討されているこの宣言案は、第1読会をすでに終えており、世界人権宣言50周年にあた る1998年における宣言案の採択が強く求められているところ。1997年2月24~28日、および3月21日に開催された第12会期作業部会には、早期 採択を促進するために議長が関係者との協議とのうえ多様な意見を取り込んだテキストを準備したが、人権擁護者の資金援助などを含む、意見が大きく分かれて いるいくつかの問題をめぐる議論が今回は中心となった(E/CN.4/1997/92)。次会期は1998年2月23日~3月4日に開かれる。

(b)提案されているもの

【条約・選択議定書】

1)経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約選択議定書

 1990年以降、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約に選択的個人通報制度を設けるこの選択議定書案を検討していた社会権規約委員会 は、1996年のその第15会期において検討作業を終了し、その結果を第53会期人権委員会に報告した(E/CN.4/1997/105)。人権委員会は その決定1997/104において、事務総長に対し、選択議定書案のテキストを政府、政府間および非政府機関に送付し、その意見をまとめ、次会期の人権委 員会に提出するよう要請している。

2)公正な裁判と救済についての市民的および政治的権利に関する国際規約の第3選択議定書案

 1995年、第51会期人権委員会は、この選択議定書の必要性について検討する作業部会の設置について第52会期で検討することを決めたが、第 52、52両会期ではなんの進展も見られなかった。

【その他】

1)人道に関する最低基準

 1990年フィンランドで行われた専門家会合において採択された宣言案(E/CN.4/Sub.2/1991/55;修正版E/CN.4 /1995/116)をもとに、各国・NGOの意見を求めている段階。1996年9月には南アフリカにおいて、人道に関する最低基準に関する国際ワーク ショップが開かれており、その報告が第53会期人権委員会に出されている(E/CN.4/1997/77/Add.1, annex)。

2)人権および基本的自由の重大な侵害の被害者の原状回復、賠償およびリハビリテーションへの権利に関する基本的原則およびガイドライン

 テオ・ファン・ボーヴェン元人権小委員会委員より前会期小委員会に提出された同ガイドラインの修正版が人権委員会に送付され、現在コメントを各国 政府に求めているところである。なお、人権委員会での検討を促進するために、人権小委員会も同委員に対し、1996年、司法の実施と補償に関する作業部会 および人権小委員会で出されたコメントをもとにした覚書の作成を求めている。

3)国内避難民

 事務総長特別代表による検討が1992年より継続しており、1996年の国連人権委員会には関連する既存の法的基準の編纂および分析が同特別代表 より提出されている。第53会期人権委員会は特別代表に対し、これらの情報をもとに、国内避難民の保護のための包括的な枠組みを展開するよう求めている (決議1997/39)。

4)構造調整プログラムと経済的、社会的および文化的権利に関する政策ガイドライン

 1996年人権委員会により設置された作業部会が、1997年3月3~7日、第1回目の会合を行い、人権小委員会に提出された事務総長の研究報告 (E/CN.4/Sub.2/1995/10)に収められている予備的な基本的政策ガイドラインをもとに、構造調整プログラムとの明確なつながりが必要だ と考えられるいくつかの原則などについて議論を行った(E/CN.4/1997/20)。報告を受けた第51会期人権委員会は、同作業部会に対し、a)構 造調整プログラムが経済的、社会的および文化的権利に及ぼす影響についての情報を収集および分析し、b)構造調整プログラムと経済的、社会的および文化的 権利に関する基本的な政策ガイドラインをさらに検討するという任務を与えるとともに、さらに作業部会がその任務を遂行できるよう、この道の専門家を任命す るよう要請した(人権委員会決定1997/103)。第2会期作業部会は1997年12月1~5日に開催されている。

(6)発展の権利

 1993~1995年の期間中計5会期をもったこれまでの作業部会に代わり、1996年11月4~15日に第1回目の会合が開かれた新しい作業部 会は、政府により指名され、人権委員会の議長により任命される10名の専門家からなり、集積的かつ多次元的側面における発展の権利の実施および伸長のため の戦略を練ることをその任務としている(E/CN.4/1997/22)。第2会期作業部会は1997年9月29日~10月10日に開催された。

(7)移住者

 第53会期人権委員会の決定案3が1997年夏の経済社会理事会により採択され、1)移住者の人権の効果的かつ完全なる保護への障害について、各 国政府、NGO、その他の情報源からあらゆる関連情報を収集し、2)移住者の人権のさらなる伸長、保護ならびに履行のための勧告を検討することをその任務 とする、5名の専門家からなる作業部会が設置された。この作業部会は1998年春の人権委員会までに、5日間の会合を2度(1997年11月17~21 日、1998年2月16~20日)開くことになっている。

2.国連人権小委員会

 独立した26名の専門家からなる人権小委員会(差別防止・少数者保護小委員会)は、国連人権委員会唯一の小委員会。1997年は、その第49会期 が8月4~22日の4週間開催され、43の決議と19の決定が採択された。

(1)1503手続きによる非公開の審議

 大規模かつ重大な人権侵害の事態を特定すべく、小委員会会期前10日間にわたる「情報に関する作業部会」による予備審議および全体会合にて、その ような人権侵害を示していると思われる通報が審議され、国連人権委員会に付託されるべきケースを決定する。内容は非公開。

(2)個別の国の人権状況に関する決議

 国連人権委員会との活動の重複を避けるため、第49会期小委員会は、「人権委員会が検討中の(1503手続は除く)個別の国の状況については原則 的になんらの措置もとらない」という立場をとったため、決議案には過去あまり見られなかった国および地域の名が現われた。提出された8つの決議案のうち、 アジア・太平洋地域の国は、北朝鮮、インド、パキスタン。インドとパキスタンについての決議案は、最終的に取り下げられた一方、北朝鮮に関する決議案は、 白熱した議論の末、13対9(棄権3)で採択された。

(3)作業部会による検討

(a)現代奴隷制に関する作業部会

 1974年設立という長い歴史をもつこの作業部会は、奴隷条約や人身売買禁止条約などに関連した状況の監視、検討を作業の中心にしており、具体的 には子どもの労働、債務奴隷、子どもの性的搾取、人身売買、移住労働者、家内労働者、戦時下における性的暴力、女性に対する暴力、最近では子どもの搾取を 目的とする「不法」養子(女)や、幼児嗜愛、さらにはいわゆる「従軍慰安婦」問題などを討議し、勧告を含む報告書を人権小委員会に提出している。日本を含 むアジア・太平洋地域の状況が毎回大きく取り上げられている。「従軍慰安婦」問題に関しては作業部会は1997年6月2~11日に開かれた第22会期にて 採択した勧告の中で、「戦時下、とりわけ第2次世界大戦時の性的奴隷」という独立した項目の下、「この問題の解決に向けたこれまでのポジティブなステップ を認識」(強調筆者)する一方、建設的な対話に向けたさらなる努力を奨励し、次会期も同問題を継続して議論することを決定した(小委員会決議 1997/22)。

 関連プロジェクトや、現代奴隷制の被害者の作業部会への出席を助成する現代奴隷制自発基金は、カンボジアとネパール等のNGOの代表の第22会期 作業部会への出席を支援した。

 同作業部会に関連する人権小委員会の研究報告「軍事紛争下の組織的レイプ、性的奴隷・奴隷類似慣行」の最終報告は、リンダ・チャベス特別報告者の 退任により1997年は報告書が出されず、小委員会は代わってゲイ・G・マクドゥガル女史(米国代理委員)を特別報告者に任命し、最終報告書を第50会期 に提出するよう要請した。

(b)先住民作業部会

 1997年7月28日~8月1日に第15会期を迎えたこの作業部会は、参加者総計887名により、メインテーマの「健康問題」および「環境、土地 及び持続的開発」や、定義問題を中心に討論を行った(E/CN.4/Sub.2/1997/14)。1997年6・7月にチリ・サンチアゴで開催された先 住民族問題を扱う常設機関に関する第2回ワークショップの報告も提出されている。また、「世界先住民族の10年」に関連するひとつの取組みとして始められ た国連の「先住民族フェローシップ・プログラム」の報告もあり、その第1回には日本、ロシア共和国、ブラジル、インドから各々1名のインターンが選ばれて いる。

 以上のほか、「先住民と彼等の土地との関係」に関する予備的ワーキング・ペーパー(E/CN.4/Sub.2/1997/17(Corr.1)) および「先住民の文化遺産の保護」に関する技術的会合報告書(E/CN.4/Sub.2/1997/15)が第49会期小委員会に提出されている。「国家 と先住民との間の条約等建設的な取決め」最終報告書の提出は次会期に延期された。

 次会期作業部会は1998年7月27~31日。

(c)マイノリティに関する作業部会

 1995年の設立時に与えられた3年の任期の最終年に当たる1997年は、5月26~29日にその第3会期目の会合が行われ、メイン・テーマと なった「マイノリティのための多文化・相互文化教育」を中心に議論を行い、過去3年間の作業の総括ともなる提言を人権小委員会に提出した(E/CN.4 /Sub.2/1997/18)。1998年春の人権委員会により任期が延長されれば、次会期作業部会は1998年5月25~29日に開かれる予定。

(4)調査研究

 第49会期に提出された前掲以外の特別報告者による調査報告のテーマは以下のとおり。

1)人権侵害者の免罪(経済的、社会的および文化的権利)(E/CN.4/Sub.2/1997/8)

 ギセ委員(セネガル)による最終報告書。同問題への国際社会の認識を高めるため、特別報告者は同問題を議論する高レベルの定期会合をユネスコや ILO、IMF、WHOと共同して開催することなどを勧告。小委員会は人権委員会に対し、同テーマに関する特別報告者を任命するよう要請した(決議 1997/20)。

2)人権侵害者の免罪(市民的および政治的権利)(E/CN.4/Sub.2/1997/20)

 前会期提出された最終報告書(E/CN.4/Sub.2/1996/18)に含まれる「免罪と闘うための措置を通じた、人権の保護・伸長のための 諸原則」が修正、拡張された最終版が、ジョワネ委員(フランス)により第49会期に提出された。小委員会はこの諸原則を第54会期人権委員会に送付するこ とを決定。ちなみにこの諸原則の総会による採択は、ウィーン行動計画で勧告されている。

3)人権、とりわけ経済的、社会的および文化的権利の享受と所得分配の関係(E/CN.4/Sub.2/1997/9)

 ホセ・ベンゴア委員(チリ)による最終報告書が提出されたが、時間不足のためその検討は次会期に持ち越された。この報告書では小委員会の枠組内に おける社会フォーラムの設置などが勧告されている。

4)女性と子どもの健康に影響を与える伝統的な慣行(E/CN.4/Sub.2/1997/10)

 第46会期小委員会で採択された「女性と子どもの健康に悪影響を与える伝統的な慣行の撤廃のための行動計画」(E/CN.4/Sub.2 /1994/10/Add.1 (Corr.1))の各国での実施状況をフォローアップする、ワルザジ委員(モロッコ)による報告。そのなかでNGOからは、アフリカ女性が悪影響を与え る伝統に対抗するのを助けることを目的にした女性団体が日本に設立されたことが報告されている。

5)人権と人口移動(E/CN.4/Sub.2/1997/23)

 1997年2月17~21日に開かれた専門家セミナーの結果および勧告を中心とした、アルカソーネー元委員による最終報告書。専門家セミナーにお いて作成された「人口移動と移住者の移植に関する宣言」案も報告書に添付されている。小委員会は同報告を出版するよう求める決議を採択(決議 1997/29)。

6)非常事態を宣言、延長、停止した国に関する年次報告書(E/CN.4/Sub.2/1997/19およびAdd.1)

 非常事態を宣言、延長、停止した国のリストを含む、デスポイ元委員による第10報告書。このリストには、アジア・太平洋地域では、アフガニスタ ン、ブルネイ、東ティモール、ミャンマー(ビルマ)、ネパール、韓国、スリランカ、バングラデシュ、カンボジア、中国、フィジー、インド、マレーシア、モ ルディブ、パキスタン、パプア・ニュー・ギニア、フィリピン、シンガポール、タイが含まれている。小委員会は新しい特別報告者としてマキシム委員(ルーマ ニア)を指名した。

7)司法の実施(E/CN.4/Sub.2/1997/21)

 会期中に開催される作業部会による検討。1997年6、11および15日に会期がもたれ、人身保護令、少年司法、刑務所の民営化などの問題が議論 された。少年司法に関してはルシー・グワメシア委員(カメルーン)によるワーキング・ペーパーも小委員会に提出され、次会期もその詳細なワーキング・ペー パーを提出することが求められた(決議1997/25)。また、刑務所の民営化問題に関し、小委員会は特別報告者(アリ・カーン委員が指名されている)に よる研究を提案、人権委員会および経済社会理事会による承認のうえ、その研究報告は第52会期小委員会において検討されることになる(決議 1997/26)。

(5)人権基準策定

1)先住民の文化遺産の保護のための原則およびガイドライン案(E/CN.4/Sub.2/1995/26,annex)

 先住民の文化遺産の保護に関する特別報告者により起草されたもの。1997年3月6~7日に行われた同問題に関する技術会合でも検討された。小委 員会はその決議1997/13の中で、国連人権高等弁務官に対し、同「原則およびガイドライン」案に関するセミナーを第16会期(1998年)先住民作業 部会開催までに開催するよう求めている。

2)居住権に関する国際条約案(E/CN.4/Sub.2/1994/20)

 相当な居住に関する特別報告者の第2進捗報告書の中で提案されているもの。1996年に開催されたHABITAT II(第2回国連人間居住会議)を前に、同年1月に行われた相当な居住に関する専門家会合でも、法的拘束力のある条約のようなものの必要性が唱えられてい る。相当な居住の実現のため、国連人間居住委員会は1997年5月に採択したその決議16/7のなかで、国連人権センター(当時)と人間居住センターとの 共同プロジェクトが検討されるようを勧告している。

3)強制退去の実施:開発にもとづく移住に関する広範的な人権ガイドライン(E/CN.4/Sub.2/1997/7)

 1997年6月11~13日にジュネーブで開催された、強制退去の実施に関する専門家セミナーにおいて検討、採択された。人権小委員会はこれを歓 迎するとともに、人権委員会に対し、各国政府がこのガイドラインをできるかぎり早急に承認する方向で検討するよう求めることを、要請した(決議 1997/6)。

4)免罪と闘うための措置を通じた、人権の保護・伸長のための諸原則

 前項の「人権侵害者の免罪(市民的および政治的権利)」参照。

3.国連人権高等弁務官事務所/人権センター

 前年新事務総長を迎えた国連は1997年その組織改革をいっそう進めたが、人権分野もその例外ではない。以下、過去1年間の新しい動きを含めた国 連人権高等弁務官事務所/人権センターの主な活動を簡潔に紹介する(A/52/36)。

(1)国連人権高等弁務官事務所

(a)機構改革

 1997年の国連人権センターの機構改革はまさに文字どおりの大きな変革が行われた。3月10日国連人権センター所長イブラヒマ・ファル氏の国連 本部(ニューヨーク)の新ポストへの移動に続き、同月15日付の第1代国連人権高等弁務官の退任により、国連の人権活動分野の2人の長を一度に失ったセン ターは、およそ半年後の9月12日、1990年よりアイルランド大統領を務め、人権分野でも著名なメアリー・ロビンソン女史を第2代弁務官として迎えた。 さらに、1998年1月6日には、新しく設置された国連副高等弁務官のポストに、ヴェネズエラ出身のエンリック・テル・ホルスト氏が任命されたことが、事 務総長より伝えられた。高等弁務官事務所と人権センターの2つに分かれていた国連の人権部門も、9月1日付で「国連高等弁務官事務所」に一本化されてい る。

 事務所の事業関連部は1996年に引き続き、1)調査および発展の権利部、2)支援サービス部、3)活動・計画部の3つからなり、さらに関連活動 分野ごとに「ワーク・パッケージ」と呼ばれるチームがこれらの下に設けられている。

 なお、現在パレ・デ・ナシオンと呼ばれる国連欧州本部敷地内に事務所を設けている弁務官事務所は、スイス政府が提供する、ジュネーブ市内のパレ・ ウィルソンという建物に移動するものと現在見られている。

(b)情報サービス

 1996年12月10日にオープンした国連高等弁務官事務所のホームページ(http://www.unhchr.ch)は、国連の人権分野活動 に関する情報を世界中のより多くの人々に、よりスピーディーに提供することを可能にした。現在、総会および経済社会理事会の人権関連文書や、人権委員会、 人権小委員会、各種人権条約機関などの最近の国連文書の多くが、英・仏・西語で入手可能になっている。なお、総会に関しては、国連本部のホームページ (http://www.un.org.)でかなりの情報が瞬時に入手できる。

(c)財政

 厳しい財政状況の下、国連の人権活動はその活動資金の多くを政府その他からの寄付に頼るようになっている。現在、人権保護・伸長のための「技術的 協力のための自発的基金」、現地活動一般のための「人権現地活動自発的基金」(人権センター活動支援自発的基金の一部)およびブルンジ、ルワンダ、カンボ ジアでの活動のための自発的基金があり、さらに特別手続きおよび各種プログラムのための基金としては、「拷問被害者のための自発的基金」、「現代奴隷制自 発的基金」、「先住民自発的基金」、「『世界の先住民の国際10年』自発的基金」、「『第3次人種差別と闘う10年』自発的基金」などがある。

(2)各国政府、国際機関との調整

(a)各国政府

 1997年12月初旬、人権高等弁務官はウガンダ、ルワンダ、南アフリカを公式訪問している。

(b)国際および地域機関

 食料権の概念およびその実施をさらに展開させることを目的に、人権高等弁務官と国連農業機関(FAO)は相互理解の覚書に署名した。

 「世界先住民族の10年」関連活動では、ラテン‐アメリカの先住民族への人権トレーニング・プロジェクトを国連教育科学文化機関(ユネスコ)と共 同支援している。

 マイノリティに関連する諸問題により効果的に対応すべく、人権高等弁務官は「マイノリティに関する機関間協力」を展開している。これに関し、 1996年8月、1997年1月および5月に、協議会が開かれた。

 その技術協力プログラムの下では、国連開発計画(UNDP)などとの共同プログラムを徐々に展開している。

 グルジアでの現地活動では、高等弁務官事務所は緊密な協力関係を欧州安保協力機構(OSCE)と結んでおり、タジキスタンでも同様の関係を築く可 能性が検討されている。

(3)人権の実現に向けて

(a)人権のための技術協力と助言サービス

 技術協力プログラムは、国際人権基準の国内法システムへの統合、そしてあらゆる人権、民主主義および法の支配の伸長・保護のための、政策および実 施の展開、国内能力および地域構造の構築を主な目的としている(E/CN.4/1997/86)。

 このプログラムの下、現在21の国内プロジェクト、7つの地域プロジェクト、そして9つの世界プロジェクトが進められている。アジア・太平洋地域 では、ブータン、カンボジア、ネパール、モンゴル、パプア・ニューギニアなどで国内技術協力活動が実施されている。包括的な技術協力プロジェクトの実施を 支援するため、技術協力員が現地に派遣される場合もある。

 1987年に設立された「人権分野における技術協力のための自発的基金」には十分な資金が集まらないため、人権高等弁務官はUNDPや世界銀行、 NGOや学術機関との協力関係をいっそう拡大することを提案している。この基金の運営のために、1993年12月、理事会が設置されている(日本の武者小 路公秀氏がメンバー)。

(b)現地活動

 人権高等弁務官事務所はこれまでに、ブルンジ、カンボジア、コロンビア、コンゴ(旧ザイール)、マラウイ、モンゴル、ガザ、ルワンダ、旧ユーゴス ラビア諸国、アンゴラ、グルジアなど計15の国に人権事務所を設置している。

 これらのうち、最大規模を誇るのはルワンダの人権現地活動。1997年2月の活動員殺害を機に、現地スタッフの治安状況が悪化し、移動が制約され るようになったため、1997年の当地での活動はやや規模を縮小して進められた。

 東部を中心としたコンゴ国内のさらなる人権侵害が懸念されるなか、1997年春、国連人権委員会は、ザイール(現コンゴ)の人権状況に関する特別 報告者、超法規的、略式または恣意的処刑に関する特別報告者、そして強制的または非自発的失踪に関する作業部会のメンバーに対し、同国を共同調査するよう 要請した(決議1997/58)。しかしながらこの調査団はコンゴ政府の強い抵抗にあい、国連事務総長は代わって自己の権限の下、別の調査隊を派遣するこ とを決定した。この調査隊は1997年8月にキンシャサ入りしたが、その任務や構成その他の点でコンゴ政府が異議を唱えたためいったん退却し、さらなる協 議を行った後コンゴ政府の合意の下、11月11日、再度当国に入った。1997年12月時点では、治安などの理由で、その調査は依然として滞っていると伝 えられている2)。

 1997年9~18日、人権高等弁務官事務所はタジキスタンへ視察団を派遣。同国の平和プロセスへの人権の貢献の可能性を諮った。

(4)1998年:人権年

 世界人権宣言50周年と1993年の世界人権会議で採択されたウィーン宣言および行動計画の5年後の評価が行われる1998年は、「人権年」と呼 ばれている。この「人権年」を前に、人権高等弁務官は1997年、機関間会合を7回開き、1998年に予定されているさまざまなプログラムおよび活動の調 整や、「評価」のために各国政府、国連機関および計画による提出が求められているウィーン会議で採択された諸勧告の実施についての進捗状況についての報告 書の構成などについて検討した。なお、勧告の実施状況に関してはNGOも事務総長に対し意見を述べることが求められている。

 「評価」の一貫としてのウィーン宣言および行動計画の実施およびフォローアップについては、経済社会理事会は1998年のその夏の会期(ニュー ヨーク)の一部を当てることにしている3)。

 高等弁務官事務所は、その「50周年」関連活動に関する情報をより多くの人々に伝えるべく、そのホームページに独立した「50周年」の章を設ける とともに4)、情報キット・シリーズを随時発行している。既に出されているのは、No.1(「50周年」概要)、No.2(女性の人権特集)で、現在、人 権教育と子どもの人権に焦点を当てたものが準備されている(A/52/469)。

(5)人権教育のための国連10年 (1995~2004年)

 「人権教育のための国連10年」のための行動計画(A/49/261/Add.1-E/1994/110/Add.1)の実施状況に関する事務総 長報告書が、1997年第53会期国連人権委員会(E/CN.4/1997/46)、および第52会期国連総会(A/52/469)に提出されている。後 者の報告書にある各国政府による関連活動紹介では、アジア・太平洋地域では、日本、フィリピン、韓国が取り上げられている(日本国内のNGO活動に関し反 差別国際運動が提供した情報もここで紹介されている)。また事務総長は同報告書に加え、「人権教育のための国内行動計画のためのガイドライン」(A/52 /469/Add.1)も総会に提出している。総会はその決議52/127のなかで、各国政府に対し、人権教育のための包括的、効果的かつ持続的な国内行 動計画の展開を担う、幅広い分野の代表者からなる国内人権教育委員会の設置を強く要請している。

 教育に関連して、さらに総会決議52/84は、すべての人に教育が与えられるための効果的な方法として、「非識字根絶のための国連10年」を開始 する可能性などを検討するよう、事務総長およびユネスコ事務局長に対し要請している。

1)人権委員会第52会期において、アフガニスタンに関する特別報告者の任期が1年延長されており、したがって1996年同様、「最終報告書」が提 出されていることになる。

2)United Nations Press Release DH/2540.

3)経済社会決議 1996/283、総会決議 51/118および52/148。

4)反差別国際運動日本委員会発行『IMADR-JC通信』83号(1997年11月20日)および84号(同年12月20日)で、このホームペー ジに掲載されている「50周年」記念に向けたさまざまなアイディアが紹介されている。

(文/田中 敦子/反差別国際運動ジュネーブ事務所)