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外国にルーツをもつ子どもたちの教育支援・連続セミナー<ネパール編>を開催しました(6月3日)

 ヒューライツ大阪と「おおさかこども多文化センター」は、近年来日者が増加している国・地域に焦点をあてて、3回シリーズのセミナー「外国にルーツをもつ子どもたちの教育支援・連続セミナー:最近気になる国・地域からの子どもをめぐって」を企画しています。その第1回目として6月3日、講師に公益財団法人とよなか国際交流協会・事務局次長の山本愛さんを招いてネパール編を開催しました。
 山本さんは、歴史、政治体制、民族構成や言語、カースト制度や女性の人権問題、慣習など広範囲にわたるネパール社会の概要を説明したうえで、ネパールから日本に働きにくる人たち、およびその子どもたちの教育の課題について報告しました。実際にネパールの子どもが通う学校の教員をはじめとして46人が参加しました。
 以下、日本におけるネパールの子どもたちの状況に焦点をしぼって概要を紹介します。
 
近年来日が急増しているネパールからの子どもたち
 1996年から2006年にかけて、マオイスト(ネパール共産党毛沢東主義派)による人民戦争(反政府武装闘争)が続いた。2006年の和平合意を経て、マオイストが第1党となり、王制が廃止され連邦民主共和国となった。人民戦争の最中、人々が不当に拘束される事態などが相次ぎ、生活不安が高まった。地方に住む若い男性を中心に出稼ぎが増加していった。政府統計によると、仕事を求めて新規に出国する人が1998年1万人だったのが、2010年は23万人へと増加した。2015年時点で、ネパールの総人口2,660万人のうち在外者数は220万に達している。GDP(国内総生産)の4分の1が外貨送金だという。
 主な就労先は、インド、アラブ首長国連邦をはじめとする中東湾岸諸国、マレーシア、ブルネイなど東南アジア。また日本や韓国、英語圏などである。女性の移住労働者も、中東諸国への家事労働者をはじめ増加している。
 日本に在留するネパール人は近年増加の一途をたどっている。1990年は447人にすぎなかったのが、2000年に3,649人、2016年には67,470人へと急増しており、最も増加率が高い在留外国人となっている。国籍別の在留外国人数で第6位である。ネパール人は親日的であるということをひとつの背景に、ネパールにおいて人材派遣会社や日本語学校など送り出しに関わる機関が活発な事業展開をしていること、また地縁・血縁のネットワークや口コミなどが日本行きへの拍車をかけている。
 日本における主な在留資格別の人数は、「留学」が23,000人(34%)と最多数で、「家族滞在」17,471人(34%)、「技能」12,480人(18%)と続いている。「技能」のうち多くがインド・ネパールレストランでコックとして働いている。インターネットの「食べログ」というレストランの紹介サイトで「ネパール料理」と検索すると、2013年は1,026件のヒット数だったのが、2017年5月には1,780件に達している。一方、ネパール料理店の経営者などは在留資格「経営・管理」として在留している(1,133人)。
そのように増加する経営者やコックが、ネパールから配偶者や子どもたちを呼び寄せていることから、「家族滞在」の人数も増えているのである。ちなみに、日本人との国際結婚は近年特に増えていない。
とりわけ、幼児から30歳未満の若年層に着目すると、2016年の来日者は2012年の2.8倍増加した。とよなか国際交流協会は、外国人の相談事業を通して、ネパールから家庭や親の事情で呼び寄せられる子どもたちが直面するさまざまな課題に取り組んでいる。
課題のひとつは、日本で編入する学校に「受け皿」がほとんどないことである。その結果、日本語ができない、日本社会の仕組みがわからない、親の社会的資源も乏しいなどの事情から卒業しても普通に仕事につけないという道筋をたどることになる。また、学校で日本の子どもたちから差別的な言葉があびせかけられ、自尊感情を喪失したりする子どももいる。
相談を受けたGさんの場合、15歳で呼び寄せられたとき、父親の経営するネパールレストランで母親も働き、日本語を話す機会は地域の日本語教室のみ。アルバイトを始めても長続きせず、日中はすることなくSNSでつながった外国人とブラブラしている毎日だった。そのように、学校にも、相談機関にもなかなかつながらない子どもたちがいる。
一方、日本の生活に馴染んでいく子どもたちもいる。9歳で両親に呼び寄せられたAさん(男の子)は、3人家族。コックの父親と、ベッドメーキングの仕事をする母親による1か月の世帯収入は20万円で、ギリギリの生活状態。来日してすぐ半年間子どもの日本語教室に通った。徐々に学校の授業にもついていけるようになり、中学生になった今は学校が楽しくなっている。
 
子どもたちの居場所の確保を
ネパールからの子どもたちの生活や教育、進路は、概して親の不安定な境遇に振り回されている。そのうえ、母語で相談できる機関がほとんどないことから、教育や福祉に関する情報にアクセスするのが難しい。学校にも支援機関にもつながっていない子どもたちと接点をもつことが課題のひとつである。子どもたちの「ありのまま」をまずは受け止める場所が必要である。
学校に通っている子どもにとって、学校が希望になるようにしていければと思う。「あなたがいること、知っている」「あなたは、あなたのままでいい」「あなたの居場所がここにある」。先生の一言が子どもたちの人生をプラスに変えることができる。

 (※2回目は729日ムスリム編を開催します)

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