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オンラインセミナー「人権教育としての性教育:国際的なガイダンスをめざした実践を」を開催しました(9/18)

 9月18日に、セミナー「人権教育としての性教育:国際的なガイダンスをめざした実践を」をオンラインで開催しました。2人のゲストから報告がありましたが、元公立中学校保健体育科教員で大学非常勤講師の樋上典子さんは、中学校の実践の中から今回は、中学3年間の体系的な性教育のプログラムのうち、卒業前の3月に学ぶ「避妊と妊娠」の授業紹介をしました。次に宇都宮大学教員で、ユネスコが中心になって公表した『国際セクシュアリティ教育ガイダンス(改訂版)』の共同翻訳である艮香織さんが、ガイダンスの概要とその活用への期待、日本の性教育の状況について説明しました。

性は「わたしがわたしをどう生きるか」に深くかかわるものであること、そして「性の健康」は基本的人権であり、性教育はそれを保障するための大事な教育活動であり、権利であるという考えを前提にセミナーは進められました。以下、報告の概要をまとめます。

 <樋上典子(ひがみ のりこ)さんの報告>

 35年にわたり性教育にとりくんできたが、退職までの10年は、艮さんをはじめとする研究者と共同で授業を進めてきた。性教育に情熱を注ぐことになったきっかけは、かつての勤務校の生徒が深刻な性被害に遭い、その加害者が中学生であったという衝撃からであった。長く勤務した中学校の校区は、経済的に厳しい状況にある家庭が多く、その結果、家庭環境も難しいケースもあり、子どもたちは自分を肯定できずに荒れていた。だからこそ豊かな生き方を拓くために性教育が必要だという確信を持ったが、その当時、性教育の重要性を理解し、子どもに寄り添うことを大事にしていた校長の存在も大きかった。

 校内で性教育は人権教育として位置付けられ、双方向型の授業を心がけた。公開授業にして、様々な立場の人たちを招き、生徒からも常に意見を聴きながら授業を改善した。残念ながら、招いた中のある自治体議員には性教育の理念や成果について話が通じず、議会で実践を批判し攻撃するという事態も起こったが、公開授業に参加した多くの人たちが肯定的な評価をした。なによりも性教育の授業後に子どもたちがいい方向に変化していくことが実感できたのが嬉しかった。性教育実施後に正しい知識が増え、性行動にも慎重な意見が増えることが生徒へのアンケート結果でもわかる。10代の意図しない妊娠を防ぐためにも義務教育である中学3年生の時が最後のとりでなのである。

<艮香織(うしとら かおり)さんの報告>

 日本の性教育は、これまで政治的な影響を受けながらも、様々な運動と連動しつつ進展してきたという歴史がある。これまで何度かのバッシングもあった。今回の実践も議員によるバッシング発言があったものの、性教育を重要とする世論やメディアとのずれが明らかになることとなり、理解は広がりつつあるようにも思う。しかし、学習指導要領の性教育に対する「歯止め」規定(例えば、中学校では受精に至る過程を扱わないと記されていることから、「性交」は教えられないなど)や、実施前に保護者の同意が必要(東京都)などの状況を見ると、教育現場で進めづらい状況は続いている。「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の基準に届かない、さまざまな制限のある中で奮闘している現場の実践者がいる。

 ユネスコが中心になって、ユニセフ、WHOなど国連機関で公表された「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の概要を説明する。2009年に初版が出されたが、2018年の改訂版にはUN womenが参加したことで、ジェンダー平等についてより言及した内容になった。ガイダンスは、実践者だけでなく、民間団体や政策立案者にとっても使えるツールである。実践を支えるものとして教育理念の部分を確かなものにできる。ガイダンスの理念を伝える章では、性教育の成果を含む科学的根拠となるレビューや若者と子どもたちの性の現状(データ)などを紹介している。ガイダンスは、「包括的性教育」を提唱していて、その意義とともに幅広い内容を具体的に詳しく説明している。これは単発で終わるものではなく、カリキュラムに立脚すべき教育であり、そのキーコンセプトは思いやりや優しさではなく、権利学習として貫かれている。

 日本では、今、性教育への関心が高まりつつあると感じている。そして商業主義的な動きもある。また、性のことは政治の関心毎であるために、これからも性教育のバッシングは生じうる。こうした中にあって、固定的なライフスタイルを暗に推奨したり、予防教育としての意味合いが強くならないように意識したいところである。誰のための性教育かという検証が大事である。つまり子どもの現状を的確に反映させているかや、教育や啓発では権利としての性教育が保障できるような内容になっているか(いずれも経済発展や社会の問題解決の文脈で語られていないか)を検証する必要がある。

 お二人の報告を通じて、ガイダンスは、性教育に取り組もうとする教員だけではなく、それをサポートしようとする様々な個人や団体の力にもなることがわかりました。人権教育として、子どもも大人も性教育を学ぶことを保障されるべきであり、そのための学び続ける場所(情報、実践の交流など)が必要であることが再度確認されました。実践は一人で完結するものではなく、協働の中で継続と広がりが可能になります。参加者は54名でした。

修正版.png

※日本語訳はユネスコのウェブサイトからダウンロードできます(無料)         →こちらから

※『国際セクシュアリティ教育ガイダンス:科学的根拠に基づいたアプローチ:改訂版』ユネスコ編、浅井春夫/艮香織/田代美代子/福田和子/渡辺大輔訳(明石書店、2020年)

※まなび続ける場所の一つとして:"人間と性"教育研究協議会 https://www.seikyokyo.org/