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第8回国連ビジネスと人権フォーラム(2019年11月25-27日)に参加して-ジュネーブから

 スイスのジュネーブで11月25日から27日まで今年で8回目の「国連ビジネスと人権フォーラム」が開かれました。同フォーラムは、国連人権理事会のビジネスと人権作業部会が2012年から毎年ジュネーブで開いている催しです。2011年に人権理事会で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」の実施を進め、広く浸透させるために、現状分析と課題の共有を通じて、今後とるべき方策を議論する場です。企業、政府、市民社会組織、民間団体、労働組合団体、学会などの関係者が世界各地からこのフォーラムに集まります。フォーラムは、「指導原則」の実施が世界でどのように進んでいるか、企業や政府がどう取り組んでいるか、人権侵害の発生と被害者の救済は有効にされているかなど、現状をつぶさに知ることができる格好の機会となっています。 
 今回のフォーラムは、いくつかの全体会議のほか、2018年と同じく約70の会合が3日間、同時並行で開かれました。参加申し込みが3千人で、実際の参加人数は主催者発表では2千4百数十人だったそうです。予算不足もあり、フォーラムの運営上参加人数を制限せざるを得ない事情もあったようです。企業関係者は全参加者の31%とのことでしたが、登壇して発言する機会は前年ほど目立たなかったように感じました。いずれにしても大変な数の参加者と多岐にわたる内容の会合でした。
 
国の関わりとリーダーシップの議論
 今回の主要テーマは、「行動の時、ビジネスが人権を尊重するための触媒(カタリスト)であるべき政府」でした。第7回フォーラムでは指導原則の第2の柱である「企業の人権尊重責任」に関連して、「ビジネスの人権尊重―実績をふまえて」がテーマでした。特に、企業が人権に対して及ぼす負の影響を防ぐための手法としての人権デューディリジェンスに焦点があてられましたが、テーマ設定は、政府がより一層関わり行動することによってリーダーシップを示すべきという結論を受けてのものでした。
 このテーマに関する会合では、国の人権保護義務が、企業の活動によって人権侵害の被害者を守り、有効な救済を行うことばかりではなく、企業活動による人権への負の影響を回避し、軽減するために政府がとるべき規制や仲裁、その他の対策など多岐にわたる政府の行動が議論されました。現状では、先進的なリーダーシップを発揮している政府とそうでない政府があり、国によって大きな差があることが明らかになりました。全体的に見れば、まだ政府による行動が十分ではないということです。政府の上層部の真剣なコミットメントが欠かせないことが繰り返し語られました。
 企業の人権尊重責任を促す政府の行動とリーダーシップに関わる議論の中で出てきたのが、人権デューディリジェンスの取り組みなど企業の自主的な取り組みだけではない、法的な規制も含めたスマートミックスというものでした。これは、自主的なものと法的規制を課するもの、国内的なものと国際的なものを臨機応変に組み合わせていくということです。その背景にはEU諸国などで進む人権デューディリジェンスの法規制化の動きがあります。さらに、いまだに期待したほど進んでいない企業の人権デューディリジェンスへの効果的な取り組みの必要性があります。この点に関して、ある企業の代表が、「これからについて企業は二つのカテゴリーに分かれる。一つは人権尊重に真剣に取り組むもの、そしてもう一つは無関心で押し通そうとするものである」と発言したのが印象的でした。
 人権デューディリジェンス、ステークホルダー・エンゲージメントなどすでに馴染みになった言葉が飛び交う議論で、それが本来目指しているような中身を備えているか、それによってどのような結果を生んでいるか、と問う発言があり、それを検証するためのインデックスやベンチマークなどが紹介されていました。
 
国別行動計画をめぐる議論
 国の人権保護義務と企業の人権尊重責任を推進するために、これまでビジネスと人権の作業部会が各国政府に求めてきたのが 国別行動計画(NAP)の策定です。フォーラムではアジアで初めてNAPを策定したタイの政府関係者が発言する場面が数度あり、注目されていました。日本政府の発言では、今冬にNAP草案を確定する予定であることと草案に盛り込まれる内容が簡単に説明されました。
 すでにNAPを持つ国の経験、中でも政策の一貫性を確保するためには政府内部での調整、協力のための体制づくりが大切であることなどが語られました。
 いくつかの政府代表からは自国の国別行動計画(NAP)の策定状況について、策定過程にある、あるいはこれから策定するといった現状説明の発言もありました。ケニア、パキスタン、インド、インドネシア、アルゼンチンなどです。
 
その他の主要な論点
 あまりにも多くの会合が同時並行的に持たれたため、全てを網羅することはできませんが、以下のものについては実際に会合に参加し、またはあとで説明を受けたりしてまとめたものです。
 これまでのフォーラム同様、今回も、先住民や人権擁護活動家の代表が政府や企業による殺人を含む、さまざまな人権侵害に直面している現状を訴えました。世界のあちらこちらで、事態が好転しているとは言えない深刻な状況に大変多くの人々が苦しみ続けている現場があります。それに関して企業の法的責任や救済の強化をめぐる議論がありました。
 ビジネスと人権に関してジェンダーの視点を強化する必要性の議論もありました。これに関しては作業部会が作った「Gender Dimensions of the Guiding Principles on Business and Human Rights(ビジネスと人権に関する指導原則のジェンダー局面)」と題する冊子が紹介されました。
 職場でのジェンダーにまつわる暴力とハラスメントの議論では、最近採択されたILO190号条約の説明がありました。この条約が画期的なことは、その対象とする人の範囲の広さと場所が厳密に職場に限られないところにあります。
 ビジネスと人権がSDGs(持続可能な開発目標)と密接に関わっているものであることが強調されました。そこでは、SDGsを決めた国連総会決議「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が人権を基盤として開発目標を提示していることに言及がありました。
 多国籍企業の人権尊重責任を法的義務とするための条約起草については、条約起草作業部会からこれまでの議論の進展状況が説明されました。そこでは主に企業活動が問題とされたときの管轄権をどの国が行使するかなど法的な議論が紹介されました。エクアドルや南アフリカなどの主導で始まった条約起草のための作業部会に多国籍企業と先進諸国は積極的な関与を控えている現状があり、今後の進展はまだ見通せません。
 これまであまりビジネスと人権の観点から議論されてこなかった二国間開発協力における資金提供及び直接投資の課題が取り上げられました。オランダの開発協力銀行の事例や国際金融公社(IFC)パーフォーマンス・スタンダーズ(IFCが融資先に求める環境社会配慮に関する基準)、さらにESG投資などが取り上げられました。
 世界の各地域に分かれた対話会合も開かれましたが、それぞれの地域でのビジネスと人権への取り組み、進捗状況と課題が議論されました。先ほど述べたタイ、日本、パキスタンなどアジア諸国の国別行動計画に関する発言があったのもこの場面でした。
 ICTやインターネットに関連する企業による個人情報の取り扱いで人権に負の影響を与えるものに関する対策も議論されました。法規制を設けることで適切な人権保護ができるかどうか、また引き起こされた侵害を取り除き、損害を補償することの難しさも語られました。そのほかAI(人工知能)が人類に突きつける課題、誰がAIをコントロールするか、などを考えさせる「iHUMAN」と題する映像作品が上映されました。
 2020年の第9回フォーラムは、11月16日から18日まで開かれます。
 
(白石 理・ヒューライツ大阪会長)