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ビジネスと人権に関する国別行動計画(National Action Plan-NAP)をめぐる動き

エルマウ・サミットでの言及

 ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)は、2015年6月、ドイツ バイエルン州エルマウ城(Schloss Elmau)で開かれたG7サミットのリーダーズ宣言で言及されたことで、日本国内でも注目されることになりました。この宣言は、先進7か国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス、アメリカ)とEUの首脳が会議で合意したことを宣言として出したものですが、その中の「責任あるサプライ・チェーン」の項目で次のように述べています。

「我々は、国連ビジネスと人権に関する指導原則を強く支持し、実質的な国別行動計画を策定する努力を歓迎する。我々は、国連の指導原則に沿って、民間部門が人権に関するデュー・ディリジェンスを履行することを要請する。我々は、透明性の向上、リスクの特定と予防の促進及び苦情処理メカニズムの強化によってより良い労働条件を促進するために行動する。我々は、持続可能なサプライ・チェーンを促進し、ベスト・プラクティスを奨励する、政府及び企業の共同責任を認識する。」
(外務省仮訳による)

 ちなみに、2015年12月の時点で、すでにNAPを策定している国は10ヵ国、準備中の国が18か国、国内人権機関や民間団体が策定に関わっている国が7ヵ国あります。G7の国の中ではカナダと日本がNAPを持たず、その準備もしていないのですが、カナダは、そのCSR政策の枠組で、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた指針を持っています。

 2016年のG7サミットは日本で開かれることが決まっており、2015年の首脳宣言が、「国連ビジネスと人権に関する指導原則を強く支持し、実質的な国別行動計画(NAP)を策定する努力を歓迎する」としたことを受けて日本政府は適切な対応ができるのかという懸念があります。

NAP策定ガイダンス文書の概要

 それぞれの国で「ビジネスと人権に関する指導原則」の実施を推進するためには、政府が中心となってNAPを策定することが大切であるという考えはすでに「ビジネスと人権に関する指導原則」ができた当初からありましたが、2015年11月に開かれた国連のビジネスと人権フォーラムの前からその流れがますます強くなりました。それに呼応するように、ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)とは何なのか、政府がイニシアチブを取ってどのようにNAPを策定すべきかなどについて解説と提案をまとめたものが出されました。国連人権理事会の作業部会の「ビジネスと人権に関する国別行動計画についてのガイダンス」初版(2014年12月)です。これに対するフィードバックを取り入れて、2015年11月には改訂版が出されましたが、国連以外にもいくつかの機関や団体がこの課題について解説、分析や提案を出しています。

 ここでは、作業部会のガイダンス改訂版によって、いくつかの要点を述べます。

 まず、NAPは、企業による人権に対する負の影響に対する防護のために、「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿って国によって策定される政策実施の方策です。そしてこれは、必要に応じてそのたびごとに改定されるべきものとされています。

 NAPが有効なツールとなるためには、4つの条件がそなわっていることが必要とされています。

  • 第一に、NAPが「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿って策定されること。
  • 第二に、それぞれの国の状況を考慮してビジネスに関連する人権課題に取り組むこと。
  • 第三に、NAP策定過程では、透明性とステークホルダーの参画可能性を確保すること。
  • 第四に、NAP実施状況の定期的見直しと、新たな課題に対処するための改定をおこなうこと。

 NAP策定の過程は5つの段階を経て進みます。

  • 段階1は、策定準備。ここではまず政府が公に約束する真剣な取り組みが求められています。また政府内の各部署の動員、民間団体との協働の確保、そして策定過程の日程の決定、人材や経費など必要なリソースの確保をします。
  • 段階2は、現状評価と協議。国と企業の関わりによる人権に対する影響の状況把握、「ビジネスと人権に関する指導原則」を実施する上で、国と企業の間にどのようなギャップがあるかを見極めること、そしてステークホルダーとの協議による優先的に取り組むべき分野の特定です。
  • 段階3は、NAP起草。ステークホルダーとの協議を通して起草作業を終えることが求められています。
  • 段階4は、実施。政府部内各部署の協働が求められています。実施状況の追跡検証は、マルチ・ステークホルダーで行います。
  • 段階5は、改定。NAPの実績評価と未達成分野の特定、ステークホルダーとの協議による優先分野の特定、そして改定NAPの発行があります。

 NAPの内容については、「ビジネスと人権に関する指導原則」の三部構成(第1部-人権を保護する国家の義務、第2部-人権を尊重する企業の責任、第3部―救済へのアクセス)のなかで、第1部と第3部に関わるものです。国の法執行、政策実施や制度の整備などに及びます。ガイダンスの付録では、「ビジネスと人権に関する指導原則」の原則1から原則10までと、原則25から原則28まで、そして原則30、31について、NAP策定の時に考慮すべき具体的な提案がされています。

 これまで日本国内でビジネスと人権の課題が議論される時には、企業の人権尊重に焦点が絞られてきた感がありますが、NAPは政府の取り組みが中心となります。NAP策定とその有効な実施のためには、ただ文書を作成すれば済むというものでないことは明らかです。何よりもまず、政府の腰を据えた取り組みとイニシアチブがなくてはなりません。

(白石 理)

<参考>

2015年G7エルマウ・サミットの首脳宣言
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000084020.pdf
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_001244.html

2015年G7エルマウ・サミットの概要
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_001243.html

国別行動計画(NAP)がすでに策定されあるいは準備または予定されている国のリストについては:
http://www.ohchr.org/EN/Issues/Business/Pages/NationalActionPlans.aspx

ビジネスと人権に関する国別行動計画についての指針 2.0版(Guidance on National Action Plans on Business and Human Rights- UN Working Group on Business and Human Rights Version 2.0)
http://business-humanrights.org/sites/default/files/documents/UNWG_NAPGuidance_Version2%200_final_print_09112015.pdf

ビジネスと人権に関する国別行動計画: ビジネスと人権の枠組への国の関与方針の策定、実施、および見直しのためのツールキット(2014年6月企業の説明責任に関する国際円卓会議(ICAR)およびデンマーク人権研究所(DIHR)作成)
http://accountabilityroundtable.org/wp-content/uploads/2014/06/DIHR-ICAR-National-Action-Plans-NAPs-Report3.pdf


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