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10.20講演会「オランダにおける移民をめぐる諸問題」(大阪大学大学院)の開催に協力しました

 大阪大学大学院国際公共政策研究科などが主催し、10月20日、オランダのアムステルダム大学のイボンヌ・M・ドンダース教授を講師に迎えて、講演会「オランダにおける移民をめぐる諸問題」を開きました。ヒューライツ大阪は、開催に協力しました。講演の概要を以下、紹介します。
 
オランダの移民受け入れ
 
オランダでは2017年3月15日に総選挙が行われた。それから7か月を経た10月にようやく、連立政権の新政府が基本政策を発表したが、重要項目の一つに、入国管理と移民統合の問題がある。
オランダでは他の文化や宗教に対して寛容であり、同化圧力は低かったので、移民の人々も独自の文化集団を作ってオランダに順応していた。さらに、1950年代以来のヨーロッパ統合によってEU内の自由な人の移動が活発になったこともあり、オランダは多くの移民を受け入れていた。しかし、21世紀への移行前後から、移民の増加と統合の不全について、批判と反移民感情が高まった。
反移民感情の原因の一つとして、宗教が挙げられる。移民の多くはイスラム教徒だが、イスラム教は保守的で、男女平等などのオランダの価値観や規範となじまないと考える人も多い。西側諸国におけるイスラム教徒によるテロ行為も、人々の反イスラム感情を強めてきた。
加えて、2004年から中東欧の国々がEUに加盟し、政治家をはじめ多くの人々は、これらの国々からの移民がオランダ人から仕事を奪っているという感情を強めてきた。さらに、彼らはオランダ社会に馴染もうとしないという批判や偏見もある。

 

ヨーロッパへの難民流入

 ヨーロッパ全体としては、近年、シリア内戦や、アフガニスタン、イラク、エリトリアでの暴力や人権侵害、コソボやアルバニアでの経済不況といった要因により、難民流入が増加した。ピークは2015年で、多くの人々は海を越えて逃れてきた。
 ここで、戦争や紛争、迫害のためにやむを得ず母国から逃れ、新しい国に保護を求める人々(非自発的移民)と経済活動、知的活動、治療、家族呼び寄せなど様々な目的で移動する人々(自発的移民)との区別が重要になる。なぜなら後者は一般的に滞在が許されないからである。自発的移民は歓迎されない傾向にあるが、経済崩壊、貧困、医療の欠如といった理由でやむを得ず移動する人もいるため、移動の自発性の判断は容易ではない。これらの人々は基本的人権が保護・尊重されない国々から逃げてきたのであり、自分や家族のまともな生活を求めて移動しているのである。こういった、移動の人間的側面を忘れてはならない。
 しかし実際には、有効な解決策は皆無で、難民受け入れの負担分担についての交渉がEU諸国の間で行われたが、EU諸国の中でも意見が分かれているのが現実である。
 オランダは人口1,700万人と小さい国であるが、難民の流入がピークだった2015年には、4万3,000人の申請を受けた。このうち約28%の人々が、母国が安全である、あるいは経済的理由ゆえの移動であるということで、申請を却下された。
 庇護申請者の数は、他のEU諸国から合法的に就労に来ている人々の数と比べるとかなり低いものである。留学生や外国人観光客も多いことを考慮すると、オランダ社会は大きな外国人集団の受入れについて、かなり柔軟に対処しているといえる。
 しかし、20世紀末以来、オランダでは入国管理や移民統合に関する法律が厳しくなった。以前の統合政策が文化的多様性を維持しようとしていたのに対し、今では文化的・宗教的多様性が社会統合を妨げないようにすることが強調されるようになった。
 しばしば、移民のコミュニティはオランダ人としてのアイデンティティを持ち、オランダの価値や規範に順応すべきだと主張される。しかし問題は、オランダ人のアイデンティティ、価値や規範は何かということである。

オランダの価値「寛容と連帯」のゆらぎ

オランダの価値として、第一に寛容が挙げられる。ここでいう寛容とはしばしば、我々を邪魔しない限り、あるいは我々にとって目障りでない限り、他者や異なる存在を許容することである。しかしこれでは不十分であり、寛容だけでなく、他者に自分と同じ権利と自由を付与しなければならないのである。
連帯もまた、オランダの重要な価値である。2015年に難民流入のピークを迎えた時も、最大のボランティア団体が庇護申請者を支援した。庇護を求める権利は、世界で最も重要な人権文書である世界人権宣言に規定されている。また、人権、難民、移住労働者に関する国際条約でも、人々はどんな理由で移住しようとも、同じ人間として処遇されることがうたわれている。
現在、世界中で何百万人という人が移動している。グローバル化がコミュニケーションや移動の著しい増大をもたらした一方で、社会は、新しく来た人たちを統合する道筋を開かなければならない。そこでは他者への尊重、開かれた態度、対話が必要とされる。
残念ながら、人々の移動の原因となる戦争や紛争、食料や水の不足、経済危機や失業、天災や干ばつ等は現在も続いている。貧困から富裕に、飢餓から十分な食料に、恐怖から安全に、絶望からより良い未来に移ることを可能にするのは人間の智恵のみである。我々は互いに折り合いをつけるしか、他に道がないのである。
(構成:稻田亜梨沙・ヒューライツ大阪インターン)
 
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講演会「オランダにおける移民をめぐる諸問題」 の概要
講演者:イボンヌ・M・ドンダース教授 (アムステルダム大学)
     Professor Yvonne Donders
日時:2017年10月20日(金)18時30分〜20時30分
場所:大阪市立中央公会堂  
 
司会:河村倫哉准教授(大阪大学国際公共政策研究科)
通訳者:松野明久教授(大阪大学国際公共政策研究科)

共催 : 大阪大学大学院国際公共政策研究科
     大阪大学リーディング大学院・未来共生イノベーター博士課程プログラム
協力 : ヒューライツ大阪