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日本人との結婚のよもやま話【在日コリアン×女性】

【 エッセイ 】

ナム スピ

 私は朝鮮半島にルーツのある60代半ばの在日3世である。1980年代―20代の頃は、同じ「民族」と結婚すべきか、日本人と結婚してもいいのか、大真面目に同世代の在日コリアンたちと議論し合ったことを思い出す。在日コリアンの人権運動に参加する中で在日コリアンというアイデンティティを大事にしたいと思い、日本と朝鮮半島の歴史の中に自分の存在を確認し、自分たちの人権保障を追求する生き方をよしとした時、日本人との結婚は日本人への同化にしかならないのではないかという主張があったように記憶している。ただし、当時はそこに「結婚しない」という選択の議論はなかった。さらにセクシュアルマイノリティの人には居づらい場所だっただろうと思う。異性愛が当然で、「適齢期」に結婚すべきという考えが前提であったから。女性たちは、「女性差別をする男性はお断り」ぐらいの気持ちはあったかと思うが、チェサ(祭祀)をはじめ、儒教的家父長文化はむしろ守るべきものと考えていた人が多かったようだ。私の親戚にも家父長制の代表選手のような叔父がいて、在日1世(といっても学齢期に来たようだが)であった。私を含めて周りはみなジェンダーという言葉も知らなかったし、実のところ何が女性差別であるかをわかっていなかったと思う。女性差別を学ぶ学習会や運動団体はそれなりにあったが、主催者は日本人で、日本人女性の集まりにゲスト参加?するようなことが前提となっていたように思う。

 すでに80年代は相当の割合で日本人との婚姻のほうが多くなったと実感している頃だった。私は、大阪市生野区ほどではないが、在日コリアンが多く住む町で暮らし、そこで働き、在日コリアンの知人・友人が結構いるという環境にいた。また、親たちが子だくさんの世代だったので、いとこたちが30人近くいた。おしなべて自らの民族的アイデンティティを表せずに隠してくらす人たちが多かったが、隠していても、その頃の若い世代は、自分の「結婚」についてどう折り合いをつけるか、人生の大きな壁になっていたように思う。まず自分の家族からの結婚プレッシャーが半端ではなかった。実際、親たちが子どもの結婚におおっぴらに干渉していた(干渉が当然だと思われていた)。最近、何人かの在日コリアン女性たち同士で「身の上話」を語り合っていた時、私より少し年上のコリアン女性は、結婚だけが家から出ることができる道(脱出先の家族にも束縛されるのだが)だと思い、見合結婚したと過去をふりかえっていた。同席していた彼女も「結婚だけが実家から逃げる道」という言葉に大きくうなずいていた。当時、きっと、コリアン女性と男性では、結婚をめぐる「壁」の中身は違っていたはずだが、若かりし頃の結婚問題では、それについての突っ込んだ議論をしたことは記憶にない。まだ、突っ込んだ議論は男性ともしていない。

 私は、本名で暮らし始めてから出会った日本人男性と結婚しようとしたら、特に相手の親戚から、私が在日コリアンであることを理由に結婚をかなり強硬に反対された。妹も日本人男性と恋愛をして結婚しようとしたが、「帰化」をして「日本人」(自分がコリアン・ルーツであることを隠す)になることを条件に相手の親族から結婚を認められた。私は、結婚後もそのまま民族名で生活し、国籍の変更をしなかったが、そのことに対し、相手の親戚から批判があったと聞いた(婚姻届を出すことでは国籍は変更されない)。曰く「あなたの夫は日本人なのになぜ」。しかし、それを日本人女性とコリアン男性に入れ替えたらどういう展開になることが多いのだろう?こちらはもっと複雑で一言では語れないかもしれない。なぜなら女性側が、日本社会でマジョリティである日本人であるからだ。実際に親戚や知人で、日本人女性と恋愛し結婚と同時に「帰化」をした在日コリアン男性を何人か知っているが、きっと大きく違うのは、ファミリーネームであるだろう。私の知っている人は、帰化をする前から日常で使っていた日本名を日本の戸籍の姓にし、日本人の女性はその姓に変更しているのである。

 時代は幾分ジェンダー平等の方向へ変わってきた。しかし日本社会もその一角である在日コリアン社会も女性が生きづらい固定役割分担意識が根強く残っていることは事実である。在日コリアンでかつ女性が、対等なパートナーに出会っていいロールモデルとして登場してほしい。私は女性同士で話をする時と同じくらい、気を遣わずに、言葉を選ばずにジェンダーの話ができる親しいコリアン男性の知人・友人がまだいない。