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国際人権ひろば No.75(2007年09月発行号)

人権さまざま

ワーク・ライフ・バランス

白石 理 (しらいし おさむ) ヒューライツ大阪所長

労働する者は、すべて、自己及び家族に対して人間の尊厳にふさわしい生活を保護する公正かつ有利な報酬を受け、かつ、必要な場合には、他の社会的保護手段によって補充を受けることができる。

(世界人権宣言 第23条3項)


すべての人は、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇を含む休息及び余暇をもつ権利を有する。

(世界人権宣言 第24条)


すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

(日本国憲法第27条1、2項)


  最近、「ワーク・ライフ・バランス」をいうことばにしばしば出くわす。英語をカタカナにしたということからみると、アメリカかヨーロッパから入ってきたことばなのであろう。簡単にいえば、「仕事と生活の調和」であろうか。仕事第一の生き方を見直して、仕事以外の生活も大切にする生き方をする、仕事と生活の両立を大切にするということのようである。

  日本社会では、仕事にかけることが「男の甲斐性」であり、仕事ということを言い訳に、その他の社会や家庭での責任は免除という風潮があったようである。「男は外に出れば7人の敵がいる」などといい、男が仕事に自分を懸ける生き方を肯定した。長時間の勤務と仕事にまつわる「つきあい」で時がすぎていく。こんな生き方を見直そうという人々が、若い世代を中心に増えているという。「ワーク・ライフ・バランス」を大切にというわけである。

  家庭をもつ女性の多くは、「ワーク・ライフ・バランス」を前提にして仕事についている。家事や育児が女性の責任とされることが多いという。「ワーク・ライフ・バランス」は、女性ではなく、男性の勤労者に対する警鐘である。

  じぶんの仕事が好きで好きでたまらない、仕事が趣味という人は別として、長時間の仕事が当たり前になっては、いろいろなひずみを人生にもたらす。過労からくるストレスや神経失調症ばかりでなく、過労死や過労自殺までに至る例は多い。賃金が低いため長時間働かなければ食べていけないという人がいる。家族を持つ人にとっては、仕事のために家庭での責任を果たすことも家族と一緒の時間を充分取ることもできない。子育て、子どもの教育は妻に任せっきりということにもなりかねない。家庭を大切に思い、また家族への責任感を強く抱くものにとっては大変辛いジレンマであろう。

  2005年のILO(国際労働機関)の調査によれば、1990年以降先進国の中で週50時間以上働く労働者の比率が最も高いのは日本の28.1パーセント。次にくるニュージーランド21.3パーセント、それに続いて、オーストラリアとアメリカが20パーセントとなっている。これは、最近問題とされているサービス残業が統計に加えられていないことを思えば、異常に高い比率である。ちなみにヨーロッパ諸国では、この比率は10パーセント以下とのことである[1]。また、2007年発表されたイギリスのある研究グループの調査結果によれば、日本の勤労者は世界で一番勤労意欲が低いとされた[2]。この二つの結果をあわせて考えてみるに、日本の勤労者は、長時間いやいや仕事をしているということになるのであろうか。やりがいのない仕事、やりたくもない仕事をせざるをえない状況におかれているのか。あまりの長時間勤務で疲労が重なり、まともな勤労意欲は失せてしまったのか。心身の健康を保ち、仕事と家庭生活の両立を図り、仕事と仕事以外の生活の調和に腐心することは、人間としての生き方を護ろうとすることにほかならない。これは決して仕事を二の次にする、疎かにするというのではない。ワーク・ライフ・バランスを大切にするのである。

  これに加えて、女性の社会進出がある。男女共同参画といって女性が社会で働くための支援策がとられている。家庭を持つ男女が働くということで、これまで男性の勤労者が当然としてきた事情に変化がおきるのである。家庭に対する責任は、否応なく「男の甲斐性」に挑戦してくる。無条件に、長時間労働はあたりまえとは言っていられなくなる。男性の意識変革とともに、男女が共に家庭での責任を分かち合えるような労働環境、雇用環境を作り出さねばならない。これも、ワーク・ライフ・バランスである。

  今の日本で深刻な人権問題は何かと聞かれて、勤労者の人権と答えたことがある。家庭をかえりみる余裕もなく、長時間働き、心身に異常を来たし、仕事から離れざるを得ない例をみることがあったからである。それが例外として片付けられない現実を聞かされたこともある。低賃金で不安定な雇用条件では、長時間働くのが当たり前ということもある。

  勤労者は、なによりもまず、「人」である。人として尊ばれ、仕事にそして私生活に「人」としての幸せを追求することが出来る環境があってしかるべきである。人権の視点からしても、ワーク・ライフ・バランスという生き方が、日本社会に広く受け入れられることを求めたい。

1. ILO プレス レリース(ILO/04/47,2004年10月22日)
2. 2006年末出されたFDSによる調査レポート、"What Workers Want, A Worldwide Study of Attitudes to Work and Work-Life Balance"(AFP その他の報道記事から)


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