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特別企画「目の前で"マイクロアグレッション"が起きたなら ー私たちにできることを見つける」を開催しました(12/15)

 12月15日、ヒューライツ大阪は関西NGO協議会との共催で、モニカ・ウィリアムズさん(オタワ大学教授、心理学者)と出口真紀子さん(上智大学教授、文化心理学者)を迎え、特別企画「目の前で"マイクロアグレッション"が起きたなら―私たちにできることを見つける」を開催しました。

マイクロアグレッションへの介入を阻む5つの障壁

 最初に、「話題提供」としてヒューライツ大阪の朴利明(ぱくりみょん)が、日本の人種・民族的マイノリティを対象にした近年の実態調査の概要と参加者に対するマイクロアグレッションに関する事前アンケートの回答結果をもとに報告を行いました。
 事前アンケートの回答結果からは、参加者の多くにとって組織・コミュニティのなかでマイクロアグレッションを目撃することが珍しくない一方で、組織・コミュニティレベルでの取組は追いついていない状況が明らかになりました。
 また、マイクロアグレッションに対する介入をためらう理由について、5つの障壁(1.介入に伴うリスク、2.介入によって場に走る緊張、3.状況の曖昧さ、4.孤立感、5.組織レベルの制度の不在・限界)に分類し、それぞれが重なり合ったり、相互に影響しあうことで、目の前でマイクロアグレッションが起きても介入行動を抑制してしまう傾向がみられました。

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 介入への障壁が重層的に立ちはだかるなかで、私たちが一人ひとりとして、また組織・コミュニティとしてマイクロアグレッションに対して何ができるかウィリアムズさんに投げかけました。

自分自身のエンパワメントと安全を優先する

 ウィリアムズさんは、人種的マイクロアグレッションを「(加害者にとって)否認可能な人種差別的行為であり、①マイノリティに対する誤った固定観念を強化し、②不平等な社会規範と権力格差を強化し、③排除を伝達する」と定義します。つまり、人種的マイクロアグレッションは人種差別の効果を発揮しながらも、加害者は自身の行為の加害性を認めずに逃れられるということであり、マイクロアグレッションに対してマイノリティが抗議の意思を示すと加害者からは怒りや防衛的な態度、否認などを通じた二次加害が起きやすいことを意味します。

 そのためマイノリティはマイクロアグレッションを拒絶できないことが多く、その結果として、マイクロアグレッションが起き続ける―そんな悪循環を断ち切るために何ができるのかについて、ウィリアムズさんはマイノリティ当事者の立場と、マジョリティとして差別と闘うアライシップ(Allyship)という観点から説明しました。

 ウィリアムズさんは、マイクロアグレッションを指摘されたマジョリティがその場で考えを改めることは期待できない、何度も指摘を受ける中で徐々に理解していくものであり、マイクロアグレッションを受けたマイノリティが攻撃者に立ち向かうことの第一義的な目的は、マイノリティ自身のエンパワメントであるべきだと述べます。

 その上で、攻撃者との関係に応じて取りうる対応について具体的な事例を交えて説明しました。

 たとえば、信頼関係を築いてきた相手には自身の感情を率直に伝える、関係が薄い相手にはステレオタイプについて淡々と説明する、見知らぬ相手からの失礼な言動に対してはときにはユーモアを交えた毅然とした対応、などのように状況や関係性によって取りうる対応は様々でありながら、常に自身の安全を優先しなければならないとも強調しました。

アライシップとは行動することー実践あるのみ!

 そしてアライシップについて、ウィリアムズさんは「『私は人種差別をしない』と言うだけではアライシップではない。差別をなくすための継続した行動を伴わなければならない」と語ります。たとえば、職場で同僚が人種差別的な言動をしたときに「そのような発言は私を不快にさせる」とマジョリティの立場から介入すること、このときに重要なのは「マイノリティである"彼・彼女ら"を不快にさせるではなく、"私"を不快にさせる」と言うことであり、マジョリティとしての自身の特権を知り行動することだとウィリアムズさんは述べます。

 そして、アライシップを発揮することで周りのマジョリティとの関係に亀裂が入ることや、報復のリスクが生じるなど、決して簡単ではないことを認めながら、「勇気」を持つことの重要性を語りました。

 アライ(味方)としてマイクロアグレッションに立ち向かうには、人種主義とは何か、マイノリティに対してどのようなステレオタイプが存在するのかについて学ぶこと、そして、「実践あるのみ(Practice, practice, practice!)」とメッセージを送りました。

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モニカ・ウィリアムズさん(左)と出口真紀子さん(右)

アライシップを育てるために

 コメンテーターとして登壇した出口真紀子さんは、2020年にマイクロアグレッションについての専門書が日本語に翻訳されて以来、日本の人種・民族的マイノリティによる実態調査が徐々に蓄積されていることが非常に重要であり、現状の把握を今後も深めていく必要があると述べました。また、自身が所属する大学での在日コリアン学生との会話を通して感じた日本の人種主義の現実についても共有しました。

 そして、ウィリアムズさんの報告を踏まえながら、このようなステレオタイプや人種主義について知ることがマイクロアグレッションを理解するための前提条件であること、アライシップは育てるものであり実践の場数を踏むことの重要性について語りました。

 参加者からは「具体的事例を聞くことで大きな力になった」、「アライシップを育てるための教育を目標にしたい」などの感想が寄せられました。

 参加者は64名でした。