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国際人権ひろば No.79(2008年05月発行号)

アジア・太平洋の窓 Part 2

スリランカ紛争:政治的背景と平和への課題

小野山 亮(おのやま りょう) NGO福岡ネットワーク(FUNN)事務局
元アジア太平洋資料センター(PARC)スリランカ・ジャフナ事務所代表

内戦で損壊したままになっているジャフナ駅 (2005年8月、筆者撮影)
内戦で損壊したままになっているジャフナ駅 (2005年8月、筆者撮影)

はじめに


 スリランカの多数民族はシンハラ人(言語はシンハラ語、主に仏教徒)であるが、少数民族タミル人(言語はタミル語、主にヒンドゥー教徒)の武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」は、タミル人の多いスリランカ北部・東部の分離独立を標榜し、政府との間の内戦がすでに20年以上も続いている。なおキリスト教徒も両民族にまたがって多い。またムスリム(言語はタミル語、イスラム教徒)の人びともこの内戦に巻き込まれている。
 2002年には休戦協定が結ばれたが、対LTTE強硬路線のラジャパクサ大統領の政権誕生(2005年11月)後、激しい戦闘が再開した。筆者はその当時、戦後・津波後復興活動のため北部の紛争地ジャフナに駐在していたが、政治的殺害、自爆攻撃、爆発物による他NGO職員の死、実際の戦闘、海上退避、LTTEの首都空爆などを身近に経験した。その経験については、「『陸の孤島』スリランカ・ジャフナ-紛争地の『日常』」(本誌No. 71・2007年1月号)を参照していただきたい。今回はこれらの政治的背景と平和への課題を記述する。
 

政府とLTTEの姿勢


 ラジャパクサ政権は、LTTEとの闘いを「テロとの闘い」と呼び、この闘いはやめないが和平交渉を放棄するものではなく、また北部・東部を含む地方/民族への分権を示唆した「紛争の政治的解決」をめざすという基本的立場をとった。政府のいう「テロとの闘い」の中で、タミル人口比の多い北部と比べると比較的シンハラ・タミル・ムスリム人口の拮抗している東部はほぼ政府支配下に置かれた。政府軍の優勢には空爆を含む攻撃、またLTTEが非難してきたLTTE造反「カルナ派」との協力があるとの主張もある。
 政府は軍事成果を強調し、「テロとの闘い」と「紛争の政治的解決」を平行して進めるとのスローガンも効果的に用い、また閣僚ポスト付与なども通じた野党議員取り込みも通じて、政治権力の維持拡大を図った。
 しかし「紛争の政治的解決」に関しては、分権案作成をめざして「全政党代表者会議(APRC)」という会議が招集されているが、進展が極めて遅い。政権への支持を高めてから、政権の考えに近い案を提出したい思惑と考えられるが、政府のいう「テロとの闘い」遂行のための時間稼ぎだとの批判もある。一方、LTTEの方も、休戦協定停滞後、再び高まる対LTTE強硬姿勢に対し、対決姿勢をとることによって、内外のタミル人や国際社会に訴え、自らの地位を高めようとしたとの分析もある。
 暴力と戦闘が拡大していく中、政府・LTTE両者の直接交渉の機会もあったが、具体的な進展へとつながるものではなく、北部・東部への分権といった政治解決の問題は話されていない。休戦協定後には分離独立の立場を取り下げ、北部・東部での自治案を提出していたLTTEも、2005年11月には「自決の闘いを強める」とし、翌年11月には「独立以外ない」とした。2008年1月、政府は実質上すでに崩壊していた休戦協定を公式に破棄した。
 

地方/民族分権案の行方


 LTTEに限らずとも、スリランカ北部・東部を「タミル人のホームランド」とする主張は根強く、分離独立でなくとも北部・東部への一定の分権を求める声は強い。また東部はシンハラ・タミル・ムスリム3民族の割合が比較的拮抗しているが、その背景には政府の開発事業によってシンハラ人移住が進んだという歴史がある。したがって、北部と東部が分離されることにも強い抵抗がある。
 北部・東部州、および一般に地方行政単位である「州」の現在の法的地位は、1987年のインド介入を受けて定められた(インドはタミル・ナドゥ州に大きなタミル人人口を有する)。分権の単位として全国9つの州が定められ、州、中央、そして両者共有の権限がそれぞれ定められている。しかし中央の権限として「あらゆる事項・機能における全国的政策」という広い文言がある。また例えば警察権も州に権限が与えられているが、州警察の雇用・人事を行う機関の構成に加え、責任者の任命にも中央の影響が及びうるし、国家の安全に対する罪などは中央の管轄にあり、州の管轄ではない。また知事は大統領が任命することになっている。問題の北部・東部州は暫定的に併合される一方、東部州の住民投票によって併合の是非が問われるものとされていた。しかし住民投票は行われないまま、他の州と違い、北部・東部州政府行政は中央政府の管理下におかれている。中央政府内での民族間権限分立などの仕組みは定められていない。
 ラジャパクサ政権下の2006年10月、スリランカ最高裁は、政府管理下にあるものの併合されたままになっている北部・東部州に関し、当時の併合措置の手続き上の問題を指摘し、措置の無効判断を示した。政府としては、タミル側に根強い北部・東部州一体性の主張にも配慮し、新たな立法措置により併合をあらためて行う選択肢もありえたが、結局、実際に北部・東部州行政の分離が行われた。
 さらに2008年1月、分権案提出に延期を重ねていた「全政党代表者会議(APRC)」は暫定提案を提出したが、現行法下での州への最大限権限委譲提案にとどまる。北部・東部州は分けて考えられている。東部州は州議会選挙が可能な環境であるのでただちに選挙、北部州は平和な環境になく自由で公正な選挙が不可能、選挙実施まで北部州の民族性を反映した暫定議会設立と提案されている。提案に沿った動きは早くも見られる。
 分権をさらに進めた提案としては、APRCとともに置かれた専門家委員会による多数意見がある(2006年12月提出)。州の権限拡大などに加え、北部・東部州に関しては、併合した場合には、少数となるシンハラ、ムスリムに配慮した各内部自治単位や、併合是非の東部での住民投票(10年後)が提案され、分離の場合には共通利害事項調整のための上部機関が提言されている。また各三民族多数地で分離をする選択肢もあるが、境界整備や経済的有効性、タミルとムスリムにとって拡大のための政府の土地が少ないことに懸念も示される。中央政府に関しては、大統領と異なる二民族から副大統領二人、二院制議会(一院は州代表より。副大統領の1人が議長)が提言される。ほか中央高地部(出身)タミル人の多数地域自治区評議会や文化評議会の設置、言語政策や(民族間)信頼醸成措置も提案される。しかしこの専門家提案にはシンハラ人勢力が強く反発、結局APRCの提案は先述の暫定提案が出されているにとどまる。
 APRC暫定提案には、現行法では実現されないタミル人の要望実現のための闘いや議論の意味がなくなるとの批判もあがる。またより進んだ分権を主張する最大野党UNP(和平交渉中にはLTTEと連邦制に基づく解決模索で合意)もこの提案に加わっていない。分権をより実効的なものとするためには、より幅広い層の支持を得た提案にむけて、APRCの作業が柔軟に進められる必要がある。
 

平和(文化)を押し上げていく


 上記のような「紛争の政治的解決」が進まないのは、「軍事的対決」やその「成果」の強調によって権力への支持が維持拡大されている側面があるからともいえる。しかし戦争「成果」が強調される一方で、一般市民も含めて多大な数の死傷者や避難民、大きな物理的・精神的損害を出している。戦闘とあわせて、殺人・襲撃・強制的失踪などの事件もあとを立たず、逮捕や処罰にむすびつくことはほとんどない。文字どおり多くの人びとが恐怖と不安の中で暮らしている。
 また民族や集団の権利の問題に端を発し、戦闘や人権侵害が長く続いてきたこの複雑な紛争においては、紛争当事者といった一定の集団「全体」を「武力で完全制圧」することが正当化される、もしくは可能であるかが激しい論議になってもいる。
 メディアへの襲撃・脅迫といった事件も報告される中、内外から、「軍事(文化)」の「負」を明らかにし、「平和(文化)」を作り上げ、押し上げていくことが強く求められる。「紛争の政治的解決」はその延長にあるものであり、そうした運動の先に、自ずと達成されていくべきものである。


本文はヒューライツ大阪のウェブサイトに掲載しています。
 (https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section2/2007/01/--8.html


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