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国連人権理事会によるUPR(普遍的・定期審査)が各国にもたらす効果(8/5)

 2025年6月23日、国連人権理事会第59会期のサイドイベント「各地域におけるUPR審査:実施実例から見る影響」が開催されました。このイベントは、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)とUPR友好国グループ(アルゼンチン、アルメニア、フィジー、ノルウェー、パキスタン、南アフリカ)の共催により実施されたものです。イベントでは、OHCHR地域事務所に配置されたUPRアドバイザーやUPR任意拠出基金の役割が、各国におけるUPR勧告の実施に与える肯定的な影響が取り上げられ、UPRの重要性が改めて確認されました。以下、OHCHRがまとめたイベント報告の要約です。

UPRの仕組みとその重要性
 UPR(普遍的・定期審査)は、国連人権理事会が主導する人権メカニズムであり、世界各国の人権状況を対等な立場で相互に審査し合うことを通じて、世界の人権状況の改善を促す、極めて貴重かつ協力的な枠組みです。各国は、人権上の進展や課題を共有し、互いに学び合うことで、国際社会に対する説明責任を果たすことが期待されています。
 UPRは約4年半ごとに回ってくる周期的な審査制度で、すべての国連加盟国(現在193カ国)を対象としています。各サイクルでは、審査される対象国が自国の人権状況と改善に向けた取り組みを報告し、それを受けて他国から懸念や勧告が表明されます。被審査国は、それらを受け入れて実施するか、否かを表明します。
 毎年42カ国が審査を受け、すべての加盟国が審査を受けるよう設計されています。このようにUPRは、各国に対して人権状況の継続的な改善と説明責任の履行を促す、段階的かつ反復的なプロセスです。2008年の導入以来、これまでに3回の審査サイクルが完了し、現在は第4サイクルに入っています(注1)。
 OHCHR南部アフリカ地域事務所のアビゲイル・ノコ代表と、在ジュネーブ国連アルメニア代表部のハスミク・トルマジャン大使は、UPRは単なる審査や報告にとどまらず、人権の意味を現場で体現するものであり、継続的な改革と協働のプロセスであると述べました。

人権促進における有効な手段としてのUPR
 今回のサイドイベントでは、UPRが各国における人権の促進や地域課題への対応において、いかに有効な手段となっているかを示す数々の事例が紹介されました。

<ガンビア>
 ガンビアでは、審査を受けた後、国内協議を通じて、法務省内に新設された「性およびジェンダーに基づく暴力」に特化したセクションの強化が進められました。あわせて、女性や子ども、障害者に対する暴力の根絶をめざし、全国規模の啓発キャンペーンが展開され、有害な社会規範の是正に取り組んでいます。また、長期的な人権の進展を支えるために、政府は複数の人権メカニズムからの勧告をまとめ、実施状況のモニタリングや優先課題の設定、説明責任の強化に向けた実践的なツールとして活用しています。
 ガンビア政府は、UPR実施基金(UPRの勧告を実施に導くことなどを目的とした任意拠出基金)およびUPR参加基金(各国がUPR審査に参加する際の支援を目的とした任意拠出基金)の支援を受けつつ、こうした取り組みを通じて、人権課題に積極的に取り組み、困難を乗り越えながら具体的な成果を上げてきたこと強調しました。

<コスタリカ>
 コスタリカ当局は、人権に関するすべての勧告を一元的に管理できるデータベースを開発し、各行政機関がリアルタイムで情報にアクセス・追跡できる体制を整備しました。このプラットフォームには、市民社会組織も積極的に関与しており、勧告のフォローアップや実施状況の監視を通じて、透明性と説明責任の向上に貢献しています。また、UPRは政府機関だけでなく、現場で活動する市民社会組織にとっても、勧告の実施を支える有効な手段となっていることが強調されました。

<ドミニカ>
 ドミニカのような小島嶼国にとって、UPRは人権状況の進展への道を示し、直面する課題を明確にするとともに、的確な勧告を得るための重要なプラットフォームとなっています。とりわけ、2024年12月に拷問等禁止条約へ加盟したことは、大きな成果の一つです。UPRプロセスへの十分かつ効果的な参加のためには、UPR任意拠出基金への継続的かつ拡充された支援が必要であるとして、ドミニカ外務省のカミラ・ベル氏は、ドナー国に対しその重要性を訴えました。

<サモア>
 サモアでは、国内人権機関の設立と、実施・報告・フォローアップのための国内メカニズムが整備され、人権の促進およびUPR勧告の実施において中心的な役割を果たしています。また、国連人権アドバイザーの支援を受けながら、UPRの取り組みをSDGsに関する自発的国家レビュー(VNR)と連携させるなど、国内の人権政策と「持続可能な開発目標」(SDGs)との統合も進められています。

UPRの実施支援と成果
 OHCHRおよびUPR担当者は、国連人権理事会決議51/30の採択(注2)を受け、各国の勧告実施を迅速に支援する体制として、すべてのOHCHR地域事務所にUPRアドバイザーが配置されたことを報告しました。また、加盟国が受け入れた勧告の実施に向けて、進捗をモニターし、次回審査サイクルで報告するためのデータベースの整備も支援しています。このような支援は、OHCHR地域事務所およびUPR任意拠出基金を通じて提供されており、各国における人権の進展を促す上で重要な役割を果たしています。
 具体的な支援例としては、2024年にレソトにおいて、パリ原則に基づく国内人権機関の設立に向けた法案策定の支援が行われたほか、ペルーでは、社会問題の抗議活動に対する人権侵害ケースの捜査能力向上を目的に、検察庁に対する技術支援が行われました。南部アフリカ地域においては、ボツワナでの人権機関の設立に向けた政府との協力や、エスワティニ(旧スワジランド)における市民の司法アクセス向上に向けた法的扶助のための法案への支援が進められています。
 また、OHCHRの影響は法制度改正や市民社会の参画促進にも広がっており、継続的な関与の結果として、南アフリカによる強制失踪条約の批准、ジンバブエの移住労働者権利条約の批准、ジンバブエおよびザンビアにおける死刑制度の廃止などが実現しました。また、モーリシャスでは、UPRへの市民社会の参加団体数が第3サイクルの23団体から第4サイクルでは125団体にまで増加するなど、より包括的かつ国家主導の人権に関する対話が構築されつつあることが示されました。
 ナダ・アル=ナシフ副人権高等弁務官は、UPRの取り組みを持続可能なものとするために、任意拠出基金への継続的支援とともに、UPR地域アドバイザーの活動を第4サイクル以降も維持するための体制整備が不可欠であることを指摘しました。また、2027年半ば以降も各国への助言と支援を継続できるよう、人権理事会に対して必要な措置を講じることも求められました。
 UPR友好国グループ議長のトルモッド・カッペレン・エンドレセン氏は、UPRの成功は「現場で人々の暮らしをどれだけ改善したか」という実際の成果によって評価されるべきだと指摘しました。

注:
1.日本政府に対する第4回UPR審査は、2023年1月に行われました。
2.人権理事会の普遍的・定期審査メカニズムに係る任意拠出基金の強化

(構成:山本 恵理・ヒューライツ大阪インターン)

<出典>
https://www.ohchr.org/en/stories/2025/08/unpacking-impact-universal-periodic-review-ground
OHCHR:Unpacking the impact of the Universal Periodic Review on the ground

<参照>
https://docs.un.org/en/A/HRC/RES/51/30
Human Rights Council:A/HRC/RES/51/30
https://www.ohchr.org/en/hr-bodies/upr/voluntary-funds-intro
OHCHR:UPR Voluntary Funds

<参考> ヒューライツ大阪ニュース・イン・ブリーフ
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2023/07/upr710.html
国連人権理事会、第4回UPR審査の勧告に対する日本政府の回答結果文書を採択①_「フォローアップ」編(2023年7月10日)
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2023/07/upr710-1.html
国連人権理事会、第4回UPR審査の勧告に対する日本政府の回答結果文書を採択②_「受け入れない」編(2023年7月10日)
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2023/07/upr710-2.html
国連人権理事会、第4回UPR審査の勧告に対する日本政府の回答結果文書を採択③_「留意する」編(2023年7月10日)


(2025年08月19日 掲載)