「国連ビジネスと人権に関する作業部会(以下、作業部会)」は、2023年に実施した日本訪問調査の報告書をまとめ、2024年6月の人権理事会に提出しました。多岐にわたるビジネスと人権分野の課題を取り上げている報告書は、メディア・エンターテインメント産業も含まれています。小保方智也・現代的形態の奴隷制に関する特別報告者は、その報告書に盛り込まれた勧告のうち、自身の任務の関わる課題について支持しています。
作業部会は、報告書でメディアおよびエンターテインメント産業、特にアニメ業界において、ハラスメントや性的虐待、過酷な労働条件、不公正な契約条項など、深刻な問題の存在について指摘しています。
そうしたなか、作業部会と現代奴隷制特別報告者は5月16日、共同声明を発表しました。
作業部会と現代奴隷制特別報告者は2023年以降、日本のアニメ業界における労働慣行に関連した人権侵害の申立てを継続的に受け取っているといいます。そして、アニメ業界が日本政府の「クールジャパン」戦略の中核をなしていることを踏まえ、労働搾取を防止し、公正かつ適正な労働条件を確保するために、企業および政府が効果的かつ断固とした対応を講じる必要があると指摘しています。
同業界の世界的な収益は近年増加しているにもかかわらず、独自かつ貴重な技能を有するアニメーターの年収は依然として停滞しており、業界に従事する多くの人々がフリーランスや個人請負契約の形態で働き、現行労働法の下で十分な保護を受けていないと指摘しています。
作業部会と現代奴隷制特別報告者は、日本のメディア・エンターテインメント業界における労働慣行に関連する人権侵害の継続的な報告に対応するため、日本政府に対し、業界の労働基準および慣行の規制強化に向けた取り組みを引き続き強化するよう求めています。
さらに、日本政府が現在、第2期の「ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)」の策定を進めていることを指摘し、策定の際、メディア・エンターテインメント産業に関連する課題を十分に考慮するよう強く要請しています。とりわけ作業部会は、日本政府に対し、報告書に盛り込まれた国内行動計画の見直しに関する勧告(注)に留意するよう促しています。
作業部会と現代奴隷制特別報告者は、日本のメディア・エンターテインメント産業、特にアニメ業界に関連する企業に対し、「ビジネスと人権指導原則」に沿って人権尊重責任を果たすよう求めています。その一環として、人権デューデリジェンスの実施や、すべての労働者にとって公正かつ適正な労働条件を確保するための影響力の行使などをあげています。
また、作業部会と現代奴隷制特別報告者は、日本政府に対し、国際人権基準に沿った企業の取り組みを促進・支援するために、具体的な措置を提案し、企業の行動を奨励・促進するよう強く要請しています。
(注)リスクにさらされているコミュニティが経験しているビジネスに関連した人権侵害に特別な注意を払うこと、救済へのアクセスや企業の説明責任を強化することなど。
(構成:大久保智子・ヒューライツ大阪インターン)
日本のアニメ業界への国連専門家共同声明25.5.16.pdf
(2025年05月23日 掲載)