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シネマと人権 9 :「ボストン市庁舎」‐アメリカ民主主義の底力が見える

小山 帥人

ジャーナリスト、ヒューライツ大阪理事



 フレデリック・ワイズマン監督の映画というと、身構えてしまう。なにしろ、ナレーションもインタビューもないのだから、ボケーと見ていられないのだ。短く映し出される看板などの情報も、見逃すと撮影された場所がわからない。テレビニュースのように、字幕で場所の説明や人物紹介をすることもない。90歳を超えるワイズマン独特のドキュメンタリー作法である。

 一見不親切のようだが、映像と登場人物の会話を聞いているうちに、次第に画面に引き込まれていくのは、編集の力なのだろう。ワイズマンは撮影より、編集に時間をかけるそうだ。

 今回、ワイズマンが撮ったのは、アメリカ・マサチューセッツ州のボストン。ユダヤ系移民の父を持つワイズマンの生まれた町でもある。ここで市役所の仕事をじっくり見つめて撮った。

 ボストン市は、移民の多いアメリカでも、特に民族が多様で、白人と白人でない人は、ほぼ半分ずつ。マーティン・ウォルシュ市長(今はバイデン政権の労働長官)は2014年以来、市長として、多様性を重んじ、市民のための市政を実行してきた。市長室に直結する電話を作り、市民にはなんでも相談するように促す。市長の演説や、集会での議論を聞いているうちに、我々は日常の暮らしが政治と結びついていることを知り、民主主義が実践されている現場を見ることになる。高価な医療費問題をどうするか、ホームレスの若者をどう支援するか、高齢者や、障害者の委員会で話し合われる。結論がすぐ出る問題ではなくても、参加者が真剣に解決に向けて議論している様子がわかる。

 ウォルシュ市長はラテン系の若い市職員に対して、アイルランド系の移民としての自分のルーツを語る。

 「19世紀末、アイルランド人は、犬、召使、奴隷、ブタ、猿、けだものと呼ばれていた。アイルランド人を描いた絵を見ると完全に人種差別だ。政界に力を持つために、議員を増やし、着実に力を伸ばしていった」。そして、ラテン系としての誇りを持つように訴え、「君たちは事業や社会貢献で未来のリーダーになる人だ」と励ます。

 4時間を超える長い映画だが、市民の権利を尊重し、対立を討論によって解決しようとするボストン市の姿勢は一貫しており、アメリカの民主主義の底力を感じさせる。民主主義は、実行するのも、それを学ぶのも時間がかかるものだと、腰を据えてこの映画を見てほしい。

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ボストン市民の6人に1人が食糧難に苦しんでいると語る市長(中央の男性)

ボストン市庁舎

2020年制作/アメリカ/4時間34

製作・監督・編集・録音:フレデリック・ワイズマン

配給:ミモザフィルムズ、ムヴィオラ

公式サイト:https://cityhall-movie.com/


公開日程

11月12日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテにて公開。

11月19日からテアトル梅田、京都シネマ、順次元町映画館 にて公開。他全国順次公開。

(2021年11月10日 掲載)