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映画で考える人権:『レ・ミゼラブル』 悲惨と断絶を直視することから

 映画は2018年のワールドカップでフランスが優勝したときのパリから始まる。「フランス万歳!」の声が街にあふれ、黒人も白人もみんな大喜びだ。主人公の褐色の少年もニコニコして街に繰り出している。「フランスは一つだ」と言いたいところだが、実態はそんなものではなかった。
舞台は、フランスの文豪、ビクトル・ユゴーが19世紀に描いた「レ・ミゼラブル」(悲惨な人たち)の舞台の一つ、パリ郊外のモンフェルメイユである。1960年代ここに建設された団地は、パリまで行く鉄道がなく(2019年にやっとできたが)、陸の孤島として貧しい移民が住む街になった。この街ではイスラム教の力が強く、ムスリム同胞団と麻薬のシンジケートが街を牛耳っている。
街を巡回する警察のチームに新入りの警官が加わったところから物語が始まる。警察チームのリーダーは、女の子を見かけると、セクハラめいた尋問をする男で、街を牛耳るギャングのボスたちには顔がきく関係を保っている。
 
警官が催涙弾を発砲
街で事件が持ち上がる。ロマのサーカス団のライオンの子どもを街の少年が盗み、ライオンを返せと詰め寄るロマの人たちとムスリムのグループが一触即発の状態になったのだ。
ロマとムスリムの乱闘を避けるために、警察チームは懸命に捜索し、ようやくライオンを盗んだ少年を見つけるが、少年の仲間たちが集まって騒ぎになる。そこで警官の一人(彼も移民出身)が催涙弾を少年に向けて撃ってしまい、顔面に怪我を負わせる。このあたり、パリのデモで催涙弾の直撃で眼球が破裂したケースを思い起こさせる。
さらにその過程を別の少年がドローンで撮影していたものだから、警察チームはあわてる。少年を撃った映像が公表されれば、騒ぎは大きくなるだろう。新入りの警官は少年を病院に運ぶよう主張するが、リーダーの警官は、映像を回収することが大事だと言って、少年をほったらかしにしてボスと交渉する。
 
少年たちの反乱
結局、警察とボスたちと間で取引が成立し、ライオンはロマに返され、映像も回収され、少年の怪我はなかったことにされる。一件落着のように見えたが、その後で少年たちの反撃が始まる。
それは反乱と言っていい。警官もギャングも市長も標的だ。花火の筒などを使って、バズーカ砲のようにパトカーにぶち込んだり、警官を階段に押し込めて、ガラス瓶を投げつけたり、ついには火炎瓶を手にして、警官に投げようとする。そして、新入りの警官も銃を少年に向ける。
手持ちカメラやドローンによる撮影が多く、息つく暇もない緊張感が続く。警官の側の家族も描くなど、一方の側からの視点ではない描き方だ。貧困の拡大と差別の深まりの中で、人間同士の対立が激しくなり、憎み合い、傷つけ合うまでに至る悲劇が進行する。そこには善意だけでは片付かない深い溝がある。
この街で育ち、今も住んでいるラジ・リ監督は「わたしたちがどのように暮らしているのかを知ることなくして、どうして政治家が解決策を見出せるのか」と語る。目を背けずに現実を見て、考えることから始めなければ。
 
            小山 帥人(ジャーナリスト)
『レ・ミゼラブル』
画像:© SRAB FILMS
監督・脚本:ラジ・リ 出演:ダミアン・ボナール、アレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ、ジャンヌ・バリバール
原題:Les Misérables/2019年/フランス/フランス語/104分
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
公開:
3月13日(金)~シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸
3月14日(土)~京都シネマ
問合せ:㈱ツイン TEL06-6882-3022

「レ・ミゼラブル」写真.jpg              © SRAB FILMS