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アジア人権憲章 (Asian Human Rights Charter)

全文

前文

アジアの諸民族は長い時代、特に植民地時代において、権利および自由の甚大な侵害に苦しんできた。今日になっても我々の大多数は搾取および抑圧を受け、我々の社会の多くは憎しみと不寛容によって引き裂かれている。あらゆる人および集団の平等で奪うことのできない権利が認められ、保護されてはじめて平和と尊厳が可能であると人々は益々認識を高めている。人々は、自らと未来の世代のために、人権と自由のための闘争を通じて平和と正義の保持を固く決意している。そのために彼らは、アジアの諸民族の平和と尊厳の中に生きたいという願いと希望を確認してこの憲章を採択した。

憲章の背景

1.1 アジアにおける権利および自由に向けた闘争は、市民社会における抑圧や植民地主義の政治的抑圧に対する戦いおよびその後の民主主義の確立や回復に向けた戦いなど深い歴史的源流をもつ。現在、権利の再確認は以前よりも増して必要となっている。アジアは急激な変化の時代の中にあり、社会構造、政治制度や経済に影響が及んでいる。伝統的価値は新たな開発や技術の形態およびこれらの変化を管理している政治権力や経済組織の脅威にさらされている。

1.2 なかんずく、経済の市場化およびグローバル化は私と公および国家と国際社会の間のバランスの変化をもたらし、貧困者や不利な境遇にあるものの状況を悪化させている。これらの変化は、技術の非人間的効果、市場の物質主義的傾向、共同体の崩壊などの結果、生活の多くの尊重されてきた側面を脅かす。人々の自らの生活や環境に対するコントロールは弱まり、伝統的な家や土地からの立ち退きから保護さえできない共同体がある。生存にさえも十分でない賃金や労働者の生命を常に危険にさらす低い安全基準など労働者に対する大規模な搾取がしばしば行われている。最も初歩的な労働者の権利や法さえも実施されることはほとんどない。

1.3 アジアの開発は矛盾に満ちている。一部の人々の富が増える中、大規模で深刻化する貧困が存在する。大多数の人の健康、栄養および教育の水準は悲惨であり、それは人間の命の尊厳を否定するものである。同時に、アジアは世界の中で最大の武器購入地域であり、貴重な資源が兵器に費やされている。我々の政府は、生産および福利の水準を引き上げるための開発を追求していると主張するが、我々の資源は最も無責任に枯渇し、我々の中の恵まれた者にとっても環境は生活の質が計り知れないまでに悪化するほど汚染されている。ゴルフ・コース建設の方が貧困者や不利な境遇にある者に対する配慮よりも優先順位が高い。

1.4 アジアの人々はこの数十年、超国家主義、歪んだイデオロギー、民族の違いやあらゆる宗教の原理主義から生じる紛争や暴力に苦しめられてきた。暴力は国家と市民社会の一部の両方から生じる。多くの民衆にとって身体、財産や共同体の安全はほとんどない。大規模な共同体からの強制立ち退きが起こっており、難民の数は増大している。

1.5 政府は自らのために巨大な権力を奪取した。彼らは人々の権利および自由を抑圧する立法を制定し、国民的資源の略奪のために外国企業や団体と共謀してきた。腐敗と血縁主義が蔓延し、公権力および私的権力をもつ者の責任はほとんど問われない。多くの国家では権威主義が国家イデオロギーの水準まで引き上げられ、市民の権利および自由はアジアの文化的宗教的伝統には不適切な外国の思想として避難され剥奪されている。それに代えて、彼らの権威主義の見え透いた口実にすぎない「アジア的価値」がもっともらしく吹聴されている。世界のすべての主要地域の中でアジアだけが正式な地域憲章または権利および自由を保護する他の地域的取極を持たないことは驚くに値しない。

1.6 アジアの多くの国家における公権力による人権の軽視や蔑視とは対照的にアジアの諸民族の間に権利および自由の重要性の認識が増大しつつある。彼らは彼らの貧困および政治的無力と、これらの権利および自由の拒否との間の関連を認識している。彼らは、経済的正義、政治的参加と政治的責任および社会平和を確保するためには政治および経済システムが権利と自由の枠組み内で作用しなければならないと信じている。多くの社会運動が人々の権利および自由を確保するための戦いを始めている。

1.7 我々の権利へのコミットメントは抽象的なイデオロギーに依拠するものではない。我々は人権の尊重が公正で、人道的な優しい社会の基盤を成すと信じている。権利の保障体制は、我々は生まれながらにして平等であり、平等に尊厳の中に生きる権利を持つという信念を前提としている。それは政策策定および行政への参加を通じて我々の運命を決定する権利の上に成り立っている。それは我々が自らの文化を発展させ、享受し、我々の芸術的感情を表現することを可能にする。それは未来の世代と彼らが受け継ぐ環境に対する我々の義務を認識する。また、それは我々の制度や政策の価値および正当性を評価する基準を確立する。

一般原則

2.1 具体的権利およびその保護のための制度や手続きから、いくつかの一般原則を導き出すことができる。それらは権利の基盤を成し、その受容と実施が権利の完全な享受を可能にする。以下に述べるこれらの原則は、我々が権利が促進されると信じる公共政策の広範な枠組みを提供する。

権利の普遍性と不可分性

2.2 我々は世界人権宣言、経済的社会的および文化的権利に関する国際規約、市民的および政治的権利に関する国際規約、および権利および自由の保護のための他の国際文書を支持する。我々は権利が普遍的であり、あらゆる人が人であるということだけで権利を有すると信じる。文化的伝統は社会内部の関係をいかに組織するかに影響を与えるが、市民と国家との関係および人や集団の固有の尊厳に主に関わる権利の普遍性を損なうことはない。我々はまた権利および自由が不可分であり、ある種の権利のために他に権利を抑圧できると考えるのは誤りであると信じる。人には社会的、文化的および経済的ニーズや願望があり、それらは切り離したり区分したりすることはできず、相互に依存している。市民的、政治的および文化的権利は、それを行使し享受するための経済資源がなければ意味を成さない。同様に物質的富の追求と獲得は政治的自由、自らの人格を発展させ表現し、文化的および他の議論を行う機会なしには不毛で自己破滅的である。

2.3 普遍性と不可分性にも関わらず、権利の享受と重要性は社会的、経済的および文化的文脈如何による。権利は抽象的なものではなく、行動と政策の基盤である。したがって、我々は権利の抽象的枠組みを行うことを終え、権利の大規模侵害と特徴づける状況にある特定集団の状況を調べることによってアジア的文脈において権利を具体化するようにしなければならない。アジアの状況の特性に権利および権利の実施を関連づけることによってのみ権利の享受が可能となる。またこの方法によってのみアジアは権利保護のための世界的運動に貢献することができる。

2.4 高度な経済発展を達成できた国家にさえも存在する広範な貧困は権利侵害の主要な原因である。貧困は個人、家族および共同体から権利を奪い、買売春、児童労働、奴隷制、臓器売買、物乞いの能力を高める身体の損傷などを助長する。貧困の中で尊厳をもって生きることは不可能である。アジアの諸国は開発のより衡平な形態を通した貧困の撲滅に向けて開発政策の方向をとらなければならない。

人権保護の責任

2.5 権利保護の責任は国際的と国内的両方にある。国際社会は人権の慣行を支配すべき規範および制度に合意している。アジアの人々は権利保護の国際的措置を支持する。国家主権を国際規範の回避や国際制度の無視の口実として用いることはできない。国家主権の主張は国家が自国民の権利を完全に保護したとき初めて正当化される。

2.6 他方、国際的責任を特定の国家に対する選択的懲罰や処罰に利用することはできない。また、一連の権利を他の権利に優先させるために用いることもできない。人権侵害の根本原因のいくつかは国際経済および政治秩序の不衡平にある。世界秩序の徹底的な変革と民主化が人権のグローバルな享受の必要条件である。権利の普遍性と平等の理論は、世界中のあらゆる人々の社会的および経済的福利に対する国際社会の責任につながり、したがって世界的に資源と機会をより衡平に分配する義務につながる。

2.7 人権伸長の第一義的責任は国家にある。諸国と諸人民の公正な経済的、社会的、政治的および文化的発展への権利はグローバルな過程によって否定されてはならない。国家は異なる集団の権利義務が確認され、共同体の個人の利益のバランスが達成される開かれた政治過程を確立しなければならない。民主的で責任ある政府が権利の伸長と保護の鍵である。

2.8 国際社会と国家の権利を伸長し保護する能力は、経済および社会政策に対する権力が国家から企業に移りつつあるグローバル化過程によって弱められている。国家は金融および他の企業に、少数の富の増やす一方、多くの人々の多大な困難をもたらす狭量で近視眼的な経済政策を実施することを強いられつつある。企業は特に労働者、女性および先住民族などの多くの権利を侵害している。企業の権利侵害の責任を問えるようにすることによって権利レジームを強化する必要がある。

持続可能な開発と環境の保護

2.9 経済開発は持続可能でなければならない。我々は、GNP増加に伴い生活の質が低下しないよう、商業的事業の貪欲と剥奪から環境を保護しなければならない。技術は人を奴隷化するのではなく、解放しなければならない。天然資源は我々の未来の世代に対する義務に適合するように利用されなければならない。我々は自らが天然資源の一時的管理者に過ぎないということを決して忘れてはならない。また、我々はこれらの資源が人類全体に与えられ、したがってそれらの責任ある公正で衡平な利用に共同責任を負っているということを忘れてはならない。

権利

3.1 我々は国際文書に含まれるすべての権利を支持する。ここでそれらを繰り返し列挙する必要はない。我々はそれらが全体としてみられなければならず、個人の権利は次章の基盤を成すより広義の概念化を通して追求されることが最善であると信じる。

生命の権利

3.2 まず筆頭に、他の権利および自由が由来する生命の権利があげられる。生命の権利は単なる物理的または動物的存在にとどまらず、生命が享受されるあらゆる身体の部分、機能の権利をも含む。これは人としての基本的な尊厳をもって生きる権利、生計を立てる権利、住居または家への権利、教育の権利および清潔で健全な環境の権利を意味する。これらなしには生命の権利の真で実効的な行使と享受はあり得ないからである。国家はまた、幼児の死亡の防止、栄養不良や伝染病の撲滅、清潔で健全な環境と十分な予防的および治療的医療施設による平均寿命の改善のために可能な限りのあらゆる措置をとらなければならない。国家は初等教育を無償および義務としなければならない。

3.3 しかしアジアの各地では、戦争、民族紛争、文化的および宗教的抑圧、政治腐敗、環境汚染、失踪、拷問、国家的および非国家的テロリズム、女性に対する暴力および他の大規模暴力が、何千もの無実の人々の命を奪う人類に対する災難となり続けている。

3.4 生命の権利確保のため、個人、社会、国家または国際的生活のあらゆる領域における戦争または人種的紛争の宣伝、または憎悪および暴力の唱道は禁止されなければならない。

3.5 国家は拷問、失踪および拘禁中の死亡、レイプおよび性的暴力の事件を徹底的に調査し、犯人を裁かなければならない。

3.6 恣意的な生命の剥奪はあってはならない。国家は犯罪行為およびテロ行為による生命の剥奪を防止し処罰するだけでなく、自らの治安部隊による恣意的失踪や殺害を防止しなければならない。国家当局や公務員によって生命の権利が剥奪され得る状況は法によって厳格に管理し制限されなければならない。

3.7 すべての国家は死刑を廃止しなければならない。死刑が存続する国家では最も深刻な犯罪に対してのみ科されなければならない。死刑によって生命が剥奪されるまでに、自らの選択による法的代理の完全な機会、弁護の準備のための十分な期間、無罪推定、および上級の裁判所による再審理の権利を備えた、独立および中立的な公判による公正な裁判が確保されていなければならない。死刑は公開で行われてはならず、また公に展示されてはならない。

平和の権利

4.1 あらゆる人はいかなる種類の暴力の標的になることなく、肉体的、知的、道義的および精神的能力を含むすべての能力を完全に発展させることができるよう、平和に生きる権利を有する。アジアの人々は多くの死、身体の損傷、人々の国内外への(強制)移動、家族の分散および文明的または平和的生存の一般的否定をもたらした戦争や国内紛争による多大な困難や悲劇に苦しんできた。多くの国家において国家および市民社会両方が強力に武装し、あらゆる紛争が武力により解決され、市民は国家または私兵の脅迫と恐怖からのいかなる保護も持たない。

4.2 国家による法と秩序維持の義務は国際社会によって確立された、人道法を含む基準に則り武力の厳格な制限に基づいて行われなければならない。すべて個人および集団は、警察および軍によって行われる暴力を含む、あらゆる形態の国家的暴力から保護される権利を有する。

4.3 平和に生きる権利は、国家の政治的、経済的および社会的活動、企業および市民社会がすべての人民、特に社会的弱者集団の安全を尊重することを要求する。人々は、抑圧、搾取、暴力に頼ることなく、またその社会において価値をもつものを損なうことなしに、彼らが住む自然環境および彼らのニーズや願望を充足させる経済的および社会的条件との関連において安全を保障されなければならない。

4.4 ファシズムの侵攻、植民地主義および新植民地主義との戦いの中で、アジア諸国はそれぞれの人民が平和に生きる条件をつくるために重要な役割を果たした。この戦いにおいて彼らの国家の統合と覇権国家の不干渉の主張は正当であった。しかし今となって、国家の統合の要求、または外国による支配の脅威からの保護を、人々の身体の安全と平和に生存する権利を否定する口実として利用することはできない。人々の権利抑圧が外国からの投資誘致の口実として正当化され得ないのも同様である。人が平和に生きる権利は国家が国際社会に対して責任を負ってのみ保障される。

4.5 国際社会はアジアにおける戦争や国内紛争に大きく関与してきた。外国はアジアの集団に代理で戦争を起こさせ、武装集団や政府に国内紛争を行わせた。彼らは兵器の輸出で多大な利益を得た。武器のための膨大な支出は国家開発または人々の福利のためのプログラムから歳入を奪った。(多くは外国のものである)軍事基地や他の施設は隣接する人々の社会的および肉体的安全を脅かしてきた。

民主主義の権利

5.1 植民地主義および他の近代的展開はアジアの政治社会の性質を著しく変化させた。公務における伝統的な責任と市民参加のシステム、並びに政府と市民の関係は根本的に変えられた。市民は臣民となり、政府はより大きく、強力になった。植民地法や権威主義的習慣および行政形式は独立後も残った。国家は腐敗と人々の抑圧の源泉となった。国家の民主化と人間化が権利の尊重と保護の前提条件である。

5.2 人々の発展と福利の第一義的責任をもつとする主張する国家は、人道的で開放され責任あるものでなければならない。人権尊重のコロラリーは、人々が自由に意見を表現し、他者の説得を試みることができ、少数者の権利が尊重される寛容で多元的システムである。人々は、人種的、宗教的または性的差別なしに、選挙や他の意志決定および実施過程を通じて公務に参加しなければならない。

文化的アイデンティティーの権利と良心の自由

6.1 生命の権利は、物質的だけでなく道義的条件をも含むことにより人の意味ある生存を可能にする。この意味は個別的に決定されるだけでなく、他者との共存をも基盤とする。アジア的伝統は共通の文化的アイデンティティーの重要性を強調する。文化的アイデンティティーは個人や共同体が経済的および社会的変化のプレッシャーに対処するのを助け、急激な変革の時代における生活に意味を与える。それらは誇りと安全の源である。アジアには他の地域と同様、自らの文化が脅かされ、または軽視される社会的弱者の共同体が多く存在する。アジアの人民および政府は多様な共同体の文化および伝統を尊重しなければならない。

6.2 アジアの文化的あいでんてぃてぃーの多元性は人権の普遍性と矛盾せず、むしろ普遍的規範を豊かにする人間の尊厳の多様な文化的表明なのである。同時に、我々アジアの人民は我々の文化の中で人権の普遍的原則と矛盾する特質を排除しなければならない。我々は父権的伝統に根付いた伝統的家族概念を克服し、女性の人権を保障する家族規範の多様性を我々の文化的価値の中に取り戻さなければならない。カースト制、人種、職業、出生地や他の理由による差別を廃止し、同時に相互の寛容と支援につながるあらゆる価値をそれぞれの文化において拡大しなければならない。また、集団または権力のために個人を犠牲にする慣行を廃止し、共同体および国民的団結を新たにしなければならない。

6.3 ほとんどの人が厚い信仰心をもつアジアでは、宗教および良心の自由は特に重要である。宗教は貧困と抑圧の中における慰めと安らぎの源である。多くの人は自らの第一義的なアイデンティティーを宗教の中に見出す。しかし、宗教的原理主義は分断と紛争の原因でもある。宗教的寛容は、改宗する権利をも含む他者の良心の権利の享受にとって不可欠である。

発展と社会正義の権利

7.1 すべて人は生命の基本的必需品に対する権利と虐待および搾取からの保護の権利を有する。われわれはすべて健康な生存のために識字と知識、食物と飲料水、住居と医療施設への権利を有する。すべて人や集団は技術の進歩と世界経済の成長の恩恵を分かち合う権利を持つ。

7.2 個人および国家にとって発展とは経済発展のみを意味するのではない。発展とは人のすべての可能性の実現である。したがって、人は芸術的自由、表現の自由および文化的精神的能力の育成の自由を有する。発展は国家と共同体の事項に参加する権利を意味し、国家は覇権的圧力および影響なしに自らの経済的、社会的および文化的政策を決定する権利を有することを意味する。

社会的弱者集団の権利

8.1 アジア諸国は前記の権利の一般的枠組みの中で公共政策を策定し実施すべきである。この方法によって我々は個人と企業の生活の公正かつ人道的条件を確立し、社会正義を確保することができると信じる。しかし、歴史的または他の理由により弱く、したがって人権の平等で実効的享受のために特別な保護を必要とする特定の集団がある。いくつかのそのような集団の状態を検討するが、しかし差別と抑圧に苦しむ他の集団も存在することも認識している。それらは国内紛争、政府の政策または経済的困難によって住居からの退去を強いられ、国内外の他の場所に庇護を求める人々を含む。我々の国家や社会は少数者や先住民族に対して益々不寛容になり、彼らの最も基本的な権利はしばしば侵害される。我々の社会の多くはゲイやレズビアンを未だに差別し、彼らのアイデンティティーを否定し、彼らに大きな苦痛と不幸をもたらしている。農民や漁業共同体のような経済的集団は多大な欠乏に苦しみ、地主や資本主義事業による生計に対する脅威に常にさらされている。これらの集団すべては特別の注意に値する。我々は国家および共同体に彼らの社会的および経済的条件の緩和を最優先課題とするよう要請する。

女性

9.1 アジアのほとんどの社会において女性は差別と抑圧に苦しむ。彼らの抑圧の原因は歴史と現在の社会および経済システム両方にある。

9.2 父権主義の根はあらゆる分野にまで張り巡らされ、その構造はアジア社会のあらゆる制度、態度、社会規範および慣習法、宗教および伝統を支配し、階級、文化、カーストおよび人種の境界を越えている。抑圧は多様な形態をとるが、性的奴隷制、家庭内暴力、女性の売買およびレイプに最も顕著に現れている。女性は公的、私的領域両方において差別されている。多くのアジア社会の軍事化拡大は、大量レイプ、強制労働、人種差別、誘拐および(強制)移住を含む、武力紛争状態における女性に対する暴力の増大をもたらした。武力紛争の女性犠牲者はしばしば戦争犯罪に対する裁判、リハビリテーション、補償および賠償を否定されるため、システム的レイプは戦争犯罪であり、人道に対する罪であると強調することは重要なことである。

9.3 雇用および労働の権利の分野における女性に対する差別を廃止するために、女性に雇用機会、職業の自由選択、職の保障および賃金の平等の権利、家庭内労働に対する補償の権利、および特に生殖機能の保護や妊娠時において危険となり得る労働からの特別保護を含む、健康保護と安全な職場条件の権利が与えられなければならない。女性には、差別または強制なしに自らの性的および生殖的健康のコントロールに対する完全な権利、および性的および生殖的ヘルス・ケアや安全な生殖技術に関する情報へのアクセスを与えるべきである。

9.4 国内の父権的領域において女性を権利侵害から保護する法的規定は少ない。公法における女性の権利はほとんど遵守されない。社会の政治的および公的生活における女性の完全で平等な参加を確保するために積極的措置がとられなければならない。国家権力の様々な制度およびビジネス、農業や土地所有の分野における女性のプレゼンスの大幅拡大は特別措置によって図られなければならない。女性の政治的、社会的および経済的エンパワーメントは女性の法的権利擁護のために不可欠である。

児童

10.1 女性の場合と同様、児童の抑圧には多くの形態があり、最も広範に見られるのは児童労働、性的奴隷、児童ポルノグラフィー、児童の売買、売買春、臓器売買、麻薬売買への関与、家族内の児童の肉体的、性的および心理的虐待、HIV・AIDS感染児に対する差別、児童の強制的改宗、武力紛争による家族を伴う、または伴わない(強制)立ち退き、差別および環境汚染である。アジアの諸都市で路上に住むことを強いられ、家族や共同体の社会的および経済的支援を剥奪される子どもの数は増加している。

10.2 広範な貧困、教育へのアクセスの欠如および農村における社会的変動などは児童の立場の弱さを悪化させる傾向の原因となる。債務労働または物乞いや性的満足を得るために児童を利用するなどの従来からの搾取と虐待の形態は蔓延している。父権的男児優先に基づく女児殺害および女性の性器損傷はアジアの数カ国で広範に実施されている。

10.3 アジア諸国は児童の世話と、生存の最小限の手段および住居を提供することに惨めに失敗している。我々はアジア諸国に児童の権利に関する条約を批准し実施することを求める。また、共同体に児童の権利侵害を環視する責任をもち、自らの社会的文脈にとって適切な方法による国連条約の実施を要求するよう求める。

異なった能力を有する人々(障害者)

11.1 伝統的にアジアの社会は肉体的または精神的なハンディキャップのある人たちに配慮してきた。経済組織の新しい形態の圧力により我々の共同体の価値および構造は次第にこのような人々に対し不寛容になっている。彼らは教育、雇用および住居へのアクセスに関し甚大な差別を受ける。彼らは彼らに対する偏見および彼らに固有の要求に応じた政策の欠如のために人権を享受できない。彼らの少なからぬ能力は適切に認識されず、低賃金で昇進の展望がほとんどない職に就くことを強いられる。彼らは尊厳、安全および尊敬の中に生き、彼らのすべての可能性を実現する機会を持つための政策・施設への権利を有する。

11.2 そのような人々を彼(彼女)らの人権を尊重して処遇する必要は、アジア諸国がHIVもしくはAIDSの人々に惨めな扱いをしていることからも明らかである。彼(彼女)らは、重大な差別の犠牲者である。人権を尊重する市民社会は、彼(彼女)らが尊厳を保って生き、そして死ぬ権利を認める。市民社会は適切な医療に対する権利と偏見、差別もしくは迫害からの保護を受ける権利を確保する。

労働者

12.1 アジア社会の急激な工業化は自給自足経済の伝統的形態を覆し、農村の多数の人の生計の可能性を破壊した。彼らおよび他の集団は次第に賃金雇用、しばしば工業に移行し、悲惨な条件の下で働くことを強いられた。労働者の大多数には不公正な労働法からの保護はまったくないか、またはほとんどない。労働団体を組織し、団体で交渉する基本的権利は多数に否定されている。彼らの賃金はきわめて不十分であり、労働条件はしばしば苛酷で危険である。アジア諸国の多くがしばしば外国企業および国際金融組織と共謀して生産コストを下げようとする中で、グローバル化は労働者にさらに圧力をかける。

12.2 労働者の中で特に弱い立場にあるのが移住労働者である。彼らはしばしば家族と離れ、法を理解せず、恐れて訴えることのできない外国において搾取される。彼らには権利およびその国の労働者の享受する条件はしばしば否定される。彼らは十分な住居、ヘルス・ケアまたは法的保護へのアクセスなしにこつこつと働く。多くの場合、移住労働者は人種主義や外国人排除主義に遭遇し、家事労働補助者は屈辱と、時折性的虐待にさらされる。

学生

13.1 アジアの学生は植民地主義に対し、またその後民主化と社会正義のために戦った。彼らの恐れを知らぬ社会変革への献身の結果、彼らはしばしば国家の暴力と抑圧にさらされ、反乱弾圧および国内治安法や措置の主要対象の一つとなる。学生はしばしば学問の自由および表現や結社の自由の権利を否定される。

囚人および政治的被拘禁者

14.1 囚人および政治的被拘禁者に関連する分野ほど国際的に承認された規範の大規模侵害が起こる分野はない。

14.2 恣意的逮捕、拘禁、投獄、虐待、拷問、残虐で非人道的刑罰はアジアの多くの場所で日常的に行われる。被拘禁者および囚人はしばしば非衛生的条件の中で生きることを強いられ、十分な食物およびヘルス・ケアを拒否され、家族と連絡し、支援を受けることを妨げられる。しばしば多様な囚人が一つの部屋に混在し、男性、女性および児童が近接して収用される。刑房は通常人員過剰である。拘禁中の死は日常的に起こる。囚人は弁護士へのアクセスおよび公正で迅速な裁判の権利をしばしば否定される。

14.3 アジアの諸政府はしばしば裁判なしの拘禁に行政権力を用いる。彼らは国家安全立法を政治的敵対者を逮捕するために利用する。アジアの多くの国で、思想、信念および良心の自由が表現および結社の自由の行政的制限によって制限されていることは注目に値する。

権利の実施

15.1 アジアの多くの国家は自らの憲法の中に人権の保障を有し、多くは人権に関する国際諸条約を批准している。しかしこれらの法や条約に掲げられる権利と人々の権利を否定する悲惨な現実の間には大きなギャップがあり続ける。アジアの諸国家は市民および住民の人権を実施する行動を早急にとらなければならない。

実施のための原則

15.2 我々は権利保護の制度が次の原則に基づかなければならないと信じる。

15.2a 人権は国家、市民社会および企業によって侵害されている。権利の法的保護はこれらすべての集団による侵害にまで拡大されなければならない。また、これらの集団の倫理的基盤および価値を強化し、不利な境遇にある者および被抑圧者に対する責任感を育むことによりこれらを改革することが必要である。

15.2b 権利の伸長と実施の第一義的責任は国家にあるが、社会のあらゆる集団にも責任がある。多くの権利、特に社会的および経済的権利の享受は政府の積極的および能動的役割が必要である。NGOには権利の意識を高め、基準を作成し、政府および他の集団による権利の保護を確保する明確で正当な役割がある。法律家や医師などの専門職集団は彼らの職務の特性に関連した、権利の実施を促進し、権力の乱用を防止する特別な責任をもつ。

15.2c 国内争乱状態の中では権利の重大な侵害が起こり、平和の中では権利が強化されるので、国家および他の組織は社会的および人種的紛争を平和的に解決し、寛容と調和を促進する責任を有する。同じ理由によりいずれの国家も他の国家を支配しようとすべきでなく、国家はそれぞれの争いを平和的に解決しなければならない。

15.2d 民主的およびコンセンサスに基づく慣行が遵守されるならば、権利は向上する。したがってあらゆる国家および他の組織はこれらの慣行を職務の中で及び他者との関わりにおいて促進する責任を有する。

15.2e アジアの個人および集団の多くは、特にカースト、性差または宗教などに関する抑圧的社会慣習や慣行のために権利を行使することができない。したがって権利保護のためにこれらの習慣や慣行を直ちに変革することが必要である。変革は精力的に断固として実施されなければならない。

15.2f 人道的で活力ある市民社会は人権および自由の伸長と保護、市民社会の中での権利の確保および国家機関に対するチェック機能を果たすために必要である。表現および結社の自由は市民社会の制度の確立と機能のために必要である。

15.2g 企業の搾取的慣行を抑制し、彼らが労働者、消費者および一般大衆の権利を侵害しないよう確保することが必要である。

権利のための枠組み強化

15.3a 権利のための法的枠組みを確保することが不可欠である。すべての国家は憲法の中に権利の保障を含め、それは改正立法による侵食の防止を憲法的に保障されていなければならない。彼らはまた国際人権諸条約を批准すべきである。彼らは立法および行政慣行を国内および国際基準に照らし、これらの基準に反する規定、特に植民地時代から残存する法を廃止すべきである。

15.3b 一般大衆、および国家と市民社会の機関における権利の知識および意識を高めなければならない。国家的および国際的権利レジームの意識が促進されなければならない。個人および集団は自らの権利を確保し、権利の乱用を防止し得る法的および行政的手続きを周知しなければならない。NGOは権利の監視および再検討のために国内的および国際的メカニズムを知り、それを利用することを奨励しなければならない。権利保護に関する司法判断および行政決定は国内およびアジア地域に広く普及されなければならない。政府、NGOおよび教育機関は人権の重要性と内容に関する情報発信に協力しなければならない。

15.3c 拘禁中または治安部隊の他の活動により権利侵害が多発している。これらの侵害は時には治安部隊が彼らに許容された権力の範囲を尊重しない、または彼らの行動のもとにある命令が違法であると認識しないため起こる。警察、刑務所および軍の人員に対し人権規範に関する研修を施さなければならない。

権利実施の機構

15.4a 司法は権利保護の主要な手段である。司法は権利侵害の苦情を受け、証拠を検討し、侵害者の処罰を含む侵害に対する救済を付与する権限を有する。司法は強力で組織立った法制度があって初めてこの機能を果たすことができる。司法の人員は有能で、経験を有し、人権、尊厳および正義に対するコミットメントを有していなければならない。彼らの任命権を司法委員会に付与し、また彼らの任期を憲法によって保証することにより、彼らを立法および行政から独立させなければならない。司法機関は国民の宗教、地域、性別および社会階級の様々な部分の特性を公正に反映していなければならない。つまり司法および捜査機構の再構築が行われなければならない。より多くの女性、不利な境遇にある集団、および社会の「最下層」(Pariah)を意図的な国家行為により底辺から引き上げ、必要な訓練を施した後司法的地位につけなければならない。そのような措置によってのみアジアの伝統的社会において人権が通常無視される弱い集団の自信をつけることができる。

15.4b 司法職は独立していなければならない。弁護士を雇うことができない、または裁判所のアクセスがない人々の権利を保護するために法律扶助を提供しなければならない。裁判所のアクセスを不当に制限する規則は改定し、広いアクセスを提供しなければならない。社会的および福祉団体に裁判所を利用できない個人や集団に代わって訴訟を起こす権限を与えなければならない。

15.4c すべての国家は人権委員会および人権、特に社会的弱者の人権保護のための特別機関を設置しなければならない。これらは人権侵害の犠牲者に容易で、友好的かつ安価な裁判へのアクセスを提供する。これらの組織は司法の役割を補完することができる。これらにはまた次の利点がある。これらは人権規範実施の基準確立を補助し、人権に関する情報を発信し、権利侵害の訴えを調査し、和解および調停を促進し、行政または司法手段により人権を実施しようとすることができる。これらは一般の人からの苦情に基づくのと同時に自ら行動することもできる。

15.4d 市民社会機関は、政府および一般の良心にふれることのできる人民裁判所(People's Tribunal)を組織することにより権利実施を補助することができる。人民裁判所設置は、権利保護の責任は国家の領分ではなく広範なものであることを強調する。人民裁判所の判断は法的規範に限定されず、したがって人権の道義的および精神的基盤を明らかにすることができる。

権利保護の地域的制度

16.1 人権の保護は地方、国内、地域および国際のあらゆるレベルで追求されなければならない。それぞれのレベルにおける制度は各々特有の利点や能力を有する。権利保護の第一義的責任は国家にあり、したがってこの義務を果たすための国家の能力増大を優先課題としなければならない。

16.2 アジア諸国は権利伸長および保護のための地域的または小地域制度を採択しなければならない。国内および地域的NGOの協力を得て地域的フォーラムにおいて策定した国家間の人権条約が存在しなければならない。条約は特に権利享受を妨げる障害などのアジアの現実に目を向けなければならない。同時に条約は国際規範および基準に完全に合致していなければならない。また、国家機関に加えて、集団および企業による権利侵害も含んでいなければならない。条約実施のために独立した委員会または裁判所が設置されなければならない。委員会または裁判所へのアクセスはNGOおよび他の社会組織にも開かれていなければならない。

(翻訳:岡田 仁子 監修:金 東勲)