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韓国でうろたえながら考えた国際結婚

藤本伸樹 (ヒューライツ大阪)

土地勘のない下見出張から始まったスタディツアー
  07年3月末、受入れていただく団体へのお願いや訪問施設の下見をするために、今回のスタディツアーを共同企画した朴さんとともにソウルに向かった。同行したとはいっても、母語の河内弁と母国語の韓国語を自在に話す朴さんに、韓国語をまったく理解せず、ソウルの土地勘もゼロに近い私が手を引いて連れて行ってもらったような下見であった。私はかなり旅慣れていると自負していたのだが、地理を熟知した人物といっしょにいると、つい依存心が出てしまい、なかなか自分では覚えようとしない。もし出先ではぐれたときのために、どうすれば単独で宿舎まで帰り着くことができるかを真剣に尋ねたほどだった。
  まあそれでも出張で訪問したという立場。朴さんの、そして一時合流していただいたヒューライツ大阪の元所長で、現在は韓国と日本を行き来されている金東勲先生に通訳をお願いしながら、できる限り事前情報の収集や打ち合わせを試みた。

シンポジウムのテーマは「よりによって国際結婚!?」
  ツアーの初日にインチョン空港から直行した国家人権委員会で、私たちを迎えていただいたチョン・カンジャ常任委員には、下見出張の際、8月3日にシンポジウムを共催することになった梨花女子大学のアジア女性学センターの皆さんを紹介していただいた。
  私たちは、日韓における途上国出身の移住女性の人権に関するシンポジウムを共催したいという意志を伝えた。そうすると、移住女性の人権を論じる際には、いまの韓国ではまず国際結婚をとりあげるべきだという意見が同センターのホ・ラグム所長をはじめ各スタッフから異口同音に飛び出してきたのだ。私たちはその関心の強さに押されるような形で同意したのである。まずはソウルで国際結婚から移住女性の人権を議論し、10月に開催する大阪でのシンポでは日韓における移住女性労働者の人権に焦点を当てることで合意した。
  正直なところ私はその瞬間、「よりによって!」と心の中で叫んだ。「国際結婚」は、私にとってアキレス腱のようなテーマだからである。とりわけ、日本男性と途上国からの女性との婚姻を人権の視点から考えるということを、長いあいだ意識的に避けてきた。もちろん仕事の性質上、まったく無関係でいることはできなかったものの、できることならば封印しておきたい課題であった。9年近く前にフィリピン人女性との結婚が破綻し、物心もついていない幼いひとり娘とともにある日突然去られてしまい、そのショックとあとに続く苦汁の日々を経験していたからである。なんと皮肉にも1998年、世界人権宣言50周年の記念イベントの準備で帰宅の遅い日々が続いていた頃だった。
  しかし、私は打合せの場で頭と気持ちの整理に努めた。破綻してからすでに長年たっていることや、完全に客観視し冷静に考えることは無理であっても、もうそろそろこの問題と向き合ってもよい時期、いやもっと積極的に向き合う時期にきていると考えて、エイヤと「覚悟」を決めたのであった。

突きつけられたのが運のツキ
  「覚悟」を決めたものの、シンポジウムの準備の過程で、読み聞きする言説の多くに私は幾度か傷ついた。どこの国にも、自然環境をはじめ生活環境が厳しいところに暮らしている「結婚困難者」の男性はいるであろう。だが、そうではなく都市に暮らしながらも、自国の身近な女性から結婚相手にされないような「パッとしない男性」たちが、経済格差という「助力」を得て途上国の女性たちと結婚するものの、男性側の引き起こすさまざまな問題により破綻にいたる「男性悪説」が繰り返し語られた。「あ~、また耳にタコ」。
  私もそのひとりだったのか? もう何と思われてもいい。開き直ろう。ツアーのメインテーマである国際結婚を対象化して、多少なりとも正面から考えようという気持ちがわいてきた。国際結婚破綻の経験を引きずりながらも、これからはポジティブな志向をもって考えていきたいと思うように少しはなれた心の旅でもあった。