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国際結婚移民者と共に暮らす地域づくり -韓国スタディツアーに参加して-

武田里子 (日本大学大学院博士後期課程)

  私がこのツアーに参加したのは、新潟県で農村社会の変容と国際結婚移住者との関係を調べているからです。「ムラの国際結婚」が話題になった80年代後半に、日本では多くの韓国人花嫁を迎え入れました。その後、韓国も「外国人花嫁」の受入国となりました。しかも、韓国の「国際結婚」は、日本以上に急速に増加しているようです。2005年には、結婚総数の13.6%が国際結婚となり、特に農村地域では、韓国男性の35.9%が外国人女性との結婚という報道もありました(2006年4月3日付、日本経済新聞)。男性の結婚難は、日本と韓国だけでなく、台湾でも顕著です。3か国・地域に共通しているのは、少子化と従来の男女の性別役割分担が機能不全を起こしている点ではないかと思われます。

  「女性の人権の視点から見る国際結婚」シンポジウムでは、「国際結婚」は男性の危機回避の手段で、それを国家が後押ししているという発言がありました。韓国政府は、1995年から農村男性と中国朝鮮族の女性との結婚支援を始めます。1999年に結婚仲介業を自由業とする法改正を行った結果、700社程度だった業者が一気に3,000社に増加し、「国際結婚ブーム」を引き起こしました。「花嫁」の出身国もタイ、ベトナム、モンゴル、カンボジアなどへと広がりました。1997年の通貨危機をきっかけに、家族が個人の人生を保障する枠組みが変わったという発言もありました。通貨危機を通じて韓国では、社会規範の根幹のところで何か変化が起きたのかもしれません。

  一方で私が興味を覚えたのは、韓国政府の迅速な対応でした。結婚仲介業の自由化とともに、DVやさまざまな人権問題が表面化すると、2001年に設立した国家人権委員会の中にある人種差別チームを移住人権チームに改組し、国際結婚移民女性の問題に対応する体制を整えます。2006年12月には「緊急コール・センター」も開設し、相談者には移住女性を採用して6か国語で対応できる体制を整えました。国家人権委員会では、2007年9月に結婚斡旋業を規制する法案を上程し、また、「花嫁」たちの送り出し国の調査も予定していると伺いました。最近の情報では、花嫁の送り出し国政府と協力して、違法な斡旋を監視するためのスタッフを各国に駐在させることも決めたようです。

  「農村の結婚難に陥った男性を自治体が支援する方式は日本から学んだ」という発言や、シンポジウムの開会挨拶で、「国際結婚」をめぐる日本の経験を共有して、問題解決のための新たな展開を目指したいという呼びかけを受けました。しかし、日本では「ムラの国際結婚」に対する対応について、どれほど語れることがあるのだろうかと考えさせられました。日本には国家人権委員会も、政府の中には未だ外国人政策を担当する部署も設置されていないのが実情です。

  韓国セミナーの後、韓国の研究者とも交流がある日本青年館・結婚相談所長とお話をする機会があり、「韓国では、(外国人花嫁たちが)なぜ来たかを問うのではなく、定住する外国人を地域の資産として、その優れた能力を活かすための支援に関心が移っている」と伺いました。

  日本では「ムラの国際結婚」が話題になって20年が経ち、初期の国際結婚カップルの子どもたちは成人しはじめています。女性たちは、まだせいぜい50代。一方、結婚時の年齢差を考えると夫たちは70代になっています。子どもたちが巣立った後の喪失感、年金問題、アイデンティティの問題、生きがいの問題、老後問題など、これから初めて向き合う課題がいくつも想定されます。順番に行けば、夫が先に亡なくなります。そのときに相続権に関する親族との問題は起きないのでしょうか。「イエ」や「ムラ」の存亡をかけた「国際結婚」だったはずですが、子どもは都会へ出て行き、女性たちに相続やイエの継承という概念が弱ければ、相続した資産を売却して母国へ帰るという選択もあるでしょう。「ムラの国際結婚」については、子どもたちの問題を含めて、今後、見守っていかなければならない課題が多く残っているようです。

  今回のツアーでは、国際人権委員会や韓国移住女性人権センターやNGOを訪問し、シンポジウムでは多くの方々のお話を伺うことができました。どれも有益なお話でしたが、全体として女性の人権問題に議論が集中し、「国際結婚」を生み出す社会背景や構造問題への言及が少なかったように思います。私は、都市部との比較で相対的に保守的と考えられてきた農村部の「国際結婚」が歴史的社会的に持つ意味や、日本社会にもたらす変化に関心を抱いています。「国際結婚」は、グローバリゼーションが生んだ移民の女性化の一部として生じた現象と考えられます。出身国以外で暮らす人の割合はこれからも拡大していくでしょう。国籍や民族が異なる人々が共に社会の一員として暮らすために求められる仕組みや制度をどのようにつくっていったらよいのか。今回出会った方々との交流を続けながら考え、身近なところで出来ることを実践していきたいと思っています。この貴重な機会を企画してくださった関係者の皆さまに心からお礼申し上げます。