第1回日韓人権教育研究会「韓国のセクシュア ル・ハラスメントの現状ととりくみ」の報告
2004年6月7日、韓国女性ホットライン代表の朴 仁恵(パク インヒェ)さんらを招いて、標記の第1回日韓人権教育研究会を開催しました、以下に報告の概要を紹介します。
韓国女性ホットライン代表の朴 仁恵(パク インヒェ)さんの報告
韓国女性ホットライン(以下「ホットライン」)は1983年に活動を開始した。20年を経た現在、全国に26支部がある。女性の人権団体として、あらゆる 暴力から女性の人権を保護し、あらゆる領域で女性の主体的参加を促進し、平和で民主的な社会を実現するために活動している。ソウルの本部の主な活動は、 1、性暴力問題をはじめとする女性の人権擁護、2、各支部活動を促進する地域運動、3、家父長的な意識や女性への偏見を是正するメディア文化運動の3つの 部門である。各支部では、女性への暴力追放運動を推進し、DVや性暴力相談所、シェルターの運営に携わっている。学校での性教育や地域住民への教育活動も 行なう。20周年を迎えての新しいキャッチフレーズは、「差別と暴力を超えて、平和な世の中へ」である。
HP : www.hotline.or.kr (韓国語)、 www.hotline.or.kr/english/kwhl.asp (英語)
「ホットライン」光明(クワンミョン)支部の姜銀淑(カンウンスク)さんの報告
1 セクハラの概念について 男女雇用平等法と男女差別禁止及び救済に関する法律によると職場内のセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」)いうのは、「業務、雇用、その他の関 係で、公的機関の従事者、使用者または勤労者がその地位を利用したり、又は業務等に関連して性的言動などにより性的屈辱感もしくは嫌悪感を感じさせたり、 又は性的言動その他の要求等に対する拒絶を理由として雇用上の不利益を与えること」をいう。また賃金を削減されなくても、セクハラにより労働意欲がそがれることも含む。類型別では肉体的行為、言語的行為、視覚的行為、その他(社会通念上、性的屈 辱感を誘発すると認定される言語や行為)に分けられる。
2 ソウル大学「ウ助教事件」での意義ある判決 1990年代初めまで、性暴力追放運動はレイプのような明らかな暴力事件に限られ、相対的にセクハラは軽く考えられていた。むしろ軽いセクハラは雰囲気を 和らげ、人間関係を円滑にすると思われていた。
1993年にソウル大で「ウ助教事件」が起こる。これは助教(外部から雇用された職員)職にあった被害者の名前が事件名になったものだが、女性団体は加害 者名でこの事件を呼ぶことにし、「シン教授事件」といっている。シン教授は、ウ助教に後ろから抱きつくような姿勢をとったり、髪をさわったり、デートに 誘ったりした。彼女が拒否するやシン教授は彼女を解雇したのである。ウ助教は不当解雇として大学内の立看板にこの事実を明らかにした。当初、男性の多くは よくあることだといった。女性団体はこれを見過ごすわけにはいかないと考え、シン教授とソウル大と国家の責任を問う裁判を起こした。一審はシン教授に3千 万ウォン(約3百万円)の賠償を命じた。マスコミは「教授と学生の間の情が薄れる」という論調であったし、「女性の身体をさわると3千万ウォン」という冗 談までいわれた。数年間の攻防の末、大法院(最高裁)でウ助教が勝訴した。判決は、セクハラが成立するために必ずしも女性が明確な拒否を示す必要がなく、 直接接触しなくても言語や視覚的なものもセクハラと認定するなど意義あるものであった。また性的な屈辱感を与えることが人権侵害であることが認定された。
この事件を契機に、セクハラ防止、被害者救済を求める法制化運動がはじまり、1999年に男女差別禁止及び救済に関する法律が制定され、初めて法律の中に セクハラという言葉が登場し、男女雇用平等法の改正によってセクハラの概念が規定された。セクハラが減少しているかどうかはわからないが、冗談であっても セクハラではないのかと指摘できる雰囲気はできつつある。
3 セクハラの現状 セクハラ問題だけのまとまった統計は今のところないが、2003年上半期、女性省男女差別企画担当課に是正を求める申請があった70件のセクハラについて 概要を説明する。発生場所は、職場内が46%、職場外が31%、宴会場所が28%。被害者の学歴は、高卒が75%、大卒が25%で、職位は一般社員が 95%。セクハラ行為者の方は上司が67%で、一般社員が29%。セクハラは職場での上司と部下という力関係の中で起こっている。またセクハラ予防教育の 義務は、100人未満の事業所には課せられていない。小規模事業所での発生が多いので予防教育実施が急がれる課題である。
ある女性団体の調査によれば、職場内の84%の女性がセクハラを経験している。類型別では言語的行為、肉体的行為、視覚的行為の順に割合を占めている。し かし、レイプとは違ってこうしたセクハラはほとんど外部に知られていない。
4 セクハラの対処の方法 公式ルートとしては労働組合を通して対処する方法がある。労働組合がなく社内に支援する組織がなければ、外部に支援を求めることになる。多くの女性団体が サポートしており、地方労働事務所、女性省男女差別申告センターも利用できる。セクハラ被害は、後遺症が深刻なので予防が重要である。社会に出る前の学生 に対する予防教育も必要であると考えている。
事業主は法的に予防教育を義務づけているが、違反しても処罰規定がない。もちろん処罰規定をおくべきであるが、積極的に予防教育にとりくむ事業所にインセ ンティブを与えるような方策がより望ましいと思っている。
女性ホットラインをはじめ各女性団体は、事業所からセクハラ予防教育の要請があれば対応できるよう講師をトレーニングしている。女性省も「講師バンク」制 度をつくっている。小さなセクハラであっても、被害者が職場をやめざるをえないケースがたくさんある。
また事業所が加害者に行なう懲戒も軽いものであることが多く、被害者の心のしこりがとれない。重要なのは、セクハラの行為の軽重ではなく、その行為によっ て被害者が働く意欲をなくすなど、どれだけ影響を受けるのかということであり、それを人権の視点からみることである。