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フィリピン・スタディツアーに参加して

岩渕徳好(人権教育ひょうご)

 私も事務局メンバーの一人である「人権教育のための国連10年」兵庫県推進連絡会(「人権教育ひょうご」)は今後のとりくみの重点の一つとして人権教育での国際交流をはかることを決め、その第1段階としてヒューライツ大阪の企画による今回のフィリピン・スタディツアーに参加することになりました。事務局のメンバーは皆忙しい方ばかりで、たまたま日程があいていた私が参加することになった次第です。
 フィリピンの人権教育はおろかフィリピンのことについてほとんど知識を持ち合わせていなかったことから、あわてて参考図書に目を通しました。しかし、ほとんど頭の中に入らないままの参加となりました。不勉強の言い訳のようですが、そのことがかえってなにもかも新鮮でよかったのかもしれません。
 5泊6日の日程でしたが、初日の午後半日と最終日の午前半日を除いて、丸4日間はびっしりとスケジュールが詰まっていてとてもハードでした。そのうえ屋外は暑く、屋内は冷房があまりきかなかったり、バスの中ではエアコンの調節ができないことからものすごく寒かったりで、体調を維持するのも結構大変でした。このような困難な条件にもかかわらず今回のツアはーこれまでに経験したことのない貴重なものとなりました。

 まず、7月31日に訪問した人権委員会ですが、憲法に規定された政府から独立した機関として人権委員会が存在するということは大変大きな意味を持っていると思います。わが国においては人権委員会そのものが設置されていません。2002年の3月に人権委員会を設置する内容を含む法案が国会に提出されていますが、法務大臣の所轄の機関となっていて、政府から独立した機関にはなっていないという大きな問題点をもっています。フィリピンではマルコスの戒厳令時代の経験から政府や政府役人による人権侵害を繰り返さないために設立されたとのことです。長い植民地支配と独立後の独裁政権による巨大な人権侵害を経験したがゆえの人権に対する思い入れの強さが感じられました。

 次に、私にとって大きな関心は学校教育における人権教育のありようでした。教育省の説明によれば、人権教育のプログラムは、人権委員会と教育省が人権教育に関する協力に向けた合意が形成された1992年に始まり現在で10年目になるとのことです。フィリピンの学校教育における人権教育の最大の特徴は人権教育を個別の独立した科目としないで、統合する、言い換えれば「人権の概念と責任について、学校のすべてのレベルのカリキュラムに入れる」(教育省令61)との姿勢であると言えます。独立した科目であれば1日に40分のみであるが、統合すればより多くの時間が使える、またより多くの教員が人権にかかわることができることを統合の利点であるとのことでした。
 しかし、理科や数学のような教科でどのように人権教育を統合できるのか率直に疑問に思い、質問をすると、理科のひとつの例として環境の保護、自然の保護をテーマとし、自然を保護する理由として私たちに食べ物や衣服など基本的権利を提供してくれるとの答があった。
 数学については技術的な科目なので統合が難しいが、平等の概念をそこに入れて教えている教員もいるとのことでした。数学についての説明には若干無理があるような気もしましたが、いずれにしても、人権それも自然保護をも視野にいれた広い意味での人権教育をすべての教科で取り扱おうとする教育省および現場の努力に触れ、感銘を受けました。

 フィリピン教育省から、人権教育で大切なのはまず人権の概念であり、次にプロセスや方法であるとお聞きしてまさにその通りだと思いました。人権の概念を学級にどう関連つけていくのかが重要だということ、またプロセスとしてドラマや演劇など多様な方法が考えられるとのことでした。そして実際にハイスクール(中高ひとつの4年制)での授業を参観することとなりました。
 このハイスクールは「ネパタリ・ A・ゴンザレス高校」といい2部制(6:00am ~1:40pm / 1:40pm~ 8:40pm)で3、517人の生徒が学ぶマンモス公立学校でした。私たちが参観したクラスの生徒数は71人で、この日の授業は「価値教育」という科目であり日本でいう「公民」と「道徳」が一つの教科になったようなものです。
 まず驚いたのは生徒たちのプレゼンテーション能力の高さです。またマルコスからアキノ大統領に政権移行したときの政変、エストラダからマカパガル大統領に移行した政変のビデオをみて、どう感じるのかを問うというように授業のテーマ(導入のひとつ)にも驚きました。日本ではこのような生々しいテーマで授業を展開することに抵抗を感じる教員が多いだろうと思いますし、まして授業参観ではとてもできません。エストラダを支持する生徒もいるし、もちろん支持しない生徒もいて、いずれにしても異なる意見が存在することが民主主義であるという授業のようでした。この日の授業のメインは<グループ・アクテイビテイ>でテーマは①「平和と調和」②「死刑制度」③海外移住労働者④環境保護⑤政府関係者の汚職の5つで、生徒たちはそれぞれのグループに分かれ、実にさまざまな形でのプレゼンテーションが行われました。生徒たちの話す英語があまりよく聞き取れなかったのがとても残念でしたが、生徒たちの表情やパフォーマンスから表現したい内容が十分伝わってきました。

 この他、今回のスタデイ・ツアはPAKISAMA(全国農民組合連盟)、COマルテイバーシテイ、サリガン(オルターナテイブ法律センター)、SAMBA(アンテイポロ山地小農連盟)、サンカップ・デイケア・センター、TACAD(堤防建設に反対するタキグ住民連合)を訪問しました。これらのNGOやPO(民衆組織)などで地道に粘り強く活動している人たちの話を聞き、それぞれに感銘をうけました。
 この国においては政府組織にしても民間組織にしても人権に関する国際的な基準を念頭において活動していて、我が国の人権教育の現状とは大きく異なるように思えました。8月1日に訪問したアンテイポロ山地小農連盟(SAMBA)のメンバーから「持続可能な農業」という言葉を耳にし、驚きました。山岳地でほんのわずかな土地で農業を営んでいる農民の口から「持続可能な」(sustainable)という国連の諸会議などで最近よく聞く用語がでてくるとは思いませんでした。

 最後に、一番衝撃を受けたのはケソン市パヤタスのゴミ捨て場でした。バスを降りたとたん、生ゴミ特有の悪臭に襲われました。ゴミ捨て場に隣接してあるコミュニテイがパヤタス地区。正直言って気が滅入りました。2000年7月10日に起きたゴミ捨て場の大規模な崩落事故の悲劇やゴミの中からリサイクルにまわせるものを拾い集め生活しているひとたちのことについての話を聞き、胸が締め付けられる思いでした。しかし、この地域に限らずフィリピンで出会った子どもたちの笑顔がとても明るく、かわいらしく、あのひとつひとつの笑顔は救いでした。またあらゆる場面で女性がいきいきと活動し、エンパワーメントされているとの印象も強く受けました。また、ご同行いただいた参加者の皆さんにもいろいろと教えていただき、また時に楽しい時間を共有させていただいたことに感謝いたします。