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オンラインセミナー「外国にルーツを持つ子どもの教育保障を考える~可児市における不就学ゼロをめざす取り組みを例に」を共催しました(12/19)

 ヒューライツ大阪は、NPO法人おおさかこども多文化センター、関西大学外国語教育学会と協力し2020年12月19日、小島祥美さん(東京外国語大学世界言語社会教育センター/多言語多文化共生センター 准教授)を講師に迎えて、オンラインセミナー「外国にルーツを持つ子どもの教育保障を考える~可児市における不就学ゼロをめざす取り組みを例に」を共催しました。
 義務教育の枠外に置かれている外国籍の子どもの不就学問題は長年にわたる課題となっています。文部科学省は 2019年、外国人の子どもの就学実態に関する初めての全国的な調査を実施しました。その結果、小中学生にあたる外国籍の子ども約12万4千人のうち、約2万人が就学していない可能性があることが判明し、国および自治体の教育行政がにわかに動き出しました。
 そうしたなか、外国人が集住する岐阜県可児市において、2000年代初頭以来、「不就学ゼロ」を目指す取り組みが実践されてきました。そこでは、地域の人たちの粘り強い努力が推進力となってきました。
その中心的役割を担った小島祥美さんに、可児市でのすべての子どもの教育保障のための実践について、関連動画をまじえて報告いただきました。
当初、関西大学梅田キャンパスでの対面講演に並行して、Zoomによるオンライン開催を計画していましたが、新型コロナ感染症の拡大という事態を受けてオンラインのみに変更しました。参加者は75名でした。終了後の参加者にアンケートには、「外国籍の子どもが抱える不就学や高校進学についての課題をわかりやすく説明していただいた」「不就学解消の成功例を聴くことができた」「小島さんの姿勢と行動力に感銘した」といった感想が多く寄せられました。
 小島さんの報告概要を以下に紹介します。
 
外国籍の子どもの就学状況に関する国による初めての全国調査
新たな在留資格「特定技能」の創設が盛り込まれた改正入国管理法が2019年4月に施行された。それに伴い、更なる在留外国人の増加が見込まれるようになった。文部科学省は同年5月、外国籍の子どもの就学状況について初めての全国調査「外国人の子供の就学状況等調査」を実施し、9月に速報値、2020年3月に確定値をまとめた。その結果、義務教育年齢にあたる外国籍の子どものうち約2万人、すなわち6人に1人が就学していない可能性がある、または就学状況が確認できていないというゆゆしき状況にあることがわかった。
 文科省は2020年7月、調査結果を踏まえて「外国人の子供の就学促進及び就学状況の把握等に関する指針」を発表した。「外国の子どもたちが将来にわたって我が国に居住し、共生社会の一員として今後の日本を形成する存在であることを前提に、外国人の子どもに対する就学機会の提供を全国的に推進することが必要である」とその趣旨を説明している。
 
調査にこだわった理由
 1994年に埼玉県で小学校の教員となり、外国ルーツの子どもたちに出会った。そして、1996年に学び直そうと大阪外国語大学中南米地域文化学科に入学し、関西で暮らすようになった。入学と同時に、阪神・淡路大震災で壊滅的な被害を受けた神戸市長田区にある被災外国人を支援するカトリック鷹取教会の活動に加わった。そこで、目の前にいる外国籍の子どもたちは、就学義務の対象ではないこと、その実態が把握されていないという現実に遭遇した。社会のなかで「見えない」扱いになっていることを知った。
2000年に大阪大学大学院に入学後、JICAが開発途上国から受け入れた長期研修生のサポート業務をする機会を得た。その一環として、グアテマラ、ペルー、ボリビアなど中南米諸国を訪問した。当時の日本は、ODA(政府開発援助)拠出額は世界ナンバーワン。全ての人に基礎教育を提供することを世界共通の目標のもと、万人のための質の高い教育‘Education for All’の事業を途上国で進めていた。
訪問国で、日本にも不就学の子どもたちがいることを伝えると、ずいぶん驚かれたものだ。
 
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可児市との出会い
そうしたなか、外国人の集住都市のひとつである岐阜県可児市の教育関係者との運命的な出会いがあった。公立の小学校に通ってきている子どもの数と外国人登録の数があまりにも食い違っており、子どもたちはいったいどこに行ってしまっているのだろうかという疑問の声を聞いたのである。私の問題意識とぴったり同じであった。その出会いが、可児市での協働調査の挑戦につながったのである。
私は、可児市で調査企画のプレゼンを行ったところ、協力を約束された。2003年4月から調査を開始し、当初1年の予定が2年におよんだ。外国人登録のデータを基に、小学校1年生から中学校3年生相当の子どものいる外国籍の全家庭を訪問したのである。当時、可児市の総人口約10万人で、外国籍住民は4,000人ほどであった。
全家庭への訪問調査でわかった主なことは次の3点。①不就学の子どもが実在する。②公立中からの中退者が多い。③学校に行かないで就労する子どもたちがいる。
私が調査にこだわったのは、学校に行っている子を含むすべての子どもに会うことであった。学校に在籍しているけれども、学びの機会が制限されている子どもにもたくさん出会った。週に1日しか登校していない子や、給食費が払えないので毎日4時間目が終わったら帰されている子どもたちもいた。数々の信じられないような実態に遭遇した。無国籍の子どももいた。訪問すると、「待ってたよ」と受け入れられた。
 
可児市での調査
調査は、同じ内容で3回行い精度の向上に努めた。協働調査だったので、その都度、関係者に調査過程を伝えた。誰もが知る調査にしたかったので、地域住民や外国の人が使う食材店やレストランなどで、調査に関する情報を掲示させてもらった。みんなの目にとまるようにしたことで、調査への信頼性が高まり、さまざまな協力を得ることができた。
訪問調査には、リュックサックを背負って出かけたのだが、その中に多言語電話相談のリストも詰めていた。当時、東海地方の市民活動においては、多言語による相談対応はほとんどなかったので、関西の市民団体のリストを手渡したのだ。関西の団体の友人たちから、「可児市在住の外国人から相談電話がかかってくるよ」としばしば連絡を受けたものだ。
2年間の調査の締めくくりとして、「市長との公開デート」を実施し、わかったことを知らせた。それにより、市長による「不就学ゼロ」をめざす宣言をもたらしたのである。  
                    
調査結果を生かした取り組み
調査結果を受けて、可児市としてネットワークを組んで不就学ゼロをめざそうという考えがまとまった。私は、そのためのコーディネイター役を依頼されたのだが、引き受けるにあたり条件を提示したのである。現在の担当者が人事異動しても取り組みが継続できるような仕組みを明文化してほしいと市長や教育長にお願いしたのだ。
それが受け入れられた。市の教育委員会が「可児市外国人児童・生徒の学習保障事業実施基準」として明文化したのである。就学手続き、就学実態の把握の仕方などについて体系的に指導を行っていくこと、学校の役割、コーディネイターの職務もそのなかに位置付けられた。
2005年4月、私は外国人児童生徒コーディネイターに就任し、取り組みを開始した。
仕組みが明文化されたおかげで15年後のいまも、可児市では不就学ゼロを維持している。実施基準が作られて本当によかったと思っている。困難に直面し苦しんでいる子どもたちへの教育が小中学校において体系的に取り組まれているからだ。
 
持続可能な施策にするために
私は、外国人教育に携わる業務を自治体で「職務」と位置付けることが絶対に必要だと考える。文科省の初めての就学状況等調査で、「担当者任せ」という実態が浮き彫りになっている。たとえば、教育委員会規則で「外国人の子どもの教育」の分掌規程について「明示なし」が92.3%。内部規定等で就学案内や手続きについて「規定していない」が96.3%という結果だ。大多数の自治体で、「職務」であることが明示されていないのである。
就学状況等調査の結果をみると、自治体間の格差が顕著である。まずは、皆さんが活動されている自治体における就学状況を確認していただきたい。
たとえば、大阪市を例にとると、合計4,896人の児童・生徒相当数のうち、「義務教育諸学校」3,779人、「就学状況把握できず」1,117人。そして、「外国人学校等」と「不就学」は0人となっている。大阪市において外国人学校に通っている子どもが0人というのはあり得ない。
この調査は、都道府県教育委員会あるいは指定都市の教育委員会を通じ、調査票が配布・回収されて行われたものだが、情報公開請求をして、自治体がどのように回答したのかについて把握するところからはじめてはどうか。不就学をなくしていく取り組みにつながると思う。
 
高校進学をめざす子どもたち
可児市では、「不就学ゼロ」の取り組みのなかで高校進学する外国籍の生徒が増えていった。現在、各地の公立高校の入試において、外国人生徒を対象に、時間延長や漢字のルビふりなど何らかの「措置」が設定されたり、特定の高校で作文と面接のみといった特別な試験を受けられる「枠」が設けられている。しかし、全国的に標準化されておらず、自治体間格差が大きいのが現状である。この格差を解消し、外国籍の子どもの教育保障を推進していく必要がある。
 
いま取り組んでいること:コロナ禍で強く望むこと
 学校における教育活動が安全な環境において実施され、児童・生徒の安全確保のために、学校における安全管理に関し必要な事項を定めた「学校保健安全法」があるが、外国人学校や不就学の子どもは、この法律の適用対象外に置かれている。子どもの就学と健康はセットで保障されるべきなのだが、たとえばブラジル学校の子たちは健康診断も受けることができない現状だ。不就学の子どもたちも完全に置き去りになっている。
外国人学校の子どもの健康保障の問題に関して、これまで改善を訴え続けてきたものの、政府にちゃんと受け止められてこなかった。そうしたなか、岐阜にあるブラジル学校でクラスターが発生した。もう放っておけないと思い、政府関係者などにさらに働きかけているところである。国会や政府の今後の対応に期待したい。
 
<参考資料> 小島さんの報告時に示された資料の一部
在留資格「特定技能」が創設されます 
(法務省出入国在留管理庁)
外国人の子供の就学状況等調査結果(確定値)について
2020(令和2)年3月27日(文部科学省)
外国人の子供の就学促進及び就学状況の把握等に関する指針
2020(令和2)年7月1日(文部科学省)
201912月末現在 在留外国人統計「19-12-04 都道府県別 国籍・地域別 在留外国人(法務省)
「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成30年度)」の結果について
2019(令和元)年9月27日(文部科学省)
外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメントDLA(文部科学省
都道府県立高校(市立高校の一部を含む)の外国人生徒及び中国帰国生徒等への高校入試特別措置等の調査まとめ-2020年度入学者
(外国人生徒・中国帰国生徒等の高校入試を応援する有志の会)