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韓国・ソウルのソンミサン・マウルを訪問-「参加」と「コミュニティ」を考える絶好の機会に

ソンミサン・マウルとは
 2015年8月27日から31日、ヒューライツ大阪の朴君愛職員が韓国ソウルに調査訪問に行ってきました(※)。
 その日程の中で、韓国内のみならず日本など海外からも住民参加のまちづくりのグッド・プラクティスとして知られているソンミサン・マウルを訪ねました。フィールドワーク案内の活動をしている「人とまち」のサスム(ニックネーム「鹿」という意味)さんと、調査訪問チームのメンバーであり、「ソンミサン・マウルのまちづくり」を研究している桔川純子さんの説明をもとに、ソンミサン・マウルについて簡単に紹介します。
 ソンミサンは住所名ではなく、ソウル市麻浦(マポ)区にある海抜66mのソンミ山(サン)のことです。「マウル」は、日本語で「まち、ムラ」を意味し、ソンミサン・マウルは、歩いてすぐに自然の森があるこの山の周辺のまちを指します。ソンミサン・マウルという名称が定着した理由は20年余りの人々の「まちをまもる」活動があったからです。1994年に共同保育の場をつくろうという取り組みではじまった活動も第1世代はすでに50代以上になり、他のまちに引越する人たちが出る一方、20代を中心に若い世代の住民が増えています。

独立した、自発的な活動がまちをつくる
 サスムさんは、このまちに住み始めて12年目ですが、ニックネームで呼び合う文化について説明がありました。初めに移り住んだ人と新しい住民では年齢差がある場合があり、話しにくいので、コミュニケーションの円滑のためにニックネームで呼びあうことにしたといいます。ソンミサン・マウル一帯の人口全体は約10万人ですが、サスムさんたちが実施した3年前のアンケート調査では、ソンミサン「コミュニティ」に参加している世帯が約700世帯、およそ2千人でした。このコミュニティのメンバーの内、9割がこのまちに住み、残り1割が外から活動に参加をしています。まちの中には現在70あまりのいろいろな団体が活動していますが、コミュニティの一番の特徴は、それぞれが独立し、自発的に生まれた活動であることだといいます。市民が作った劇場あり、食の安全に徹した生協あり、生協の食材を使った市民出資の食堂あり、そして、学校までも自主的なパワーで生まれて運営されています。

環境の破壊の危機から山をまもれ!
 まちづくりのきっかけは共同保育所づくりでした。共働きの夫婦が安心して子どもを預ける保育所がないということから25世帯の家族によって始まった活動は、自分たちが出資金を出し合って協同組合を結成することで実現しました。次には生活協同組合作りに発展していき、また、地域に根差した住民参加のお祭りや種々の同好会ができていきます。そして、これまでソンミサン・マウルは2回の「山をまもる」運動を経験しています。まず2000年代に入り、ソウル市が配水池を作るためにソンミサンを開発しようとしました。協同組合活動などを担ってきた人たちを中心に、環境の破壊を懸念した地域の住民は山をまもる運動を展開し、この開発を撤回させることに成功しました。
 2回目は、2006年に山をくずして高層マンションを建てるという計画が持ちあがりました。民間業者が土地を購入したことを知り、住民が反対運動をしたところ、その土地は弘益(ホンイク)大学などの母体である弘益財団によって購入され、結局そこに弘益小・中学校が建設されました。弘益財団はさらにソンミサンに外国人寄宿舎を建てる計画を持っていましたが、それについては寄宿舎を作らないという約束を住民側にしたとのことです。

代案学校―ソンミサン学校設立10周年
 共同保育の実践から次は学校をつくろうというコミュニティのメンバーの意気込みは学校も誕生させることになりました。代案学校として韓国政府から認可を受けているソンミサン学校は創立11年目となり、今では小学校から高校まで統合された教育課程を持っています。ソンミサン学校のウェブサイトに「自分で立って、お互いを生かし合える学校」というキャッチフレーズがありました。授業は月5万円程度かかりますが、塾には行かないという約束があり、自分がやりたいことを見つけてほしいという親たちが通わせています。環境教育や衣食住について学ぶことを重視し、学校が「まち」であり、「まち」が学校であることをモットーにしています。そして地域には、子どもたちを一緒に見守り、育てようという大人たちの存在があります。
 高校では毎年海外研修を実施していて、訪問した時、高校2年生がちょうど85日間のインドに研修に発ったところとのことでした。学校は休みだったのですが、翌日が学校創立10周年の記念コンサートが開催されるということで、保護者たちが楽器を弾いてリハーサルをしていました。

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ソンミサン学校の校舎

マウルで起業、地域の雇用創出
 市民たちの「これをやってみたい」という自主的な活動が、マウル企業の誕生へつながっています。安全な食品を食べたいというニーズから作ったトレ生協は、加入世帯が12世帯から7千世帯へと拡がりました。生協では、とりわけ子どもを持つ女性たちの雇用の場を増やしました。また皮膚が弱いわが子のために作った天然素材の石鹸の評判がよく、そのお母さんが起業しました。まちで企業ができれば働く場所も生まれます。
 リサイクルショップは、ボランティアでやっています。賃貸料が高いので、人件費が出ない代わりに、地域通貨を発行して支払いをしています。さらには、コーポラティブハウスが第5号館までできています。一緒に住むコンセプトが共有できる人を募集して、一緒に計画を練って共同住宅を建てます。訪問したあるソンミサンマウルのコーポラティブハウスは、住人共用の大きなスペースがあり、食事会もできるように調理スペースもありました。外部の人に貸すこともあるようです。そしてマウル企業が赤字になれば、ソンミサン・マウルにあるコミュニティ・ファンドのサポートが受けられます。韓国での銀行の貸付金は、金利8%ですが、コミュニティ・ファンドでは金利2%で借りることができます。

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コープラティブハウスの全景

新たな時代の新たなまちづくりへの課題
 ソンミサン・マウルの運動に共感する地域や人々の輪が広がってきています。これまで家族中心の発想でやってきましたが、それだけではまちづくりに限界があるとサスムさんが指摘しています。ソンミサン劇場がある建物には、4つの市民団体が入居していますが、市民団体のスタッフにはシングルも多いのです。

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まちづくり活動の拠点、ソンミサン劇場前

 一方、まちづくりの成果は、「住みたいまち」となって人気があがり、地価や賃料が急騰するという事態を招いています。韓国では、「チョンセ」という賃貸システムがあり、日本とは違うものです。これはまとまった保証金を当初に払って一定期間借りるというものですが、契約切替時にオーナーによって提示された保証金が借主には払えない金額になったりします。マウル企業の一つであり、コミュニティカフェとしても地域の人たちに信頼や憩の場を提供してきた「小さな木」も同様の問題に直面しています。お母さんたち10人が出資金を募って開店した安全なレストランは6年目に、これ以上賃料があがると退去せざるをえないというジェントリフィケ―ション(gentlification)が生じているのです。この問題を解決するために、ソンミサン・マウルのコミュニティのメンバーも方策をめぐらしています。

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賃料高騰で契約更新危機にあるコミュニティカフェ「小さな木」に市民たちの声が寄せられている

 ソンミさん・マウルには日本からも多くの団体が訪問していて、ウエブサイトで検索してもいろんな団体の訪問記が寄せられていました。ソンミサンマウルの中心であったユウ・チャンボクさんは、ソウル市から声がかかり、ソウル市全体の住民参加のまちづくりを促進するための「ソウル市マウル共同体支援センター」のセンター長に就任して活躍しています。
 日本も韓国社会も、社会の急激な変化によって、家族の形は多様になり、個人化が進んでいます。ひとり親家族を含めた多様な形態の家族が、共にまちを楽しんでくらすことができ、孤立せずに、程よい距離感がある…そんなまちづくりをどう進めればいいのか、日韓共通の市民の課題です。

 

※ 平成27年度文科省科研費「ひとり親家族にみる社会的排除、複合差別、および、社会的支援に関する日韓の比較研究」(研究代表 神原文子・神戸学院大学教授)の一環。ヒューライツ大阪はこの研究プロジェクトに業務協力をしています。

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