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日本政府の「人身取引対策行動計画」1策定から3年 ~事態の変化を検証する

2006年の人身取引2の外国人被害者

 法務省入国管理局が2007年2月に発表したプレスリリースによると、06年に保護または帰国支援をした人身取引の外国人被害者は全員女性で、05年の115人に比べて約60%減の47人であった。出身国別では、フィリピン29人(前年47人)、インドネシア14人(同41人)で、この2カ国が全体の92%を占めた。
 一方、被害者の平均年齢は05年の24.0歳より低年齢化し、06年は22.2歳であった。18歳未満の子どもは9人(前年6人)いた。なかには、14歳で来日し、ホステスとして働かされたり、売春を強いられていた子どもが3人いたことが確認されている。
 このように、被害者だと認定された人数が減少した理由として、「2004年12月の『人身取引対策行動計画』の策定以降、政府全体で人身取引対策に取り組んでいることはもちろん、入管局が2005年と2006年の2回にわたり在留資格「興行」(いわゆるエンターテイナービザ)に関する基準省令を改正したことに伴い、興行資格での来日者が大幅に減少したことによるものと考えられる」と入管局は説明している。
  この報告を字句通りに読むと、政府の努力の結果、日本における人身売買の被害者は減少し、問題は解決に向かっているかのように受け取れる。はたしてそうなのだろうか。「人身取引対策行動計画」の策定から約3年。事態の変化を検証してみる。

日本政府の対策

 人身売買とは、国連が2000年に採択した人身売買禁止議定書の定義によれば、売春や強制労働をさせるといった搾取を目的として、暴力・脅迫・誘拐・詐欺・弱い立場につけ込むなどの手段を用いて、人をリクルート・移送・収受するなどの行為のことである。
  日本における代表的なパターンは、①国際的に連携したブローカーによって外国人女性が「短期滞在」の在留資格で日本に送り込まれ、数百万円という巨額の「借金」返済を突きつけられ売春を強制されるというものと、②歌手やダンサーなどのエンターテイナーとして「興行」という合法的な在留資格を取得して来日するものの、派遣先のナイトクラブから資格外活動にあたるホステスの仕事が強いられ、長時間労働で休日もなく契約書を大きく下回る低賃金といった劣悪な条件下で就労させられるとともに、売り上げのノルマを課せられ、達成できなければペナルティの支払い、そして外出の自由も制限されるといった数々の人権侵害を伴う形態である。そうした事態が20年以上にわたり繰り返されてきたにもかかわらず、日本政府は対策を真剣に講じてこなかった。それが、国内そして国際社会からの強い批判の的となっていた。
 日本政府が対策の乗り出したのはほんの数年前のことだ。04年4月に人身取引の撲滅と被害者の保護や国際協力を目的に、内閣府、警察庁、法務省、外務省、厚生労働省などの局長クラスで構成される「人身取引対策に関する関係省庁連絡会議」が設置され、同年12月に「人身取引対策行動計画」(以下、「行動計画」)が策定されたのである。
 これを受けて、05年6月の刑法改定で「人身売買罪」が新設されるとともに、入管法の改定により、被害者だと認定されればたとえ滞在が不法状態にあっても一時的な在留特別許可を付与する「被害者保護」の方策が明文化された。また、関連する法令も改定された。人身売買罪に基づく加害者の起訴は、05年7月の施行日から07年4月末現在で、25件にのぼっている。

JNATIPの調査で明らかになった保護・支援の課題

 日本における人身売買の防止、被害者の保護・支援、人身売買の加害者処罰を実現するための法制度・政策の確立をめざして活動しているNGOや個人のネットワークである人身売買禁止ネットワーク(JNATIP)が07年5月に発行した『人身売買被害者支援の連携の構築-地域、国境を越えた支援に向けて』という調査および活動報告書において、被害者保護・支援のための具体的な法律の整備という重要課題が積み残されていることが報告されている。
  この調査は、政府の「行動計画」が被害者の保護・支援の現場でいかに周知・実施されているかをモニタリングし、今後の政策提言を検討すること主目的に06年4月1日から07年3月31日にかけて、①被害者を保護した公的機関である17ヵ所の女性相談所と8ヵ所の民間支援団体、②厚労省、警察庁、法務省、外務省、内閣府、③帰国支援について国際移住機関(IOM)東京事務所などを対象に聞き取りあるいはアンケートによって行ったものである。
  報告書はいくつもの問題点を浮き彫りにしている。被害者の受入れは、「行動計画」では各都道府県が運営する女性相談所で行うことになっており、実際に一時保護が行われている。女性相談所は被害者のシェルターとして便利である一方で、安全確保のため外出も許可されないことから新たな「監禁場所」のような印象を受ける被保護者がいるという。また、通訳者を確保しない施設もあり意思疎通が十分に図れていないこと、医療費補助に関しては自治体によって大きなバラツキがあることなど、公的な支援が不十分であることが判明した。
 DV被害者の場合、外国人を以前から受入れてきたものの、「行動計画」に基づいて初めて人身取引の被害者を受入れることになった女性相談所の戸惑いも大きい。たとえば、何らかのトラウマを持った被害者に対してどう支援すればよいのかについて情報がないまま、現場は右往左往しているという現実があることもわかった。そして、被害女性たちはほどなくIOMの支援を受けて帰国の途に就くのである。
 一方、民間支援団体が運営するシェルターは、予算の苦労はつきないが経験の蓄積と専門性があり、通訳、カウンセリング、家族との連絡、医療や帰国などに関して創意工夫をこらしながら支援を行っている。
 だが、女性相談所における受入れは、基本的に政府関係省庁間のやりとりのみで行われ、NGOは蚊帳の外に置かれるため、これまでの経験蓄積が活用されないまま、行動計画が進行しているのである。
 また、被害者が権利を回復するための道は事実上閉ざされているという現状も明らかになった。損害賠償や未払い賃金請求が女性相談所で保護されている間に行われたという事例はこの調査では出てこなかった。報告書ではその理由を、「スタッフと意思の疎通がはかれていないために被害者のニーズが把握されないこと、現状および近い将来の予測がつかないシェルター滞在中に、落ち着いて自らの権利を行使することを考えられない、またその情報が提供されないこと、スタッフが裁判など法的支援によって滞在が長期化することを避けることなどがその要因として考えられる」と分析している。

「国際協力」の不在

 「行動計画」では、「加害者の国際間捜査協力」や「被害者が帰国後、再度人身取引の被害に遭うのを防ぐために、先方政府機関、NGO等と協力して、受入先の安全に配慮する」などと明記されている。
 確かに「行動計画」策定や法律の改定以降、ブローカーや性風俗店の経営者などが入管法、人身売買罪、営利誘拐罪、職業安定法などの違反容疑で逮捕され、起訴され裁判に持ち込まれるケースが増えたようだ。
 一方、日本で起訴され被告人となるのは多くの場合、被害者と同一国籍、あるいは他の外国籍の女性たちである。つまり店の外国人ママさんたちである。その背後で指揮する日本人の組織や構成員の逮捕・起訴が少ないようだ。これはなぜだろうか。
 また、4人の加害者(日本人)が訴追され大阪地方裁判所で全員に対して有罪判決が出されたフィリピン女性エンターテイナーに対する「人身取引および営利誘拐事件」(05年12月に発生)について(被告人の2人は控訴および上告中)、筆者が裁判の傍聴や追跡調査をした限り、「国際間捜査協力」や「被害者の帰国後の安全」のための日比間の協力が十分に行われていないことがわかった。他のケースでも同様の事態なのではなかろうか。

人身売買の被害者とは?

 そもそも、人身売買の被害者の保護・支援を語るとき、どういう基準でどの機関が認定するのかが問われてくる。ところが、「関係省庁連絡会議」はその基準を公表していない。筆者がかつて担当者に尋ねたところ、「国連機関が出している文書を参考に認定している。しかし、その基準を公表すれば、加害者に手の内を見せてしまうことになりかねない」という答を得たにすぎない。
 では、認定機関はといえば、警察と入管局の「独占業務」となっており、一時保護をする女性相談所が認定したというケースがないことが、JNATIPの調査で判明している。
 だが、警察と入管局による被害者数に関するデータに食い違いがあるのである。警察発表の外国人被害者の合計は05年が117人で、06年が58人に対して、入管局は前述のように05年115人と06年47人なのである。したがって、国別内訳も異なっている。この相違については、被害者の在留資格の違いによって入管局が関わる必要のないケースがあるためと警察は説明するが、「関係省庁連絡会議」の構成機関が異なるデータを発表することによって混乱を招いている。

国際結婚と人身売買ブローカー

 日本人の配偶者は、就労が可能など比較的安定した在留資格が得られることから、人身売買のブローカーが偽装結婚という手段に目をつけている。05年に人身取引対策の主要な柱のひとつとして、フィリピン人エンターテイナーの入国規制を厳格化した結果、04年には82,741人だった「興行資格」での入国者数が05年には47,765人に半減し、06年には8,607人へと激減した。それに呼応して、日本男性とフィリピン女性との婚姻数が8,397組(04年)、10,242組(05年)、12,150組(06年)へと急増した。この数字の意味するものは何なのだろう。
 警察・入管局は、国際結婚の増加につれて、婚姻実態の内偵や、第3者からの密告を入管局のウェブサイトなどを通じて行い、しばしば摘発を行っているようだ。
 偽装結婚をアレンジするブローカーが逮捕されるという報道も最近増えてきた。ブローカーが暗躍し、たとえば多重債務を背負っている日本男性に接近して借金の帳消しなどを条件に途上国の女性との偽装結婚への協力、つまり夫となる話を持ちかけるのである。
 その弁済や、手続きの手数料を支払うのは、「結婚」を通じて来日した女性たちである。日本人の配偶者として来日するものの、多額の借金を背負わされて毎日働くことになるのである。売春を強いられるケースもあるようだ。だが、これらは闇のなかの出来事で、発覚するのは氷山の一角であろう。
 摘発されれば女性も処罰の対象だ。公正証書原本不実記載の容疑で起訴される。07年10月から11月にかけて、筆者は執行猶予つきの有罪判決を受けたフィリピン女性たちの公判を大阪地裁で傍聴した。女性たちは退去強制させられたに違いない。
 確かに、女性たちは最初から偽装結婚であることを承諾しているかもしれない。しかし、日本で負わされるのは予期せぬ多額の借金や厳しい労働条件、性的搾取などだ。これはもはや人身売買ではなかろうか。だが、女性たちは被害者としてではなく、偽装結婚を行った犯罪者として裁かれるのである。
 警察や入管による強制捜査の際に、被害者として保護される女性たちもいる。同時に、不明朗な認定基準により「不法滞在者」に振り意分けられ、退去強制させられたり、被害者なのに何かの犯罪の被疑者として裁判にかけられる女性たちが後を絶たない。「行動計画」策定から3年。解決すべき課題は多い。

(移住労働者と連帯する全国ネットワーク『M-ネット No.105(2007年12月号)』より転載)

1.内閣官房のウェブサイトに全文掲載されている。http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/jinsin/kettei/041207keikaku.html

2.日本政府は通常「人身取引」と呼んでいるため、政府報告の際には「人身取引」とするが、筆者の表現としては社会的に定着している「人身売買」という言葉を使用する。