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ILO中核的労働基準

概要

 ILO(国際労働機関)の「国際労働基準」は、2022年現在、190の条約と206の勧告、及び6つの議定書から構成されています。このうち、4つの分野(「結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認」「あらゆる形態の強制労働の禁止」「児童労働の実効的な廃止」「雇用及び職業における差別の排除」)の8条約の内容が、1998年のILO第86回総会で採択された「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」において、1995年の世界社会開発サミットと1996年のWTO閣僚会議での議論を引き継ぐかたちで、現代世界で最低限遵守されるべき「中核的労働基準」として定式化されました。
 その後、2014年に採択された強制労働条約の議定書も重要な文書として認識され、さらに2022年6月の第110回ILO総会で「安全で健康的な労働環境」に関する2条約が加わり、現在、中核的労働基準は5分野にわたる10の条約と1つの議定書から構成されています。
 通常、ILO条約は加盟国内での批准の手続きを経てその国に対して発効することになりますが、この中核的労働基準は、批准していない場合でも、「加盟国であるという事実そのものにより、誠意をもって、憲章に従って、これらの条約の対象となっている基本的権利に関する原則を尊重し、促進し、かつ実現する義務を負うこと」が求められています。
 ILO中核的労働基準は、「企業と人権」に関する基準やガイドラインにも大きな影響を及ぼしてきています。

※批准状況等一覧(ページ内リンク)

関連リンク

  • (1) 労働における基本的原則及び権利に関するILO 宣言(1998年)とそのフォローアップ(ILO駐日事務所仮訳版)
  • (2) ILO Declaration on Fundamental Principles and Rights at Work
(1)

(2)
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【ILO中核的労働基準の10条約と1議定書】

■結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認

■あらゆる形態の強制労働の禁止

■児童労働の実効的な廃止

■雇用及び職業における差別の排除

■安全で健康的な労働環境

【日本の批准状況等】(2023年6月6日現在)

分野
条約名

採択年月日 発効年月日 批准国数 日本の批准年月日
結社の自由と団体交渉権
結社の自由及び団結権の保護に関する条約(第87号)
1948.07.09 1950.07.05 157 1965.06.14
団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約(第98号)
1949.07.01 1951.07.18 168 1953.10.20
強制労働の禁止
強制労働に関する条約(第29号)
1930.06.28 1932.05.01 180 1932.11.21
強制労働の廃止に関する条約(第105号)
1957.06.25 1959.01.17 178 2022.07.19
1930年の強制労働条約の2014年の議定書
2014.06.11 2016.11.09 59 (未批准)
児童労働の廃止
就業が認められるための最低年齢に関する条約(第138号)
1973.06.26 1976.06.19 175 2000.06.05
最悪の形態の児童労働条約(第182号)
1999.06.17 2000.11.19 187 2001.06.18
雇用・職業における差別の排除
同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約(第100号)
1951.06.29 1953.05.23 174 1967.08.24
雇用及び職業についての差別待遇に関する条約(第111号)
1958.06.25 1960.06.15 175 (未批准)
安全・健康な職場環境
職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約(第155号)
1981.06.22 1983.08.11 77 (未批准)
職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約(第187号)
2006.06.15 2009.02.20 60 2007.07.24

主要な国際人権条約と批准状況の一覧のページへ

原文にみるキーワード

■「加盟国の義務」
「すべての加盟国は、問題となっている条約を批准していない場合においても、まさにこの機関の加盟国であるという事実そのものにより、誠意をもって、憲章に従って、これらの条約の対象となっている基本的権利に関する原則、すなわち、
(a) 結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認
(b) あらゆる形態の強制労働の禁止
(c) 児童労働の実効的な廃止
(d) 雇用及び職業における差別の排除
(e) 安全で健康的な労働環境
尊重し、促進し、かつ実現する義務を負うことを宣言する。」(「労働における基本的原則及び権利に関するILO 宣言」)

■「強制労働」
「この条約を批准する国際労働機関の各加盟国は、次に掲げる手段、制裁又は方法としてのすべての種類の強制労働を禁止し、かつ、これを利用しないことを約束する。
(a) 政治的な圧制若しくは教育の手段又は、政治的な見解若しくは既存の政治的、社会的若しくは経済的制度に思想的に反対する見解をいだき、若しくは発表することに対する制裁
(b) 経済的発展の目的のために、労働力を動員し、及び利用する方法
(c) 労働規律の手段
(d) 同盟罷業に参加したことに対する制裁
(e) 人種的、社会的、国民的又は宗教的差別待遇の手段」(「強制労働の廃止に関する条約(第105号)」第1条)

■「最低就業年齢」
「1 この条約を批准する加盟国は、その批准に際して付する宣言において、自国の領域内及びその領域内で登録された輸送手段における就業が認められるための最低年齢を明示する。この最低年齢に達していない者については、第四条から第八条までの規定が適用される場合を除くほか、いかなる職業における就業も認められない。
3 1の規定に従って明示する最低年齢は、義務教育が終了する年齢を下回ってはならず、また、いかなる場合にも十五歳を下回ってはならない。
4 3の規定にかかわらず、経済及び教育施設が十分に発達していない加盟国は、関係のある使用者団体及び労働者団体が存在する場合にはこれらの団体と協議した上で、当初は最低年齢を十四歳と明示することができる。」(「就業が認められるための最低年齢に関する条約(第138号)」第2条)

「年少者の健康、安全若しくは道徳を損なうおそれのある性質を有する業務又はそのようなおそれのある状況下で行われる業務については、就業が認められるための最低年齢は、十八歳を下回ってはならない。」(「就業が認められるための最低年齢に関する条約(第138号)」第3条)

■「最悪の形態の児童労働」
「この条約の適用上、「最悪の形態の児童労働」は、次のものから成る。
(a) 児童の売買及び取引、負債による奴隷及び農奴、強制労働(武力紛争において使用するための児童の強制的な徴集を含む。)等のあらゆる形態の奴隷制度又はこれに類する慣行
(b) 売春、ポルノの製造又はわいせつな演技のために児童を使用し、あっせんし、又は提供すること。
(c) 不正な活動、特に関連する国際条約に定義された薬物の生産及び取引のために児童を使用し、あっせんし、又は提供すること。
(d) 児童の健康、安全若しくは道徳を害するおそれのある性質を有する業務又はそのようなおそれのある状況下で行われる業務」(「最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃のための即時の行動に関する条約(第182号)」第3条)

■「同一価値労働同一報酬」
「各加盟国は、報酬率を決定するため行なわれている方法に適した手段によって、同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬の原則のすべての労働者への適用を促進し、及び前記の方法と両立する限り確保しなければならない。」(「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約(第100号)」第2条)

■「差別待遇」
「1 この条約の適用上、「差別待遇」とは、次のものをいう。
(a) 人種、皮膚の色、性、宗教、政治的見解、国民的出身又は社会的出身に基いて行われるすべての差別、除外又は優先で、雇用又は職業における機会又は待遇の均等を破り又は害する結果となるもの
(b) 雇用又は職業における機会又は待遇の均等を破り又は害する結果となる他の差別、除外又は優先で、当該加盟国が、使用者の代表的団体及び労働者の代表的団体がある場合にはそれらの代表的団体及び他の適当な団体と協議の上、決定することのあるもの
2 固有の要件に基く特定の業務についての差別、除外又は優先は、差別待遇とみなしてはならない。」(「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約(第111号)」第1条)

■「健康」
「この条約の適用上、「健康」とは、就業に関連し、疾病にかかつておらず又は病弱でないことをいうのみならず、健康に影響を及ぼす身体的又は精神的な要素であつて就業中の安全及び衛生に直接関連するものを含む。 」(「職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約(第155号)」第3条)

他の文書での言及

■「ビジネスと人権に関する指導原則」
「人権を尊重する企業の責任は、国際的に認められた人権に拠っているが、それは、最低限、国際人権章典で表明されたもの及び労働における基本的原則及び権利に関する国際労働機関宣言で挙げられた基本的権利に関する原則と理解される。」(原則12)

「国際的に認められた主要な人権の権威あるリストは、国際人権章典(世界人権宣言、及びこれを条約化した主要文書である市民的及び政治的権利に関する国際規約ならびに経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)とともに、労働における基本的原則及び権利に関する宣言に挙げられたILO中核条約上の基本権に関する原則にある。これらは、企業の人権に対する影響を他の社会的アクターが評価する際の基準である。」(原則12 解説)

■「ISO26000(JISZ26000)」
「一部の環境及び衛生問題のグローバルな性質、貧困救済に対する世界的な責任の認識、ますます進む金融及び経済の相互依存、並びにますます地理的に分散したバリューチェーンは、組織に関連性がある課題が、その組織の所在する場所の近接区域を越えて広がるかもしれないことを意味している。社会的状況、経済的状況を問わず、組織が社会的責任に取り組むことが重要である。環境と開発に関するリオ宣言、持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言、ミレニアム開発目標、労働における基本的原則及び権利に関するILO 宣言などの文書は、こうした世界的な相互依存性を浮き彫りにしている。」(3.2 社会的責任の最近の動向)

「ILO 基準は、見直し手続、並びにILO基準の意味及びその適切な適用を解釈する公式の監督機構という法的制度によって、常に更新されている。ILO 条約及び勧告、1998 年の労働における基本的原則及び権利に関するILO 宣言、並びに1977 年のILO 多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(2006年に最新の改定)は、労働慣行、その他の重要な社会的課題に関して最も権威のある手引となっている。」(ボックス8)

■「OECD多国籍企業行動指針」
「この章の第1段落は、ILO の1998 年宣言に含まれている労働における4つの基本原則と権利の全て、すなわち、結社の自由及び団体交渉権、児童労働の実効的な廃止、あらゆる形態の強制労働の撤廃、及び雇用及び職業における差別の排除、を反映している。」(雇用及び労使関係に関する注釈5)

■「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(SDGsが含まれる国連文書)
「民間企業の活動、投資、イノベーションは、生産性を高め、包摂的な経済成長と雇用創出を進める重要な要因である。我々は、小企業から協同組合、多国籍企業までを含めた民間セクターの多様性を認識している。我々は、すべての企業に対し、持続可能な開発における課題解決のために創造性とイノベーションを発揮することを求める。我々は、ビジネスと人権に関する指導原則、ILOの労働基準、子どもの権利条約、及び多国間の主要な環境関連協定等の締約国において、これらの国際的な基準、協定や関連する取り組みに従って労働者の権利や環境、保健に関する基準を遵守しながらダイナミックかつ十分に機能する企業セクターを促進する。」(「2030アジェンダ」パラグラフ67)


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