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ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

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  4. 2023年度事業計画

2023年度事業計画

もくじ
I. 基本方針
II. 個別事業概要

I.基本方針

 

 2020年初頭から世界を翻弄した新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは終息してはいないが、少しずつ私たちは日常生活を取り戻しつつある。一方で、2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻が、世界の平和と安定を著しく脅かしているという現状があり、私たちは、武力紛争が最悪の人権侵害であることを改めて痛烈に思い知らされている。平和は、環境、経済、社会の前提であり基盤でもある。少しずつ積み重ねられていたSDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた進捗が一気に後退し、気候危機対応のさらなる遅れやエネルギー危機に加え、それらの要因が複合的に作用することによる食料危機や飢餓の発生も懸念されている。経済の停滞が国際協力への支出に影響を及ぼせば、既に存在したワクチン不平等がさらに悪化するだろう。そのどれもが重要な人権課題であることは論を待たない。
 国内では、パンデミック下で、様々な格差、貧困、不平等が露呈した。その多くは、これまであったにもかかわらず、十分に目が向けられてこなかった、あるいは対応できていなかった課題である。非正規雇用者が多数を占める飲食・宿泊業を始めとするサービス業や介護職・看護職従事者が深刻な影響を受けたが、その多くは女性労働者である。目に見えないウイルスへの不安が生んだ偏見や差別に関する報道からは、この国の人権意識の乏しさを改めて感じることになった。パンデミックという危機であり非日常が顕在化させた人権課題を奇貨として、日本における国際基準の人権の浸透に向けた努力をさらに強化したい。
 2023年度の事業は、パンデミック後の日常が始まりつつあることを踏まえ、対面での企画を徐々に増やしていく。また、ヒューライツ大阪の使命と目的との関連を精査したうえで、国連における人権関係の諸会議への出席や国外での調査も積極的に検討する。そのうえで、前年度に引き続き、ウェブサイトの充実を中心に、「情報ハブとしての機能強化」をさらに推進する。
 また、SDGsの達成にどれほど暗雲が立ちこめているとしても、環境、経済、社会の諸課題に統合的にアプローチし、現在の世界を「続く世界」に変革しようとする包括的な国際目標がSDGsであることには疑いがない。「誰一人取り残さない」というSDGsの理念を踏まえ、ヒューライツ大阪は、2023年度も「SDGsの本質は人権」という立場に立って事業を展開する。SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」の指標16.a.1に「パリ原則に準拠した独立した国内人権機関の存在の有無」が挙げられていることにより、これまでにない幅広い層の人々が国内人権機関に注目しているという追い風も存在する。また、2023年は日本がG7のホスト国であるため、G7のエンゲージメントグループであるC7 (Civil 7)やW7 (Women 7)が日本で開催される。C7やW7の各分野の議論に人権課題が十分に反映されるよう積極的に関わっていく。

 事業実施にあたっては、ヒューライツ大阪が掲げてきた以下の指針であり原則を引き続き尊重する。また、これまで同様、定款第3条に示されている「人権を通じた大阪府民の国際的な人権感覚の醸成への寄与」を具体的かつ効果的に展開することに留意する。

(1)ヒューライツ大阪が伝える人権は「国際人権基準」である。それは、人が人間らしく生きるために、また公平で公正な社会をつくるためになくてはならないものである。

(2)わかりやすく身近で大切な概念として「国際人権基準」を伝える。そのためにウェブサイトやSNSによる効果的な情報発信に努め、セミナー、研修などさまざまな機会を活用する。

(3)2009年に取得した国連の特殊協議資格を活用し、国連を通じた国際人権保障を目的とする活動に積極的に関わる。

(4)特に大阪府民・市民・企業に対し、「国際人権基準」に関する理解を広げ、さまざまなニーズに応える事業を実施する。マイノリティなど権利を侵害されやすい立場に置かれている人々、なかでも複合的・交差的な差別や不平等を被っている人たちの人権状況に特に目を向ける。

(5)専門的な知識、経験を持つ個人や団体との協力により活動の幅を広げ、事業の質を高め、より多くの人々に人権のメッセージを届け、それにより人権課題の解決に貢献できるよう努める。

 また、ヒューライツ大阪の今後を展望し、2023年度も以下の諸点に留意する。

①組織の今後を見通した重点事業分野の再検討
②重点事業分野を担う人材の確保
③勤務体制を含めた人的資源の適正な配置

 2023年度は、以下の重点課題を中心に事業を実施する。

2023年度の重点分野

【国際人権基準の国内における浸透と実現】
日本政府報告書審査後の勧告実施やフォローアップ状況の監視を含む国際人権条約の国内実施。国内人権機関の設置、個人通報制度の導入を規定する選択議定書の批准、包括的な差別禁止法の制定の推進に向けた取り組み。

【外国籍市民の権利をめぐる諸課題】
在日コリアンなどに対するヘイトスピーチおよびヘイトクライムの問題。技能実習生をはじめとする移民・移住労働者。外国ルーツの子どもの教育。移民女性の権利。入管体制をめぐる課題。外国籍市民の社会参加。

【ジェンダー平等に関わる諸課題/不平等と差別の交差性・複合性】
ジェンダーに関連する差別・不平等・暴力。国籍、民族、障害、世系などのアイデンティティとジェンダーが交差する交差性・複合差別。SOGI(性的指向・性自認)に関連する人権課題。

【ビジネスと人権】
「企業の社会的責任と人権」に関し、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を始めとする国際基準の浸透。企業を対象とする研修教材の普及。

【人権教育】
国内における効果的な人権教育の実施に結びつく活動の実施。マイクロ・アグレッションについての理解。包括的性教育。地域社会において人権教育を実践してきた人たちとの連携を通じた対話型ワークショップの開催や教材開発。

【特に日本との関連でのアジア・太平洋地域における重大な人権状況】
独裁的・権威主義的国家における人権侵害。先住民族やマイノリティの人権課題。ODAと人権。

【情報ハブとしての機能強化】
ウェブサイトの構造的改善。過去の情報・記事のアーカイブ化。インターネットやSNSを活用した効果的な情報発信。


II.個別事概要

1、情報収集・発信事業

① 日本語と英語のウェブサイトのコンテンツ充実と発信力の強化

 日本語サイトは、2021年度にデザインを一新し、各ページの上部にコンテンツのメニューバーを設置し、パソコンでもスマホでもより容易に閲覧できるように画面をリニューアルした。データ量が増え複雑化しているコンテンツの構成を前年度に引き続き2023年度も整理し、見やすく、探しやすく、使いやすくすることに努める。
 日本語サイトのトップページでは、主催・共催セミナーの案内や開催報告、タイムリーな人権情報「ニュース・イン・ブリーフ」、ヒューライツ大阪の活動を紹介する「お知らせ」を迅速に掲載する。国際人権基準に関わるコンテンツの一層の充実を図る。
 英語サイトでは、日本の人権問題について発信するとともに、在日外国人のための情報提供にも努める。アジア・太平洋地域の人権問題とそれに対する取り組みの紹介を引き続き行う。
 また、ウェブサイトによる情報発信と並行し、フェイスブック、ツイッターなどSNSによる発信に引き続き努め、受信者の増加など発信効果の向上を図る。

② 国内外のオンライン会議・セミナーに積極的に参加

 最新情報の収集、ネットワーク強化のため、対面およびオンラインによる会議・セミナーへの参加に努める。海外出張についても、今年度の重点目標などに鑑み、必要性に応じて実施を判断する。会議・セミナー参加から得られた情報をウェブサイト、ニュースレター「国際人権ひろば」、Eメール会報・インフォなどを通して発信する。

③ 資料の収集・整理

 国際人権基準や人権教育に関する資料、重点テーマに関する日本をはじめとするアジア・太平洋地域の人権情報の資料を重点的に収集し、資料閲覧に訪れた府民・市民の利用に供する。2023年1月末時点の所蔵図書(逐次刊行物除く)は10,642点であるが、公共図書館では所蔵していない貴重なものを含んでおり、書誌情報の管理を維持する。また重点事業に関する資料は積極的に収集する。貸出サービスについては引き続き、会員の紹介者への貸出など貸出対象を広げたり、収集資料に関する情報をウェブサイトやEメール会報・インフォで発信したりするなど、利用促進を図る。

2、調査・研究事業

① 「企業の社会的責任と人権」の普及と促進

 重点事業の一つとして取り組んできた経験と実積に基づき、2023年度も以下の事業を実施する。その際、SDGsやESG投資の広がり、国の「ビジネスと人権に関する行動計画」やガイドラインの策定等に伴う関心の高まりを踏まえながら、人権の共通理解と社内浸透にはなお課題を残している企業社会に対して、人権の普及というヒューライツ大阪の本来のミッションをベースに基本的な視角を提供することを念頭におく。
 (1)国際人権基準に基づいた「ビジネスと人権」の基本的な 内容の企業への浸透を引き続き重 視し、2021年度に改訂した『人を大切に―「ビジネスと人権」ガイドブック』、2022年度に改訂したeラーニング教材の普及に努める。

(2)2022年度にリニューアルした「企業と人権」サイト、eラーニング特設サイト、企業と人権Eメールインフォ等を活 用しながら、上記(1)の普及と併せて、国際人権基準及び国連ビジネスと人権に関する指導原則の本来の考え方の普及に努める。

(3)企業の人権及びサステナビリティ担当者をターゲットに、ビジネスと人権の基本的な内容を分かりやすく伝えるセミナーを企画、実施する。

(4)「ビジネスと人権」や「SDGsと人権」など、幅広く普及させるべきテーマのセミナー等を、企業だけでなく市民 ・NGO等も含めてターゲットとし、企画、実施する。

(5)「ビジネスと人権市民社会プラットフォーム」「社会的 責任向上のためのNPO/NGOネットワーク」「SDGs市民社会 ネットワーク」など、市民社会組織や個人とのネットワ ークを発展させ、協力・連携関係の強化に努める。

② 人権教育推進のためのプログラム実施

 2022年度に引き続き、セミナーの企画とウェブサイトのコンテンツ充実について、専門家の助言を受けながら事業を進めていく。セミナーは、対面とオンラインの両方の開催スタイルのバランスを取りながら開催する。2022年度に続き、社会的マイノリティの人権問題への理解やマイクロ・アグレッションなどに対処する教育実践、性と生殖に関する健康・権利に関わる教育などを積極的に紹介する。ウェブサイトでは、生徒向けの人権に関する基本知識を学べるコンテンツを開発する。
 国連が、「若者」を重点領域に据えて推進している「人権教育のための世界プログラム」第4段階(2020~2024年)に関する国際社会の動向を引き続きフォローし、情報発信に努める。

③ スタッフ研修

 スタッフの業務に必要なスキルや知識を向上させるための研修を実施する。

3、研修・啓発事業

① 国際人権条約の国内実施のモニタリング

 2022年に障害者権利委員会および自由権規約委員会が日本について採択した総括所見(懸念と勧告)を市民にわかりやすく伝えるとともに、政府の実施状況に関してモニターする。とりわけ、国内人権機関の設立、個人通報制度の受け入れ、包括的な差別禁止法の整備といった各条約機関から繰り返し発出されている勧告に対する政府の方針に留意する。
 自由権規約委員会による勧告を受け、他団体と協力して民族的マイノリティの権利に焦点をあてたフォーラムを開催する。
 国内人権機関の設立についての国連からの度重なる勧告に関しては、広く市民に国内人権機関の役割や他国の先進事例を学ぶようなシンポジウムを開催する。
 2023年1月の国連人権理事会のもとでのUPR(普遍的・定期的レビュー)第4回日本審査で表明された各国からの勧告について、日本政府の受け入れ姿勢をフォローし、情報発信に努める。
 また、女性差別撤廃条約の第9回日本政府報告書の審査に関わる女性差別撤廃委員会の動向とNGOの取り組みなどの情報収集に努める。
 ヘイトスピーチ・ヘイトクライムをめぐる課題に関して、国の「ヘイトスピーチ解消法」、および大阪府・市など各地の条例の実施状況や新たな整備状況について情報発信する。

② 移民・ 移住労働者の人権に関する情報収集・啓発

 移民・移住労働者など外国籍市民や外国につながる子どもたちの直面する課題に関する情報を当事者や支援者、市民に伝える。2021年の廃案に続き、改定案が再び議論されている「出入国管理及び難民認定法」をめぐる課題について情報収集・発信を行う。
 また、2018年に国連が採択した「移住グローバル・コンパクト」(安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト)と「難民グローバル・コンパクト」の日本の実施状況についてフォローする。2023年12月に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が難民支援について国際社会で議論するためにジュネーブで開催する「第2回グローバル難民フォーラム」において、日本が共同議長国を務めることを踏まえつつ、日本の難民受け入れの課題について情報発信する。

③ 人権映画の上映会

 2022年度に引き続き、大阪市立男女共同参画センターと共催で人権映画の上映会を開催する。人権を身近に感じる機会がなかった人たちが、人権の意義や内容の理解を深める契機となるような映画を上映するとともに、ヒューライツ大阪の認知度を高める場とする。

④ 交差性・複合差別の情報収集と学習会

 これまでの継続事業として、当事者団体との協力・連携を通じて、ウェブサイトの改善と内容の充実を図るとともに、2023年のW7におけるマイノリティ女性などの議論に関する情報収集に努める。また女性差別撤廃条約第9回日本政府報告書審査に向けた学習会などを企画する。

⑤ 受託事業

 ヒューライツ大阪のスタッフの講師派遣について引き続き広報し、自治体、学校、NPO/NGO、企業、宗教団体などが企画する人権研修を受託する。また、研究機関、公益法人などの研究調査に関わる業務協力についても、ヒューライツ大阪の活動趣旨に適う場合には積極的に受託する。

⑥ 「ワン・ワールド・フェスティバル for Youth」などイベントへの参加

 国際協力に関わるNGO、大学、政府機関、国連機関が大阪に集まり活動紹介や交流イベントを行う「ワン・ワールド・フェスティバル for Youth」などに参加し、ヒューライツ大阪の活動を広く伝える。ワークショップなどの企画も積極的に検討する。

⑦ 共催事業:NPO/NGO、学校関係などの団体との協力・共催事業の推進

 ヒューライツ大阪の活動の趣旨と合致するセミナーなどの事業を、他団体と協力し共催することによって、ヒューライツ大阪の企画の充実を図るとともに新しい層への啓発を模索し、ネットワーク強化、およびヒューライツ大阪の認知度を高める。

⑧ タイムリーな機会を得た学習会

 人権に関する様々なトピックを切り口にして、わかりやすく親しみやすい学習会「じんけんカタリバ」を2023年度も開催する。
 軍事クーデター後のミャンマー情勢、とりわけ日本政府の公的資金や民間企業によるビジネスをめぐる課題について、またアフガニスタンやウクライナの状況、および中国の新疆ウイグル地区における人権状況などに関して、タイムリーな学習会の開催・共催を検討する。
 その他、タイムリーなテーマに関して、必要に応じて学習会を主催・共催し、府民・市民に人権情報を提供する。

⑨ インターン受入れ・人材養成事業

 人権に関心のある人をインターン生としてヒューライツ大阪の事業に関わる機会を設け、実務経験の場を提供することを通じて、国際人権基準を理解する人材育成に資するとともに、情報発信の強化につなげることを目的に希望に応じて受け入れを検討する。

4、広報・出版事業

① ニュースレター「国際人権ひろば」、「FOCUS」の発行

 国内外における人権に関する最新の動きや重要なトピックを伝えると同時に、ヒューライツ大阪の会員や関係者とのネットワークの媒体として、ニュースレターを引き続き発行する。日本語の「国際人権ひろば」は年6回(各2,000部)、英語の「FOCUS」は年4回発行する。
 「FOCUS」は、基本的にPDF配信し、印刷媒体での郵送を希望する団体に限ってコピーを郵送する。
日英のニュースレターの原稿は、継続してウェブサイトに掲載し、アーカイブ化する。国内外の情報ニーズに応えるコンテンツとして内容の充実、および読みやすさを追求する。

② "Human Rights Education in the Asia-Pacific"vol.12の発行(アジア・太平洋における人権教育)(英語)

 アジア・太平洋地域の学校教育および生涯教育を含む幅広い人権教育の実践報告を収集し、編集発行してきたが、2021年度からサイトへの掲載のみとし、希望するアジア各国の人権機関、NGO、政府機関などにPDF配信する。この事業を通じて、地域における人権教育に関する情報を蓄積している。2023年度は "Human Rights Education in the Asia-Pacific" vol.13の企画編集を行う。

5、情報サービス事業

① 会員の拡大と会員サービスの充実

 ヒューライツ大阪の支援者を増やし、安定した収入を確保するために、リーフレットの活用などによって継続して会員の維持と拡大を図る。事業参加費の割引・無料などの会員サービスを積極的に伝えることを含め、機会をとらえて会員募集の広報を行う。

② Eメールインフォ・会報の発信

 ヒューライツ大阪が開催するセミナーや、ニュース・イン・ブリーフをはじめウェブサイトの更新情報などを個人・団体にタイムリーに伝えるために、「Eメールインフォ」および「企業と人権Eメールインフォ」を発信する。また、会員・役員に対しては、より詳しい情報を提供する「Eメール会報」を引き続き発信する。「Eメールインフォ」と「Eメール会報」は、毎月2回をめどに配信する。

③ 情報・研修などについての国内外からの相談への対応

 ヒューライツ大阪が蓄積する資料・情報や研究・研修に関する相談に応じるとともに、適切な関連機関を紹介するなどの情報サービスに努める。また会員からの人権啓発・研修の企画に関する相談があれば、積極的にサポートする。個別の人権相談については、ヒューライツ大阪は人権相談機能を有していないことから、内容に応じて適切な団体・機関の紹介に努める。