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国際人権ひろば No.188(2026年07月発行号)

特集:マイノリティが安全・安心に暮らせる社会

東大阪市インターネット条例制定への道と課題

李 信 恵(リ シ ネ)
フリーライター、東大阪でヘイト問題を考える会の共同代表

 東大阪でヘイト問題を考える会のはじまり

 大阪府東大阪市で2025年4月5日、市民有志による「東大阪でヘイト問題を考える会(以下、「考える会」)」の結成集会が開催された。在日コリアンをはじめ外国籍住民も多く暮らす東大阪市では、行政も多文化共生を掲げている。しかし近年、政治家や市職員によるヘイト発言、教育現場への攻撃などが相次いでおり、差別を許さない地域社会を築くための取り組みが急務となっていると考えたからだ。

 その前年の2024年12月の末、東大阪市内で開催された講演会が終わった後に私は地元で活動する女性から呼び止められた。「東大阪で罰則付きのヘイト禁止条例を作る会を立ち上げたいので、李さんにもぜひ参加してほしい。東大阪でヘイトと云えば李さんだから」と。一瞬、私がヘイトスピーチをしているようにも聞こえたが、それはさておき。私は50歳を過ぎたら社会運動は一線から退き、のんびり暮らそうと思っていた。2つの裁判を経て、これまで十分頑張ってきたと思っていたし、もっと若い世代がいるのに老害になりたくはなかった。しかし、ここ東大阪では若手の部類に入ってしまう。また、川崎のような条例が東大阪にできるなら、それはとても素晴らしいことだ。自分にできることがあればと、参加することにした。

 東大阪という街とヘイト事例

 東大阪市は、大阪市生野区、東成区、東京都新宿区に次いで、在日コリアンが多く暮らす地域の一つである。ラグビーの聖地・花園ラグビー場を擁し、中小企業や町工場が集積する「ものづくりの街」としても知られている。一方で、東大阪市によれば、2025年時点で97カ国、24,447人の外国籍住民が暮らしており、国際都市・多文化都市として外国人の人権を保障し、差別を許さない共生社会を実現することは喫緊の課題となっている。「考える会」は、差別禁止規定を明記した包括的な人権条例の制定を求めている。人権侵害を受けた被害者の尊厳回復を目指す施策を盛り込み、差別犯罪を繰り返させない実効性ある条例づくりを訴えている。

 実は東大阪市ではこれまで、数多くのヘイト事例が発生してきた。2015年には、極右市民団体「現代撫子倶楽部」の中谷良子代表が、育鵬社教科書の2011年に続いての再採択を求めるヘイト街宣を布施駅前で2週間にわたり行った。その抗議行動について、右派市民がFacebook上で「外国人が必死になって活動しているのが笑える」と投稿し、野田義和市長がその投稿に「いいね!」を押した問題も起きた。市長は後に「スマホの扱いに慣れていなかった」と釈明したが、中谷氏のブログによると市役所内ではヘイト街宣を行った側と人権文化部幹部が握手する場面もあった。

 民族学級に対する攻撃も続いている。2021年以降、西野弘一府議と野田彰子市議は、X(旧Twitter)や府・市議会において、民族学級や民族講師に対する攻撃を展開し、朝鮮半島ルーツの生徒の民族名を「朝鮮のあだ名」と表現するなど、差別発言を繰り返した。さらに、市職員による差別事例も発生している。東大阪市教育委員会は、朝鮮半島にルーツを持ち民族学級に通う子どもたちによる「朝鮮文化に親しむ東大阪子どもの集い」から2020年度に一方的に撤退した。その理由として、「ほかの外国籍の子どもが増えている」ことが挙げられた。また2023年には、市職員が勤務時間中にXへ外国人や障害者への差別投稿を書き込んでいたことが発覚し、戒告処分となった。

 日本軍「慰安婦」問題をめぐるヘイトも続いてきた。2014年には、東大阪市が米国グレンデール市の「慰安婦」像撤去を求め、姉妹都市解消まで議論した。同年には、日本会議系市議と極右団体関係者による「いわゆる!従軍慰安婦検証展」が開催された。2020年には野田市長がドイツのベルリン・ミッテ区長へ慰安婦像撤去維持を求める書簡を送付し、2021年には「表現の不自由展かんさい」の会場前で極右団体による抗議街宣も行われた。

 市民と一緒にヘイト問題を知る・学ぶ

 こうした状況を受け、発足した「考える会」は2025年5月以降、2カ月に一度のペースでヘイト問題についての講演会や学習会を開催している。第1回講座にはジャーナリストの中村一成氏、NPO法人「うり・そだん」理事長の鄭貴美氏を招き、第2回にはノンフィクションライターの安田浩一氏、布施源氏ケ丘教会牧師の安藤眞一氏を講師として迎えた。

 2025年7月の参議院選挙では、排外主義と差別を煽る言説が広がっていることに対し、同会は声明を発表した。声明では、「今回の選挙が排外主義を競い合う選挙であってはならない」と訴え、外国籍住民への差別やデマに反対する姿勢を明確にした。

 共同代表である在日朝鮮人のフリーライター・李信恵(私)は、「参政権を持たない私たちのことを、参政権を持つ人々が差別やデマの中で決めていくことに恐怖を感じる」と朝日新聞のインタビューに答えた。


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学習会のもよう


 ネット上のヘイトについての条例案

 2025年9月に入ったころ野田市長により「東大阪市インターネット上の誹謗中傷や差別等の人権侵害のない社会づくり条例」の制定が進められており、6月にはすでに条例制定へ向けた審議会が開催されていたことが分かった。罰則付きの差別禁止条例を求めていた「考える会」としては、この条例についても罰則を織り込んだものにして欲しいという考えが一致した。そのため、9月に開催される審議会、議会の傍聴と市議会各会派を回り、罰則、それがかなわなかった場合には最低でも見直し規定を盛り込んで欲しいとして審議会へは請願書を、市議会には陳情書を提出した。

 市による同条例の2025年11月から12月にかけてのパブリックコメント(以下、パブコメ)募集に対しても、「考える会」はチラシ作成や広報などを通じて協力し、市民への周知を進めた。東大阪市の多文化共生や個別の課題に向けた取り組みの最上位に位置し、すべての土台となっているのが2004年7月に施行された「東大阪市人権尊重のまちづくり条例」だ。2023年4月に改正が行われたが、2023年にパブコメの募集があった際には集まったのは1通だけだったという。また、審議会の傍聴者は1、もしくは0という数字が並んでいた。今回、2025年9月の審議会の傍聴には6名が参加し、パブコメは60人から64通が届いたという。また、パブコメ募集の際には市のLINEも活用してはどうかという意見も出したが、今回は実現できなかったものの、その次の別件のパブコメ募集では反映された。

 私は韓国籍なので、この国の参政権を持たない。なので、自身の声を政治の場所に一票として届けることはかなわない。けれど、パブコメならそれが出来るということを改めて実感し、学びにもなった。

 当初は2か月に1度と考えていた条例の学習会は条例制定の動きを知って以降ほぼ毎月行い、同じく罰則付きの条例制定を求める運動が活発な京都からは大学教員で詩人の中村純さん、大阪弁護士会のヘイトスピーチ対策検討プロジェクトチーム座長の大橋さゆり弁護士などを迎え、2026年3月までに5回開催した。脳の容量を超えるハードスケジュールだったがなんとか乗り切った。

 共産党やれいわ新撰組の議員からは、2025年9月・2026年3月の議会で、この条例案に対し、罰則規定についての必要性を問う質問もあった。

 ネット条例施行に至るまでの取り組みと課題

 そして2026年4月、3月議会を経て「東大阪市インターネット上の誹謗中傷や差別等の人権侵害のない社会づくり条例」が施行された。罰則規定こそ盛り込まれなかったものの、附則には「必要があると認めるときは、この条例の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる」と明記された。とても小さい一歩だが、胸が熱くなった。自分たちの運動が少しずつ形になっていく手ごたえも感じた。

 一方で、制定されたこの条例には課題も残されている。最大の課題は、罰則規定や差別禁止規定が盛り込まれなかった点である。そのため、悪質なヘイトスピーチやインターネット上の差別煽動に対して、どこまで実効性をもって対応できるのかが問われている。

 市の人権文化部との2026年5月の話し合いでは、川崎市や鳥取県ではすでに罰則規定のある条例があるものの、インターネットのヘイトに対して罰則規定はなく、東大阪の今回の条例に対しても同様に罰則規定を設けるのは現状では難しいということも聞いた。しかし、審議会でも今回の条例に罰則規定を設けるには難しいとしても、東大阪市人権尊重のまちづくり条例の方で罰則を設けることを考えてはどうかとの意見が上がっていた。まだまだ考える余地はあると思う。

 そして被害者支援の具体的制度、相談体制、多言語対応、教育現場での人権教育の充実などについても、今後さらに整備が必要である。外国籍住民などマイノリティ当事者が安心して暮らせる街づくりを進めるためには、条例制定を新たな起点として、市民・行政・教育現場が継続的に取り組みを発展させていく必要があると考える。

 附則に盛り込まれた「必要な措置を講ずる」との文言は、将来的な条例改正や実効性強化の可能性を残すものである。今後、東大阪市が差別禁止条例制定へ進むのか、また全国的な人権保障や差別禁止法制定につながるのかということも注視したい。

 さらに、インターネット上の差別は匿名性や拡散性が高く、自治体単独での対応には限界がある。そのため、地方自治体の取り組みを積み重ねながら、国レベルでの包括的差別禁止法やヘイトスピーチ規制法の制定につなげていくことも重要な課題である。

 条例制定は終着点ではなく、差別を許さない地域社会を築くための出発点だ。東大阪市における今後の取り組みは、多文化共生社会を目指す全国の自治体にとっても重要な先例となる可能性を持っていると私たちは考える。ヘイトスピーチの禁止と刑事罰(罰金)を設けた川崎の尊い条例に追いつき、追い越せだ。

 私たちのこれから

 「考える会」は今後も、学習と対話、地域での連帯を積み重ねながら、差別を許さない東大阪を目指して活動を続けていく。2026年4月25日には芸人でプロテスターの「瓢軽奈乙燦(ひょうきんなおっさん)」を招き、会の1周年記念のイベントを開催した。彼の創作落語で笑い転げ、この1年の活動を皆で振り返った。運動を持続させるには、私は笑い(ユーモア)がとても大切だと思っている。まだ先はきっと長く、時々険しいとも思うがそれでも真剣に学び、活動し、思いっきり笑う。そういった活動ができれば幸いだ。この1年はとても速かった。私たちはこの社会の中で、とても小さな歯車かもしれない。けれど、その歯車がかみ合っていけば、いつか大きな力になり何かを動かすことができると思っている。今後はさらに各地の運動と繋がり、共有しながら罰則付き条例の制定に向けさらに突き進んで行きたい。

 東大阪では毎年11月3日に市内の布施・三ノ瀬公園で「国際交流フェスティバル」が開催される。その合言葉は「わたしたちのまちはアジアの街、わたしたちのまちは世界の街」で、私はこの言葉が大好きだ。罰則付きの条例は、この言葉をしっかりと支える礎にもなると思う。実現に向けて、これからも一緒に頑張ろう。