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国際人権ひろば No.188(2026年07月発行号)

特集:マイノリティが安全・安心に暮らせる社会

一歩前進だけど...、その先へ 改正「鳥取県人権尊重の社会づくり条例」の意義と課題

坂根 政代(さかね まさよ)
部落解放同盟鳥取県連合会

 多くの人から、「罰則付きの条例が制定されたなんて、すごい出来事だね」と称賛の言葉や、質問などが寄せられます。被害の救済について実効性を持たせる意味では、一歩前進と受け止めています。しかし、2026年1月の施行後に不十分な点もみえ、忸怩じくじたる思いと今後さらなる改正の必要性を感じているのが今の状況です。

 今回の改正に至るまでの経過

 「鳥取県人権尊重の社会づくり条例」(以下、県人権条例)は1996年に施行されました。全国の都道府県に先駆けた人権条例の制定でした。この背景には、鳥取県内の全市町村における部落差別等解消条例の成立後、部落解放同盟鳥取県連合会(以下、県連)及び連帯する各団体が条例の必要性を県行政に要請し、県は当初「啓発」に焦点をあてた条例を検討していたものの、差別の現実を踏まえた総合的な観点を持つ条例の制定を求めた結果、成立したといういきさつがあります。

 その後、2005年に「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例」(以下、「人権侵害救済条例」)が成立しました。この条例は、被害者からの相談・申立てによって、「人権侵害救済推進委員会」という第3者機関で、相手側に説示等を行い、それでもなお従わない場合は、行政罰としての氏名公表、5万円以下の過料に処すというもの。もちろん、加害者側からの弁明の機会を保障するという内容でした。しかし、表現の自由を侵害する、人権侵害の定義があいまいなどとして反対運動がおこり、施行されないまま2009年に廃止に追い込まれました。

 2021年、県人権条例が改正されました。これは、「鳥取ループ・示現舎」によるインターネットを利用しての被差別部落の拡散行為などあまりにもひどい差別のバラマキ・助長等の確信的差別行為が繰り返し行われたことから、県行政へ「差別は許されないこと」を盛り込んだ条例にすべきだという要請を、県連として繰り返し行った結果、第7条に「インターネットを含む差別行為をしてはならない」という条項が新設されるとともに、差別や人権侵害の定義が第1条に規定されたのです。この改正条例は、県内各自治体における人権条例改正の取り組みへと影響しました。

 そして今回再び改正されました。この度の「県人権条例」は、2005年成立の「人権侵害救済条例」と類似しています。20年経ってようやくここまでたどり着いたという感じです。また、この20年の間に、差別や人権侵害が酷くなっているという事態が、条例改正の必要性を高めたということでもあります。

 国の動きと県での取り組み

 2016年「部落差別の解消の推進に関する法律」(部落差別解消推進法)が施行され、県連は、県としてどう取り組んでいくのかを迫りました。県は2017年から「鳥取県同和対策協議会」を開催し、インターネット上の差別・人権侵害への対策、人権教育・啓発、当事者支援などを検討してきました。その中で、県内全市町村で「モニタリング」を行うことを決定し、「ネットモニタリング・ネットワーク」(事務局:鳥取県人権・同和対策課)を設立し、現在に至っています。この取り組みで、差別的な書き込みなどをプロバイダーに削除要請しても削除されない実態が明らかになっています。

 そして、2024年12月4日、「鳥取ループ・示現舎」を相手取った「全国部落調査復刻版出版事件」の東京高裁判決で、「誰しも差別を受けることなく、平穏な生活を営むことができる人格的権利を有する」とした「差別されない権利」が確定しました。

 その後、2025年4月「情報流通プラットホーム対処法」(「情プラ法」)が施行され、実質9月からの稼働となりました。この法律においては、非識字者や、パソコン・スマホなどの機器を持っていない人たちが置き去りにされること、また、削除手続きの煩雑さの問題もあり、鳥取県では、行政が被害当事者に代わりプロバイダーに削除要請を行ってきました。しかし、事業者によっては、本人ではないという理由から十分に対応してもらえないという状況がありました。

 そのような事態を踏まえて、平井伸治県知事は、「県人権条例」の改正を2025年9月2日に、突如、定例記者会見で発表したのです。

<同日発表の改正骨子>

  • 誹謗・中傷や差別行為等について、表現の自由に配慮しつつ削除要請を行う
  • 削除要請に応じない場合に、公表・行政罰適用を視野に実効性ある措置を検討
  • インターネットリテラシーの向上や削除要請の実施状況についても明文化を検討

 県民を被害者にも加害者にもさせないため、2021年の改正条例に謳われていることをより実効性あるものとするための改正提案で、今後さらに検討し、早ければ2026年12月での成立をめざしたい。

 市民運動の取り組み

 2024年8月「差別禁止法を求めるシンポジウム~国は差別禁止法を!鳥取県は差別禁止条例の制定を!~」を、実行委員会を結成し開催しました。被差別部落、在日コリアン、アイヌ民族などそれぞれの立場から、差別の実態と課題などを踏まえ差別禁止法や差別禁止条例の必要性を訴えたことをきっかけに、翌2025年3月に、「鳥取県差別禁止条例を求める会」(「求める会」)を結成しました。

 「求める会」は、知事の「条例改正」提案について、内容をどう評価するのかを検討した結果、「一歩前進」と捉えました。「求める会」は、改正をめざして取り組みを行うという方針のもと、県連と連帯し、知事や県議会議長へ要請したり、12月6日に、「私たちの人権条例について考えよう」という講座を開催し、県民に広く、県条例改正の必要性を訴えました。県連はこれ以外にも連携する議会会派との意見交換を行い、条例改正の成立を要請しました。このような動きを経て、2025年12月議会で全会一致で成立し、2026年1月25日に施行されました。

 「県人権条例」改正の意義と課題

①改正内容

 人権侵害を受けている者の相談支援を行う。削除要請が必要かどうかを第3者機関(「人権尊重の社会づくり協議会」)で検討し、県が事業者に削除要請を行う。要請に応じない場合、発信者に対して削除命令を行い、従わない場合、氏名の公表、ならびに過料5万円を科す。

 インターネットリテラシー教育を推進する。

②意義と課題

<意義>

  • インターネットにおける差別や人権侵害、誹謗・中傷に苦しむ人々の被害救済に寄与し、加害への抑止効果となる。(被害当事者にとっては「光」を感じる)
  • 2021年の改正条例 (「差別行為は許されない」)に実効性を持たせたこと。
  • 差別は許されないことを実践するため、行政の責任として具体策を提示したこと。
  • 「人権条例」改正の動きが、県民に周知され、差別のない社会づくりに関心がもたれた。

<課題>

  • 「情プラ法」の補完的役割を果たす条例であり、事業者へ削除要請する手続きの相談・支援はあるが、削除の実効性が保障されるかどうか疑問。(そうなっていない現実もある)
  • 「鳥取ループ・示現舎」による「部落探訪」(被差別部落の街並みや個人宅、墓地などを無断で撮影・公開した動画の数々)の削除要請についてのハードルが高い。相談・申し出ができるのは人権侵害を受けている個人となっており、その対応が決まった場合、加害者から報復されるのではないかという不安や、申し出することで、被差別部落出身であることが知られる心配から、差別を訴えることをちゅうちょする現実がある。(相談者に関係者、被害当事者の承諾を受けた者を含むなどの改善が必要)市民にとって、使いやすい仕組みなのかどうか、今後の検証が必要。

 今回の「県人権条例」の改正でもなお残る課題の改善を図ること、また、インターネットに限らず差別や人権侵害は日常生活の場で具体的に発生しており、それらに対応するための条例へと改正することなど、これからも市民運動としてさらなる取り組みを行っていきたいと思います。

 改正の取り組みを行うにも、現条例を活用し何が課題なのかをさらに明らかにしなければなりません。現在、周知を図ること、そして「相談に行こう」と活用の呼びかけをしています。鳥取県の人権条例改正が各地での参考となり、各地の取り組みにつながり、国における包括的差別禁止法の制定に結実するよう、共に頑張っていきましょう!