特集:マイノリティが安全・安心に暮らせる社会
移民統合政策指数は、外国人の権利保障の国際比較調査である。主に正規滞在者(EU諸国では非EU市民)の労働市場、家族結合、政治参加、永住許可、国籍取得および差別禁止に関する権利状況、教育と保健医療については非正規滞在者も含む権利状況について比較している。2004年からはじまり第6回目の2025年調査がEU諸国とカナダで先行的に行われた。スペインは2022年に包括的な差別禁止法を制定し、ドイツは2024年に国籍法を改正して複数国籍を認めるなど、点数を伸ばしている。日本の状況は、前回の2020年調査とあまり変わっていないが、まだ公表されていないので、日本のデータだけは前回調査のものである(参考までに、2020年調査での総合点は、スウェーデンが86、カナダが80、スペインが60、ドイツが58、イタリアが58、フランスが56であり、アメリカは73、オーストラリアは65、イギリスは56であった)。
表 主な国の移民統合政策指数MIPEX2025
(日本のデータはMIPEX2020)
| 国 | 総合 | 労働市場 | 家族結合 | 教育 | 保健医療 | 政治参加 | 永住許可 | 国籍取得 | 差別禁止 |
| スウェーデン | 86 | 91 | 71 | 93 | 83 | 80 | 90 | 83 | 100 |
| カナダ | 81 | 81 | 91 | 93 | 73 | 45 | 81 | 88 | 100 |
| スペイン | 64 | 67 | 63 | 50 | 81 | 55 | 75 | 30 | 100 |
| ドイツ | 61 | 81 | 42 | 55 | 63 | 60 | 54 | 67 | 70 |
| イタリア | 58 | 67 | 64 | 43 | 79 | 25 | 67 | 40 | 78 |
| フランス | 56 | 52 | 43 | 43 | 65 | 45 | 54 | 70 | 79 |
| 日本 | 47 | 59 | 62 | 33 | 65 | 30 | 63 | 47 | 16 |
出典:
https://www.mipex.eu/download-pdf ; 近藤 敦「移民統合政策指数 (MIPEX2020)等にみる日本の課題と展望」移民政策研究14号(2002年)13頁。
表をみてわかるように、日本の移民統合政策の最大の課題は、包括的な差別禁止法を持たない点である。人権委員会やオンブズマンなどの差別禁止の特別な機関もない。ついで、政治参加が課題である。どのレベルでも外国人の選挙権・被選挙権が認められていない。国レベルでの外国人による諮問機関はない。外国人団体への公的支援も十分でない。さらに、教育が課題である。外国人児童生徒を義務教育の対象と法律上位置づけていない。外国人生徒の大学進学を促進する政策をとっていない。教育制度のガイダンスや就学前児童の日本語教育のプログラムも十分ではない。第二言語としての日本語という科目も、その科目を担当する教師の資格もない。移民の背景を持つ教員の任用施策が乏しい。加えて、国籍取得も課題である。外国人の子どもは、国内で生まれたり、育ったりした場合でも、帰化しないと国籍が取得できない。犯罪だけでなく、交通違反、税金・年金保険料の滞納などが不許可事由となる。複数国籍を認める例外が少ない。
相対的に評価が低くない分野でも、移民統合政策指数では問題とされない日本特有の課題がある。労働市場では、技能実習生への人権侵害が新設される育成就労制度で改善されるためには、職場を選択する自由が1年ないし2年間制限される問題がある。技能実習ないし育成就労で3年、特定技能1号で5年、併せて最長8年間は、家族結合の権利が認められない問題もある。呼び寄せ家族に対する言語要件と統合要件が入国前も入国後もない点が、移民統合政策指数ではプラスに評価されるが、そもそも、言語講習や社会講習といった基礎的な統合政策が不足している問題もある。保健医療では、放っておくと生命にかかわるような緊急医療を受ける権利を担保する制度がない。永住許可や帰化の居住要件は、MIPEX2025では5年の国が一番多い。日本のように永住許可に10年という長い居住要件を課す国はMIPEX2025ではない。しかし、日本では帰化の居住要件はこれまで原則5年であったのを、永住許可の居住要件が原則10年であるという逆転現象を「解消」するために、2026年4月から原則10年へと延長した問題もある。
しかも、国籍法5条1項1号で「5年以上」の継続居住と定める国籍法を改正することなく、法務大臣の裁量は広いので、運用上、原則10年と変更する方針を法務大臣が口頭で示すだけである。このことは、法律に基づく行政といった形式的な法治主義に反する。また、(英米法の国で一般的な)法の支配、すなわち違憲審査制を備えた(今日の大陸法の国でいう)実質的な法治主義にも反する。法の支配における法とは、法律に限らず、憲法を含む。憲法10条は、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」とある。したがって、帰化の主要な要件は、法律で定めることの憲法の要請にも明確に反している。
そもそも、帰化や出入国に関する手続は、行政手続法の適用除外とし(3条1項10号)、法の支配の重要な要素である適正手続を不要とする問題がある。帰化の不許可の決定は、その理由を付記することも不要とする。憲法や国籍法の規定を無視して、法の支配や法治主義の基本を無視して、外国人の帰化行政は法務大臣の広い裁量の問題と政府は考えているようである。
また、そもそも、法治主義の基本を無視することは、いわゆる公務員に関する「当然の法理」でも顕著である。「当然の法理」は、形式的な法治主義に反し、法律の根拠なしに「公権力の行使又は公の意思の形成への参画」にたずさわる公務員には、日本国籍を必要とするとした。2005年1月25日の最高裁判決では、国民主権原理が根拠とされ、「国民主権の原理に基づき...原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されている」という(民集59巻1号128頁)。しかし、ドイツでは、一般に、行政においては国民意思の形成ではなく、その実施が重要であるので、国民主権原理は、公務員の国籍要件の根拠とならないのと比べると、国民主権原理だけを根拠とし、法律の根拠を不要とする日本の議論は、法治国家としてはお粗末な状況にある。2025年12月に三重県知事が、中国の国家情報法を念頭に、1999年から廃止した県の職員採用における国籍要件の復活を検討する考えを示した。もしかりに機密情報の漏洩のおそれがある職務があるとしても、特定の国籍の人をその職務に就けない人事の運用をすればすむことであり、外国人から公務員という職業を選択する自由を奪う、差別的な取り扱いをすべきではない。一般事務の公務員の国籍要件は、今日、政令指定都市ではないものの、35都道府県や市町村にはかなり残っている。一般事務の公務員すべてに国籍要件を課す根拠は何なのだろうか。職務の内容上、憲法の国民主権原理や公権力行使等の基準で根拠づけることには無理がある。いずれにせよ、公務員の国籍要件においては、法律による行政といった法治主義の不足は顕著である。外国人の職業選択の「自由」を奪う公務員の任用手続が法律に基づかないことは、適正手続違反の問題でもある。
日本国憲法の基本原理は、一般に、前文を引用しながら、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義といわれ、これに国際協調主義が加わることがある。しかし、基本的人権の尊重を基本原理と呼ぶ憲法は珍しい。通常は、人権尊重の内容を含みつつ、英米法の国では法の支配、大陸法の国では法治主義を基本原理に掲げる。基本的人権の尊重を担保する重要な基本原理として法の支配や法治主義があることに今後は着目すべきである。
実は、日本国憲法の前文には、「主権が国民に存する」とか「平和」はあるが、「人権」の文字はない。「自由」のもたらす恵沢を確保し、むしろ、憲法前文の「専制」と「圧迫」を除去する点に着目するならば、世界人権宣言前文に「人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにするためには、法の支配によって人権を保護することが肝要」とあるように、法の支配を基本原理と説くべきであった。行政府や立法府や司法府が、基本的人権を尊重するためには、法の支配や法治主義を守ることが重要であることに気づくだけでも、外国人の人権保障は向上する余地がある。国際移住機関(IOM)をはじめ国連の2018年の合意文書「安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト」(GCM)などにみられるように「秩序ある」入国を推進する傾向にあることを踏まえてか、「秩序ある」共生という日本特有の用語のもと、法の支配を無視することは、厳に慎むべきである。法律によらず、恣意的な行政の余地を広めることは、人権保障にも、共生にも好ましくなく、必要なことは法改正で行うべきである。