MENU

ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

  1. TOP
  2. 国際人権基準の動向
  3. 国際人権ひろば
  4. 国際人権ひろば No.188(2026年07月発行号)
  5. なぜ今、国際人権基準に基づく「外国人及び民族的マイノリティ人権基本法」が必要か

国際人権ひろば サイト内検索

 

Powered by Google


国際人権ひろば Archives


国際人権ひろば No.188(2026年07月発行号)

特集:マイノリティが安全・安心に暮らせる社会

なぜ今、国際人権基準に基づく「外国人及び民族的マイノリティ人権基本法」が必要か

丹羽 雅雄(にわ まさお)
弁護士、外国人人権法連絡会共同代表

 官制排外主義施策の著しい台頭と、人権基本法モデル案の作成経緯

 モデル法案の作成は、日本弁護士連合会第47回人権擁護宮崎大会(2004年)の第1分科会において、戦後初めて「多民族・多文化の共生する社会の構築」をテーマとして「外国人・民族的少数者の人権基本法要綱試案」を発表したことに淵源がある。

 2025年7月20日参議院選挙において、参政党は「日本人ファースト」を掲げ、極右排外主義言説を全面に押し出し選挙戦を行い、比例区で約740万票を得て14議席を獲得した。拡大する官制排外主義の動向は、2025年5月、入管庁の「国民の安全・安心のための不法滞在ゼロプラン」、自民党特命委員会の提言「違法外国人ゼロを目指して」、7月内閣官房に外国人施策の司令塔「外国人との秩序ある共生社会推進室」が設置された。

 このような日本国家・社会における差別排外主義の時代状況を踏まえ、外国人人権法連絡会ワーキンググループによって、全体の構成や条文形式の整理と逐条解説の作成作業を重ね、「人権基本法モデル法案」第1版を作成し、2026年4月25日開催の外国人人権法連絡会の総会で公表している。

 国際人権基準に準拠した「人権基本法モデル案」の背景と根拠

・戦後の国際人権法の発展

 国連総会は、1948年12月9日、「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約」(ジェノサイド条約)を採択し、翌12月10日、自由権、参政権及び社会権の3種に大別された30の条文からなる「世界人権宣言」を採択した。世界人権宣言は、前文において、「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この世界人権宣言を公布する」とし、第1条で、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ尊厳と権利とについて平等である」と唱っている。

・戦後日本の人権状況と国際人権規約の批准

 ポツダム宣言を受託して敗戦を迎えた日本は、1947年5月3日に日本国憲法を施行した。日本国憲法は、最高法規であり、最高の価値を個人の尊厳の尊重を基礎とする基本的人権に置いている(97条、98条、13条)。しかし、基本的人権の享有主体は、日本国籍を有する国民と解釈し、旧植民地出身者とその子孫に対しては、民事局長通達(1952年4月19日)に基づいて、サンフランシスコ講和条約の発効日である1952年4月28日に日本国籍を喪失させ、他の外国人とともに日常的な治安管理と監視の出入国管理法制度の対象とした。しかし、国連に寄託した日本国憲法の英語正文は、人権享有主体を「All of the people」「All people」としている。また、外国人及び民族的マイノリティや移民・難民の人権に関する法整備がなされてこなかった。裁判所は、差別的な法律(国籍条項)や行政政策(当然の法理など)について、いずれも「合理性」があるとの判断を行い、「市民社会」においても、日本は単一民族社会であるとする神話的意識が拡大し、外国人への人権侵害や差別を容認してきた。1978年10月4日、最高裁大法廷は、外国人の人権について「権利の性質による」としたが、他方で「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているに過ぎない」とも判断した。

 翌1979年6月21日、日本は、国際人権規約(社会権規約、自由権規約)を批准し、その後も難民条約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、障がい者権利条約、拷問等禁止条約、強制失踪防止条約などを締結している。

 自由権規約は、第2条1項において「締約国の領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に対し、人種、皮膚の色、性、言語、宗教...出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保する」と規定し、「他の地位等」に国籍を含ませている。自由権規約は、日本国憲法には包摂されない多くの実体的権利を保障し、締約国に即時実施する義務を課している。

 社会権規約は、すべての者の権利として、労働する権利(6条)、社会保障の権利(9条)、相当の生活水準の維持と飢餓から免れる権利(11条)、教育への権利(13条)などが規定されている。特に生存権保障(11条)は、人間の生存と尊厳にとって基本であり中核的権利であるとして、差別の禁止(2条2項)とともに国籍や在留資格による制限を認めず、直接的義務であり司法審査に服するとしている。

 人権基本法モデル案の構成と内容

前文


■ 第1章 総則

第1条(目的)、第2条(定義)、第3条(基本的人権の保障)、第4条(文化的・言語的・宗教的アイデンティティを保持する権利の保障)、第5条(差別の撤廃)、第6条(憲法及び国際人権諸条約等の遵守等)、第7条(出入国在留手続に際しての権利保障)、第8条(通訳・翻訳)


■ 第2章 外国人及び民族的マイノリティの人権と国・地方自治体の責務

第9条(子ども)、第10条(性と生殖に関する健康と権利)、第11条(難民等)、第12条(労働)、第13条(教育)、第14条(社会保障、医療)、第15条(社会参画)、第16条(出入国及び在留)、第17条(日本国籍の取得権等)、第18条(複数国籍の許容)


■ 第3章 旧植民地出身者の法的地位

第19条(旧植民地出身者の地位等)、第20条(戦後補償)、第21条(国籍選択と永住権)、第22条(旧植民地出身者の社会保障)、第23条(旧植民地出身者の社会参画)、第24条(民族学校の制度的保障と財政援助)


■ 第4章 差別禁止

第25条(人種差別の禁止)、第26条(複合差別)、第27条(差別犯罪)


■ 第5章 国及び地方自治体の施策

第28条(国の施策推進部局)、第29条(多民族多文化共生会議)、第30条(国の基本方針及び基本計画)、第31条(地方自治体の基本計画)、第32条(政策策定等への参画)、第33条(法制上の措置等)、第34条(調査及び年次報告)、


■ 第6章 救済機関

第35条(人種差別撤廃センター)(「パリ原則」に基づく政府から独立した国内人権機関の設立は、最も重要な包括的人権保障システムであり、設立後はモデル法案の個別救済機関とは有機的に連携する関係にある)


 以上のような構成と条項化において、原則として第1項で当事者に保障される権利内容を定義し、第2項において「国及び地方自治体」の権利保障を実現し担保する義務を定める、という構成を基本パターンとした。また、各条項については逐条解説を行い、わかりやすい説明として歴史的経緯や立法事実等を「です・ます」調で記述している。

 独自の文化を形成してきたアイヌ先住民族や琉球・沖縄共同体の民族的マイノリティ当事者については、本モデル法案で定める内容に加えて、2007年9月13日国連総会で採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を踏まえた先住権を含む権利保護法施策を別途検討されなければならない。

 現代の差別排外的な時代状況下、政府が進めている「秩序ある共生社会の基盤としての在留管理・治安管理体制」ではなく、「多民族・多文化共生社会の基盤としての国際人権基準に基づく人権法制度」こそが求められている。

 現在日本の外国人関係法案は、①韓国・朝鮮人の補償・人権法(民族差別と闘う連絡会、1989年11月)、②外国人住民基本法案(「外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会」、1989年)、③日弁連人権擁護宮崎大会第1分科会「外国人・民族的少数者の人権基本法要綱試案」(2004年11月)、④多文化共生社会基本法案(立憲民主党の議員立法案、2022年6月)、⑤新在留外国人等基本法要綱案((公財)日本国際交流センターの「外国人材の受け入れに関する円卓会議」、2024年1月)などがある。

 外国人人権法連絡会は、2025年6月に公表している「人種差別撤廃法モデル案」とともに、この「外国人及び民族的マイノリティ人権基本法モデル案」を両輪の人権法制度の基盤として、戦争遂行への道である差別排外主義を許さず、すべての人間の尊厳が等しく保障される多民族・多文化の平和な共生社会の構築を求めて行きたい。


(※詳細は外国人人権法連絡会のウェブサイト参照)