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国際人権ひろば No.186(2026年03月発行号)

特集:「ビジネスと人権」の推進をめざす市民社会の取り組み

ミャンマー軍事クーデターから5年 ―日本の「ビジネスと人権」の課題

木口 由香(きぐち ゆか)
特定非営利活動法人メコン・ウォッチ理事

 日本は、2011年の限定的な民政移管後に、ミャンマーに対し5千億円もの債務救済をし、その後の投資にも深く関わってきた。だが2021年2月1日、ミャンマー軍(1がクーデターを起こし、10年に満たない民主化の流れは強引に断ち切られた。それから5年、ミャンマー情勢は予断を許さない状況が続き、日本の責任も問われてきた。

 今も続く人権危機

 当初は、全国で平和的かつ大規模な抗議行動や、非暴力の市民的不服従(CDM)運動が人びとによって展開された。しかし、ミャンマー軍は自制を呼びかける国際社会の声を無視し、すぐに暴力的な弾圧を始め、それを継続している。NGO政治囚支援協会の調べでは2026年1月22日時点で、確認されただけでも7,705名の人が殺害されており、その中には1,000名近い子どもが含まれている。不当に拘束されている人は22,740名にも上り、そのうちの一人は国家顧問であったアウンサンスーチー氏である。クーデター前に発生した弾圧を契機に、バングラデシュで生活するロヒンギャ難民は現時点で116万人を超え、国内避難民は少なくとも350万人に達すると見られている。

 弾圧を逃れるためにやむなく武装闘争に入る人が増え、民主派の国民統一政府も2021年5月に人民防衛隊の設立を宣言した。防衛隊と少数民族抵抗勢力の反撃で、ミャンマー軍は一時、全土の二割程度しか掌握していないほどに追い詰められた。現状、中国政府の働きかけで軍が攻勢に転じているとされるが、地上戦では劣勢で、ここ数年は空爆を多用している。軍は、学校や宗教施設が抵抗勢力の拠点となっていると主張し、空爆に巻き込まれる子どもが増え続けている。

 軍の暴力を支える資金の流れ

 2017年に、ミャンマー軍と治安部隊による人権侵害の実態を調査するため「ミャンマーに関する独立国際事実調査団」が国連人権理事会により設置された。調査団は報告書で、ミャンマー軍が国内外の商取引から得る収入が、軍が深刻な人権侵害を行う能力をおおいに高めていると指摘した。軍が所有し支配する企業と、その所有する100以上の子会社との商取引は、直接・間接に軍の暴力を助長することにつながる。また、軍は土地の賃貸などでも収入を得ている。クーデター以降は、各種公社からの収入も軍の利益となる。もちろん、これらは日本のビジネスも無関係ではない。

 私たちは日本のNGOとして、ミャンマー軍と関係する日本の事業を調査し、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、企業や政府に説明や撤退を求めてきた。日本のビジネスでミャンマー軍と関係している事業は、政府開発援助(ODA)の一部事業だけでなく、資源開発、不動産事業、メディアへの投資など多岐に渡っていた。以下にその一部を紹介する

(1)ガス開発と日本

 日本は1990年代から、ミャンマーの沖合ガス田の開発に関与してきた。ガスは主に隣国タイに輸出される。イェタグン・ガス田は日本が官民で権益を保有し、2000年から商業運転を行なっている。この時期、ミャンマーでは複数のガス事業が始まり、軍備の拡大にこれら収入が貢献していたと見られる。2011年の民政移管以降は国の収入として管理されるようになったが、クーデターにより再び軍の収入源となることから、メコン・ウォッチを含む市民グループでは責任ある撤退を求め、関連企業や所管する経済産業省への働きかけをおこなった。

 結局、ガスの生産が減少していることが理由で日本勢は2023年に撤退を決めた。この際、経済産業省が企業に人権配慮を求めたことは情報公開請求で入手した開示資料で確認しているが、事業の清算の際、ミャンマー軍を利することは防げたのかなどについては、商業上の秘密を理由に説明はなされなかった。

(2)軍の土地での不動産事業

 最大都市ヤンゴンでの複合不動産事業(通称Yコンプレックス)は日本の官民の関与がある。東京建物、フジタ、官民ファンドの海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)が出資し、日本政府の輸出信用機関である国際協力銀行(JBIC)が三井住友銀行、みずほ銀行と協調融資を行なっている。この事業は、軍が所有する土地をサブリースするため、賃料が軍のロジスティックを担う兵站局に支払われてきた。クーデター前にミャンマーの団体から情報提供があり、メコン・ウォッチは公的資金を提供してきたJOINとJBICには撤退を、企業には軍との経済的関係を断つよう求めてきた。事業は中断したまま、現在に至っている。

(3)クローニー(政商)と日本のビジネス

 前述の事実調査団の報告は、ミャンマー軍の所有・経営する企業と複数のクローニー企業が、軍と密接な関連を持ち続け、軍とその指導部を利しているとも指摘している。官民ファンドの海外需要開拓支援機構(クールシ゛ャハ゜ン機構)は、同じく海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)と持ち株会社を設立し、その持ち株会社を通し日本国際放送(JIB)と共に、ミャンマーで設立したドリーム

  • ビジョン社に出資していた。ここには、ミャンマー大手メディア企業「シュエタンルイン・メディア」も参画していたが、同社は、クローニーと指摘されるシュエタンルイン・グループの企業である。

 また、シュエタンルイン・メディアは、クーデター以降、放送事業を通じてミャンマー軍のプロパガンダを拡散する役割も担っている。2025年6月、日本とミャンマーの団体で、関与したクールジャパンら3社に対し、クーデター後に人権デューディリジェンスが行われてきたのか、その中で、ドリーム・ビジョンがミャンマー軍のプロパガンダを支えていた可能性を検討したのかなど問うたが、3社は「情勢変化」を理由に撤退したことは公開したものの、詳細は明らかにしなかった。

 市民の働きかけで見えてきたこと

 この5年間、私たちは「#ミャンマー国軍の資金源を断て」キャンペーン(2を立ち上げ、他にもさまざまな事業に働きかけをおこなってきた。詳細は、メコン・ウォッチのウェブサイトのトップページの新着情報として掲載している【#ミャンマー軍の資金源を断て】をクリックしていただきたい。 (https://www.mekongwatch.org/


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市民グループによる総理官邸前でのアクション
(中央は筆者。写真提供FoE Japan)

 「指導原則」ができる前に比べれば、市民グループとの対話の姿勢や情報公開などに関して、企業側に一定の変化が見られると感じた。一方、JCBや宝飾会社のTASAKIなど、市民の問いに公に回答しない有名企業も存在している。また、肝心の日本政府の説明責任が不十分であることもしばしばで、「指導原則」の浸透は道半ばだ。

 この原稿の執筆中の2025年12月から2026年1月にかけ、ミャンマー軍は、対抗勢力を全て排除して「選挙」と称するものを強行している。現状、この正当性は国際的に認められないだろうが、日本のビジネス界には、「正常化」への期待もあると漏れ聞こえてくる。ミャンマーの状況は冒頭に記した通りで、偽りの選挙が日本の安易なビジネス再開とミャンマー軍の財政強化に結びつかないよう、引き続き市民の監視が重要な局面が続いていくと思われる。一方、このような監視活動を行う市民グループは多いとは言えず、また資金や人材に限りがあることから、「指導原則」の日本での定着の道のりの険しさを感じるところでもある。



《参考》

  • 「ミャンマーに関する独立国際事実調査団」は、Independent International Fact-Finding Mission on Myanmarで検索するとヒットする。
  • ミャンマー軍の資金に関しては、2025年にライト・ライブリフッド賞を受賞したJustice For Myanmarが詳細な調査を行っている。


<脚注>

  1. 日本では、ミャンマーの軍隊を指す「タッマドー(Tatmadaw)」の定訳として「国軍」が使われてきたが、クーデター以降、この呼称の使用自体が避けられるようになった。これを受け、「ミャンマー国軍」ではなく「ミャンマー軍」という表記を使用している。
  2. 「#ミャンマー軍の資金源を断て」キャンペーンは、国際環境NGO FoE Japan、武器取引反対ネットワーク(NAJAT)、アーユス仏教国際協力ネットワーク、日本国際ボランティアセンター(JVC)、アジア太平洋資料センター(PARC)、メコン・ウォッチの6団体で構成される。