特集:「ビジネスと人権」の推進をめざす市民社会の取り組み
我が国の人口減少を背景に技能実習生の受入れは拡大し、2010年の約10万人から2020年には約38万人へ急増した。2010年に在留資格「技能実習」が整備され、労働法の適用が明確化されたにも関わらず、受入拡大に伴い人権侵害や高額な本人負担額の問題が繰り返し指摘され、米国の人身取引報告書でも「搾取的制度」として毎回問題視されている。出入国在留管理庁の2022年調査では実習生の訪日前の支払い費用の平均が約52万円、ベトナム出身者は訪日前に約66万円を支払っており、同年のベトナム平均月収(約2万円)と比べて非常に重い負担であり、看過できない問題である。
こうした訪日する移住労働者を巡る諸課題にマルチステークホルダーで取り組み、「選ばれる日本」を目指すという目標のもと、民間企業や独立行政法人国際協力機構(JICA)、専門家など約50団体が集まり、2020年、「責任ある労働者受入れプラットフォーム」(JP-MIRAI)が設立された。
JP-MIRAIは、当初より「技能実習生の訪日前の手数料問題」に着目しており、設立翌年の2021年には、計4回にわたり、「手数料問題研究会」(2を開催し、計1,000名以上の参加があり、この問題に対する関心の高さが窺われた。同研究会では、帝人フロンティア社から、2020年より、優良な監理団体と送出機関の選定、及び斡旋手数料を同社が負担する取り組みについて事例が紹介されたが、4回の勉強会の結論として、「よい送出機関を選定することの重要性」が指摘された。
2023年4月には、ベトナム・ハノイ市内において、ベトナム労働・傷病兵・社会省海外労働管理局(DOLAB)/ベトナム海外労働者派遣協会(VAMAS)/国際労働機関(ILO)等との共催で、「人材交流の適正化」と題したシンポジウム(3を開催したところ、送出機関などを中心に200名以上が参加した。同シンポジウムでは、移住労働者が高額な費用を負担する背景として、①送出機関がリクルートを行う段階でのブローカーの存在、②監理団体によるキックバックやサービスの要求、及び③受入れ企業が適切な費用負担を行わないなど、様々な課題が存在し、労働者が費用負担を行わない「国際水準のリクルート」を実現するためには、関係者全員が協力してルールを守ることが不可欠であるとの方向で一致し、「公正で倫理的なリクルート(FERI)」(4の実施を提案し、コンセンサスを得た。
移住労働者のリクルート経路と課題
JICAは、上記の諸課題のうち、リクルートの起点(First One Mile)において、求職者がブローカー等を介せず直接送出機関にアクセスするシステム構築を目的として、2023年8月から、「ベトナム人海外就労希望者の求人情報へのアクセス支援プロジェクト」を開始し、2025年7月には新システムDOLAB-JICAプラットフォーム 「DJ App」が稼働した。
同プラットフォームでは、海外就労希望者は、自身が選択した項目(職種、勤務地、基本給など)で検索を行い、求人情報を閲覧し、それらの求人情報を扱う送出機関に直接アクセスすることができる。また、DOLABからのお知らせ等を本プラットフォーム上で確認することが可能となっている。2026年1月現在、約8000件のアカウントが登録され、ユーザーは、直接かつ透明性の高い形で1,400件を超える求人情報へのアクセスが可能となっている。稼働から約半年間で堅調な実績が見られる本プラットフォームは今後さらなる成果が期待されている。
2023年のベトナムでのシンポジウムを契機として、JP-MIRAI、JICA、ILOの三者は「ベトナム=日本間の公正で倫理的なリクルート(VJ-FERI)」制度構築を共同で進めることとなった。JP-MIRAI顧問の杉田昌平弁護士は、国際労働移動のステークホルダーである送出機関・斡旋機関・使用者・移住労働者の役割と責任を明確化する必要性を指摘し、2024年5月に「FERIガイドライン」を策定した。ガイドラインは、①参加機関の登録・研修、②求人票の事前審査、③来日後モニタリング、④問題発生時の是正・通報、⑤リクルートから帰国までの救済メカニズムを柱としている。
JP-MIRAIは民間企業の支援を受け、ベトナムに加え、インドネシアやネパールなどでも関係省庁や送出機関協会と対話を重ね、賛同を得るとともに実態の把握に努めた。技能実習と特定技能では、国により送出しのためのライセンス発行官庁が異なり、別組織となる場合、関与するプレーヤーも異なり多様である。ベトナムでは、リクルート代行業者が仲介機能を果たす一方、インドネシアやネパールなどでは、日本語学校が事実上の仲介者となるケースが多く、労働者は送出機関に到達する前に手数料を支払う事例が多い。こうした事態を避けるため、「FERIガイドライン」においては、送出機関が第3者にリクルートを委託することを禁止しているが、送出機関からは、対応は容易でないとの声も聞かれた。
2025年4月以降は各国で送出機関研修を行い、同年7月には制度運用の準備が整った。日本側では参加企業の確保に時間を要したが、2025年12月までに約15社が登録し、第1号求人票が認定された。第1号案件は熊本県の村田産業(株)がネパールから技能実習生を受け入れるもので、同社は「労働者負担ゼロ」実現のため通常より296,000円(1人当たり)を追加負担する予定(監理団体:GMT協同組合、送出機関:Success Nepal Recruiting Agency)。
2026年2月時点で、FERIは、送出機関が正式に関与する「技術・人文知識・国際業務」、特定技能、技能実習の在留資格を対象に、ベトナム、インドネシア、ネパール、バングラデシュの4か国で展開されている。
ILOや国際移住機関(IOM)などの働きかけを背景に、アジア各国でも、「倫理的なリクルート」の理解が広がりつつある。2025年のアセアン労働大臣会合では「倫理的なリクルート」が議題となり、具体的行動が検討されている。また、ベトナムでは2025年から海外労働者派遣法改正に着手しているが、中期的には労働者負担ゼロを謳うILO181号条約の批准を目標としている。
日本では2027年開始予定の育成就労制度において、移住労働者から送出機関への支払いの上限額(月給2か月分)が定められた。残念ながら、国際水準にはまだ達していないが、入管庁への上陸許可申請書類への労働者負担金額の明記が義務付けられることにより、雇用主は費用把握の責務を負い、虚偽があれば罰則対象となるなど、一定の進展は見られると評価できる。
ネパールの某送出機関へのヒアリングでは、同社の中東建設分野では、送出しの約3分の1が「労働者負担ゼロ」である一方、日本向け送出しでは労働者に負担させることに加えて、航空券負担やキックバックを日本側から求められるケースがあるとのことであった。
「労働者負担ゼロ」の実現には、使用者が追加の費用負担が必要であるが、日本では法的規制がなく、「ビジネスと人権」の理念だけでは、使用者の理解は得づらいのが実情である。受入れ関係者からは、「労働者負担ゼロ」により、優良な人材確保や定着に繋がるといった報告もあり、今後JP-MIRAIでは、継続的にデータを収集し、エビデンスを収集し、社会啓発に努めていきたいと考えている。
<脚注>