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国際人権ひろば No.185(2026年01月発行号)

特集:「安全」「安心」の名のもとに脅かされる人権

拡大する官製排外主義-共生を阻む政治を問う-

 下図は、刑法犯検挙人員の推移である。果たして、外国人は治安の脅威であろうか。


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注)
「来日外国人」とは、定着居住者(永住者、永住者の配偶者等及び特別永住者)と在日米軍関係者以外の正規滞在者、及び非正規滞在者を指す。「その他外国人」とは、定着居住者と在日米軍関係者、及び在留資格不明者を指す。

出所:
警察庁『警察白書』(各年版)をもとに筆者作成

図 日本全体の一般刑法犯検挙人員の推移


 2003年8月、警察庁は「平成14年の刑法犯認知件数は285万3,739件と7年連続で戦後最多を記録し、刑法犯検挙率は過去最低の水準となっている」として、「国民の不安を解消するため」に「緊急治安対策プログラム」を策定した。そこでは、国民に不安を抱かせる要因の1つとして「来日外国人犯罪」が挙げられている。

 同年9月、「世界一安全な国、日本」の復活を目指し、犯罪対策閣僚会議の開催が閣議口頭了解された。同会議がまとめた「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」(03年12月、以下「03年行動計画」)には、「近年、外国人犯罪の深刻化が進み、その態様も、侵入強盗等の凶悪なものが増加しているほか、暴力団と連携して犯罪を敢行している例も多くみられる」とある。

 2004年、内閣府が実施した「治安に関する世論調査」では、86.6%が10年前と比較して日本の治安が悪くなったと回答し、その理由(複数回答)として「外国人の不法滞在者が増えたから」が最も多くなっている(54.5%)。だが、非正規滞在者数は、1993年以降減少しており、恣意的かつ不適切な選択肢である。その反省もあってか、06年調査では、選択肢が「来日外国人の犯罪が増えたから」に変更されたが、やはり最多の回答であった(55.1%)。実際には検挙人員の大多数は日本人であるにもかかわらず(図参照)、当局が公表する外国人犯罪に関する言説に誘導されるかのように、治安悪化と外国人を結びつける意識が形成されたのだ。すなわち、政府によって生み出された不安である。

 一方、直近の21年調査をみると、在日外国人も訪日外国人も増大しているにもかかわらず、不安を感じる犯罪においても、警察に力を入れて取り締まってほしい犯罪においても、来日外国人の犯罪を選択する人の割合は、他の項目に比べて低くなっている。さらに、04年調査以降、現在の日本を「治安がよく、安全で安心して暮らせる国」だと回答する人の割合は増え(04年調査:42.4%⇒21年調査:85.1%)、ここ10年で治安が悪くなったと回答する人の割合は減っている(04年調査:86.6%⇒21年調査:60.8%)。

 検挙人員や世論調査結果をふまえれば、外国人犯罪によって「国民の安全・安心」が脅かされているという定式は成り立たない。

 「秩序」「ルール」を乱す外国人

 にもかかわらず、2025年5月、入管庁は「ルールを守らない外国人により国民の安全・安心が脅かされている」として「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」(以下「ゼロプラン」)をまとめた。前述の03年行動計画で打ち出された半減計画では、非正規滞在者を「犯罪の温床」とラベリングすることで、排除の必要性を訴えた。これに対して、ゼロプランでは、非正規滞在者という存在そのものが国民の安全・安心を脅かすと提示することで、入国から在留や難民審査、出国に至るまで管理を強化し、排除の徹底を目指すという。ここには、「保護すべき者」を保護するという姿勢はまったくみられない。

 2025年6月には、自民党・外国人との秩序ある共生社会実現に関する特命委員会(25年5月設置)が「国民の安心と安全のための外国人政策 第一次提言-違法外国人ゼロを目指して-」をまとめ、石破首相(当時)に提出した。なぜここで「不法」ではなく「違法」という言葉が使用されているかの意図は不明であるが、政府内でにわかに使われだした「秩序ある共生社会」という言葉は、当該特命委員会の名称から始まる。

 提言では、「ルールを守らない外国人」という表現が用いられ、犯罪にとどまらず、迷惑行為や社会保障制度等の不適切利用、土地取得までが「問題」として挙げられ、現行制度の見直しが求められている。この背景には、SNSを通じて発信・拡散される外国人に係る誤情報(デマ)、政治家までも加担するデマ、一部の不適切事例をセンセーショナルに取り上げるメディアの影響がある。ここにおいて、管理・排除すべき「好ましくない外国人」は、従来の入管法違反者に加えて、軽微な社会的逸脱者にまで拡大されることになった。

 2018年12月に策定され、以降毎年度改訂されている外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議(以下「関係閣僚会議」)による「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」の25年度改訂版(25年6月)の基本的な考え方では、外国人に対して「日本のルールや制度を理解し、責任ある行動をとることが重要である」という文章が新たに加えられた。

「骨太の方針2025」(25年6月)においても、国民の安心・安全の確保のための取組みの1つとして外国人との秩序ある共生社会の実現が掲げられ、内閣官房には外国人施策の司令塔となる事務局組織として「外国人との秩序ある共生社会推進室」が設置された(25年7月)。

 その後、自民党と日本維新の会との連立合意書(25年10月)でも、高市総理首相表明演説(25年10月)でも、「ルールや法律を守れない外国人」「一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱」に対する規制強化が示されている。

 さらに、外国人との秩序ある共生社会推進担当大臣(以下「外国人担当大臣」)が新たに設置され(日本維新の会との連立合意書に基づく)、前述の関係閣僚会議が「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」に改組された。関係閣僚会議に対する総理大臣指示は、規制や管理、排除のオンパレードであり、異なる言語や文化を尊重する姿勢も、多様性のもつ豊かさに対する評価も、まったくみられない。

 政治利用される外国人

 振り返れば、参議院議員選挙(25年7月)における「日本人ファースト」を掲げた参政党の躍進も、外国人をめぐる「秩序」「ルール」といった言説の正当性を後押しするものであった。

 同時に、ないがしろにされ経済的豊かさを享受できない「国民」と優遇され利益をえている「けしからん外国人」といった構図が作り出された。「優遇」という「告発」によって、不安だけではなく、「不満」の矛先までもが外国人に向けられ、「政治の失敗」を隠蔽し、国民の支持を集める手段として外国人が利用されることになる。高市政権下における熱心な外国人政策への取組みは、まさにそれを示しているといえよう。

 高市総理も小野田外国人担当大臣も、「排外主義とは一線を画す」と言いつつも、「一部の外国人」を社会の秩序を乱し、不安を生み出す存在としてラベリングし、外国人に対する管理の必要性を訴え、剥き出しの排除を正当化する。国籍や在留資格、逸脱行為によって人びとを序列化し、分断管理する姿勢は、まさに排外主義である。

 一方で、深刻な人口減少・労働力不足に対応し、日本社会を持続的に発展させるためには、今後より多くの外国人の力を必要としていることも、現政権は十分に理解しているはずである。何よりも、すでに日本には400万人超の外国人が暮らし、230万人強の外国人労働者が働き、この社会を支えている。

 このような現実をふまえるならば、国民と外国人の対立を煽り、分断を拡大することは、間違った選択であることは明らである。「毅然として対応」すべきは、無責任に拡散されるデマであり、差別であり、排外主義である。

 規制や管理の強化は、その対象となる人びとに対する社会的不安を増幅する。尊厳や権利の保障よりも、「秩序」「ルール」が優先される社会では、人びとが対等な構成員として共に生きることは不可能である。

 今こそ、連綿と続く管理と排除を乗り越え、官製排外主義に抗い、豊かな多文化共生社会の実現を目指す市民社会の力が求められている。