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国際人権ひろば No.184(2025年11月発行号)

特集:国連創設80年-国際人権基準の浸透に及び腰の日本

婚外子とその母親に対する差別を助長する法制度-女性差別撤廃委員会から繰り返される懸念と勧告

田中 須美子(たなか すみこ)
なくそう戸籍と婚外子差別・交流会

「人権の対立」を拒否して

 かって、婚姻届を出さずに共同生活を私が始めたことを知った職場の同僚たちから、「子どもが差別されるからかわいそうだ」「婚姻届を出した方がよい」「母親じゃない」などの批判や非難が浴びせられた。共同生活をしているだけで浴びせられたこれらの批判に、どんどん追い詰められていった。でも、「みんながみんな子どもがかわいそうだと言うのだから、みんなで子どもを差別するのはおかしいと言っていけば、差別がなくなるんじゃない」。そう言ったら、あきれたのかそれ以降批判が止んだ。

 対等な関係でいたいと婚姻届を拒否すると、子どもが法制度で差別され、子どもが差別されないためには自分の思いを犠牲にしなければならない。そのような「人権の対立」こそおかしいのだと思い、住民票の続柄欄や戸籍の続柄欄の差別記載の廃止を求めて、裁判に訴えた(住民票については1988年、戸籍は1999年)。

 その結果、住民票の続柄差別記載は、1995年3月に婚外子、婚内子、養子の区別が廃止され、子どもは全て「子」と統一された。一方、戸籍の続柄の、「女」「男」との記載に対しては、2004年3月の一審判決で、プライバシー侵害との違憲判決が出された。

 婚外子差別法制度の現状

 欧米諸国では、法律上婚外子・婚内子の区別を廃止している。しかし日本では、親が法律婚をしているか非婚かで、生まれた子を「嫡出子」「嫡出でない子」と民法や戸籍法で区別し、差別している。

出生届で、「嫡出でない子」と差別記載を強制

 親が結婚しているか否かで、生まれた子を出生届で「嫡出子」か「嫡出でない子」に分け、結婚していないと「嫡出でない子」の記載を強制。「嫡出でない子」とは正統ではない子という意味合いがあり、我が子を「正統でない子」と記載したくないと思っても、自治体の担当職員から記載を強いられる。やむなく記載し、後々まで子どもに申し訳ないと悔やむ母親が多数いる。

2004年10月以前に作られた戸籍では、「女」「男」と記載されたまま

 2004年3月の一審判決で、プライバシー侵害の判断が出されたために、法務省は2004年11月以降の出生届から、婚外子の続柄を婚内子と同様に「長女」「長男」の記載に改めた。一方それ以前に戸籍に「女」「男」と記載されている婚外子の続柄は職権で改めず、婚外子やその母の申出で改める方法にした。しかしプライバシー侵害をなくすのは国の責任であり、婚外子やその母に押し付けるのは不当だ。

 しかも婚外子およびその母だと周囲に知られてしまう恐れがあり、申出るのは困難である。そのため申出た数は、20年たった現在でもわずか52,000件でしかない。これは記載されている婚外子の2.08%から2.6%(制度開始時の婚外子の数を200万人から250万人と推定して)にすぎず、婚外子のほとんどが「女」「男」と一目でわかる記載のままであり、差別にさらされている。

子連れ結婚における養子縁組では、婚外子のみ実親との養子縁組を強制される

 民法795条は「配偶者のあるものが未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならない。ただし配偶者の嫡出である子を養子とする場合はこのかぎりではない」と規定している。例えば、婚外子の母が自分の子の父以外の男性と婚姻し、その男性がその子と養子縁組する場合、その子の母も、その子と養子縁組を強制される。しかしその子が婚内子であれば、母は養子縁組を強制されない。

 これは、婚外子相続差別のあった1987年に、婚外子相続の不利益を是正するとしてそれまでなかった規定が導入されたものだが、2013年の相続法改正によって必要がなくなっている。しかし、国は「嫡出でない子」に「嫡出子」の身分を与えるため(「養子」は「嫡出子」と扱われる)としてこの規定を残している。明らかに婚外子を一段低い身分とする差別を前提とした制度である。婚外子の母は、なぜ実子と養子縁組しなければいけないのかと、苦しんでいる。

 婚外子とその母親からの悲痛な叫び

 婚外子を差別する法制度が、婚外子とその母を一段下に見る差別意識を流布し、蔑みの目で見てもよいのだという差別に繋がっている。

婚外子本人からの叫び

 「自分は婚外子でいじめられてきて辛かった。自分のことを半人前と思い委縮してきた」。「婚外子だとわかったとたん嫌がらせを受け、転居せざるを得なかった」。「役所の窓口で戸籍謄本を申請すると、職員は父の欄が空白な戸籍を見て、『こんな戸籍があるのね』とつぶやいた」。

婚外子の母からの叫び

 「役所の福祉の窓口で、『こうなったのはご自分の責任ですから』と言われ、トラウマになった」。「福祉の窓口でひどいことを言われ、トラウマで戸籍の続柄変更の申出に行けない」。「未婚で出産し子どもは認知がない。職場に戸籍謄本を出すと、『ここには隠し子がいる』と言いふらされ、職場をやめざるを得なかった」。「社長に、結婚しないで子どもを産むと話すと、退職を迫られた」。

地方議会での差別

 地方議会に婚外子差別撤廃の陳情をすると、婚外子を「妾の子だよ」と仲間の議員に言ったり、婚外子差別の説明をすると、「妻子があることを知っていて関係を持ち妊娠したのだから、堕ろさなかった女性の責任だ」と言う議員がいる。

 2024年女性差別撤廃委員会からの懸念と勧告

 婚外子に対する相続差別規定が2013年に廃止されて今年 (2025年)12月で丸12年がたつ今も、差別法制度が廃止されず、婚外子とその母は蔑みを受け差別されている。この現状を、2024年のジュネーブでの女性差別撤廃委員会による日本審査で訴えた。委員から「婚外子差別については必ず取り上げる。レポートも読んでいる」と言われた。そして委員会から下記の懸念と勧告が出された。

 「委員会は、既存の差別的な規定に関するこれまでの勧告のいくつかが、特に対処されていないことに懸念をもって留意する。(b)婚外子の出生届における差別的記載に関する戸籍法の規定が維持されている」(パラグラフ11)。「前回の勧告(パラグラフ13)を想起し、委員会は、締約国に対し、次のことを勧告する。(b)婚外子の地位に関するすべての差別的規定を廃止し、婚外子とその母親を社会における偏見と差別から保護すること」(パラ12)

 嬉しい勧告だった。婚外子とその母親に対する社会的偏見と差別は、差別法制度が作り出しているのだと指摘してくれた。それは、日々差別に苦しんでいる非婚母子へのエールである。この勧告を受止め、早急に婚外子に対する差別法制度を廃止するよう、繰り返し政府に求めていきたい。

 婚外子差別法制度は条約違反

 私たちが、初めて婚外子差別の現状を女性差別撤廃委員会に訴えたのは、2003年のニューヨークでの日本審査だった。戸籍の続柄差別が女性差別に当たることや、国が、婚外子差別の問題は委員会審査とは無関係と言っていたため、それへの反論も含めてレポートにまとめた。

 また、戸籍の続柄欄の婚外子差別記載の廃止を求めた裁判の最中であったことから、この裁判に勝訴するため、委員会から勧告が出されたら、それを裁判の準備書面や原告として本人尋問の中で報告していこうと思った。

 女性差別撤廃条約16条で、「締約国は,婚姻及び家族関係に係るすべての事項について(略),男女の平等を基礎として次のことを確保する。(d)子に関する事項についての親(婚姻しているかいないかを問わない)としての同一の権利及び責任。あらゆる場合において子の利益は至上である」と規定している。この条文を読んだ時、委員会では必ず取り上げてもらえると思った。戸籍の続柄差別について委員に説明すると、即座に「罪だ」と言いきり、別の委員は「この問題はここでは共有されている」と明言した。

 審査では委員から「婚外子であっても婚内子であっても、区別することは国際法に違反している」「戸籍を見るとそれによって婚外子であることがわかってしまう。それは差別につながる。戸籍のこの部分を削除しなければならない。婚外子差別は母子双方に対する差別だ。条約と整合性がなければならない」と指摘された。

 この結果、委員会から「婚外子に対する、戸籍と相続権に関する法律及び行政実務上の差別、そして、それらが女性に対してもたらす重大な影響についても懸念する」、「民法に未だに残る差別的な条項を削除し、立法や行政実務を条約に適合させることを求める」との懸念と勧告が出された。

 それ以来、2009年、2016年、2024年と日本審査のたびに、委員会は、婚外子とその母に対する民法や戸籍法の差別的条項を削除し、条約に適合させるよう日本に勧告している。日本が女性差別撤廃条約を締結して以来、すでに40年が経過した。

 国は、条約に違反する婚外子差別法制度を廃止し、条約に適合させる義務があり、それを果たさなければならない。婚外子やその母への差別を取り除くことは待ったなしであり、勧告の実現を求めていきたい。