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国際人権ひろば No.184(2025年11月発行号)

特集:国連創設80年-国際人権基準の浸透に及び腰の日本

外国籍者の公務就任権の制限(地方公務員・外国籍教員)-人種差別撤廃条約締結30年後の変わらない現実

藤川 正夫(ふじかわ まさお)
兵庫在日韓国朝鮮人教育を考える会代表

 人種差別撤廃委員会の在日外国人の公務就任権に関する勧告

 人種差別撤廃委員会は、日本が1995年に人種差別撤廃条約に締結して以来、2001年からこれまでに4回の日本報告書審査を行い、そのうち2010年、2014年、2018年の3回にわたり、在日外国人の公務就任権に関して懸念と勧告を示している。

 2010年は、家庭裁判所の調停員の国籍による排除について懸念が表明され、その見直しを勧告した。

 2014年は、2010年の懸念と勧告を繰り返すとともに、国家権力の行使を要しない公的職務を含め、日本国籍を持たない者の公職参画を促進するため、法的・行政的制限の撤廃を求めた(パラグラフ13)。

 2018年は、2014年勧告を更に前進させ、旧植民地出身の外国籍者の地方参政権に言及し、国家公務員の就任も含めた公務就任権を求めている。また、他の外国籍者についても、準じて、公務就任権を認めるように勧告している。

① 数世代にわたり日本に在留する韓国・朝鮮人に対して地方参政権及び公権力の行使又は公の意思の形成への参画にも携わる国家公務員として勤務することを認めること(パラ22)

② 市民でない者、特に外国人長期在留者及びその子孫に対して、公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わる公職へのアクセスを認めること(パラ33-e)

 内閣法制局の高辻長官が1953年に「法の明文の規定が存在するわけではないが、公務員に関する当然の法理として、公権力の行使または国家意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには、日本国籍を必要とするものと解すべきである」と示した見解(当然の法理)が現在に至るまで、外国人の公務就任権を制限している。委員会は、この見解の見直しを求め続けているといえる。

 地方公務員と公立学校教員の採用と処遇に関する差別

(1)外国籍者の地方公務員

 1973年、阪神間の6市1町が採用試験における国籍条項を撤廃し、翌年には韓国・朝鮮籍の5人が採用された。これを契機に、各地で国籍条項の撤廃が進んでいった。部課長級に外国籍職員を登用する自治体が存在する一方、課長級以上や政策決定に関わる職については「当然の法理」を根拠に国籍条項を維持する自治体が少なくない。

 国籍条項の撤廃状況については、2020年に在日本大韓民国民団中央本部の人権擁護委員会が、都道府県・政令市・中核都市・一般市・区を対象に調査票を用いた全数調査を実施している。

 その調査では、一度国籍条項を撤廃した自治体が、再び国籍条項を設ける事例の増加が地方都市で確認された。中核都市と一般市において、外国籍者の受験を全面不可とする自治体は、1997年度には122/649(18.8%)であったものが、2019年には214/772(27.7%)となっている(1997年は『外国人が公務員になる本』(岡義昭、水野精之、ポット出版、1998.2.20)による)。

 神谷宗幣参議院議員(参政党)は、第213回国会(2024年常会)において「地方自治体職員の国籍に関する質問主意書」を提出し、外国籍者の地方公務員任用に反対する立場から、国が地方公務員の国籍要件の具体的な指針を示すべきと主張した。これに対し政府答弁書において「公権力の行使または公の意思の形成への参画に携わる公務員には日本国籍が必要」との立場を示す一方、「地域の実情に応じ自主的かつ適切に判断されるべきもの」、「一般的な指針を設ける考えはない」と回答した。

 地方議会でも、外国籍者の地方公務員任用に反対する議員が増加しているとみられ、その影響で、国籍条項を撤廃した自治体が再び設けるケースが起こっていると考えられる。

(2)公立学校の外国籍教員

 教員の任用形態は自治体によって異なる。東京都、川崎市、さいたま市などでは、外国籍教員を「教諭」として任用している。

 一方、多くの自治体では、1991年3月の文部省(当時)の通知に従い、外国籍教員を「任用の期限を付さない常勤講師」として任用している(1

 外国籍教員が「任用の期限を付さない常勤講師」として任用されるのは、次の経緯による。

 1991年1月に、「日韓覚書」が締結され、教員任用については(1)「その途をひらき、日本人と同じ一般の教員採用試験の受験を認める」、(2)「公務員任用に関する国籍による合理的な差異を踏まえた日本国政府の法的見解を前提としつつ、身分の安定や待遇についても配慮する」と定められた。

 これを受け、文部省は1991年3月に通知を出した(文教地第80号)。

  • 任用の期限を付さない常勤講師としての任用
  • 給与その他の待遇は可能な限り教諭との差を少なくすること

(3)給特法等改正法成立と外国籍教員の処遇の悪化

 「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律」(給特法等改正法)が6月11日に成立した。改正法では、残業代の代替措置の教育調整手当を、現行の4%から段階的に10%へ引き上げることが定められた。

 改正法には新たな職「主務教諭」(3級)の設置が盛り込まれたが、この点についてはほとんど議論も報道もされなかった。

 しかし、「主務教諭」の導入は、外国籍教員にとって大きな不利益をもたらす。

 中央教育審議会答申(2024年8月)で「新たな職」の設置が示された。これが改正法の「主務教諭」である。

 答申では「教師の意欲を高め、能力と業績を適正に評価し、その評価結果を昇任・昇給・勤勉手当等の人事管理に活用」し、「人事評価を適正に実施し」、昇級・昇給させることが、教師のモチベーションを高めることになると述べられた。

 しかし、外国籍教員とってはこの対象外に置かれ、モチベーションが摘み取られるだけの制度といえる。

 外国籍教員はどれほど能力やリーダーシップがあっても、学年主任や教務主任などの主任職にすら就くことができない。

 日本人教員は2級から6級まで昇進・昇給が可能である。一方、外国籍教員は定年まで2級のままであり、生涯賃金の差は増々拡大する。

 「主務教諭」制度のモデルは東京都の「主任教諭」である。東京方式は、教諭(2級)を二分し、半数近くを主任教諭(3級)に引き上げる制度である。

 なお、東京都は外国籍教員を「教諭」として任用しているため、外国籍教員も主幹教諭、指導教諭、主任教諭に就いている。


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【表】教職の職階


 今後に向けて

(1)2005年の最高裁判決(東京都管理職任用裁判)

 2005年の東京都管理職任用裁判(2では、「当然の法理」が退けられ、「想定の法理」という新たな枠組みが示された。その下で「公権力行使等地方公務員」という概念が打ち出され、その適用判断は各地方自治体の任用権限に委ねられるとされた。

 司法判断は法解釈の最終権限を有するため、最高裁が一つの法理を退けて別の法理を提示した以上、それが新たな法的基準となるべきである。行政や立法がこれに従い、制度や運用を見直すことこそ、三権分立の健全な在り方といえる。

 しかし政府は、その後も「当然の法理」に固執している。

(2)地方自治法第245条の2ー法定主義

 2000年施行の地方分権一括法によって地方自治法第245条の2が新設され、国による地方自治体への関与は法律または政令に基づく場合に限られるという「法定主義」が明文化された。これに照らすと、1991年3月の文部省通知のように法律の根拠を欠く行政指導は、もはや無効または違法と評価される。

(3)人種差別撤廃委員会の勧告は地方自治体も対象

 人種差別撤廃条約第2条1項(a)は「国及び地方のすべての公の当局及び機関が、人種差別の行為又は慣行に従事しないという義務に従って行動するよう確保する」と定めており、地方自治体もまた人種差別撤廃委員会の総括所見・勧告を真摯に受け止める責務を負う。地方自治体において、国籍条項を再設定するなどは許されることではない。

 政府は、人種差別撤廃委員会による日本審査総括所見のパラグラフ22および33-eを早急に受け入れるべきである。


<脚注>

1)
大阪府、大阪市、堺市、岡山県などの自治体では、「任用の期限を付さない常勤講師」を職名「教諭(指導専任)」として発令している。大阪府「学校管理規則」第30条には「高等学校に、任用の期限を付さない講師を置くことができる。2前項の講師の職名は、教諭(指導専任)とする」と示されている。

2)
東京都採用の在日コリアンの保健師が、管理職試験の受験を東京都に国籍を理由に拒否されたことが違憲だとして提訴した裁判。東京高裁は違憲・違法と判断し、原告勝訴としたが、最高裁は、高裁判決を破棄し、「憲法の平等原則には違反しない」として原告の訴えを退けた。最高裁は、任用権者である地方公共団体が、どの職が「公権力の行使等に当たる地方公務員」に該当するかを判断できるとし、東京都の判断に違法はないとした。この判断は、自治体ごとの判断が優先され得るという解釈につながるものである。