特集:国連創設80年-国際人権基準の浸透に及び腰の日本
国連は、1945年10月24日、国連憲章の発効によって設立された。国連憲章は、国連の目的を、国際の平和と安全の維持、諸国間の友好を発展させること、経済的、社会的、文化的又は人道的性質を有する国際問題を解決すること、並びに人種、性、言語又は宗教による差別なく、すべての者のために人権及び基本的自由の尊重を助長奨励することについて国際協力を達成すること、そしてこれらの共通の目的の達成に当って諸国の行動を調和するための中心となること、としている。(第1条)
1.人権理事会(または以前の人権委員会)
国連人権委員会(Commission on Human Rights)は、経済社会理事会の機能委員会として1946年に設立され、最初は18の国の代表で構成されたが、その後53カ国にまで増えた。国連の人権分野の活動の中心となって成果を積み上げてきた。2006年に総会決議60/251で、人権理事会が人権委員会に代わった。人権理事会は総会の下に置かれ、47カ国で構成される。
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人権理事会が開かれるジュネーブの国連欧州本部の会議場
2.人権高等弁務官
1993年の世界人権会議で人権高等弁務官の設置が求められた。1994年、国連事務総長のもとに置かれた人権高等弁務官が、国連が関わる人権課題全般を取り仕切ることになり、人権高等弁務官事務所(OHCHR)をスイスのジュネーブに置いた。その活動の拡大とともに世界各地に人権事務所や人権アドバイザーを置いた。
3.人権条約起草作業、総会による採択、人権の条約化
初回の人権委員会は1946年に開かれた。全ての人が、いつでも、どこでも、人間として尊ばれ、平等に守られる権利(普遍的人権)を持つということを明らかにし、人権を守る制度を定める「人権章典」(Bill of Human Rights)の起草が始まった。しかし、加盟国間の合意が難しく、まず人権の原則を宣言という形にまとめることになった。
① 世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)
1948年12月10日、国連総会決議で「世界人権宣言」が採択された。世界人権宣言は、「すべての人民と、すべての国とが達成すべき共通の基準として交付」された。
宣言第1条は、人権とは何かを簡潔に、そして包括的に定義する。すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
第2条1は、人権の享受について非差別の原則を掲げる。
この二つを基礎として、第3条から第21条までは、生存、個人の自由、身体の安全、市民生活・政治参加に関する権利などを定める。第22条から27条までは、経済的、社会的、文化的権利を定める。第28条から第30条はそれぞれ、人権と社会秩序の関係、人権行使に伴う社会に対する責務、そして人権行使の制限を述べる。
世界人権宣言は、法的効力を持たないとされていたが、時の経過とともに、世界中で普遍的な規範として広く受け入れられるようになった。
② 人権条約などの国際人権基準構築
世界人権宣言に続き、人権条約の起草作業が始まった。1966年、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約と市民的及び政治的権利に関する国際規約という二つの条約ができ、1976年に発効した。
国連は、今に至るまで人権に関わるさまざまの条約や総会決議による宣言、規則、原則などを作り上げてきた。これらが国際人権基準(注とよばれている。加えて、国連総会は、2022年7月28日、「清潔で健康的かつ持続可能な環境への権利」を普遍的人権と認め、国にはこの権利を守る義務があるとする決議を採択した(決議76/300)。
4.人権保障制度の進展
人権保障制度は国連80年の間に積み上げられてきたものである。
① 人権条約機関
条約機関を設ける人権条約は9つである。条約に加わる国が条約義務を果たしていることを確かめ、その国に対して意見を述べ勧告をする役割を与えられているのが、条約機関である。「委員会(Committee)」と呼ばれる条約機関の委員は、個人の資格で選ばれる独立した専門家である。委員会は、
日本は、これらの人権条約のうち、8つの条約に加盟している。ただし、個人からの通報を委員会が受けること(個人通報制度)を認めていない。
② 特別手続き
人権理事会(2006年までは人権委員会)の決議により、任命される独立した専門家(特別報告者など)や作業部会が、特定の国やテーマについて人権状況を調査し、勧告を行う制度である。2024年末時点で、46のテーマ別、14の国別の特別手続きがある。
特別手続きの任務保持者(特別報告者、作業部会など)の任務は、
③ 人権分野の技術協力
人権高等弁務官事務所(OHCHR)やそれと協力する国連の機関は、国際人権の理解を深めその遵守を助けるために、加盟国政府や国内人権機関などを対象に、助言サービス、能力習得支援、トレーニング、ワークショップ、フェローシップ、助成金の提供などを行ってきた。
④ 人権理事会における普遍的・定期的審査(UPR)
国連のすべての加盟国の人権状況を加盟国相互で審査を行い、改善を勧告する制度である。2008年から始まった。各国は、4年半に一度審査を受けることになる。
⑤ 人権理事会の通報処理手続き
国連創設以来、人権侵害の訴えが世界各地から寄せられていた。これを受けて1970年の経済社会理事会決議1503は、人権委員会が人権に対する重大かつ確実に証明された侵害が常態的に認められる国の状況に対処するための通報処理手続きを定めた。人権理事会はこれを踏襲した。この手続きの特徴は、個別の人権侵害被害者の救済を目指すものではないことと、手続きの過程が非公開で人権理事会の最終会合でどの国あるいは地域の人権状況が監視のもとに置かれるかが公表されるにとどまる。
⑥ 国内人権機関
国連は、人権の保護、促進のために国内人権機関の設立を加盟国に求めてきた。1993年の国連総会決議でパリ原則が採択され、国内人権機関は政府から独立して設置されるべきとした。その権限、役割は、人権課題や人権侵害事例に対応し調査や調停を行う、政府や議会に対して意見、勧告、提案、報告をする、人権条約機関への政府報告書作成に協力する、人権教育や研究に関わる人権情報を発信するなどである。
国内人権機関は、国内の人権の保護、促進に重要な役割を果たしていることが国際的に広く認められてきたが、日本では現在まで、設置されていない。
⑦ 国際刑事裁判所(ローマ規程)
1998年にローマ規程によって国際刑事裁判所設立が決まり、2003年に規程が発効した。国際刑事裁判所は、人権全般に対する管轄権を持つものではないが、深刻な人権侵害を含む重大な犯罪に関わったとされる個人を訴追し、裁くという点で人権に関わる裁判所ということができる。
世界の現実は厳しい。安全保障理事会の5つの常任理事国の内、大国を自認する3国が、国際法を無視し、国連憲章に反して、武力攻撃、領土侵略、人権無視、人権侵害をして憚らない。アメリカは、2025年に審査予定のUPRに非協力を表明した。その他の国連加盟国のなかにも「人権及び基本的自由を尊重する」という誓いを破り続ける国がある。国際協調とは真逆の外交に世界の混迷が続く。
2022年4月、総会決議によってロシアの人権理事会理事国資格が停止され、2025年2月、アメリカが人権理事会から離脱した。安全保障理事会は、常任理事国の拒否権行使で、ロシアのウクライナ侵略、イスラエルのガザ攻撃に関して機能不全が続いてきた。
加盟国、国際組織、世界の市民社会組織、NGO、そして強大な力(政治、経済、軍事、外交などの力)を持つ国の支持と協力なしに、国連が平和、人権、開発のための「国際協力を達成すること」はできない。今、国連は危機的状況におかれていると言っても過言ではない。
<脚注>
注)
人権条約については、ヒューライツ大阪ウェブサイトを参照
https://www.hurights.or.jp/archives/treaty/un-treaty-list.html