人として♥人とともに
人権や平和にとって様々な意味で節目の2025年ですが、10月31日には国連安全保障理事会決議1325号「女性と平和・安全保障」が採択25周年を迎えました。安保理決議1325号については2025年7月号の本コラムでも取り上げ、「紛争予防から平和構築に至る全てのプロセスにおける女性の意味ある参加」の重要性を強調したところです。
採択25周年の機会に皆さまに届く本号では、同決議のもう一つの柱である「紛争下における性的暴力ならびに性的暴力の不処罰の根絶」について、国連事務総長報告「紛争に関連する性的暴力」の最新版(S/2025/389)を参考に、現状と課題を示したいと思います。
同報告は、まず、「紛争に関連する性的暴力」を、「紛争に関連して直接的・間接的に女性、男性、少女、少年に対しておこなわれるレイプ、性奴隷、強制的売春、強制的妊娠、強制的中絶、強制的不妊手術、強制的結婚や同種の性的暴力」と定義しています。男性と少年が含まれているのは25年の理解の進展を反映しています。
国名を挙げて具体的な状況が示されているのは14カ国にのぼりますが、そのなかから、日本で報道されることが多いパレスチナとウクライナに関する状況を簡単に紹介します。
2023年10月7日のハマスによる攻撃の際に複数の場所でレイプや集団レイプが発生。全裸あるいは下半身の衣服を剥ぎ取られた死体が見つかっており、その多くは女性。多くは両手を縛られ頭部等に何発もの銃弾を撃ち込まれており、発見時の状況から性的暴力が疑われる。
イスラエル軍は2023年11月以来、何千ものパレスチナの男性、女性、子どもを逮捕・拘束してきたが、刑務所での男性へのレイプや性器への暴行等の性的虐待が報告されている。また子どもを含む男女が全裸で公衆の面前を歩くよう強制され、イスラエル軍がそれを撮影するといった性的虐待が発生している。
2024年にウクライナに派遣された国連人権監視団は、ロシアの占領地域におけるロシア軍や政府機関によるレイプ、去勢、性器切除等の性的暴力209件を把握、被害者の内訳は男性156名、女性46名、少女6名、少年1名。ウクライナに関する独立調査委員会は、ロシアが占領地での家宅捜索等の際に15歳から83歳の女性と少女をレイプしたことを把握。ロシアが監視団にアクセスを認めないため正確な状況の理解が困難。
ウクライナが支配する地域では24件の性的暴力が確認されており、ロシア兵捕虜の男性に対するレイプの脅し、去勢、性器への暴力や電気ショックなどがおこなわれている。ウクライナはロシア兵捕虜や非戦闘員拘束者への国連の独立監視団のアクセスを認めており、捕虜や拘束者の弁護士や家族との面会も認めている。
この2国に関する報告からは男女両方が被害を被っていることが理解できますが、しかし報告されている世界の4,600名を超える被害者の92%は女性であり、被害は圧倒的に女性に偏っています。コンゴ民主共和国で2024年に把握された823件の性的暴力被害者の内訳は、女性416名、少女391名、男性9名、少年7名でした。
紛争下における女性に対する性的暴力は、長年にわたり「戦争中にはどうしようもないこと」と考えられてきた歴史があります。その認識を変えてきたのは、 「慰安婦」制度の被害女性を始め、尊厳と正義の回復を求めて声を上げた女性たちの勇気と女性たちを支える運動でした。
今年の夏に公開された映画「黒川の女たち」は、第二次大戦後の混乱のなかで満州の自分たちの村の安全を守るという目的のためにソ連兵への性的な接待を強要されたのに、「隠すべき恥ずかしい過去」を背負わされてきた女性たちが尊厳の回復を求めたドキュメンタリーです。未婚であり、「どこかの男性のもの」でなかったが故に強制された性的暴力でもあります。
事務総長報告からは、安保理決議1325号採択25年を経てなお、紛争下における性的暴力への不処罰の根絶がどれほど困難であるかがつくづくと伝わってきます。同時に、80年が経過して明らかになる暴力を含め、様々な形態の性的暴力からは、家父長制が暴力に及ぼす影響を深く苦く感じさせられます。
12月13日の「じんけんシネマ2025」(p.15参照)では、イスラーム国(IS)による性奴隷状態を生き延び、顔と名前を出してその残虐行為を世界に発信し、2018年のノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドさんのドキュメンタリー映画「ナディアの誓い」を上映します。是非、ご覧いただきたい映画です。