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2025年は、平和、人権、ジェンダー平等にとって、様々な意味で重要な年ですが、10月31日には「女性と平和・安全保障」という問題領域につながった安保理決議1325号が採択25周年を迎えます。同決議は安保理にとって女性に焦点を当てた初めての決議です。1325号以降、計10本 (注 の関連決議が採択されてきました。
「女性と平和・安全保障」という問題領域が課題としているのは以下の2点に集約されます。
1325号決議の最も重要な貢献は、「紛争下における性的暴力」を根絶するとの意思を国際社会が確認したことです。長年にわたって「武力紛争下ではどうしようもないこと」と考えられ、適切な対応が取られてこなかった問題を「根絶すべき国際課題」と確認したことの意義は限りなく大きいと言えるでしょう。決議採択の直接的な契機となったのは、1990年代前半に発生したボスニア紛争の際に、「民族浄化」の名の下に敵対勢力の女性に対しておこなわれた集団レイプが世界に与えた衝撃ですが、日本による加害を含め、被害を訴え正義の回復を求めた世界各地の女性たちの声が大きな役割を果たしました。
画期的と賞賛された安保理決議1325号ですが、採択後25年を経て、順調に課題解決に向かっているとは、とても言えない状況があります。国連事務総長の報告書「女性と平和・安全保障(S/2024/671)」「紛争下における性的暴力(S/2024/292)」と、バフースUN Women事務局長が2025年5月22日の安保理でおこなったスピーチでは以下のような現状が示されています。
PKO(国連平和維持活動)部隊に女性が増えることが性的暴力の予防や被害者/サバイバーへの丁寧なケアにつながっているとの報告もあるものの、決議が目指すところには、ほとんど近づけていません。
一方で、ウクライナやガザでの武力紛争に終結の見通しが立たない状況下で多国間主義に背を向け自国中心主義を標榜する国が増えており、世界は軍事化に向かい核戦争の脅威も増大しています。
そのような状況を前にして改めて考えたいのは、1325号決議の柱の一つである「平和の実現に向けたあらゆるレベルでの女性の意味ある参加」です。事務総長報告によると、2023年には和平交渉の交渉官に占める女性の割合は9.6%にすぎませんでした。和平交渉に関する昨今の報道を思い起こしても、女性が登場することは全くと言っていいほどありません。
平和学者ガルトゥングは、平和を消極的平和と積極的平和に分けて概念化し、前者を「戦争がない状態」、後者を「暴力がない状態」と定義しました。暴力がない世界の大切さは、ジェンダーに基づく暴力の根絶に向けた実践を通じて女性が訴えてきたことと重なります。
ノーベル文学賞を受賞したアレクシエーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』からは、兵士として従軍した女性たちの経験と声が戦後、周縁化されたことが理解できます。また日本軍に従軍した看護婦(当時)の手記からは、言語に絶する状況に兵士と看護婦が置かれていたことが良く理解できます。
女性の声と経験を聞き紛争予防と平和構築に反映することこそが「女性の意味ある参加」ではないでしょうか。その際には非暴力の思想の意義を改めて思い起こし、 「非暴力のカルチャー」を創造することが重要だと思います。非暴力については、ガンジーやマーチン・ルーサー・キングの名前が良く知られていますが、女性の経験と声にはこの両者に負けないメッセージがあるはずです。
「武器を持って闘い国を守る」というナショナリズムに絡め取られず、 「非暴力のカルチャー」をつくる勇気が求められていると思います。
マッチ擦るつかのま海に霧深し、身捨つるほどの祖国はありや(寺山修司)
<注>
1820号(2008年)、1888号(2009年)、1889号 (2009年)、1960号 (2010年)、2106号 (2013年)、2122号(2013年)、2242号 (2015年)、2467号(2019年)、2493号 (2019年)