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国際人権ひろば No.181(2025年07月発行号)

特集:日本におけるマイクロアグレッション

在日コリアンに対するマイクロアグレッションの実態と影響について

朴 希 沙(ぱく きさ)
在日コリアンカウンセリング&コミュニティセンター

-大学の授業の合間に
「韓国人ってめっちゃしつこいやん。慰安婦問題とか歴史問題も何回も蒸し返すやん」

-職場の昼休みの席で
隙間のある韓国のりを揶揄しながら「のりもちゃんと作れねーのかよ!」

-営業先で名刺を渡すと
「"北の工作員ちゃうんか"っていうのをすごい笑いながら言われた」

-バイト先で
「(嫌なら)国に帰ればいいじゃない。国に帰るか日本人になるかどっちかにすればいいじゃない」

-日々の生活の中で...
「差別してるの一部の日本人やから、みんなそうじゃない。差別は別に日本だけで起きてる訳じゃないから。日本人だってアメリカに行ったら差別されてるから」
「ヘイトスピーチ気にしすぎ」
「考えすぎじゃない?私、自分を日本人だって思って暮らしたことないからな?人生で」

 マイクロアグレッションとは

 上記の体験談は、日本における在日コリアンに対する「マイクロアグレッション実態調査」で語られた内容の一部である。

 マイクロアグレッションは、ヘイトスピーチのように露骨な差別だけではなく、日々のふとした瞬間にマイノリティが体験する侮蔑や見下しを含んでいる点が、その特徴である。マイクロアグレッションは、「ありふれた日常のなかにある、ちょっとした言葉や行動や状況であり、意図の有無にかかわらず、特定の人や集団を標的とし、人種、ジェンダー、性的指向、宗教を軽視したり侮蔑したりするような、敵意ある否定的表現」として定義される(Sue, 2010:訳書34)(1。自分は悪意がないと考えている人々の間でも、日常のコミュニケーションの中で属性に対する見下しや侮蔑が当事者に伝えられていること、そして言っている側は気づかずとも受け手は傷つき消耗していること。マイノリティが体験する日常的なモヤモヤを含めて可視化し、特にその心理的影響を明らかにした点に、マイクロアグレッション概念の特徴がある。

 マイクロアグレッション概念は誤解されることが多い。誤解のパターンは様々であるが、その一つに単に「相手を傷つける無意識の発言」や「不快な思いをさせる言動」を指す概念としてしばしば言及されていることである。

 しかし「相手に不快な思いをさせる」ことがマイクロアグレッションの中核の問題ではない。マイクロアグレッション研究は現在も進展しており、構造的な背景がより強調されるようになってきている。構造的な不平等や差別と日常的なマイクロアグレッションは支え合う関係にあり、決して無関係に生じないことを押えておくことが重要である。マイクロアグレッションは"誰にでも生じる"からかいや些細な侮蔑ではなく、マクロな構造的不平等を背景に、特定の属性におけるマイノリティに対して、その属性においてはマジョリティの側から発せられるものである。この点においてマイクロアグレッションはあくまで差別の一形態であり、社会的な問題であって、個人の心の傷つきや感じ方、もしくは発し手の悪意の問題ではないのである。

 日本における実態:在日コリアンに対する実態調査

 筆者らは2019年から2020年、関西に居住する在日コリアン21名を対象にマイクロアグレッション実態調査を行った。その詳細は朴・丸一(2024)(2をご参照いただきたい。ここでは紙幅の都合で特徴的なものに焦点を当てたい。


no181_p4-5_img1.png在日コリアンに対するマイクロアグレッションの分類とテーマ


  • マイクロアサルト(攻撃型)
    〔朝鮮半島への敵意と蔑視〕
     全ての協力者が韓国や朝鮮民主主義人民共和国が異常な国のように報道される言説に日々触れている他、多くの体験が語られた。教育現場では、日韓関係悪化時に小学校で「在日コリアンへの差別事象が激増した」。その際、在日コリアンに対して「金正恩!」と呼ぶ、朝鮮語の歌を在日コリアンの子どもに対して「バカにするために歌う」。また、大学で友人が突然「北朝鮮はコロナの人殺してんねんやろ」と言ってくる等、朝鮮半島に対する敵意や蔑視を在日コリアン個人にぶつける事例がいくつも報告された。

  • マイクロインサルト(侮辱型)
    〔同化さもなくば出ていけ〕
     友人に対して「"(在日コリアンが)選挙権ないのおかしくない?"っていう話をしたら、"うーん"って微妙な反応されて..."そんな文句言うんやったら帰ったらいいのに"」と言われたことや、バイト先で「"(嫌なら)国に帰ればいいじゃない。国に帰るか日本人になるかどっちかにすればいいじゃない"って言われて」等がある。他にも友人から「"なんで帰化しないの?"と聞かれる」等、帰化や同化を前提とした発言をされる体験が多く報告された。
    〔敵国人チェック〕
     これは特に拉致問題以降、相手が朝鮮民主主義人民共和国に親和的な人物であるのかを暗にチェックするような言動を指す。例えば、ある胸が痛む報告がある。  信頼していた日本人の恩師に対して、在日コリアンとしての活動を頑張っていると報告した際...「"あ、そうなの。北と南どっち?"って笑顔で聞かれて...固まってしまって。凍りついて。頭の中すごいぐるぐる回って..."北と南どっち"っていう質問がどういう意味をもたらすのかっていうことを考えて。とっさに"南です"って私は答えてしまって。そしたら相手の方は、安堵されて。"あ、そうなの。よかったね"っていう言葉が...その時は、"あ...正しい答え方やったんや"と思って安心はしたけれど、後から考えると、私に対してもその恩師に対しても、どっちに対しても不信感を持ってしまって。あの場でじゃあ"北"って言ったり、"どっちも"って言ったら、この関係はどうなるんだろうってすごくしんどくなったっていうことが、一番、今でも残ってる」(その後恩師とは疎遠になってしまったという)。 〔個人に国を代表させる〕
     日本と朝鮮半島の間の緊張が高まった際に国を代表させられるような体験が語られた。「職場で私だけが在日で。うまいことちょこちょこ在日ってことを知ってもらって、だんだん関係も作れてきた時にニュースが流れて。例えば拉致の問題だったり、ミサイルだったり。そしたら急に私に、"ところでどう思う?"って聞かれる。どう思う?私に聞く?みたいな...普通やったら、聞かないのに。後輩の女の子に"ニュースどう思う?"って普段そんな話しないのに、この件に関しては聞くんや。それは私のことどう見てるんかな、どういう反応を求めてるんやろっていうところが、しんどさがずっとあって」等が報告されている。

  • マイクロインバリデーション(軽視型)
    〔責任の転嫁〕
     差別の原因は在日コリアン自身にあるというメッセージを伝える犠牲者非難を指す。日本名を名乗っていた在日コリアンが民族名を名乗ると「"わざわざ、外国人になるようなことを、なぜするの?"とか、"わざわざ自分で壁を作ってる"」と言われたこと等がある。
    〔問題の相対化による打ち消し〕
     在日コリアンへの差別に対して「韓国人も差別する」等の相対化することによりその体験の重要性や深刻さを暗に打ち消そうとするものである。例えば、在日コリアンの差別について話をした時に「韓国も反日の人たくさんいるやん?」と言われる、ヘイトスピーチに対して「差別はどこにでもある」と言われる等がある。また在日コリアンの差別の現状に対して、「"私も女性として、差別、普段いっぱい受けてんねん"って言われる」こと等があり、「"私も差別される側"っていうところで話が変わっていってしまった」り、植民地支配の歴史という固有の問題が見えなくなったという体験が報告された。
    〔本人の弱さの問題にする〕
     個人が「気にしすぎ」であると伝えることにより、在日コリアンに対する差別の現状を暗に否定することを指す。例えば、ヘイトスピーチに対して「直接言われてる訳じゃないんだから気にしなくていいじゃん」と言われることなどが挙げられる。
    〔差別心の否認〕
     在日コリアンからルーツやヘイトスピーチに関する苦しみを打ち明けられた際に、「自分は差別はしない」と言って結果的に発話者の話を遮ったり、自らの社会的責任を回避したりする効果を持つ発言を指す。これは 「個人がもつレイシズムの否認」として米国におけるマイクロアグレッション研究でもよく言及されるもので、本調査でも複数の報告があった。例えば「高校生の時にボーイフレンドが出来たんですけど、その時に "私、韓国籍で"って言ったら、一瞬、間があった後、"俺は差別とかせえへんから!"っていうことと、"韓国人とか関係ないよ"っていうその二言を言われた時...すごく気を使って言ってくれてるんだろうなあっていうのは感じつつも、その言葉が嬉しいとは思えなくて、もやもやして。で、もやもやしたのは、"もうそれ以上その話するな"って言われたような感じがした」こと等が報告された。
    〔ルーツブラインド〕
     ルーツの違いを見ないことを通して差別や偏見の現実を無化することを指す。例えば「日本人と一緒だから別に気にしんでいいよ」、「"日本人とか朝鮮人とか関係ない"って、初対面の人とかにも言われたりする体験は多すぎて」等の報告があった。

 マイクロアグレッションに対する反応とその影響

 「ひやっとする」「脂汗をかく」といった不安や緊張からくると思われるような反応や、「その場で固まってしまう」といったショックによる凍りつき反応のようなものが見出された。また「その場で固まってしまうぐらい衝撃の強いことを言われたら、一週間ぐらいは悩みますし...やっぱ(日常的な差別に関する)フラッシュバックもあるので、塞ぎこんでしまうこともありますね」といった衝撃後の長期的な影響に関する報告もあった。

 感情においては、主に恐怖と悲しみが語られた他、怒りや悔しさなども報告された。また日常生活においてあまりにも多くのマイクロアグレッションにさらされるため徒労感や感情の鈍麻が生じているという報告も複数見られた。例えば「やっぱり日常の些細なマイクロアグレッションに対しては、なかなか言えずに悶々としたり...あるいは何度一生懸命話したって分かってもらえないだろうっていう絶望感だったり。確かに自分の中で言われ慣れてるんですけど、その慣れてるっていうのはどっちかというと"感情が死んでる"って言った方が近いような感覚で。もう対応に疲弊してしまって、もうそれをやめてしまうような、そんな感じ」等がそれである。

 以上のような反応とは異なり、「何も思わない」「反応したくない」「慣れてしまっている」という報告もあった。マイクロアグレッションに対する反応に個人差が大きいことが推察された。

 今後に向けて

 未解決である植民地支配の清算、特定の国家に対する敵視政策といったマクロな背景は、友人、恩師、恋人、職場といった身近な関係に様々な影響を与える。大学の友人からの〔朝鮮半島への敵意や蔑視〕、恩師からの〔敵国人チェック〕、職場における〔個人に国を代表させられる〕体験-在日コリアンは日々このような場面に突然遭遇し、強く動揺させられ、脂汗をかく。そして時には大切な関係から去っていく。

 問題を指摘しようにも差別心を持っていることを否認され「在日とか関係ない」とルーツブラインドに出会う。そして「気にしすぎ」「考えすぎじゃない?」と本人の弱さの問題にされる。そして「もう差別なんてないよ」「日本人と一緒やからまあええやん」と慰められる。明確なヘイトスピーチや露骨な差別ではないものの、在日コリアンが抱える社会的問題に対する責任の放棄と犠牲者非難を表現したマイクロアグレッションは、受け手に「自分の弱さの問題」「自分が悪いんだ」という認識を抱かせ、慢性的に「感情が死んでいく」ような感覚を覚える人もいる。

 調査においては、どのように対処しているのか、現在何が役に立っていて何を望むのか、といったことも聞き取った。これから「マイクロアグレッション」という概念を通して、ここまで示してきたようなマイノリティの生きる日常の見えづらい過酷さがより多くの人に伝わり、共有され、マクロな構造とともに日々のやり取りに変化が生まれることを期待している。


<脚注>

1)
Sue, D.W. 2010 Microaggressions in Everyday Life: Race, Gender, and Sexual Orientation, John Wiley & Sons, Inc. (マイクロアグレッション研究会訳 2020 『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション 人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別』明石書店).

2)
朴希沙&丸一俊介 2024 「心理化されやすい日常の被差別体験を可視化する:在日コリアン?年へのマイクロアグレッション実態調査より」 『現代の社会病理』 39, 79-94.