MENU

ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

  1. TOP
  2. 資料館
  3. 国際人権ひろば
  4. 国際人権ひろば No.171(2023年09月発行号)
  5. 外国人・民族的少数者と移民・難民に関する人権基本法制定の必要性

国際人権ひろば サイト内検索

 

Powered by Google


国際人権ひろば Archives


国際人権ひろば No.171(2023年09月発行号)

特集:多民族・多文化共生社会に向けた基盤整備を考える

外国人・民族的少数者と移民・難民に関する人権基本法制定の必要性

丹羽 雅雄(にわ まさお)
弁護士、外国人人権法連絡会共同代表

現在日本の外国人・民族的少数者と移民・難民の現状

 現在の日本社会には、朝鮮や台湾などの旧植民地出身者とその子孫、移住労働者とその家族や難民、重国籍者や日本国籍を取得した外国にルーツをもつ人々が多数居住し生活しており、アイヌ先住民族、琉球・沖縄民族を含めて、多民族・多文化社会であり移民社会となっている。

 しかし、戦後日本の外国人に関する法制度は、旧植民地出身者とその子孫も含めて、出入国在留管理の対象とする治安・管理の法制度しか存在していない。このような外国人管理法制度や、国籍条項、「当然の法理」(1、歴史修正主義などによる差別的法政策が国家統治の基盤であることから、「市民社会」においても、歴史的・構造的に形成された民族的偏見や差別であるヘイトスピーチやヘイトクライムが多発している現状がある。そして、労働、医療、社会保障、教育、公的社会への参画など多くの分野において、これらの人々は人権侵害や差別的取扱いを受けている。また、2021年6月関係閣僚会議の「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」改訂版では、「共生社会の基盤としての在留管理体制の構築」と明記され、マクリーン最高裁大法廷判決(1978年10月4日)の「外国人に対する基本的人権の保障は、外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎない」とする法的枠組みと同様の考え方となっている。

外国人人権法連絡会の設立と近時の主な外国人法制度の現状

 2004年10月、日本弁護士連合会第47回人権擁護宮崎大会において、第1分科会実行委員会は「外国人・民族的少数者の人権基本法要綱試案」を発表し、翌日の人権擁護大会において、戦後初めて「多民族・多文化の共生する社会の構築と外国人・民族的少数者の人権基本法の制定を求める宣言」を採択している。この日弁連人権擁護大会を受けて、翌年12月8日、「人権と反差別の法制度を構築するための共同の取り組み」を目指す「外国人人権法連絡会」が結成された。

 近時日本政府の主要な外国人法政策として、2012年7月9日改定入管法、入管特例法、住民基本台帳法が施行された。この改定法は、法務大臣が在留管理に必要な情報を一元管理するものであり、外国人登録制度を廃止し、適法な在留外国人を住民基本台帳登録者とし、「非正規滞在者」に対しては、IC在留カードを持たせないなど排外政策の徹底化を図っている。2019年4月1日に施行された改定入管法は、「移民政策とは異なるものとして、外国人材の受入れを拡大するため」として、特定技能1号、2号の在留資格を創設し、法務省の外局として出入国在留管理の司令塔である「出入国在留管理庁」を創設している。また、岸田政権は、2023年度通常国会において、2021年度の国会で廃案となった改定入管法案(長期送還忌避者に対する義務的収容や刑事罰の導入、新たな「監理措置」制度、収容期間の上限の欠如、ノン・ルフールマン原則(2違反のおそれなど)とほぼ同一内容の改定法案を成立させている(2023年6月9日成立)。

国際人権基準に基づく外国人・民族的少数者と移民・難民に関する人権法制度の確立に向けて

1.「外国人労働者政策」か「移民政策」か

 外国人労働者受入れ政策に関して、外国人労働者政策か移民政策かを巡って大きく3分類される国際的潮流が存在する。第1は、外国人管理法制度に基づく「外国人労働者政策」である。この政策は、経済界などによる「外国人労働力」の需要の変動に応じて、就労在留資格の付与や剥奪を行う「労働力管理政策」である。第2は、社会統合政策としての「移民政策」である。欧米諸国や韓国などもこの政策を志向している。しかし、社会統合の基軸をどこに置くかによっては、同化主義にも多文化主義にもなりうる政策である。第3は、国際人権基準に基づく「移民政策」である。この移民政策は、すべての者の自由と尊厳と権利を非差別・平等に保障し確保する移民政策である。

2.私たちが目指すべき移民政策は、国際人権基準に基づく移民法政策である。

 そのためには、第1に、旧植民地出身者とその子孫についての歴史的経緯と植民地支配責任について十分に考慮した上で、日本が批准又は加入した国際人権条約やダーバン宣言(3(2001年)、先住民族の権利に関する国連宣言(2007年)等に準拠し、外国人・民族的少数者と移民・難民の教育への権利や母国語や継承語の保障、固有の文化的・宗教的権利の尊重、子どもの最善の利益の保障、家族の形成と結合の尊重、居住や生活実態の尊重、労働、医療、社会保障、ジェンダー平等と複合差別、地方参政権や公務就任権を含む公的社会への参画、人種差別の禁止、非正規滞在者に対する人間の尊厳の尊重と合法化措置の促進などが明記された「外国人・民族的少数者と移民・難民に関する人権基本法」の制定が必要である。この「人権基本法」は、国際人権条約とともに、基本的な法理念と差別の禁止を含む法規範に基づいて、憲法解釈や出入国在留管理法を含む個別法の解釈・適用についての方向付けを行い、司法・立法・行政機関の実務運用を指導する規範的役割を担うことになる。第2に、出入国在留管理法制度をも規制しうる人種差別撤廃法政策が必要である。

外国人・民族的少数者と移民・難民の人権基本法制定に向けて

  1. 現在の日本政府による外国人法政策や日本国家・社会における外国人・民族的少数者や移民・難民に対する人権侵害状況、とりわけ近時のヘイトスピーチ、ヘイトクライムを象徴とする差別・排外的な現状を踏まえて、「差別・管理法制度」に対峙・規制し、被害当事者を救済するものとして、「外国人・民族的少数者と移民・難民に関する人権基本法」の制定を目指すことが、日本社会の重要な人権課題となっている。
  2. 2022年、「外国人人権法連絡会」は、人種差別撤廃モデル法案を策定し公表している。またこの間、「移住者と連帯する全国ネットワーク」との共催の下で、①人権基本法再構築の主要課題 ②現代日本における難民 ③外国人労働者政策 ④政府主導の共生政策の欺瞞 ⑤外国にルーツをもつ子どもの現状 ⑥ジェンダー平等/複合差別 ⑦未解決の戦後補償をテーマとした7回の連続セミナーを開催している。同時に現在、弁護士を中心とした作業部会において、多民族・多文化共生社会の基盤となる「外国人・民族的少数者と移民・難民に関する人権基本法」モデル法案の策定に向けて、作業を進めている。そして、市民団体・個人の地域や領域などの活動現場から明らかとなった人権課題について、意見交換を図り、それらの立法事実を踏まえて、出来れば2024年3月末日を目途に、人権基本法モデル法案として完成させたいと考えている。
  3. 2023年は、関東大震災から100年の節目の年である。関東大震災時に犯された国家(内務省、軍隊、憲兵、警察など)と民衆・自警団(郷土軍人会、青年団、消防組など)による在日朝鮮人、中国人、被差別部落民、社会主義者、日本人労働者などへの"虐殺"の歴史的事実を深く反省し、二度と同じ過ちを犯さないために、ジェノサイドを防止し、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムを生み出す根本原因に迫り、人種差別の根絶に取り組む必要がある。また、21世紀の国際人権・人道法の国際的潮流である脱植民地主義、反人種差別、ジェンダー平等、脱冷戦と東アジアの平和の実現に向けて、国内人権機関の設立と個人通報制度の批准を含めて、外国人・民族的少数者と移民・難民に関する人権法制度の構築を目指す必要がある。

 これらの「人権と平和」に関する課題の解決に向けた市民活動は、植民地支配責任に向き合い、多民族・多文化の共生社会を「隣人と共に創り出す」自立した連帯と信頼関係の構築に向けた活動であり、日本国家・社会の未来への責任の履行でもある。


1:内閣法制局が1953年に外国人の国家公務員任用で示した「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍が必要」とする見解。旧自治省は1973年、地方公務員にもこの法理が当てはまるとした。

2:迫害の危険がある国・地域への難民の追放・送還を禁止する国際法上の原則。

3:国連が2001年に南アフリカのダーバンで開催した「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容に反対する世界会議」において「宣言」と「行動計画」を採択した。