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国際人権ひろば No.1645(2022年09月発行号)

特集:子どもの権利促進に向けた法整備と課題

こども基本法とこども家庭庁への期待と課題

西崎 萌(にしざき めぐみ)
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部

こども基本法の成立とこども家庭庁設置の決定

 子ども虐待やいじめ、不登校、自殺、経済的困窮家庭で生活する子どもなど、子ども・子育てを取り巻く状況は深刻化の一途をたどっている。それぞれの課題に対する個別の法律はあるが、子どもを権利をもつ主体として位置づけ、子どもの権利を包括的に保障する法律は、日本の子ども法制において存在しなかった。加えて、これまで日本では、子どもが直面している問題を解決するために当事者である子どもの声が聴かれてこなかったことなども、子どもを取り巻く状況が改善しなかった理由のひとつとして考えられる。
 このような背景のもと、第208回通常国会(2022年6月15日閉会)において、 子どもを社会の中心に据え、子どもの視点で子ども施策を検討・推進するための議論が展開された。そして、6月15日に参議院本会議にて、子ども政策の総合調整・司令塔機能を担うこども家庭庁の設置と、あらゆる子ども施策の基盤となる基本理念を定めたこども基本法が可決され、成立した。
 こども家庭庁は、その任務として「こどもの権利利益の擁護(第3条)」を明記する。こども基本法は「児童の権利に関する条約の精神にのっとり(第1条)」と規定し、かつ子ども施策の基本理念として、「全てのこどもについて、個人として尊重され、その基本的人権が保障されるとともに、差別的取扱いを受けることがないようにする(第3条1)」、「全てのこどもについて、(中略)その健やかな成長及び発達並びにその自立が図られる(第3条2)」、「全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が確保される(第3条3)」、「全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮される(第3条4)」と明示し、子どもの権利の4つの一般原則を念頭に置いた法律になっている。

こども基本法・こども家庭庁の画期的な点

 1994年の子どもの権利条約批准以来、日本国内で条約に対応した包括的な基本法および子どもの権利に対する横断的な行政機関はなかった。今回のこども基本法制定とこども家庭庁の発足は、その点で画期的であり、日本に住むすべての子どもの権利を保障する第一歩になることが期待される。
 また、子どもの声を聴こうとする姿勢が政府内に見られるようになったこともあげたい。これまでの子ども施策は、大人だけで議論され策定されてきた。しかし、2021年12月に閣議決定された「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」の策定においては、複数の異なる状況にある子ども・若者のグループにヒアリングが実施され、基本方針づくりに反映された。また、「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」(1などが、子どもと国会議員などの政策決定者との意見交換の機会を実施し、参加した国会議員が実際に国会の質疑で子どもからの意見を取り上げるという動きもあった(2
 そもそも、子どもに関する政策や子どもの権利が国会の議論で取り上げられること自体が珍しく、先の通常国会は「こども国会」と報道されたほどである。こども基本法およびこども家庭庁の議論を通じて、子どもが権利の主体であり、子どもの意見を聴くことが重要であるという認識が広がったことは評価に値する。

今後の課題

 こども家庭庁は2023年4月発足に向けて急ピッチで準備が進められている。あらゆる子どもの権利保障に向けてこども家庭庁がどのように機能するのか、こども基本法第9条で策定が求められている「こども大綱」に何が盛り込まれるのかなど、今後の取り組みを注視する必要がある。
 今までになかった「子ども視点の子ども施策づくり」をするために、今後の課題として、特に子どもの意見表明(子ども参加)に焦点を当て、以下の3点をあげる。

(1)意義ある子ども参加の仕組みづくりを
 当事者である子どもの意見を聴き、その意見を尊重し、適切に反映することについては、子どもの権利条約第12条や一般的意見12号(3で、その重要性が指摘されているが、日本国内の子ども政策においては、議論の俎上に載せられることはまれであった。「意見を聴くと子どもがわがままになる」といった誤った認識が大人から聞かれることもあった。
 こども基本法では「こども施策を策定し、実施し、及び評価するに当たっては、当該こども施策の対象となるこども(中略)の意見を反映させるために必要な措置を講ずる(第11条)」とされ、こども家庭庁が他省庁を巻き込みあらゆる子ども施策における子どもの意見表明の実現に向けた旗振り役になることが期待できる。これを一過性で終わらせず根付かせるためには、あらゆる子どもが意見を表明しやすい工夫や、聴く側の大人のスキル強化など、意義ある子ども参加の制度構築が求められる。そのために検討すべきことは多岐にわたり、地方自治体や草の根で子どもたちとともに活動する民間団体との連携が重要になる。加えて、制度設計の時点から国連子どもの権利委員会の一般的意見や指摘を踏まえ、子どもたちとともに検討・設計していくことが必要だ。

(2)十分な予算の確保を
 子ども政策の推進および子どもの権利保障のためには、子どもに関する予算の拡充と財源の確保が急務である。(1)で述べた、意義ある子ども参加の仕組みづくりの実施ひとつとっても、単発のイベントにせず継続的に子どもの意見を聴き反映する仕組みをつくり、国およびすべての自治体で実施するためには、継続的な予算措置と専門性の高い人員の雇用が必要不可欠である。岸田首相は国会の答弁で「子育て予算倍増」と繰り返している。子ども・子育て関連予算について、財源を確保し、OECD諸国の平均である対国内総生産(GDP)比3%台半ばを目指すためのロードマップを策定すべきだ。

(3)あらゆる場での子どもの意見表明を社会の当たり前に
 こども基本法における子どもの意見表明は、国政や地方行政に子どもの声を反映することが目的となっている。しかし、子どもの権利条約における子どもの意見表明は、政策に対してのみならず、学校や家庭をはじめとするあらゆる場で、子ども自身が自由に意見を伝えることができ、大人は子どもの意見に耳を傾け、その意見を尊重することが求められている。そのために重要な取り組みのひとつとして、子ども自身が自らを権利の主体として認識できるよう、学校において子どもの権利教育を実施することが早急に求められる。学校以外の場においても、自分の日常生活に子どもの権利がどのように関係しているのかを理解できるような多様な機会があるといいだろう。

 子どもの権利の啓発対象は子どもだけではない。セーブ・ザ・チルドレンが行った調査では、教員468人のうち約3割が子どもの権利を「全く知らない」、「名前だけ知っている」と回答した(4。教職員や保育士、医師、弁護士など子どもと関わる大人や子育て中の保護者をはじめとするあらゆる大人が子どもの権利を理解し、子どもの権利や子どもの意見を聴くことが社会で当たり前になることを目指したい。この点については、こども基本法第15条にて、子どもの権利条約の趣旨・内容について国民に周知を図るとされているほか、こども基本法参議院附帯決議では「(子どもの権利条約の趣旨や内容に対する)認知度を把握(付帯決議14)」とされており、今後子どもの権利の啓発が積極的に実施されることが期待される。

 こども家庭庁やこども基本法の議論を通じて、「子どもに関することは子どもの意見を聴いて考えよう」ということが子ども支援者のみならず、国会議員、そして社会にも少しずつ広がっていったと感じている。こども基本法の制定とこども家庭庁の創設を契機に、子どもに関わるあらゆる施策が子どもの権利条約にのっとったものになり、子どもの権利を保障する社会への歩みが着実に進むことを願って本稿の結びとしたい。


p6-7_img1.jpg政策づくりに関わる大人と子どもとの意見交換会で話す筆者(左端)


1:
広げよう!子どもの権利条約キャンペーン
https://crc-campaignjapan.org/

2:
「子どもの声をきく会」で聞いた子どもたちの意見に対する考えを文部科学大臣に伺いました
(2022年4月15日衆議院文部科学委員会)
https://kiitaka.net/18612/

3:
子どもの権利委員会一般的意見12号(2009)「意見を聴かれる子どもの権利」
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/data/child_gc_ja_12.pdf


4:
セーブ・ザ・チルドレン(2021)「学校生活と子どもの権利に関する教員向けアンケート」
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/dat/img/blog/3897/1650252581609.pdf