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国際人権ひろば No.140(2018年07月発行号)

人権の潮流

韓国の#MeToo運動の現在とこれから

鄭康子(チョン カンジャ)
参与連帯共同代表、韓国教育部(省)セクハラ性暴力対策諮問委員長

#MeToo運動のはじまり

 2018年1月29日、韓国の総合チャンネルJTBCの「ニュースルーム」に一人の検事が出演した。彼女は、「性暴力の被害者に『決してあなたに非があるのではない』と言いたくて出演した。私はそれに気づくのに8年かかった」と口を開いた。

 続いて、彼女は、2010年10月30日、ある葬儀場で当時法務部(省)幹部であった安兌根(アン・テグン)前検事からわいせつ行為を受け、事件後に不当な人事で不利益を被ったという事実をメディアに告発した。彼女は、韓国南部の昌原(チャンウォン)地検の統営(トンヨン)支庁の徐志賢(ソ・チヒョン)検事だった。視聴者は、衝撃と怒りの反応を示した。韓国の#MeTooはこうしてはじまった。ノーベル賞候補と挙げられた高齢の詩人、演劇界の大物演出家、大統領を夢見た政治家、ベルリン映画祭の受賞監督、進歩的なメディアの批評家、有名な写真作家、テレビで顔を毎日みていたキャスター、大学教授、神父などに対する#MeTooが続々とあふれ出した。

 「MeToo」とは、「私も告発する」という意味であり、性暴力の被害経験を共有し、サバイバーたちに「あなたは一人ではなく、私たちはともに連帯すべき」という意味を含んだ社会運動の言葉である。この#MeToo運動のはじまりを見ておこう。米国でハッシュタグ・キャンペーンを始めたのは、社会運動家のタラナ・バークである。性暴力被害者を明らかにし、保護するためにはじめた運動であった。2017年10月、ハリウッドの映画製作者のハーヴェイ・ワインスタインによる性暴力やわいせつ行為が知られるようになり、米国の俳優のアリサ・ミラノが提案し、ハッシュタグをつけた#MeToo(性暴力被害の告発運動)として広がった。ワインスタインによって性暴力を受けたという80人以上の俳優やモデルの告発がメディアを通して公開された。性暴力を受けたすべての人が「私も被害者だ」と立ち上がれば、私たちの周りにどれだけ多くの被害者がいるのか驚愕するということだ。そして、この運動は全世界に大きな影響を及ぼす。この30年間に性暴力やわいせつ行為を被ったという多くの被害者の声があり、ワインスタインは、レイプの容疑で起訴され、#MeTooは世界に広がった。ハリウッドを翻弄しているワインスタインは有罪になれば懲役25年に処せられるだろうと報道されている。

 #MeTooは、権力型性暴力が注目される契機になった。権力型性暴力というのは、加害者が自分の優越的地位を利用して行う性犯罪である。ワインスタインの事件も自分の権力を利用して相手に性関係を強制した典型的な権力型性暴力である。韓国の#MeToo運動も、職場、学校などの組織で、業務上の優越的地位を利用して、継続的に加害行為を行うという権力型に抗する形で出てきている。しかし、性犯罪被害者が、権力型性暴力の被害事実を明らかにするのはたやすいことではない。加害者を告発すると、その加害者が持っている権力は、被害の組織的な隠ぺいと、被害者が不利益を被る方向に動き、加重な被害となり、救済が困難な状況に追いやる可能性があるからである。

周囲で性暴力を見てきた人たちの発言

 「#MeToo運動を通して、私が確認したのは、文壇の中で、才能があり、意欲的であった女性が性暴力事件によって文壇や業界の隅に追いやられたり、半ば強制的に退出をしたという事実である。これは明らかな社会的殺人である。女性たちは実際に亡くなったし、また社会的にゆっくりと死んでいった」(ヤン・ミニョン、ジャーナリスト)

 「性暴力の被害者の大部分が女性、同性愛者、新人スタッフ、子どもなど社会的マイノリティ・弱者である。性暴力を経験し、苦痛を経験したこの人たちの#MeTooに対し、社会的な共感を示し、いたわり、励まさなければならない。#MeTooは社会の流れが変わっていくプロセス、社会がつながり、押さえつけられていた弱者の連帯を通じた勇気ある反乱、健康な「セルフ・アサーティブネス」(自己主張)であり、内的に抑圧されていた集団の無意識の健康な発現である。トラウマとは自分に脅威となりうる恐ろしい事件の経験と一緒に残された心理的・身体的記憶である。トラウマの克服は自身の隠された感情と感覚、内面を明らかにするプロセスが必須である。つまり不当で正しくないことをされた時、手加減せずに明らかにされなければならない」(シン・スンホ、精神科医)

#MeTooと女性運動、市民運動

 徐検事が告発して以降、性被害・性暴力の実態がさまざまな現場から堰を切ったように出てきた。それに対し、3月15日には340を超える女性・労働・市民団体や160人を超える個人が参加して「#MeToo運動とともにする市民行動」を結成した。同「市民行動」が掲げた趣旨と運動の目標は次のとおりである。

 

 「韓国社会の性差別・性暴力は、昨日今日のことではない。#MeTooに対する反撃もまた大変深刻な状況にある。被害者の性格や行動の問題であるとみなしたり、容貌にたいするあざけりや非難を受けるという2次被害が発生している。一部の勢力は#MeToo運動が「誰かの企画」と表現するなど、性暴力・性差別根絶という#MeTooの本来の趣旨を歪曲している。

 韓国社会は、今回の#MeTooに対する責任を痛感し、性差別的な権力関係と性暴力を可能にしてきた社会構造を改革するために、積極的に立ち向かっていかなければならない。

 

 2018年は#MeToo運動を通して、性差別・性暴力を深刻な今日の課題と認識し、性差別・性暴力を根絶するために社会全体が連帯して力を出し合う必要がある。「#MeToo運動とともにする市民行動」は、持続的で統合的な対応のシステムを作っていく」。

 

 「市民行動」は、状況把握のための場を設置して、#MeToo運動全般について集中して対応し、運動への参加や支援をしたいと思っている市民のプラットフォームの役割を果たした。また、法律支援団を結成し、活動に対し様々な法律的なアドバイスができるよう組織を整備した。

 「市民行動」の活動のスタートとともに注目されたアクション・プログラムは、「2018年性差別・性暴力の時代を終わりにするための2018分、言葉のリレー」である。#MeTooの核心は、性差別と性暴力であり、もっと多くの言葉を出さなければいけないと思った市民が集まって、世の中の変化のために力を集めようとイベントを開いたのである。1泊2日の2日間、たくさんの女性たちが広場の公開の場でマイクを握った。

 平行して、「あなたに送る警告状」という掲示板が設置された。そこには、自分が経験した性暴力、セクハラ年代記、昔の告白、私の宣言文というテーマがあり、そこに書かれた文中には次のようなくだりもあった。

 

「小学生だった私にわいせつ行為をしたヤツ。恥ずべきことで卑怯なことだと思え」

「私は会社の花、チアリーダー、金品目当てに男を誘惑する女ではない」

「泥棒をしてはならないと言うのに、なぜレイプは被害者が予防しなければならない問題と言われなければいけないのか」

 

 性暴力被害者たちの苦痛はいまだ現在進行中である。性暴力は、忘れて過ごしていても、思いもよらないところで蘇る傷だといわれている。自分たちを押さえつけていた羞恥心や罪責感をくぐり抜け、公開の場で発言をしはじめて、加害者を指し、その責任を加害者と社会に問うている。性暴力事件は、私人と私人の間の問題を超えて、それが社会構造の問題であることを明らかにし、性差別的なシステムの変革を要求している。女性運動と政府による政策が推進してきた、女性に対する暴力と差別撤廃のためのこれまでの多くの努力、防止と被害者保護のための法制度の措置がどれぐらい機能しているのかが、総体として問われている。今、女性を抑圧してきた巨大な旧秩序が揺れている。

#MeToo運動を見る市民の意識は?

 準政府機関である韓国言論振興財団のメディア研究センターが、2018年2月19日から22日まで、成人男女1,063名を対象に実施したオンライン調査によると、回答者の88.6%が#MeToo運動を支持していると答えた。また、回答者の74.4%が運動に参加する意思を明らかにした。自分の性暴力被害の事実を明らかにする人たちに対し、73.1%が「勇気ある行動を励ましたい」と答えた。#MeToo運動が継続した運動になるだろうと感じている回答者は63.5%にのぼった。

性暴力加害者は何をもくろむのか?

 性暴力加害者は、被害者にも責任があるとか、被害者に誘惑されたということに仕立てて、世間から批判されることを防ぎ、犯罪行為であることから逃れようとする。また加害者が、被害者を刑法上の名誉毀損や虚偽告訴で逆告訴して、口を封じるということが頻繁に起きている。法的・道徳的に被害者を脅かしている典型的な2次被害である。2次被害は、性暴力事件が発生したのち、捜査や裁判の担当者、メディア、加害者、周囲の人間などによって様々な形態で出てくる。被害者に対する否定的な世論を作りあげたり、逆告訴によって経済的、身体的、精神的被害を負わせたりするのである。もし被害者が暴行や脅迫であったという明白な証拠を確保できない場合、告訴の動機が疑われ、虚偽告訴財の被疑者になる危険に陥ってしまう(性暴力犯罪の虚偽告訴罪の告訴は虚偽告訴罪全体の37~40%にのぼる)。

 そこで、まずは非同意の性行為による犯罪を新設して、性暴力事件の捜査終了時までは、虚偽告訴などの捜査をおこなうべきではないという主張が説得力を持つようになっている。

 判決時には、「暴行と脅迫の立証」を要求する方式から、「同意」の有無を中心に被害者の性的自己決定権の侵害について判断する方向へ変えなければならない。職場内のセクハラの2次被害防止のため、事業主はセクハラの申告があった際には、遅滞なく調査するべきである。調査の過程で被害者に性的羞恥心などを感じさせぬようにし、調査の間、被害を受けた労働者を保護するために、勤務場所の変更、有休命令など適切な措置を講じなければならない。また、この際には被害者の同意が必要である。

政府や国会はどんな対策をしているのか?

 韓国内で#MeToo運動が一気にひろがっていた2月28日、国連女性差別撤廃委員会の第8回韓国政府報告審査が行われていた。「事実摘示(編注の名誉毀損罪」と2次加害がすべての被害者を沈黙させるが、そうした名誉毀損と虚偽告訴罪の訴訟に関し、委員会から韓国政府に質問が出た。メディアは一斉にこれを報道し、女性家族部(省)は大ピンチに陥った。

 3月8日、女性家族部は12の関係省庁と民間の専門家で構成した「汎政府セクハラ・性暴力根絶推進協議会」を開き、セクハラ・性暴力根絶対策を策定し発表した。対策は、実質的に緊急に対応するという保護対策と2次被害防止に焦点を置いている。また「公共部門の職場内のセクハラ・性暴力の特別申告センター」を設置し、100日間、被害事件の申告をまず受け付けるという措置を行なった。今後は、セクハラ・性暴力対策を推進する責任部署を新たに作り、政府内を横断した協力体制を強化すると言っている。最近、女性家族部が韓国記者協会と共同で「性暴力・セクハラ事件、このように報道してください!」という冊子を発刊し配布もしている。メディアの報道による2次被害を防ぐための努力である。

 国会も#MeToo運動が、既存の韓国社会の家父長的な構造に巨大な変化をもたらしうる重要で革命的な糸口であるとみて、現行法と制度を検討し、性暴力防止及び被害者保護のための法整備を議論している。この間、韓国は自由権規約委員会から2011年と2015年の2回、事実摘示の名誉毀損の刑事犯罪を廃止するべきだと勧告を受けている。OECD加盟国の中で韓国のように事実摘示の名誉毀損を犯罪化している国は少数である。

#MeToo運動は継続されなければならない

 #MeToo運動は今後も継続されなければならない。それは性差別的な社会を変えようとする巨大な革命であるからである。また一つの国家を超えて、世界が共に取り組むべき運動である。そういう意味で日本の#MeToo運動に対する期待も高い。一人ひとりの日常と組織にしみついている性暴力をとり除くのは容易なことではない。#MeToo運動は裏を返せば韓国社会の性平等の現実に対する重い批判であると思える。「性平等」を憲法の原理や国家の目標として設定し、あらゆる法令と制度、政策に染みわたるようにすることが#MeToo運動としてはずせない方向である。

(翻訳 朴君愛)

 

編注:不特定または多数の人が知るように事実を指摘すること