MENU

ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

  1. TOP
  2. 資料館
  3. 国際人権ひろば
  4. 国際人権ひろば No.74(2007年07月発行号)
  5. ユネスコの「反人種主義・差別撤廃アジア・太平洋地域都市連合」が「包括的な社会をめざす差別撤廃のためのアジア・太平洋都市連合」に改称

国際人権ひろば サイト内検索

 

Powered by Google


国際人権ひろば Archives


国際人権ひろば No.74(2007年07月発行号)

アジア・太平洋の窓

ユネスコの「反人種主義・差別撤廃アジア・太平洋地域都市連合」が「包括的な社会をめざす差別撤廃のためのアジア・太平洋都市連合」に改称

藤本 伸樹 (ふじもと のぶき) ヒューライツ大阪研究員

■ より肯定的なニュアンスの名称へ


  ユネスコがアジア・太平洋地域の自治体に呼びかけて2006年8月に設立した「反人種主義・差別撤廃アジア・太平洋地域都市連合」の加盟都市の増加と活性化をめざした第1回暫定運営委員会の会合が、07年6月5日?6日にカンボジアのプノンペンで開かれた。正式加盟の手続きとして意思表明書に署名をした自治体や自治体連合・連盟に加え、この都市連合の取り組みに関心を示す自治体やNGO、専門家などが参加した。
  設立後約10ヵ月を経て、都市連合に加盟しているのは、プノンペン、バンコク、スバ(フィジー)、マカティ(フィリピン)、クルネガラとマータレ(スリランカ)、インチョン(韓国)の各都市のほか、都市・自治体連合‐アジア太平洋支部、全インド地方自治体協会、タイ全国自治体連盟、フィリピン自治体連盟と合計11都市・自治体連合にとどまっている。
  今回の会合で最初に議論となったのは、都市連合の名称についてであった。アジア・太平洋地域の多くの国や自治体関係者のあいだで、「人種主義」という概念じたいが十分に認識されていなかったり、自分の国や自治体において「人種主義など存在しない」といった声がしばしば聞かれることから、都市連合に対する賛同が拡がりにくいのではないかという現状が確認されたのである。また、「反人種主義・差別撤廃」という文言を使用している都市連合の現名称が否定的なニュアンスに響くことから、もっと肯定的な名称に変更すべきではないかという意見が多く出たのである。
  そうした問題提起を受けた議論の末、「反人種主義・差別撤廃アジア・太平洋地域都市連合」として発足した都市連合は、「包括的な社会をめざす差別撤廃のためのアジア・太平洋都市連合」へと改称することでコンセンサスに達したのである[1]
  ただ、発足時に合意された10項目のコミットメント(行動計画)[2]に関しては変更されることなく、都市連合がめざす骨格と方向性はそのまま維持されたのである。
  ちなみにヨーロッパでは、「反人種主義ヨーロッパ都市連合」として04年に発足し、すでに67都市が加盟しており、07年5月にはドイツのニュルンベルグで第1回総会が開催されるなど拡がりをみせている。都市連合の取り組みを担当するユネスコ人文・社会科学局人権・反差別部の諸橋淳さんによれば、ヨーロッパでも当初はたとえば、「文化的多様性のための...」といったもっと肯定的なタイトルの方が促進しやすいのではないか、という意見があったものの、そうしたポジティブなタイトルに至るまでに解決しなければならない問題、つまり人種差別の問題を無視することになりはしまいかという意見が圧倒的に強く、結局は現在のタイトルに落ち着いたという。

■ 「世界都市連合」の結成に向けたアジアでの地盤固め


  会合のなかで、「アジア・太平洋都市連合」は今後、さまざまな機会を利用してより多くの自治体に対して、加盟を求めるために努力することを確認した。とりわけ、都市・自治体連合(UCLG)[3]の第2回世界大会が07年10月28日から31日まで韓国の済州島で開催されることから、同アジア太平洋支部は、ユネスコおよび済州特別自治道と協力してその機会に「アジア・太平洋都市連合」の周知と加盟都市数の拡大を図るための企画を練ることとした。
  今回の会合には日本からは、06年の発足式に続き、堺市人権局から2名の担当者が参加している。堺市は「アジア・太平洋都市連合」には未加盟であるものの、会合ではユネスコの要請を受けて、同市の女性や外国人をめぐる課題をはじめとした人権施策について報告を行った。
  09年8月14日から80日間の日程で世界都市博覧会を開催するインチョン市を先頭に韓国の諸都市がメンバーになりつつあるなか、同じく東アジアの日本の自治体が加盟することへの期待も徐々に高まっている。
  ユネスコの「都市連合」の取り組みは、ヨーロッパとアジア・太平洋地域に加え、アフリカ、ラテン・アメリカとカリブ地域、北米(カナダ)においても結成されており、アラブ地域も準備のプロセスにある。
  ユネスコでは、世界人権宣言60周年にあたる08年の7月3日?4日にフランスのナント市で開催が予定されている「第3回世界人権フォーラム」(World Forum on Human Rights)の場において、各地域都市連合を象徴的に集約するかたちで「世界都市連合」のネットワークを構築する計画である。

1. 「反人種主義・差別撤廃アジア・太平洋地域都市連合」(Coalition of Cities against Racism and Discrimination in Asia and the Pacific)から 「包括的な社会をめざす差別撤廃のためのアジア・太平洋都市連合」(Towards an Inclusive Society : Coalition of Cities against Discrimination in Asia and the Pacific)へと改称された。
2. 10項目のコミットメントの骨子は、次の通りである。?人種主義と差別に関する現状把握および自治体政策のモニタリングを行う、?差別や社会的排除の問題と取り組むために、自治体および地域社会における政治的リーダーシップを実践する、?インクルーシブな社会の促進、?人種主義や差別の被害者に対する支援の強化、?情報へのアクセスを通じて市民の広範な参加とエンパワメントを促進する、?機会均等の雇用者およびサービス提供者としての都市(行政)を促進する、?機会均等実践の積極的な支持者としての都市(行政)を促進する、?教育を通じて人種主義や差別に対抗する、?文化的多様性の促進、?人種主義者による扇動および関連する暴力を予防し克服する。
3. 都市・自治体連合は、「世界各国における民主主義及び地方自治の促進」「グッド・ガバナンス、持続可能な発展、ソーシャル・インクルージョンという原則の基に、経済、社会、文化、職業、環境における発展を促し、公的サービスを促進すること」「人種及び男女平等を促進し、あらゆるかたちで現れる差別や偏見に立ち向かうこと」などの目的を枠組みとして掲げた世界の自治体の連合体である。日本は、浜松市が加盟している。