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国際人権ひろば No.73(2007年05月発行号)

人権さまざま

国民固有の権利

白石 理 (しらいし おさむ) ヒューライツ大阪所長

「1. すべての人は、直接に又は自由に選出された代表者を通じて、自国の政治に参与する権利を有する。
3. 人民の意思は、統治の権力の基礎とならなければならない。この意思は、定期のかつ真正な選挙によって表明されなければならない。この選挙は、平等の普通選挙によるものでなければならず、また、秘密投票又はこれと同等の自由が保障される投票手続きによって行われなければならない。」
(世界人権宣言第21条1項および3項)
「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2. すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3. 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4. すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。」
(日本国憲法第15条)
  最近大阪でも統一地方選挙があった。私は海外生活が長かったために、約25年ぶりの投票であった。選挙期間中のにぎやかなキャンペーンを予想していたが、今回は立会演説会、街頭演説などには出くわすことがなかった。私が住んでいたスイスのジュネーブでは、選挙が近づくと立候補者の政見を説明したチラシや演説集会が盛んに行われていた。無関心層が増えてはいるものの、熱を帯びた議論や話し合いで意思疎通をはかるのが一般的な風土のなかで、選挙運動の仕方もそれなりの盛り上がりがあった。ところが大阪での選挙はどうか。静かすぎる。だれがどういう考えで立候補しているのか、探さなければ目に付くことがないのであった。このような情報をわざわざ探すのは本当にたいへんである。私の唯一の頼りは、選挙公報であったが、それも投票所で初めて目にしたのである。そこに出ている立候補者の経歴、政見などを読んでも、簡単すぎたり、抽象的、情緒的であったりで誰に投票すればよいのかと戸惑った。国民としての権利の行使もこれではおぼつかない。

  日本全国であった統一地方選挙。選ばれた地方自治体の長、地方議会の議員のうち、かなりの数が無投票当選を果たしたという。国民が選ぶまでもなく決まってしまったのである。投票に行く必要もない。戦後60年、根付いたはずの民主主義の現状はどうなっているのか。

  今の日本には制度としての民主主義がある。「統治の権力の基礎」になる国民の意思、それを表示するという実質で民主主義の原理と精神が十分生かされて、はじめてこの制度が機能する。公の利益を目先の私益に置き換える利権政治になったり、民衆を煽動する衆愚政治になったりしないために、国民の賢明な意思の表示ができる環境を整えることが大切であると思う。選挙権という人権の行使はいずれ政治の善し悪しとなって帰ってくる。したがって、この人権を行使する人の責任は重い。

  国民が賢明に意思を表示できるためには、思想言論の自由、集会、結社の自由など政治的な自由が、国の責任で保障されていなければならない。脅しや攻撃で自由の享受を妨げられることがあってはならないのである。また、選挙権という人権の行使が例外なく保障されていなくてはならない。国民は成人であれば一人一人が平等にこの権利を行使することができる、それが普通選挙である。

  政治家に対する暴力や脅しは昔からあった。今も続いている。公職選挙法違反容疑で長期勾留された地方議会の立候補者とその運動員が無罪とされた最近の事件は、公権力が関わった政治的自由の侵害の例である。大阪では、実体のない住民登録が行政の職権によって抹消されたことで、選挙権を行使できなくなった人がいたという。選挙人名簿が住民基本台帳に基いて作られるからである。これも選挙権という人権の否定である。私たちの社会の抱える問題について、常に民主主義と人権の精神と原則に沿って考え、その解決を求めたい。

  さらに、憲法の規定からもう一歩進めて考えてみよう。地方選挙は、住民の生活に日々関わる地方行政を左右するだけに、そこに住む人にとっては大切なものである。住民の中には「国民」でない人、つまり日本国籍を持たない人もいる。この人たちを選挙から全く除外する合理的理由はない。近年外国人住民の地方自治参加を認める動きが世界のあちらこちらでみられる。私が国連を定年退職してジュネーブ市民になったときには、外国籍ではあっても当然のこととして投票権が与えられた。日本の現行法制度では、このような「外国籍を持つ住民」を含めた地方自治は考えていないようであるが、新たな時代の動きに積極的に対処してほしい。この場合、住民の生活と権利義務に関わることには、国籍にこだわらない住民参加による意思決定をというのが民主主義と人権の原則であろう。