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国際人権ひろば No.73(2007年05月発行号)

アジア・太平洋の窓

タイの人権問題と人権NGOに学んだこと-タイスタディツアー報告-

カンチャナブリの「生き直しの学校」のこどもたちと (撮影:前川実)
カンチャナブリの「生き直しの学校」のこどもたちと (撮影:前川実)

2007年は日本・タイ修好120周年にあたりますが、ヒューライツ大阪では、07年3月2日から9日まで、「タイの人権問題と人権NGOの活動に学ぶ」をテーマにタイ・スタディツアーを実施しました。以下に、2名の参加者の体験レポートを紹介します。

■タイ・ツアーで特に印象に残っていること


 山本 勇造 (やまもとゆうぞう) 滋賀県草津市

  今回のタイ・スタディツアーは、バンコク・カンチャナブリ・スコタイ・メーソットの地を訪れました。その目的は、ミャンマー難民問題、都市スラム問題、少数民族問題について学ぶことにありました。いずれも初めての土地であり、その問題についても初耳なことばかりで、いかに日頃無関心でいたのか、また、他人事としてこうした諸問題に対して意識を向けてこなかった自分がいたことを痛感させられました。

  今回のツアーで特に印象にあるものについて感想を述べさせていただく前にまず、敬意を表したいことがあります。
  それは、現地でお世話・案内をいただいた日本のNGOのSVA(シャンテイ国際ボランティア会)、タイのNGOのプラティープ財団で働く日本人職員さんの存在です。それぞれ皆さんの志・熱意があってなるべくして今の仕事をされていると思いますが、また、今回短い時間の中、出会わせていただいて感じたことは、まず、熱意を持って取り組んでおられること。最近、こうしたことを感じることが少ない中、逆に新鮮だったのかもしれませんが、本当にそれぞれ輝き素敵な方々でした。こうした魅力ある方が、このタイの地で活躍されていることに心から拍手を送りたいと思います。

  ツアーで印象に特に残っていることでは、まず第1に、カンチャナブリの「生き直しの学校」です。虐待・家庭崩壊等で傷ついた少女たちが共同生活しています。ここに来るまでは、ひとつの先入感-暗い、きつい、心身の傷を持った子ども達だろう-がありました。学校に到着すると同時に、みんながこぞって出迎えてくれ、はじめにダンスを数曲、笑顔で踊ってくれました。明るい顔、輝く瞳がたくさん感じられたことで、先の先入観を打ち砕いてくれました。また、子どものダンスを見ていてつい、体が動き出してしまい、一緒に踊ろうと誘いの手招きを受け、結局みんなの仲に入り踊ってしまいました。癒されたのは、私たちだったと思います。

  次に、メーソットのミャンマー難民キャンプは、国境沿いの山岳にある「ウンピアムマイ・キャンプ」を訪れました[1]。現実にこの不便な山間に居住し、国連から最低限の物資配給を受けている約2万人の方々が、様々な国際NGOからも支援を受けていました。キャンプ住民委員会事務所で話を聞き、次にSVAの住民図書館を訪問しました。図書館では、絵本の読み聞かせに参加しました。教育環境も決して十分ではない中、絵本の読み聞かせが始まったら、何と子ども達は、まさに食い入るように話に聞き入っていました。その姿は、もう日本では見られない風景であるように思えました。厳しいキャンプ生活の中にあって、子どもたちが、自分のことよりも、親・きょうだい・民族の将来を大事に考えていることに、すごいなーと感心させられてしまいました。

  また、ツアーで印象に特に残っていることは、クロントイ・スラムとプラティープさんのことです。バンコクのクロントイ・スラムは、国策のゆがみから生じた経済的弱者の町で10万人が住むといわれています。そのスラムにあるタイのNGOのドゥアン・プラティープ財団事務所を訪問しました。財団スタッフの方に地区内を歩いて案内していただきました。狭い路地を挟んでバラック風建物が乱立し、排水が悪く、まさに粗悪な環境下に置かれています。しかし、すれ違う方々は、なぜか明るく感じられて、私は人々の顔を中心にカメラのシャッターを押していました。経済・環境等低位な状況におかれているけれど「心は錦」なんだと感じた次第です。国民性とも言われるのかもしれませんが、穏やかさ・優しさを感じたのは、どうしてでしょう? 厳しい生活だからこそ、いかに生きるべきなのか、何が大事なのか、その笑顔の中に答があるのではないでしょうか。

  そして、この地・この人のことを語らずには終われません。財団設立者のプラティープ・ウンソンタム秦さん。教育を核にこれまですごい情熱で地区の生活向上に取り組まれています[2]。このスラムに生まれたからこそ、何が必要か、また、その実現に向けて今も元気に活躍されています。最終日には夕食をご一緒することができました。小柄で笑顔の素敵な彼女からは、過去の貧困とのすごい戦いがあったことを想像すらできません。真の穏やかな人柄は、こうした過去のつらかった時代の積み上げを越えてきたからこそ生まれてくるものなのでしょう。まさに「小さな巨人」。これからの活躍を祈念しながら別れのハグをしてバンコクを後にしました。


■「学び直し、生き直さねば」の思いに駆られた、かけがえのない一週間


 界外 吉弘 (かいげ よしひろ) 三重県伊賀市

  今回のツアーへの参加は、秦辰也・シャンティ国際ボランティア会(SVA)専務理事が話された、バンコク・スラム街の人々についての報告と重ね合せながら、是非にと思い立ったのでした。05年の第39回全日本仏教徒会議滋賀大会の分科会「仏教徒による国際貢献?今求められるNGO活動と国際交流」において、秦さんは、10年前の阪神淡路大震災の時、バンコクに沢山ある都市スラムの人達が日本への支援カンパに取り組んだことを紹介し、小学校の子どもや日給が日本円でせいぜい300円位の人々が惜しげもなく100円、200円と出し合って、総額450万円ものお金を集め、是非これを阪神の人達に届けて欲しいと秦さんプラティープさん夫妻に託されたとのことだった。

  3月3日朝、ドゥアン・プラティープ財団国際部長のオンさんとともにカンチャナブリ「生き直しの学校」を訪問した。学校に着くなり、少女達が私達の胸に小花の飾を着けてくれ、歓迎の言葉と踊りで迎えてくれた。
  この子達は、貧困、家庭崩壊、家族暴力、放浪、性的虐待、麻薬、エイズ...... 多くの困難な出来事との関わりをどのように越えて、どのように護られてきたのであろうか。瞳を行き交せた子達の口元の笑みが今も私の瞼を離れない。
  環境問題や学校運営の自立も視野に、アブラヤシや種々の作物の栽培にも努めているとのことで、農園も案内してもらった。30度を越える畑地であったが、小学校5年生でやや小柄な男の子レツク君が日除けの傘を差し掛けながら同行してくれた。デコボコの多い畑道のこと、度々よろけそうになる私に、手を差し延べたり、体で支えるように寄り添ってくれたり、時には顔を弾きそうになる垂れ下がった小枝を背伸びしながら掻き分けてくれたりと、非常な気遣いをしながら最後まで付き添ってくれた。何とも心温まる忘れ難いひと時となった。この子のような「人となり」がどのようにして育まれたのであろうか。私も「学び直し」「生き直さねば」と別れを惜しんだのであった。

「ウンピアムマイ難民キャンプ」のこどもたち (撮影:前川実)
「ウンピアムマイ難民キャンプ」のこどもたち (撮影:前川実)

  次に訪問したのは、メーソットのミャンマー難民キャンプであった。タイ陸軍の管理下で、山間地の急な斜面や谷間に19,600人余のカレン民族の人達がキャンプ生活をしているのである。その外に新流入者が2,000人もいて、内800人弱が新しく難民申請中とのこと。未認定のうちは、住居や食料は原則無支給であるが、キャンプ住民委員会の気転で、配給の残余分を調整して分配しているという。それでも1,000余人の人達は、キャンプ内の親戚等に身を寄せながら、自前の稼ぎで家族の食料などを調達しなければならない。警備の関係で移動もままならない中、周辺の村で日銭を得て凌がざるを得ないのだという。
  困苦に耐えて、職業訓練で技能を身に着けた人達には、第三国定住の道もあるという。05年6月から難民の第三国定住活動が開始され、06年から本格的な動きを見せている。アメリカ、オーストラリア、スウェーデン、ノルウェー、ニュージーランド、カナダ、イギリスなどが受入れを表明している国だという。なぜ日本が無いのだろう。「日本は、『人権』『人権』と『人権メタボリック症候群』に犯されている」(と言われる程に人権施策が充実し、人権意識が高い国柄である)、と大臣様の言葉があったばかりの国なのに。なぜ...なぜ...なぜ...。

  5坪余の図書室で、明り取りの天井窓からの光に映えた4?50名の子ども達が、先生の読み聞かせる「絵本」に目を輝かせて見入る光景は、これらの活動の値打ちの大きさを如実に語っているように思えた。
  「学び直し、生き直さねば」の思いに駆られることの多い、有難く、かけがえのない一週間であった。

1. タイのミャンマー難民キャンプの事情については、本誌72号(07年3月号)の中原亜紀「忘れられた難民」-タイにおけるミャンマー難民の現状-を参照。
2. プラティープさんの活動について


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